2019.10.02

教育の国際性向上に向けて――国際バカロレアへの期待とイギリスからの示唆

御手洗明佳/ 教育社会学、花井渉 / 比較・国際教育学

教育

はじめに

皆さんは、「国際バカロレア(IB)(注1)」という大学入学資格および教育プログラムをご存知だろうか。筆者の勤務校の講義で尋ねると、手をあげるのはつねに2、3人である。IBとは、1968年にスイスで設立された非営利団体およびその団体が開発しているK-12向けのカリキュラムのことである。そして、IBの特徴の一つがその「国際性」である。IBのカリキュラムは国際的に広く認知されており、その卒業資格は各国の大学入学者選抜において大学入学資格として認められている。そのため、外交官やグローバル企業の子弟など、国際的に活躍する人材の子弟が多く学んでいる。

(注1)「国際バカロレア」の正式名称はインターナショナル・バカロレア(International Baccalaureate)であり、略して「IB(アイ・ビー)」と呼ばれる。

日本の大学生の認識が示すように、IBを知るものはごくわずかであり、日本では帰国生を中心とする一部の子弟が学ぶカリキュラムに過ぎなかった。しかし、このIBが近年にわかに注目を集めている。

2018年2月12日の朝日新聞朝刊記事は「大宮国際中等教育説明会ほぼ満員に バカロレアなどに注目 来月も開催」と報じた。これは2019年4月、さいたま市教育委員会が開校予定の市立大宮西国際中等教育学校の説明会を催したところ、募集予定の生徒160人を大幅にこえる約900人が参加したことを伝える内容であった。1月に開いた説明会には2千人超が訪れ、さらに要望があることから、3月にも説明会を開くことを予定していることを伝えている。

この大宮西国際中等教育学校こそ、一部を除き授業を英語で実施するほか、海外の大学入学資格が得られるIBの導入を目指す学校の一つである。この記事では、IBの国際性について、海外大学への進学という観点から論じていこうと思う。

まず、大学入試に向けた準備段階にあたる、高等学校カリキュラムに目を向けてみよう。IBでは、日本の高校2年~3年にあたる2年間、生徒は「ディプロマ・プログラム(Diploma Programme、略称 DP)」と呼ばれる教育プログラムを履修する。DPは、6つの教科グループからの1教科ずつの選択科目、および課題論文、知の理論、社会奉仕活動からなる。

それぞれに異なる特徴を持つが、国際理解を通じた、より平和な世界を築く人材を育成するという一貫した思想を背景として持つ。この思想にもとづいたカリキュラムであるからこそ、国際的に通用する大学入学資格として、世界各国で認められているのである。そのため、DPの要件を満たすことで、IBディプロマ資格(以下、IB大学入学資格とする)と呼ばれる認定証書を取得することができる。IB大学入学資格は、世界75か国約2500以上の大学において、自分の学力や能力を証明する選抜資料として活用することができる。

日本で普及・拡大するIB認定校とその背景

2019年5月現在、国際バカロレア機構から認可を受けた学校(IB認定校)は、世界153以上の国・地域に約5000校存在している。そのうち、日本には71の認定校が存在している。しかし、遡ること6年前の2013年時点では、全国に16校しか存在せず、その認定校の大半はインターナショナルスクールであった。最初に指摘した日本での知名度の低さは当然のことである。ではなぜ、日本国内のIB認定校は急激な増加を遂げたのか、まずはその背景について説明したい。

・海外で学ぶ生徒のための教育

日本国内にIB認定校はごく少数である。その理由は、IB認定校を卒業しても、長らく日本国内では高校卒業資格を得られなかったからである。日本の学校制度では、学校とは学校教育法第一条に規定された教育施設を指し、文部科学省が「教育課程の基準」として公示する学習指導要領にもとづいて定められている。一方、IBを導入するインターナショナルスクールは、この「第一条校」には属さず、第134条に記される「各種学校」扱いとなる。各種学校では、日本人児童・生徒が通っても就学義務の履行とはみなされず、義務教育を修了したことにはならないのである。

このようななか、IB認定校に通っていたのは、おもに帰国生となる。彼らがIB認定校を修了した場合、国際的な大学入学資格を取得することとなる。そのため、保護者の転勤などで他国に行くことになったとしても、その国で大学を受験する資格を得ることができる。しかし、IB大学入学資格は、日本の大学入試では認められなかった。

日本の大学の「帰国生入試」の出願資格・条件は、(1)海外学校を卒業していること、(2)海外学校への在籍期間が最終学年を含んで2年以上継続して在籍していること、と記されるのが一般的である。この要件の場合、海外のIB認定校を卒業した生徒は要件を満たすことができる。しかし、国内のIB認定インターナショナルスクールを卒業した生徒は対象にならない。先述したことを正確にいうならば、国内のIB認定校は、国内的には高校卒業資格として認められてこなかったのである。国内のIB卒業生が学んできた科目や、IB入学資格の有無、最終スコアは評価されなかったのである。

また、IB認定資格を持った帰国生が「帰国生入試」を受けられるからといって、学んできた内容が尊重されていたわけではない。帰国生入試で実施される内容は、理系分野では「数学、理科、小論文、外国語、面接」、文系分野では「小論文、外国語、現代文、面接」というのが定番である。このことからわかるのは、日本の大学にとって重要な点は、大学の授業を受講するのに差し支えのない日本語運用力や所属予定の分野に関する基礎知識、英語力といった程度である。IBで習得した内容や認定資格の有無は、日本の入試においてまったく有利に働かなかったということがいえる。それどころか、国内カリキュラムに準拠していない知識しか習得していないという点では、マイナスであったとすらいえる状況が続いていた。

・「グローバル人材育成」の手段として注目され始めたIB

こうした流れを変える契機となったのは、2011年6月に提出された「グローバル人材育成推進会議(注2) 中間まとめ」(内閣府、以下、中間まとめ)である。中間まとめでは、「グローバル化が加速する21世紀の世界経済の中にあっては、豊かな語学力・コミュニケーション能力や異文化体験を身につけ、国際的に活躍できる「グローバル人材」を我が国で育てていかなければならない」ことの必要性が論じられた。

(注2)首相官邸公式ウェブサイトによれば、「グローバル人材育成推進会議は、我が国の成長を支えるグローバル人材の育成とそのような人材が活用される仕組みを構築を目的として設置されました」とある。https://www.kantei.go.jp/jp/singi/global/index.html(2019年5月2日閲覧)

さらに、若者の留学離れを問題視した。これらの対応策の一案として、「国際バカロレア資格を取得可能な、又はそれに準じた教育を行う学校を5年以内に200校程度へ増加」と明記した。グローバル人材育成が国家課題となったことで、これまでの帰国子女教育を支えてきたIBに白羽の矢が立ったのである。

中間まとめ後の文部科学省のIB認定校政策からは、3つの流れが読み取れる。第1に、IB機構との正式な窓口となる「国際バカロレア機構デュアルランゲージ・ディプロマ・プログラム国内連絡窓口」の設置である。これまでは、国内のIB認定校が個別にIB機構と連携していた点が、IB拡大制約の1つとなっていた。そのため、IB機構と日本でIB認定校を目指す学校を結ぶ窓口を設置したという点で大きな意味を持つ。

第2に、IB導入を進めるための各種教育法規の新設・変更である。2015年に文部科学省は「学校教育法施行規則」を改正し、IBと学習指導要領の双方を無理なく履修できる特別措置を新設した。また、これまで認められなかったインターナショナルスクールの在籍についても、別途、法律が公布されることとなった。一定の要件を満たせば、IB認定資格が国内大学の入試要件として認められるようになったのである。

さらに文部科学省より、国内大学の入学選抜でIB大学入学資格およびスコアを活用することも推進され(注3)、2018年時点で54の大学が一部または全学部でIB大学入学資格を発表している(注4)。全学部で「国際バカロレア(特別)入試」を実施している大学は、岡山大学、筑波大学、大阪大学、鹿児島大学、国際教養大学、上智大学、玉川大学、関西学院大学など国立大学を中心とした大規模私立大学である。

(注3)教育再生実行会議第4次提言によれば、「大学は入学者選抜において国際バカロレア資格及びその成積極的な活用を促進する」と明記している。

(注4)「国際バカロレアを活用した大学入学者選抜例(平成29年10月現在)」 http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/detail/__icsFiles/afieldfile/2017/12/13/1353392_4.pdf(2019年5月2日閲覧)

この流れは義務教育にも拡大している。2016年公布の「義務教育の段階における普通教育に相当する教育の機会の確保保持に関する法律」により、小中学校でも所属の教育委員会へ学習状況を報告することで、就学義務履行を満たすことが可能となった。こうした特例の新設や法整備により、インターナショナルスクールや私立学校のみならず、公立学校にもIB認定校の導入が進んだ。

公立学校のIB認定校として、いち早く導入したのは、東京都立国際高等学校国際バカロレアコースである。2018年卒業の一期生は、イギリス、アメリカやオーストラリア等の海外有名大学(注5)へ合格し、進学している。海外大学進学者以外にも、早稲田大学や慶應義塾大学、上智大学をはじめとする国内大学への進学者もいる。こうした流れに続き、現在は、神奈川県立横浜国際高等学校、高知県立高知国際中学校・高等学校など、公立学校への導入例がみられるようになった。

(注5)ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(英国)、エジンバラ大学(英国)、キングス・カレッジ・ロンドン(英国)香港大学(香港)、香港科技大学(香港)など。いずれも2018年版タイムズ・ハイヤー・エデュケーション世界大学ランキングにて50位以内。東京大学は46位。都立国際高等学校ウェブサイトよりhttp://www.kokusai-h.metro.tokyo.jp/ib/course/condition.html(2019年5月3日閲覧)

第3に、IB認定校で教える教員を養成するコースを設置する大学が現れたことである。2014年に玉川大学大学院教育学研究科に「IB教員養成コース」が開設され、続いて2016年に岡山理科大学が「IB教員養成コース」を開設した。2017年には筑波大学大学院修士課程教育研究科が「教育学(国際教育)修士プログラム」を開設した。その他7大学が同様のプログラムを実施している。

イギリスの教育改革とIB

それでは、海外ではどのような意図でIBが普及・拡大されているのだろうか。ここでは、とくにイギリス(おもにイングランド)を事例に概観する。

イギリスでは、1951年に後期中等教育修了および大学(高等教育)の入学基礎要件として開発・導入されたGCE-Aレベル(General Certificate of Education Advanced Level、以下:Aレベル)が、イギリスの伝統的な学術的な資格として「黄金のスタンダード」(the golden standard)と呼ばれるほど、価値の高い教育プログラムとして広く認識されてきた。

Aレベルでは、生徒が大学進学後に学びたい分野に必要な科目をおもに3科目選択し、深く学んでいくという大学準備教育の要素が強い特徴がある。そのため、大学で理系分野に進学を希望する場合は、Aレベルで文系の科目は履修しなくてもよくなるということである。このように「選択」と「集中」を通じた大学準備教育が、まさに大学進学のための「黄金のスタンダード」として広く認知されてきた所以なのである。

しかし、Aレベルに対しては、導入当初からいくつかの批判も存在していた。それらは、おもにAレベルがエリート偏重ではないかというものや、その特色でもある、後期中等教育段階という早い段階での3科目に限定された学習が、生徒の学びや知識を狭めてしまうのではないかという「早期の専門化」や「文理のバランス」の問題等が中心であった。

さらにAレベルでは、これまで教科横断的な学習を推進する「共通のコア学習」の導入を頑なに拒んできた点があげられる。その背景には、アクティブラーニングや教科横断的な学習等を含む「共通のコア学習」が、元来、職業教育・訓練の分野において行われてきた学習であり、「黄金のスタンダード」であるAレベルには相応しくないという認識が根強く存在していたからである。

しかし、2006年に状況は大きな転換点を迎えることとなった。そのきっかけは、2002年に資格試験団体によるAレベルの最終成績を良く見せるための不正操作が行われ、それが「Aレベルスキャンダル」として報道されたことで、Aレベルに対する国民の不信感や質の低下が懸念されるようになったことである。そこで、当時のトニー・ブレア労働党政権は、Aレベルの代替資格の模索をしはじめ、文理のバランスがとれたカリキュラム構成や共通のコア学習を含む、幅広い学習を行なっているIBに注目が集まったのである。

そして、2006年にブレア首相(当時)によって、イギリスの各地方当局の管轄下に最低でも1校のIB認定校を開校するよう指示し、250万ポンドの財政支援策を発表している。これにより、2010年を前後にイギリス国内では、とくに公的セクターにおけるIB認定校が急速に拡大し、全体で一時230校にまで拡大したのである(注6)。このように、イギリスではAレベルがこれまで伝統的に行なってきた3科目を専門的に学習する方法から、より幅広く学習し、応用力や深い学習を行なう教育も認め、国内の生徒に対する大学入学資格の選択肢を与えることを一つの目的としてIBが導入されたといえる。

(注6)Tristan Bunnell (2015) The rise and decline of the International Baccalaureate Diploma Programme in the United Kingdom, Oxford Review of Education, Vol 41, Issue 3, pp.387-403.

このように、急速にイギリス国内で拡大したIBであったが、2010年にキャメロン保守・自民党連立政権(当時)への政権交代が行われ、今度は逆に公的セクターへの財政緊縮策が発表されると、IB認定校は急速に減少することになった。その理由として、IB認定校はIB機構に対し、毎年高額な年会費(約120万円)を納めなければならず、その他教員研修や教材等で多くの予算が必要であることから、国からの補助金なしでは提供できない公(立)営学校では、その維持が困難になったといえる。

しかし、その一方で近年のイギリスでは、IB認定校は減少したものの、バカロレアの名称を冠したイギリス独自のバカロレア型資格や教育プログラムが開発・導入されている。それらは、モダン・バカロレア、テクニカル・バカロレア、イングリッシュ・バカロレア、シックス・フォーム・バカロレアやアドバンスト・バカロレア(ABacc)等であるが、これらバカロレア型資格や教育プログラムの特徴としては、教科学習に加え、「共通のコア学習」が含まれている点があげられる。

この点からも、イギリスではIBは縮小したものの、その特色である「共通のコア学習」を通じたコンピテンシーの育成は残り、国内資格に加えることでその育成を図ろうとしているといえる。これは、まさにグローバルレベルで開発された「IBのローカル化」や「国内資格のバカロレア化」ともいえる状況が生じているといえる。とくに、ABaccは、伝統的なAレベルに、個人探究やプロジェクト学習等を追加することで付与される資格であり、これまで頑なに共通のコア学習の導入を拒否してきたAレベルにとっては大きな変革であるといえる。

イギリスの教育改革から見えてくること

以上のように、イギリスでは、2006年に当時のブレア労働党政権による国内のIB認定校の拡大政策が推進され、その後、公的セクターにおいて急速に拡大してきたが、これは現在日本において進められている、2020年までに国内のIB認定校数を200校にまで拡大する政策とも類似した状況である。その意味で、イギリスは日本よりも約10年先にIB拡大政策を推進していたといえる。また、どちらも政策主導でIB導入が進められている点も共通している。

しかし、IB導入の目的については、日本では内向き志向と呼ばれる日本人生徒の海外の大学への進学を促し、英語でのコミュニケーション能力や国際理解力等を身につけ、将来、国際的に活躍し得るグローバル人材の育成が目的となっている一方で、イギリスでは海外の大学への送り出しというよりもむしろ、国内の伝統的な資格であるAレベルの代替資格として、国内の大学進学の際に取得する大学入学資格の新たな選択肢として導入されている。

また、Aレベルでは、これまで専門に特化した内容であり、生徒の主体性や態度、論理的思考力等、学力と同時に多岐にわたる能力も含む「コンピテンシー」の育成が行なわれていなかった。そのため、IBのような文理のバランスがとれた学際的な学習、共通のコア学習を含む教育プログラムが注目され、普及・拡大されたといえる。

どちらも人材育成ではあるものの、日本では国際化の一環として、海外への送り出しが目的である一方で、イギリスでは国内の学術的な教育プログラムがこれまで育成してこなかった内容を補完するかたちで導入されているものであり、国内の教育や人材育成の「国際性」の向上ではない点で、日本の状況とは異なるといえる。

おわりに

最後に、日本の教育の国際化について、IBが果たす役割についてその可能性を検討したい。そもそも、海外大学の入学要件で用いられる資格とはIBのみに限定されているわけではない。志望する大学によって異なるものの、高校での成績やTOEFLなどの英語力、SATなどによる学力証明、エッセイ、課外活動等、その要件を満たせば、入学許可を得ることは可能である。

こうした状況で、IB大学入学資格を取得するメリットとは何だろうか。第1に、前述したように、世界75か国約2500以上の国と地域で入学要件の一つとして認められていることにより、国・地域という点で選択肢が多いという点がある。第2に、IBが国際的な理念を持ちながらも「大学準備教育」としての教育内容を提供している点を挙げることができる。たとえば、IBの教育プログラムは人文科学、自然科学、社会科学、芸術という文理融合の幅広い教科群から編成されているため、大学入学前に一般教養科目を履修したとみなされ、大学の単位が付与される例もある(注7)。

(注7)たとえば、米国ハーバード大学では、選択科目の上級レベルでスコアが7(満点)の場合、履修免除(単位認定)される。また、米国UCLAでは、上級レベルでスコアが5の場合、科目履修免除される等、各大学でそれぞれの活用例がある。「国際バカロレア日本アドバイザリー委員会 報告書 参考資料集」http://www.mext.go.jp/a_menu/kokusai/ib/__icsFiles/afieldfile/2014/04/15/1326221_06_1_1.pdf

(2019年5月26日閲覧)

また、コア科目「知の理論」や「課題論文」により、批判的思考力、リサーチ能力、論理的に書く力が身につくなど、大学入学後に必要となる力を事前に学ぶ機会を得ることができる。さらに、バイリンガル主義の名のもと2言語習得を前提としている点も、大学で学ぶ上での魅力の一つとなっている。こうした特徴は、日本の高等学校から海外大学への進学が制度的には開かれていたものの、日本の教育内容が、海外大学とは大きく異なり障壁となっていた点を解決するものである。

さらに、IB認定校の普及は、海外の学校から日本の高等学校・大学へ入学する機会ともなりつつある。たとえば、立命館宇治高等学校は、入学試験の出願資格に帰国生と並び外国籍をもつ生徒(海外在住、国内在住含む)を出願資格の対象としている。さらに、入学試験会場を所属機関(日本)、香港、上海、シンガポール、ロンドン、ニューヨークで実施していることからも、広く門戸を開いていることがわかる。これまで、帰国生や外国籍の生徒は主要な入学対象者ではなかったが、IB認定校になったことで、求める入学対象者に変化が生じている。こうした動きは、国際化を推進する総合大学でもみられるようになっている。

以上から、IBの普及・拡大を進める動向は、国際流動性に対応するための学校の法制度等を整備する契機となっており、教育の国際性向上に寄与しているといえる。しかし、今後、IBがどのように展開していくのか、その行く末については未知数である。

私たちにどのような道が示されているのかは、イギリスの例が一つの参考になるだろう。つまり、このままIB認定校を増やし、国際化を促進する手段としてIBを活用し続けるのか、それともイギリスのように伝統的な国内教育プログラムにIBの要素を部分的に組み込み、国内独自の教育プログラムを開発するかである。

どちらに進むにせよ、今後急速に変化する予測不可能な社会を生きる子どもたちが豊かな教育を経験し、主体的に考え、これからの社会の担い手になれるよう、今まさに社会全体で議論することが求められている。

参考文献

・中央教育審議会(2016)「新しい時代にふさわしい高大接続の実現に向けた高等学校教育、大学教育、大学入学者選抜の一体的改革について〜すべての若者が夢や目標を芽ぶかせ、未来に花開かせるために〜(答申)」

・国際バカロレア機構公式ウェブサイト http://www.ibo.org(2019年5月13日閲覧)

・文部科学省(2017)「新しい学習指導要領の考え方-中央教育審議会における議論から改訂そして実施へ-」http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/new-cs/__icsFiles/afieldfile/2017/09/28/1396716_1.pdf(2019年5月13日閲覧)

プロフィール

御手洗明佳教育社会学

淑徳大学教育学部・助教。早稲田大学教育学研究科博士後期課程単位取得退学。博士(教育学)。千葉大学アカデミック・リンク・センター特任助教などを経て、現職。専門は、教育社会学。主な論文に、「教科における「表現する」能力への評価方法―IB「LanguageA1」に焦点を当てて―」、『思考と言語』112(442),pp. 1-6、「調査データからみる教職大学院の現在(4)教職大学院に対する学生の評価」『IDE:現代の高等教育』Vol.573、pp.64-69、「国際バカロレア・キャリア関連教育プログラム(IBCP)のカリキュラム分析-国際バカロレア・ディプロマプログラム(IBDP)との比較から-」『国際バカロレア教育研究』創刊号、pp. 57-65. など。

この執筆者の記事

花井渉比較・国際教育学

独立行政法人大学入試センター研究開発部(試験基盤設計研究部門)・助教。九州大学人間環境学府教育システム専攻博士後期課程単位取得退学。博士(教育学)。福井大学・奈良女子大学・岐阜聖徳学園大学連合教職開発研究科(連合教職大学院)特命助教を経て、現職。専門は、比較・国際教育学。主な学術論文は、「イギリスにおける国際バカロレア認証に伴う資格試験制度変容に関する研究」、『比較教育学研究』、第52号、pp.90-112、「国際バカロレア」、『英国の教育』、日英教育学会編、p.157、東信堂、「世界各国におけるコンピテンシーに基づく教育改革とICT教育政策の動向」、『月刊高校教育』、4月号、pp.32-35、学事出版など。

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