2013.12.10

2013年の経済倫理地図 あなたはなに主義?の政党分析

橋本努 社会哲学

経済 #新自由主義#経済倫理#安倍晋三#経済倫理=あなたはなに主義?

第二次安倍政権後のイデオロギー

昨年(2012年)の12月26日に第二次安倍晋三内閣が誕生してから、約一年を迎えました。最近のアメリカ経済の景気回復も手伝って、日本の株価は現在、リーマン・ショック以前の高値に戻っています。政治よりも経済に軸足を置いた「アベノミクス」の政策は、一応の成功を収めたとも言えるでしょう。むろん、アベノミクスをやらなくても、米国経済の回復や消費増税前の駆け込み需要で、日本経済は回復したはず、との意見もあるでしょうから、評価には一定の留保が必要です。

ではそもそも「アベノミクス」とは、どんなイデオロギーに基づくのでしょうか。「アベノミクス」の正体は、「新自由主義」なのか、それとも「反新自由主義」なのか。あいはこの二つをアベコベに組み合わせた新種の主義なのか。いろいろな疑問が提起されていますが、思想の混迷状態が続いているようです。

去る7月の選挙で、自民党が安定多数派として第一党になると、イデオロギーの対立状況は後景に退き、多数派による多数派のための利益政治が復活してきました。それにともなって野党の存在意味も変わり、経済倫理のイデオロギー構図が、すこしズレてきたのかもしれません。

約5年前に刊行した拙著『経済倫理=あなたはなに主義?』(講談社メチエ、2008年)で、私は現代イデオロギーを分類するための4つの質問を立て、それらの問いへの答えの組み合わせから、16通りのイデオロギーを区別できることを示しました。ここではその基本的な4つの質問を、2013年の時事問題に照らして、立て直してみましょう。それによって現在の諸政党が、どんなイデオロギー的位置にあるのか、という問題に迫ってみたいと思います。

4つの基本問題アンケート

2013年に話題になった経済事情は、原発問題、アベノミクス、食品偽装問題、TPP参入問題、等々でした。食品偽装の問題について言えば、これは、「内部告発」問題の一端であり、内部告発に関してはこの他にも、半沢直樹(ドラマ)、秋田書店の景品偽装、運送業者のクール宅急便偽装なども、話題になりました。あるいはまた、国家の「特定機密保護法」の是非も、内部告発の可能性に関わる重要な問題です。オリンピック主催の是非なども話題となりましたが、以下では単純化のために、問題を4つに絞って、現代イデオロギーの構図を考えてみます。

皆様、以下のAからDの質問に対して、「イエス」ですか、それとも「ノー」ですか。

【問A】「原発」について。

もし原発を、政府に頼らず市場ベースで維持できるなら、例えば、事故が起きた場合には保険で被災者の損害をカバーし、最終処分場も整備できるとすれば、原発を維持してもよいと思いますか。それとも、経済以外の理由(道徳上の理由など)から、反対ですか。

【問B】「アベノミクス」について。

政府は、黒田日銀総裁を任命する際に、日銀法の改正をちらつかせて、日銀の独立性を揺るがしました。そして日銀との連携強化によって、大胆な金融緩和(大量の国債発行)を行いました。これによって政府は、財政支出とその赤字を拡大させたわけですが、このような経済成長戦略に、賛成でしょうか。それとも、政府は「ルールの下での公正な市場競争」を維持すべきであり、日銀の独立性は維持、財政規律も維持、ケインズ主義的な介入政策には反対、というルール重視の立場をとるべきでしょうか。アベノミクスに賛成かどうかをお伺いします。

【問C】「内部告発」について。

ドラマ「半沢直樹」で、今年は「倍返しだ」という言葉が流行語になりました。主人公は、自らの企業の不正を内側から正そうとしたわけですが、にもかかわらず「出向」の処分を受けました。そこで質問ですが、「内部告発者」に対して、どのような処分が望ましいでしょうか。出向のみならず、解雇を含めて処分を検討すべきでしょうか。あるいは反対に、内部告発者は保護すべきであり、社内でのいかなる処分も、法的に不当とみなすべきでしょうか。処分すべきかどうかについて、お答えください。

【問D】「TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)」について。

国際貿易における関税、とくに外国の農産物を日本が輸入する際の税率について、お伺いします。日本政府は、日本の国土を守る、美しい風景を守る、国民の暮らしを守る、あるいは伝統を守る、といった道徳的価値を考慮に入れて、関税率の引き下げ(TPPへの参加)に反対すべきだと思いますか。それとも、これらの道徳的価値は、基本的に自由貿易経済の下でも生じうるのであって、日本の農業は基本的に、グローバルな市場で勝負すべき、ただしうまくいかないところは農家に対する戸別所得補償で補うべき、と思いますか。TPPに賛成かどうかを伺います。

以上の4つの質問は、それぞれ話題になった時事問題を、ある角度から切り取った問いかけになっています。もしかすると、必ずしも「イエス/ノー」で答えることはできないかもしれません。ただ単純化と分類学的限界のために、このような問いかけとさせてください。

4つの問いの意味について

ここで以上の4つの問いについて、すこし補います。

問Aは、企業(この場合電力会社)は基本的に「金儲け第一主義」で経営を行ってよいかどうか、という問題です。

長期的な視点に立った場合、やはり経済以外の道徳の問題についても考慮すべき、と考えるなら、答えは「ノー」になります。例えば、原発は、重大事故が起きたときに、被災者に対してたんに保障すればいいという問題ではなくて、将来世代に「日本の美しい大地」を残してあげたいという、道徳的な問題なのだ、と考えることもできるでしょう。

あるいは、原発に反対している人のなかにも、その理由は「コスト」の問題であって、もし本当に原発のコストが安い(あるいは将来安くなる)のであれば、原発は経済的に望ましいと考える人もいるかもしれません。ですからこの問題は、いま自分が実際に原発に反対しているか賛成しているかではなく、「もし市場で勝負できるなら」という仮定の下で、原発に賛成か反対かをお伺いするものです。

問Bは、経済政策や制度の理念として、「公正」が望ましいか、それとも「秩序の安定・成長(全体の利益)」が望ましいか、という問題です。

「アベノミクス」には三本の矢があると言われます。(1)大胆な金融政策、(2)機動的な財政政策、(3)民間投資を喚起する成長戦略です。これらの政策を行うときの問題点は、それが日銀の独立性を脅かすかたちになる、という点です。政府は、日銀からいわば自由に借金できるようになり、したがって財政規律というルールが無視されてしまいます。経済全体の成長のために、市場経済の公正さを保つためのルールを軽視してもいいのかどうか、という点についてお伺いします。

この点、ネオリベラリズムの思想は一般に、アベノミクスに反対です。日銀は政府から独立しているべきですし(そうしないと政府は財政赤字を拡大しつづけるでしょう)、また公共事業による市場介入政策は、市場競争を阻むのであり、市場のルールに従っているとは言えないからです。

ただし、ネオリベラリズムの思想も、リバタリアニズムとの比較では、「秩序の安定・成長」を重んじる立場です。思考実験として、例えばリーマン・ショック後に、アメリカ政府は、倒産寸前の諸銀行を救済すべきだったかどうか、という問題を考えてみましょう。ネオリベラリズムの立場は、「秩序維持」の観点から「救済すべき」と発想します。

これに対してリバタリアニズムの立場は、「公正な市場のルール」を重んじる観点から、「救済すべきではない」と発想します。このように、何が「公正」で、何が「秩序の安定・成長」に資するのかは、問題状況に応じて変化します。ネオリベラリズムは、アベノミクスに反対するといっても、「秩序の安定・成長」一般に反対しているわけではありません。ここでは評価の相対性が問題になります。のちほどの分析で、いちいち分類の仕方を再考しなければならないので、やっかいです。

問Cは、企業ごとに自由な経営方針を認めてよいかどうか、という問題です。

例えばある企業が、「うちは女性社員を雇わない」とか「女性はお茶くみ係のみだ」という方針をとりたい場合、私たちはそれを自由に認めてよいでしょうか。企業の運営方針を、自主性にまかせていいでしょうか。それとも、どんな企業であれ、組織内部で開かれた人間関係を構築すべきなのでしょうか。例えば「うちは内部告発はダメ、告発したら解雇」というルールを、それぞれの企業に認めてもよいのでしょうか。それとも内部告発者は、社会全体に利益を与えるので、法的に保護(解雇は違法)すべきでしょうか。「自由な家父長制を認めるか、それとも人為的なリベラル制で統一すべきか」という問題です。

この問題は、最近衆議院で可決された「特定秘密保護法」とも関連しています。国家の特定秘密が保護されると、その話題に関する内部告発ができなくなります。企業における内部告発の意義を認める政党は、おそらくこの特定秘密保護法案に対しても、反対の立場をとるのではないでしょうか。

問Dは、国家による道徳的包摂か、市場のもとでの倫理期待か、という質問です。

例えば、コンビニで売られているポルノ雑誌について、これを国家が規制すべきだと考える立場は、TPP反対の立場と類似しています。どちらも、国家が市場に介入して、社会を道徳的にすべきだ、と発想するからです。

これに対して、ポルノ雑誌容認の立場は、TPP賛成の立場と類似しています。どちらも市場ベースでの利益を第一に考えるからです。この市場ベースの立場は、社会が道徳的になるかどうかは、国家に押し付けられたくないと発想します。むろんこの立場は、市場競争のなかで、道徳的なコンビニ(ポルノ雑誌を売らないコンビニ)が勝てば、それが望ましいと発想するでしょう。あるいは、日本の国土を守るような活動をする農業組合ないし農業経営体がグローバル市場で勝てば、それが望ましいと発想するでしょう。

なおTPP参加の是非については、これを純粋に経済学的な見地から論じることもできます。参加しない方が経済的に有利、という考え方もあると思います。ただここでは、経済以外の道徳的要因を、国家が考慮すべきかどうかについて、お伺いします。

リベラリズムvs安倍政権

以上の4つの問題に対して、現在の日本人の多数派が、どのように答えるかは分かりません。ただ私がこれまで大学で教えてきた範囲でいえば、学生たちの多数派は「リベラリズム」であるか、あるいは「近代卓越主義」と私が呼ぶ新種の立場です。この他、「新自由主義」や「新保守主義」も人気があります。

「リベラリズム」という思想的立場は、以上の4つの問題に「市場で勝負できれば原発容認」、「アベノミクス支持(容認)」、「内部告発支持」、「TPPについては留保(どちらでもありうる)」という立場をとるでしょう。

現在の安倍政権は、「市場で勝負できようができまいが原発容認」であり、また、「アベノミクス」についてはその責任主体です。以上の二点では、リベラリズムと見解が(分類上)同じです。

これに対して「内部告発」に、安倍政権はおそらく支持しないでしょう。内部告発者を解雇する企業を容認するかもしれません(程度の問題ですが)。これは類推にすぎませんが、先に述べたように、「特定秘密保護法」を支持する立場は、内部告発の手段を限定することにつながると推測されるからです。むろん自民党の内部にも、特定秘密保護法や内部告発に関して多様な見解があるはずです。自民党のイデオロギー立場については、一概には言えません。ここではあえて、安倍政権の立場を単純化して類推してみました。

最後にTPPに関しては、自民党は昨年の段階で「反対」の立場をとって国民の支持を得たはずですが、実際に政権を握ると「TPP賛成」の立場に回りました。このような豹変自体が問われるべきですが、いずれにせよ、リベラリズムとの比較では、TPPの問題は重要ではないので(その理由は拙著をご参照ください)、安倍政権とリベラリズムは、イデオロギーの立場を共有していると見ることができます。

安倍政権は、分類上では、リベラリズムの立場と「内部告発」の点(問C)でのみ異なります。安倍政権のイデオロギーは、私の分類では「新自由主義」になります。先に、「新自由主義」は「アベノミクス」に反対だ、と述べましたが、「秩序の安定・成長」の評価は相対的なものだとも指摘しました。アベノミクスは、新自由主義よりももっと戦略的に成長志向であるということです。

ここで「新自由主義の定義」について補います。新自由主義とは一般に、小さな政府を志向する政策イデオロギーであり、ケインズ型の公共事業や、政府の財政赤字拡大には反対の立場をとる、と考えられています。ところが最近の研究では、1980年代以降の新自由主義は、金融化にともなって、政府の財政赤字拡大を容認するテクノロジーを発展させてきたのであって、「借金国家」こそがその実態である、という理解も提起されています。あるいはまた、ケインズ主義政策をその一部に含む、という理解もあります。こうした定義の拡張を踏まえると、安倍政権のアベノミクスとは、私の分類図式では、新自由主義の亜種ということになるでしょう。

以上の分類につきまして、詳しくは拙著『経済倫理=あなたはなに主義?』(講談社メチエ)の第1章と第2章をご笑覧ください。以下はこの分析の続きで、他の政党のイデオロギーを分析します。

4つの問いの簡単なまとめ

「アベノミクス」とはいったい何主義なのか。そのイデオロギー分析を試みてきました。リベラリズムとの比較では、アベノミクスは「新自由主義」に分類されました。ただしその場合の「新自由主義」とは、意味を拡張したものになっています。では他の政党は、どんな立場になるでしょうか。ここではたんなる「類推」の域を出ない分析にとどまりますが、あらかじめご了承いただき、ご拝読いただければ幸いです。

 2013年の経済倫理地図と称して、これまで分析してきたイデオロギーの検討は、以下の4つの基本的な問いに基づくものです。

【問A】「原発」は、市場で勝負できれば容認か。

    経済的合理性か、長期の道徳的視点か。

【問B】「アベノミクス」支持か。

    「公正」な市場ルールか、戦略的な「秩序の安定・成長」か。

【問C】「内部告発」者を保護すべきか。

    企業内部の自主的な方針を排すべきか。

【問D】「TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)」賛成か。

    国家による道徳的包摂か、市場のもとでの倫理期待か。

これらの問いに対して、安倍政権であれば、「イエス」「イエス」「ノー」「イエス」と応じるのではないでしょうか。この立場は、意味の拡張を含んだ「新自由主義」です。これに対して、こんにちの多数派と思われる「リベラリズム」の立場は、「イエス」「イエス」「イエス」「イエスorノー」となるでしょう。「新自由主義」と「リベラリズム」の違いは、内部告発のためのルールを、社会的にしっかりと作るかどうかにかかっています。

諸政党の経済倫理地図

では他の諸政党のイデオロギー的立場について検討してみましょう。以上の4つの質問にしたがって、日本の諸政党を(かなりの推測を含んでいることを承知で)分類してみると、次表のようになると推測されます。

表:諸政党の立場の分類
表:諸政党の立場の分類

この表には、異論も多々あるでしょう。共産党は、原発に対して必ずしも反対してこなかったとか、自民党の内部にはもっと多様な見解がある、といったご指摘もあるでしょう。これは私の未熟な政治理解に基づく分類であり、今後ご指摘を受けて変更していきたいと考える暫定的なものです。

諸政党の立場に関する分析

暫定的であるとはいえ、なぜこのような評価をするのかについては、一応の理由がありますので、以下に記します。

「民主党」は、イデオロギーとしては一般に、「市民派の福祉国家型リベラリズム」を表明した政党だと考えられています。しかし政党というものは、いつも同じイデオロギーを保持しているわけではありません。その時々の政治状況に応じて、ある立場のもつ「思想的意味」も変化するでしょう。あるいは政党は、自らその立場を少しずつ変更していくこともあるでしょう。今回の分類枠組みでは、民主党は、もし「市場で勝負できれば原発容認」と発想するなら「リベラリズム」になりますが、「それでも道徳的に反対」と発想するなら「近代卓越主義」(私の命名、新種のイデオロギー)になります。

リベラリズムは、それ自体としては、原発に反対しません。リベラルな立場から原発を批判する立場は、道徳に訴えるのではなく、徹底的にコスト計算に基づく議論を重視するでしょう。合理的な計算に基づいて「合理/非合理」の判断をするのでなければ、国民のあいだの合意形成は不可能と考えるためです。

これに対して「近代卓越主義」は、経済的な事柄に関するかぎり、できるだけ慣行・道徳に埋め込まれた社会が望ましい、と発想します。現在の民主党が、原発問題をめぐってどちらの見解を採用するのかによって、立場は「リベラリズム」か「近代卓越主義」のいずれかに分かれるでしょう。

「日本維新の会」の場合、原発を廃止するための道義的理念を大切にするとすれば、最初の問いに対する答えは「ノー」です。また、アベノミクスについては「反対」の立場で、むしろ規制緩和に基づく新自由主義政策を支持するでしょう。内部告発については、特定秘密保護法に対する対応(衆議院における棄権)から類推して、「イエス」(内部告発者を保護せよ)となるでしょう。TPPについては、参加を容認すると考えられます。

この日本維新の会の立場は、私の分類では「耽美的破壊主義」と呼ばれます。政治に対して、美学的な立場から革命というものを考え、支配者を嫌悪し、一切を無に帰する手段を欲するというのが、その本質です。ただし「日本維新の会」は、新自由主義の理念をアベノミクスと同じ「秩序の安定・成長」として理解する場合には、「近代卓越主義」の立場になります。民主党と同じような理念になるのです。民主党と日本維新の会は共闘できる可能性があります。

「公明党」の場合、これは推論ですが、反原発の道徳的理由をもつと見受けられます。アベノミクスについては、おそらく支持しているのでしょう。内部告発については、特定秘密保護法に対する態度から類推して「ノー」、つまりどちらかと言えば保護しない姿勢でしょう。TPPについては、賛成でしょう。するとこの立場は、「ネオコン=新保守主義」に分類されます。新保守主義には、悪しきイメージ(イラク攻撃)も付きまといますが、国内の政策に関しては、アメリカにおいても実効的な対案を出しています。アメリカでは、新保守主義は、宗教の力を動員しようとする立場でもあります。公明党がこの立場に分類されるのはとても興味深いです。ただしこの言葉のイメージに左右されないように理解したいものです。

「みんなの党」はどうでしょう。これも推論になりますが、おそらく「みんなの党」は経済学的な思考法を大切にするのではないかと思いますので、原発反対でも、「市場で勝負できれば原発賛成」の立場をとるかもしれません。アベノミクスに対しては、新自由主義的な観点から反対するでしょうか。内部告発については、おそらく告発者を保護しないと推論できますが、すこし留保が必要です。「みんなの党」は先日、特定秘密法案の衆議院可決の際に、党としては賛成したものの、造反者がでたからです。TPPについては、参加に賛成でしょう。するとこの政党は、イデオロギーとしては、「リバタリアニズム」あるいは「新自由主義」になるでしょう。この2つのいずれがふさわしいかについては、「新自由主義」という言葉をどのように解釈するかにかかってきます。

「日本共産党」は、原発反対(おそらく市場で勝負できても反対?)、アベノミクスについては、部分的に賛成(というのも公共事業の拡充を支持するから)かもしれません。内部告発については、賛成でしょう。TPPへの参加には反対でしょう。するとこの政党の立場は、「共和主義」と呼ばれるものになります。この場合の「共和主義(リパブリカニズム)」とは、アメリカの共和党とはまったく関係がありません。ここで「共和主義」とは、「君主制」に対抗する理念であり、政治の私物化を嫌い、公共空間において、美徳ある生き方を発揮することを求める立場です。また経済については、それが一定の慣行に埋め込まれているべきだと発想し、政治的市民は、その慣行の秩序を発展させるべきだと考えます。同時に経済の領域においても、政治的な美徳を発揮できるように、内部告発を奨励すべきだと考えます。

もし私の分類とその適用がうまくいっているとすれば、現在の日本共産党は、マルクス主義や平等主義のイデオロギーを示しているわけではないことになります。

「社民党」は、これも推論ですが、かりに市場で勝負できたとしても、原発に反対の立場をとるのではないでしょうか。アベノミクスについては、公共事業重視の点で、部分的に賛成かもしれません。また内部告発については、告発者を保護すべきと考えるでしょう。TPPには反対の立場をとるでしょう。するとこの政党のイデオロギーは、日本共産党と同じ「共和主義」になります。

最後に、小沢一郎が代表を務める「生活の党」は、原発反対、アベノミクスにみられる公共事業重視については部分賛成、内部告発についてはおそらく賛成(特定秘密保護法案に対する反対を表明したことからの類推です)、TPPにはおそらく反対、となります。この立場は、またしても「共和主義」であり、「日本共産党」や「社民党」とイデオロギーを共有することになります。ただし、「生活の党」が原発について、「市場で勝負できるなら原発賛成」の立場をとるとすれば、「リベラリズム」に分類されます。これは民主党と見解を共有することになるでしょう。

この他にも政党はありますが、分析はこの程度で終わりとします。

まとめと考察

以上のかなり仮説的で推論的な分析から、次のような大雑把なことが言えるかもしれません。現在の支配的なイデオロギーは、「新自由主義」「リベラリズム」「近代卓越主義」「新保守主義」などであり、これに対して少数派を代表するイデオロギーは、「共和主義」や「リバタリアニズム」である、と。

少し前までは、日本の政治は「マルクス主義」を左翼とし、「リバタリアニズム」や「新自由主義」を右翼として、経済倫理の中道を舵取ってきたようにと思います。ところが現在、支配的なイデオロギーは「新自由主義」の亜種(アベノミクス)となり、その左翼に「共和主義」、右翼に「リバタリアニズム」を配置しているような構図になってきたようです。ただし、断定を避けなければなりません。以上の分類は、推測に基づく部分が多く、イデオロギーの分類は、枠組みの設定に大きく依存しています。

今回の分類で、「マルクス主義」や「平等主義」、あるいは国家型/地域型の「コミュニタリアニズム」が現われなかったのは、質問事項に、うまく論点が反映されなかったからでしょう。2013年の重要な経済倫理トピックに照らして質問項目を考えると、このようなイデオロギー診断になったということです。

最後に念を押して強調しますが、以上の分析はきわめて暫定的なものです。皆様からのご批判を仰ぎたく思います。

サムネイル「Question Mark Garden」Dennis Brekke

http://www.flickr.com/photos/dbrekke/181939582/

プロフィール

橋本努社会哲学

1967年生まれ。横浜国立大学経済学部卒、東京大学総合文化研究科博士課程修了(学術博士)。現在、北海道大学経済学研究科教授。この間、ニューヨーク大学客員研究員。専攻は経済思想、社会哲学。著作に『自由の論法』(創文社)、『社会科学の人間学』(勁草書房)、『帝国の条件』(弘文堂)、『自由に生きるとはどういうことか』(ちくま新書)、『経済倫理=あなたは、なに主義?』(講談社メチエ)、『自由の社会学』(NTT出版)、『ロスト近代』(弘文堂)、『学問の技法』(ちくま新書)、編著に『現代の経済思想』(勁草書房)、『日本マックス・ウェーバー論争』、『オーストリア学派の経済学』(日本評論社)、共著に『ナショナリズムとグローバリズム』(新曜社)、など。

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