2014.09.30

日本の強みを活かした教員マネージメントとは?――国際教員指導環境調査の結果から

畠山勝太 比較教育行財政 / 国際教育開発

教育 #教育政策#国際教員指導環境調査

主に教員養成・採用・報奨システムの観点から日本の教員政策について考察した「教育政策のかなめ教員政策を考える」でも言及したように、教員政策は幅が広く、その他にも様々な要素が含まれる。

今回は先ごろ経済協力開発機構(OECD)より公表された国際教員指導環境調査(TALIS)の結果を用いて、主に教員マネージメントに焦点を当てて日本の教員政策を考察する。

TALISは中学校教員の勤務環境と学校の学習環境に焦点を当て、国際的な指標と政策分析を提示することを目標とした調査である。OECDによって34の国と地域で実施された[*1]。この調査については、データの解釈にいくつか注意する必要がある。

[*1] 字数の関係でサンプリングの枠組みや、選定された政策分析のテーマなどはOECDのサイトを参照されたい。

第一に、TALISは学習成果とリンクした制度設計ではない。ゆえに、教員マネージメントが学習成果に与える影響を間接的に考察することになる。第二に、TALISのデータは教員と校長の主観的な意見を調査しているため、客観的なデータとはズレが生じている可能性がある。

第三に調査対象は中学校の教員であり、その結果は高校や小学校の教員マネージメントには当てはめられない。特に日本の中学校教員は部活動の負担が大きいものの、小学校・高校についてはそれ程でもないため、TALISの結果から他の教育段階の教員マネージメントに対する政策的示唆を導くと誤った政策となる可能性が高い。

そして最後に、レポートの参考文献を参照すると分かるように、TALISの分析枠組みは国際比較を謳いつつも英語圏の教員政策に準拠しており、指標や分析に国際比較として妥当性を欠いていると考えられる部分も見られる。これらの点に注意して本稿で提示するデータをご覧いただきたい。

以下では、1章でTALISの結果から、日本の特徴を活かした教員マネージメントについて考察する。続いて2章で、主要メディアが主に日本の教員の多忙化に焦点を当てた報道をする一方で、OECDによる日本に対するカントリーノートでは、教員に対するフィードバックが取り上げられたことから、この両者に着目した考察を行う。それを受けて3章では、教育分野の外側にいると見えづらい日本の教員がフィードバックを受ける具体的なツールを紹介する。そして最後に4章で、日本の教員マネージメントの在り方についてまとめの議論を行う。なおTALISでは教授法、ICT教育、教員構成、教員の自己効力感・仕事への満足感などについても分析されているが、字数の都合で割愛し、本稿では教員マネージメントに焦点を当てて論を進める。

1.  日本の特徴を活かした教員マネージメントとは?

日本は、自国の教育マネージメントシステムの特徴を活かしきれているとはいえない。そこで本章では、日本の教育システムが、他国に比べて分権的なものか、集権的なものかを、教員人事の側面と、校長の役割が「教育者としての校長」と「マネージャーとしての校長」のどちらに重点を置かれているかという側面からみていく。

1.1.   日本の教員養成と教員配置

教員採用・配置の方法は分権型と集権型の大きく二つのタイプに分けることができる。

前者の例としてアメリカを挙げられる。州によって異なる部分もあるが、アメリカでは各学校が教員採用権を持つ。このシステムの下では、もちろん教育困難校に率先して行く優秀な教員もいるが、一般的には空席公募に対して教職経験が浅い・実績が低いといった教員からの応募しか集まらないことが多く、教育環境の良い学校に応募しても他の候補者に勝てないような、採用に関して交渉力が弱い教員ほど教育困難校に集まってしまう傾向がある[*2]。このような短所を持つ一方で、権限がより現場に近い所にあるため、リソースが効率的に活用できるという長所も持つ。

[*2] アメリカの場合は、教育財政もかなり分権化されており、住民の社会経済状況が悪い地域ほど教育予算を集めづらいという特徴もあり、教育行政・財政の両面から、優秀な教員が教育環境の良い学校に集まりやすいシステムである。

集権型の代表例は日本で実施されている広域教員人事である。教員は地方または中央レベルで採用され、そこから各学校に配置される。このシステムの下では、権限が現場から遠いため、どうしてもリソースを効率的に活用しきれない部分が出てくる[*3]。しかし、このシステムは長所も持つ。それは、教員自身が次のポスト獲得のために時間や労力を費やす必要がないため、仕事に集中したり、職能成長のために時間を割く余裕が生まれる。また教育行政からしても教員養成を計画的に実施できるし、教育の公正性を、教員配置を通じて狙うことが出来る。

[*3] あまり先進国には当てはまらないが、文脈を途上国に持っていった場合、システムを活用しきるためにはそれなりのキャパシティが省・委員会がないといけないし、腐敗が横行している場合、教員配置公表の1週間前ぐらいから省・委員会に陳情の長蛇の列が出来て業務に支障をきたすという、また別の短所が露わになるのもこのシステムの特徴である。

しかし、日本は広域教員人事の長所を活かしきれているとは言い難い現状がある。ここでは、教育困難校[*4]に勤務する若手教員の割合をみてみよう。これは教育の公正性と教員養成の計画性を完璧に捉える指標ではない。しかし前回、教員の職能成長は最初の数年間に集中していることを紹介したように、公正性の観点から見ても成長途上である若手の教員は教育困難校に配置されるべきではなく、また若手の教員は研修を行う余裕のある学校に配置されるべきである。そこから、広域教員人事の長所を活かしきれているのかをみることができるだろう。さて、日本の若手の教員はどのような学校に配置されているのであろうか?

[*4] TALISでは、言語的マイノリティ・特別な配慮が必要性な生徒・社会経済的に不利な背景を持つ生徒の割合についてそれぞれデータを出しているが、ここでは3番目、社会経済的に不利な背景を持つ生徒が30%以上いる学校に焦点を当てる。

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図1は、教育困難校に占める、経験が5年以下の教員の割合を示している。先ほども言及したように、アメリカのような分権型の教員配置を実施している国ほど高い数値が記録されがちな指標であるが、集権型を取っているにもかかわらず日本は参加国の平均値よりも高く、日本は教員の広域人事が活かしきれていないことを示唆している。

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図2は公的な教職導入研修を受けた新人教員の割合を示している。日本には公的な初任者研修があるので、正式採用された教員の参加率は群を抜いて高い。研修の内容そのものではなくそこで構築されるネットワークこそが重要という意見もあるが、いずれにせよこの正規採用の教員に対する導入プログラムの存在が日本の教育の質を支える一要因となっていると考えられる。

その一方で、近年日本ではその割合が高まっている非常勤講師に関していえば、日本よりも研修参加率が高い国がいくつか見られる。このことは後々教員の質、ひいては教育の質に負のインパクトを及ぼす可能性が高い。なぜなら、日本は戦前の師範学校制への反省から中学・高校の教員養成について開放制の原則を採っており、教員養成段階だけで一人前の教員を育てる教育システムではない。図3が示すように、日本の教員達は教員養成段階での準備教育のみでは十分ではないと感じている。非常勤講師制度自体が褒められたものではないが、もし現在の方向性を維持するのであれば、少なくとも全ての非常勤講師に導入プログラムの研修を受けさせる必要がある。

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1.2.   「マネージャーとしての校長」と「教育者としての校長」

校長の仕事は、主に「マネージャーとしての校長」と「教育者としての校長」の2つに分けることができ、その比重は国によって異なっている。一般的に分権的な教育システムでは前者の役割が重視され、集権的な教育システムを採る国では後者の役割が重視される。

現在日本でも民間人校長を活用しようという動きがあるが、これは主に「マネージャーとしての校長」に注目を当てたものであり、学校レベルに権限が大きくある分権的な教育システムでこそ、その真価が発揮される。一方で、後者の役割が重視される、つまり集権的な教育システムの下では民間人校長が期待通りの成果を出すことは難しい。では、日本の教育システムはどの程度分権的・集権的で、校長像はいったいどのようなものであろうか?

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表1は、学校自治に関して校長がどれだけ影響力があるかを教員に問うた結果である。参加国の平均と比べると、「生徒の懲罰に関する規定」「生徒の評価方法」のわずか2項目だけで日本の方が高い数値を示している。しかもその2項目は教育者としての校長の役割だと考えられる。特に、マネージャーとしての資質が求められる予算などに関係する項目について、日本は軒並み低い値を示している。一般的に日本の教育システムは他国と比べて集権的で、学校レベルの権限が小さいものだと言えるが、それは校長の職務内容にも反映されているのである。

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図4と5は、校長が勤務時間の中でどれだけの時間を「マネージャーとしての校長」と「教育者としての校長」に割いているか、校長自身が答えた値を示したものである。先ほどの教員に聞いた表1の結果とも一致するが、日本の校長は参加国平均と比べて、マネージャーとしての役割を果たしている時間が短い一方で、教育者としての役割を果たしている時間が長い。

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次章へ繋がる話であるが、図6は、校長からフィードバックを受けている教員の割合を示している。他国と比べると分かるように、日本の教員の多くは校長からフィードバックを受けている。裏を返せば、日本の校長は他国の校長よりも教員に対してフィードバックを与えることが求められているといえる。

以上のことをまとめると、日本の教育システムは集権的なもので、学校レベルにそれほど権限がない。さらに、校長の役割もマネージャー的なものよりも教育者としてのものが求められている。この条件下で教員経験がほとんど無い民間人を校長として迎え入れて、高い成果を出せと言うのは無理がある。もし民間人校長を推進したいのであれば、分権化を進めて学校レベルに権限を降ろすなど、校長がマネージャー的な役割を果たせるような環境づくりが必要だと考えられる。

本章全体をまとめると、各国にはそれぞれ独特な教員マネージメントシステムが存在しており、日本もその例外ではない。しかし、教員養成や教員配置、さらには校長の役割といった点に着目した場合、日本はその特徴を活かしきれていないのが現状であると言えよう。教育政策決定権者は、日本の教員マネージメントの特徴をよく理解し、その強みを活かせるように調整を加える必要がある。

2. 日本の教員の職能成長を支える他者からのフィードバックとそれを阻害する多忙さ

日本のメディアは、TALISの結果が公表されたとき、一斉に日本の教員の多忙さを報道した。ここでは日本の教員がどれぐらい多忙なのか、その原因はなにかを示すTALISのデータを紹介する。そして、教員が多忙であることの何が問題であるのか、日本についてのカントリーノートで触れられたフィードバックに焦点を当てながら考察することとしたい。

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図7は、1週間当たりの教員の勤務時間と授業時間を示したものである。このデータが正にメディアが「教員の多忙化」と一斉に報じたデータであるが、確かに日本の教員の労働時間は2位以下を引き離して参加国中トップである。しかし、さらに注目する必要があるのは、日本の教員の授業時間はむしろ参加国の平均よりも少ないという点だろう。授業時間は多くないのになぜ日本の教員は多忙なのだろうか?

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表2は、教員の労働時間を項目別に示し、日本の教員と参加国の平均及び両者の差を示したものである。日本の教員の授業時間数は平均よりも少ないにもかかわらず、授業準備には平均よりも多くの時間が使っており、日本の授業の質の高さの一つの理由が垣間見える。話を教員の多忙さに戻すと、部活動を中心とした課外活動、事務仕事、学校運営に関する業務、他の教員との会議の4つの業務だけで、日本の中学校教員の週当たりの労働時間が、TALIS参加国平均よりも10時間以上長くなっている。いかにこの4種類の業務量を減らせるかが教員の多忙さの解消の鍵であることが分かる。

この結果は、ベネッセ教育総合研究所が、小中の教員の労働時間を調査した平成18年度の「教員勤務実態調査」の結果とも整合的である。この調査によると、中学校教員が残業時間や持ち帰り仕事時間に何をしているかというと、他を大きく引き離して「部活動」が一位に来ている他、授業準備・成績処理・その他校務・事務/報告書作成などが上位に来ており、中学校教員の多忙さは主に部活動・授業準備・事務関連の業務によるものだということが分かる。

教員が多忙であることは、労働基準法違反という法的な問題もあるだろうし、現在は低い教員の離職率も労働環境の悪化によって高くなり、間接的に教員の質が低下する可能性も無いわけではない。しかし、教員が多忙であることの一番の問題は、専門職であるはずの教員から職能成長のための時間を奪い去り、直接的に教員の質、ひいては教育の質を低下させる点であろう。

表3は、教員が職能開発を行う上で障壁となっていると答えた要因の一覧を、日本の結果と参加国平均の結果を示している。真っ先に目につくのが、スケジュールの都合が合わないことが職能開発の障壁となっていると答えている日本の教員の割合の高さである。確かに職能開発の費用が高いというのもあるが、参加国平均と比べたときに、学校からのサポートが無い(勤務時間のアレンジが十分でない)・家族の都合・スケジュールが合わないことが職能開発の障壁となっていると言及した日本の教員の多さは、忙しすぎて自分の職能開発に割ける時間が無い日本の教員の姿を浮き彫りにしている。

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最後に、この章のまとめとして、TALISの日本カントリーノートで日本の教員の職能成長とフィードバックが言及された点についても触れておく。

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表4は、フィードバックを受けたことにより改善することができたと答えた教員の割合を項目別に示したものである。教科の知識で参加国平均を大きく引き離しているのを筆頭に、日本の教員達は仕事上の責任・学級運営・教育実践・成績評価といった子どもの学習成果に直接影響を与えると考えられる項目に言及している。さらに、教師としての自信・仕事への満足感ややりがいといった教員の離職率に影響を与えそうな要因についても、日本の教員達はフィードバックを受けたことが役に立ったと考えている。

この結果に基づくと、日本の教員の資質向上を考える際に、教員達が他者からフィードバックを受けられる環境の確保が、一つの重要な教員政策のテーマとなってくることが分かる。事実、政府が行うような上からの官制研修は、確かにカリキュラムの変更などを効率よく伝えることには適しているが、教員個々人のニーズに応えることには適していない。その代わりに、いま欲しい助言を手軽に得ることが出来る場として日本の教員達は自主研修というお互いにフィードバックを与え合う環境を持っていた。しかし、近年の多忙さが一因となってこのような活動が減少傾向にあると考えられている。つまり、多忙さを解消し、自主研修の場・時間を確保してあげることこそが日本の教員・教育の質向上にとって重要なことだと考えられる。

しかし、教育関係者以外には日本の教員がフィードバックを与え合う場の確保、と言われても具体的にどういったことなのかイメージし難いと思われる。そこで、次章ではTALISの結果から少し離れて、対面・オンラインでのこのような場について簡単に紹介してみようと思う。

3. 自主的にフィードバックを与え合う日本の教員達

日本では明治10年頃には既に教員同士で研修を行う自主研修のような活動が確認でき、特に明治30年代以降その活動が広がっていく。その後紆余曲折を経て、近年では減少傾向にあるものの、小学校について言えば20%程度の教員がこのような活動を行っていると考えられている[*5]。

[*5]  この辺りの詳しい歴史に関する先行研究はシャキャ(2011)に纏められている

このような活動の内容は多岐にわたる上、活動の仕方も多種多様なので、典型的な活動を紹介することは難しい。ここでは、筆者もその活動にお邪魔させて頂いたことがある「神戸おもちゃばこ」という教員サークルの活動、そしてオンライン空間で教員がフィードバックを与え合うSNSについて紹介したい。

3.1.   対面でのフィードバック:神戸おもちゃばこのケース

「神戸おもちゃばこ」は30年以上の歴史を持つサークルで、月に一度例会を実施している。例会には15人程度の教員が集まり、教育実践について話し合っている。例会は、参加者がレポートを持ち寄って報告し合い、それに対して他の参加者からフィードバックを得るという形式で行われる。レポートの内容も具体的な教材の検討から障がい児教育についてと幅広く、教員同士で新たな知見を得たり、悩み相談をしたり、といった場になっている。ここのサークルの特徴はSNSを活用している点にあり、mixi時代からオフラインでのフィードバックの延長線上にオンライン上でのフィードバックの与え合いが存在している。

さらに、このサークルの活動はフィードバックを与え合うだけの関係に留まらず、教育に関する研究を行ったり、サークルメンバー共同で教育実践に関する本を執筆したり、セミナーの開催も行ったりしている。その他に家族行事も実施しており、その活動は多岐にわたる民間教育団体や「神戸おもちゃばこ」のような教員の自主研修サークルは全国に存在しており、教員の資質向上や離職率の低下に一役買っていると考えられる。

3.2.   オンライン空間でのフィードバック:SENSEI NOTEのケース

日本の教員は、EDUPEDIATOSSランドといったオンライン空間でもお互いにフィードバックを与え合っている。ここでは、具体例として今年開設されたSENSEI NOTEというオンライン空間での教員のフィードバックのやり取りを紹介しようと思う。

SENSEI NOTEは教員が繋がるという、正に教員間のフィードバックに着目したSNSで、教員志望者と教員のみが登録できるので、センシティブな問題についてもフィードバックのやり取りが出来るのが大きな特徴である。現在の登録者数は6000人を超えた所で、教員の業務形態を反映して、週末の日中にアクテビティがかなり活発になり、週末でも活発に教員同士で学び合っている様子が見て取れる。

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サイト上で教員がフィードバックを受けられる仕組みはいくつか用意されている。まず、特定の先生からのフィードバックを外部に見られない形で受けたい場合はfacebookと同様に「メッセージ」で質問のやり取りをする事ができる。次に、サイト登録者全員が見ることができる「質問板」を利用してフィードバックを受けたい内容を書き込むと、多数の教員から公開でフィードバックを受けることができる。実際に一つの書き込みに対して平均して5件程度の返信があり、多いものになると50件近くの回答が付く事もある。さらに「ひきだし」を使ってファイルのやり取りも可能なので、教案や独自教材に対してフィードバックを受けることも可能である。

SENSEI NOTEに登録している40%の教員が週に一度はサイトにログインしており、日本の教員がオンライン上でもフィードバックのやり取りを求めている姿が見て取れる。

4. まとめ

筆者の父親も中学校の教員であった。生徒指導や部活動に忙しく、遅くに帰ってきてからも学級通信などを書いていたし、3年生の担任をやっている時などは進路指導や修学旅行の準備などで多忙を極めいつか倒れるのではないかと心配する程であった(案の定倒れた事もあったが)。そのような父の背中を見て育ち、大学と院で教員政策を研究し、なぜか日本を遠く離れた地ではあるが教育官僚をやっているので、日本の教員の多忙さというのは実感として筆者も良く理解している。

前述のように、教員の多忙さは、教員の職能成長を阻害し、教員の質ひいては教育の質を低下させることが問題のひとつである。日本の教員の職能成長にとってフィードバックが果たす役割は大きいと考えられ、事実3章で紹介したように日本の教員達は自主的にフィードバックを与え合っている。このような活動を促進するためにも教員の多忙さを解消する必要があり、そのためには2章で言及したように部活動・事務・学校運営に関する業務負担の軽減を図る必要がある。この業務負担軽減の方法として部活動の外部化、学級事務職の導入、学校内業務見直しのためのマネージャーとしての校長の役割の強化の3点が必要だと考えられる。

さらに、日本は汚職が少ない形での教員の広域人事システムを採れている数少ない国の一つである。しかし、残念な事に1章で説明したようにTALISの教員配置のデータ[*6]に基づくと、その強みを活かしきれているとは言えない。また、近年非常勤講師の採用が増加したが、この採用形態の教員の半数近くが導入研修(恐らく初任者研修を指すものと考えられる)を受けていない状況は、長期的な教員の質の低下という代償を支払わされる可能性が高い。「教育政策のかなめ教員政策を考える―限られた予算で高い教育効果をあげるために」でも紹介したが、教員の職能成長は最初の数年に集中する傾向が見られるので、この最初の数年をいかにサポートできるかに留意した教員マネージメントシステムを構築・修正していく必要がある。

[*6] 本文からは割愛したが、日本の若手教員が意図的に都市部に配置されているという傾向は認められない(Table 2.13)。若手教員はフィードバックが受けやすい環境に置くことを狙って都市部に配置されるべきであるが、この点からも日本は広域の教員人事制度を活かしきれていない。

国際学力調査の結果を見ると日本の子どもたちの学力はかなり高いと言える。しかし、前回の記事と今回の記事で考察したように、教員政策の改善を通じてさらに子どもたちの学習成果を高められる余地はまだ残っている。TALISの結果について様々な報道がなされているが、この調査のデータをよく分析し、日本の教育政策や教員の特徴を活かしたより良い教員政策を設計することが必要である。

(本記事は「サルタック・ジャパン」の理事として執筆したもので、筆者が勤務する国連児童基金の見解を代表するものでも、関連するものでもありません。また、立場上筆者個人はいかなる謝金も受け取っておりません。また、団体への謝金相当額の寄付をお願いしていますが、筆者は無給で理事を務めているので筆者に金銭的な見返りが入ることはありません)

サムネイル「旧佐久間小学校 黒板」Kennosuke Yamaguchi

https://flic.kr/p/8c51Mk

プロフィール

畠山勝太比較教育行財政 / 国際教育開発

NPO法人サルタック理事・国連児童基金(ユニセフ)マラウイ事務所Education Specialist (Education Management Information System)。東京大学教育学部卒業後、神戸大学国際協力研究科へ進学(経済学修士)。イエメン教育省などでインターンをした後、在学中にワシントンDCへ渡り世界銀行本部で教育統計やジェンダー制度政策分析等の業務に従事する。4年間の勤務後ユニセフへ移り、ジンバブエ事務所、本部(NY)を経て現職。また、NPO法人サルタックの共同創設者・理事として、ネパールの姉妹団体の子供たちの学習サポートと貧困層の母親を対象とした識字・職業訓練プログラムの支援を行っている。ミシガン州立大学教育政策・教育経済学コース博士課程へ進学予定(2017.9-)。1985年岐阜県生まれ。

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