2013.06.05

いじめ対策推進基本法案は、いじめ問題の構造を変えられるか

小西ひろゆき参議院議員インタビュー

教育 #いじめ#大津事件

現在国会で審議されている「いじめ対策推進基本法案」民主党による本法案は、いじめが発生する「構造的な問題」に注目し、その解決のための仕組みづくりとして作成された。本法案立法の際に実務責任者を務めた小西ひろゆき参議院議員に話を伺った。(聞き手/荻上チキ、構成/金子昂)

構造的な問題を解決する仕組みをつくるために

―― いじめ対策推進基本法案を作成された経緯を教えてください。

わたしは当選後、復興特区法案や障害者総合支援法案など、さまざまな法律の立法に携わってきました。去年の8月の終わり頃、大津いじめ自殺事件の教育委員会の対応が不適切だという報道が大きくされていたときに、それまでの経験から、いじめに関しても法律をつくることができ、子どもたちを最大限救うことができるはずだと気がついたんです。その瞬間に、子どもたちを守るために学校現場などで必要な仕組みが、頭の中にバーッと浮かんだんですね。そこで、民主党で立法しようとチームをつくり、実務責任者を務めました。

じつは2012年12月の総選挙がなければ、昨年の臨時国会で法律を通すつもりで条文化もほぼ完了していたのですが、選挙があり、また政権が交代したこともあって、新しい体制の下でこの法律の成立に向けて頑張っていくことになりました。

選挙後、民主党の文科部門会議で議論を重ね、2月12日に、民主党の「次の内閣」で案が了承されました。それから各野党に共同提案を呼びかける作業を行い、4月11日に、民主党・生活の党・社民党の共同により国会に法案を提出することになりました。その他の野党も、いじめ法案とは別の課題である教育委員会制度の改革などで見解が異なるため、共同提案にはのれないものの、内容には賛成だとおっしゃってくださった。ですから内容面で否定的なことをおっしゃられた野党はなかったと理解しています。

―― いじめ対策に法律が必要なのだろうかという声もよく聞かれます。なぜ法案で、いじめ対策をとろうと考えたのでしょう。

あらゆる立場の多くの人たちが、小中学高校時代に学校でいじめがあったと言います。民主党法案の基本的な考え方でもありますが、いじめは、どこの学校にも、どの子どもに対しても起こりうるものだと思います。

残念ながらいじめ問題は、学校教育の永遠の課題として、もしくは学校に限らず、人間のコミュニティであるかぎり発生しうる。しかし、いじめが発生する原因を解消できるような仕組みをつくることができれば、いじめを最大限に予防することができるはずです。それを全国のすべての学校で実現し、10万人とも20万人とも言われるいじめで苦しんでいる子どもたちを救いたい。そのために法律を制定する必要があると考えたんです。

今回、法案をつくる過程で、いろいろな専門家や被害者、学校の教職員の方々などと意見交換をしました。そして、いじめ対策には、「予防」、「早期発見」、「解決」の三点を適切に行う仕組みがなければ総合的な対策にはならないと学びました。この三つの課題を総合的に解決する仕組みとはどういうものか。

これまで、いじめ問題は、自殺事件のような悲惨な事件が起きたときだけ社会問題化され、その度に文部科学省が通知文を出す。次第に時間がたち、風化して忘れられてしまう。この繰り返しでした。なぜ文科省の通達が学校現場で機能しないのか。それは、いまの仕組みでは、いじめが発生する「構造的な問題」が解消できていないためでしょう。

であれば、構造的な問題を解決する仕組みをつくればいい。全国の学校がいじめ問題に真剣に取り組むような法律をつくれば、日本全体でいじめを予防することができるのではないか。そして予防だけでなく、残念ながら起きてしまったいじめにも、可能な限り早く対応をし、適切な解決ができるはずだと考えたわけです。

学校現場で、予防、早期発見、解決を実現する

―― いままで適切な解決ができなかった構造的な要因はどこにあるとお考えですか。また、その構造的要因に対処するための、民主党案の想定するいじめ対策についてお聞かせください。

構造的な問題は予防から解決まで全体に渡るものです。主なものをあげてみますと、「子どもも教師を含めた大人も、いじめは絶対にしてはならないとの認識が不足している、あるいは、ときにはそれが欠けるときがある」、「いじめが起きにくい学級や学校づくりができていない」、「いじめに遭ったときに、子どもたちが安心し信頼して相談・通報できる体制がない」、「教師や教育委員会において、いじめへの対応能力の不足があり、また、隠蔽体質がある」、「そもそも、教育だけでは対処しきれない複合問題であるいじめに対して、学校や専門家との連携不足がある」などが考えられます。

たとえば、学校の先生のいじめについての問題意識や対応能力について考えてみましょう。いじめ問題は、「いじめはいけないものだ」、「いじめは本当につらくて悲痛なもので、さらにいじめが解決されても被害者には大きなトラウマが残ってしまうものだ」と先生方が認識し、執念をもって対応するものでなければいけません。もちろん、いまでもそういった先生も多くいらっしゃいますが、残念ながらそうでない先生もいますし、挙句の果てには、いじめに加担したり放置する先生もいました。

こうした残念な事実が繰り返されてきた経緯を踏まえると、「いじめは絶対に許されないことなんだ」と学校や先生方の意識を変えていただくために、たとえば「教師は子どもたちを救うことが仕事であり、いじめを放置・助長してはいけない」といった条文を書いて、そのきっかけとすることもやむを得ないことだと考えました。

しかし、先生方にいじめは絶対に放置してはいけないことだと認識してもらうとともに、より大切なことは、先生方にいじめの予防や解決のスキルを身に付けてもらうことです。

このために本法案では、教職課程でいじめ対策を学んでもらうようにして、先生のいじめへの対応能力を高めてもらうようにしました。ただ、こうした底上げのための政策を行っても、結果としてこれまでどおり個々の先生だけに責任を求めるのでは、いじめの問題は現実には解決しません。

いじめについての対応能力のない先生であっても子どもたちが救えるよう、さらに、先生方が他の教員との連携のなかでいじめへの対応能力のスキルを高めてもらえるように、クラスで起きているいじめをたったひとりの担任の先生が抱え込むのではなく、現場の先生方がチームとなっていじめに対応していく仕組みをすべての小中高に設けてもらうことにしました。

具体的には、民主党案では、予防と早期発見、解決を学校現場で、構造的に実現するために、すべての小中高の学校に「学校いじめ対策委員会」をつくり、担任の先生がひとりでいじめに対応するのではなく、学校としてチームで対応できる仕組みをつくりました。

―― 「学校いじめ対策委員会」について、具体的に教えていただけますか。

「学校いじめ対策委員会」は、いじめ対策主任を含む複数の教員と、いじめに関する専門家、たとえば、臨床心理士や人権擁護委員、社会福祉士、民生委員、さらには、地域住民や保護者も参加することができる組織です。複数の教員とともに必ず第三者がチームに入り、つねに対応できるように準備することで、学校現場によるいじめの隠ぺいが自動的にできなくなります。また、適切な能力のあるチームが学校内のすべてのいじめを対応することで、いじめに対応する能力のない先生によるいじめの放置や助長を防ぐことができるわけです。

いじめは「複合問題」です。いじめを起こしてしまった子どもの背景に家庭的な問題の不安感が隠れていることもあります。となれば、その不安感をなくすために、社会福祉士や児童相談所など、学校教育とは別の人たちに関与してもらう必要がでてきます。あるいは、なぜいじめがいけないのかを教える情操教育や、事件が起きてしまったときに、人権擁護委員や弁護士会、場合によっては警察と連携する必要もあるでしょう。「学校いじめ対策委員会」にはこうしたいじめ対策に不可欠な専門家との連携を確保しておく狙いがあります。

いじめの構造に注目した法案

―― 担当の先生だけでクラスのいじめに対応する場合、その先生の取り組み方次第では、いじめられている子どもは1年間以上、「生き地獄」で苦しむことになります。「学校いじめ対策委員会」のような組織があると、その状況からは脱しやすくなるかもしれません。ただ一方で、いじめが発生しやすいクラス秩序を生み出さないための、未然防止も重要です。民主党法案では、どのようにして未然防止を行おうと考えているのでしょうか。

そうですね。いまはいじめが起きたときの対処方法を説明しましたが、一番大事なのはいじめの防止です。

いじめが起きにくい学級・学校づくりをするために、民主党案では、まず各地域の教育委員会が「地域いじめ対策計画」を立て、いじめ対策の基本方針や、未然防止のあり方などのひな形をつくります。そしてさらに、各学校が、より豊かな独自の取り組みを盛り込んだ「学校いじめ対策計画」を立て、「なぜいじめはいけないのか」といった情操教育や、道徳教育・体験学習など、児童を巻き込んだプログラムを行い、いじめは間違ったことであり、恥ずかしいことだと気づいてもらう環境づくり、すなわち、「いじめが起きにくい学級づくり学校づくり」をやっていくようになっています。

同時に、先ほどお話した「学校いじめ対策委員会」には解決だけでなくて未然防止の役割もあります。「学校いじめ対策委員会」で大人たちが真剣にいじめ対策について取り組んでいる姿を子どもたちに見せることは、自ずといじめが起きにくい環境の実現となり、それは子どもたちの安心に繋がるでしょう。

そして、それは信頼して相談ができる窓口、すなわち「未然防止」と同時に「早期発見」の機能にもなるものと考えています。既存の法務局や各自治体の相談窓口などと連携を取れば、全体として地域における早期発見の仕組みをより強化することになると考えます。

―― いじめ事件が起きてしまった場合にはどのような対応を取るのでしょう。

深刻ないじめ事件が起きてしまったときは、学校いじめ対策委員会とは別の組織である「対策特別委員会」をつくります。学校で対応できる場合は、学校で「対策特別委員会」を設置し、生活指導など調査・解決を行い、学校で対応しきれないより重大な事件の場合は、教育委員会で「対策特別委員会」を設置し、その対応にあたるようにしています。

いずれにしても、対策特別委員会には、被害者側の要望次第で、学校や教育委員会の関係者が入らないような構成にすることを可能としています。第三者のみで構成可能にすることで、被害者を守り抜き、また、加害者に対しても学校や教育委員会による適切な指導等を実現することを可能としています。

しかし、それでも先の大津いじめ自殺事件のように、教育委員会の対応に納得ができない場合は、これも被害者の要望次第で、大津市で実際に設けられたように、制度としては教育委員会の外にある県・市町村の首長部局に「いじめ事案調査委員会」を設置できるようになっています。

―― いじめ対策は、道徳教育を増やす、教師を叩きなおすといった話になりがちですが、意識改革は「いじめをしないよう教育が機能すれば、いじめが起きない」といったトートロジーに陥りがちです。

いままでお話したように、民主党案は、いじめの構造に注目した法案になっています。

ただ民主党案でも、道徳や情操教育を行うことはいじめ対策の基本施策の最初の条文に書きました。また法律全体の基本方針として、いじめ予防のために、なぜいじめを行ってはいけないかを気づかせることも大切だと書いています。そのために、言葉だけでなく、身をもって体験できるような、体系だったいじめ予防プログラムをつくることを想定しています。

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厳罰化ではなく、関係者がルールを共有する仕組み

―― 民主党案の特色として、学校や地域における「構造的な問題の解決の仕組み」などの他にどのようなものがあげられますか。

民主党案の特色としては、「被害者サイドに立った施策を充実していること」、「児童生徒の主体的な参画を確保していること」などがあげられます。

本法案では、文科大臣のもとで「いじめ対策基本計画」を作成するようにしていますが、この基本計画は、いじめの被害にあった当事者や弁護士、臨床心理士などで構成される「いじめ対策協議会」の意見をうけて作成されるものです。

国が当事者の意見を踏まえた計画を作成する法律に「がん対策基本法」というものがあります。「いじめ対策基本計画」と同じ仕組みでできていて、患者や遺族が入らなくてはいけないと条文化された協議会がある。実際、当事者の方の意見はとても有益かつ参考になるんです。

また国は「学校と被害者やその保護者とのあいだで、いじめ事件についての調査情報を共有するためのガイドライン」も作成します。

とくに、いじめによって被害者が自殺してしまった場合、加害者サイドの証言のみになってしまいます。被害者サイドは、事件の深層がわからない。学校もブラックボックスになっていて、どんな調査・検証をしているかが見えない。学校が行ったアンケートも、被害者のご両親に渡すときには余計な箇所まで黒塗りされていることすらありました。かけがえのないお子さんを失った原因がわからない。原因がわからないから再発防止もできない。

ですから本法案では、文科省が学校側と被害者側が第三者のプライバシーなどにも配慮しながら情報共有するようなガイドラインを、文科省がつくるように条文に書いています。

さらに、「学校いじめ対策計画」やそのひな形となる「地域いじめ対策計画」の策定の際には、子どもたちの意見を聞いてそれを作成することを法律の条文に定めました。計画の策定段階から子どもたちが自らの課題として関与することによって、子どもたちの主体的な取り組みがいっそう可能となるようにしたものです。

なお、本法案の特色として、すでにあるいじめをしてしまった子どもへの指導を厳罰化的に強化するのではなく、「いじめをした場合には、こういう指導をうけることになるんだよ」と、子ども、学校、保護者が共有するように記した条文があることです。

いじめの加害者に対する指導や懲戒のルールはすでに揃っています。大切なことは、それを常日頃からすべての関係者が共有する仕組みをつくっておくことです。

PDCAサイクルによるいじめ対策の効果検証

―― 現在の日本では、いじめに関する統計データはまだまだ脆弱です。法をつくっただけで「成果」と謳うわけにはいきません。この法案の効果検証はどのように行うのでしょうか。

本法案では、PDCAサイクル(政策を評価にもとづいて効果的に実現していくための仕組み)だけで一章を起こしています。各地域がしっかり取り組んでいるか把握し、またインターネットで公開することで客観的に評価できるようにする。ここで気をつけないといけないことは、いじめの発生件数だけを絶対的な評価にしてはいけない点です。

残念ではありますが、いじめはいつでも、どこでも起きうるものです。ですから「A学校は10件で、B学校は5件。だから、B学校のほうがしっかりと取り組んでいる」と評価するのではなく、対策方法が評価できるものなのか、対策委員会のメンバー構成などはどうなっているか、どういった活動をしているか、あるいは、生徒はどういった感想をもっているかなども明らかにしていき、調査・分析を行うことにしています。

―― PDCAサイクルで検証しつづけ、効果的な対処法を学校を超えてシェアすることが重要となります。

おっしゃる通りです。法律の条文のなかに、各地域や学校での先進的なすぐれた取り組みなどを全国で共有していくことを明記しています。

じつは、「学校いじめ対策委員会」や「学校いじめ対策計画」などの仕組み自体が、アメリカのいじめ対策法や日本の先進的な自治体で実際に取り組まれ、効果をあげている仕組みです。こうした仕組みのもとでの各学校や地域の素晴らしい取り組みは、どんどん汲み取って行って、全国に展開し、みんなで共有していくことは非常に大切なことだと考えています。

インターネット、体罰、不登校

―― 深刻化しているインターネットを使ったいじめについてはどのような対策を盛り込んでいますか。

インターネットのいじめについては、インターネットで友だちの悪口を書くことは恐ろしいことなんだと子どもたちに教えて予防することはもちろん、実際に書き込まれてしまった場合の対策も考えています。

インターネットで書かれた悪口は、プロバイダ責任法を適用して削除するわけですが、子どもたちやその保護者が、わざわざ申請することは非常にたいへんなことです。これについては、いまでも法務局が任意で、手続きのお手伝いをしているのですが、法務局と協議して、法務局の仕事として日本全国で被害者のために、法務局が書き込みの削除申請のお手伝いをすることを条文化することができました。

―― いじめには不登校や体罰といった周辺的な問題もたくさんあります。教室空間でのストレスが、いじめといった加害行動になってしまう。また、いじめを受けた生徒が不登校になったり、先生自らが体罰をふるい、教室空間でのストレスを加速させるケースもあるでしょう。この法案ではいじめに隣接する問題に対処されるでしょうか。

不登校と体罰に関しては、別の法案で対応しますが、その一部についてはこの法律でも対処しています。

いじめによる対人恐怖症などによって、学校に通えなくなってしまった子どもに対しては、子どもの学ぶ権利を守るために、いまの学校教育法では制度の外側になっているフリースクールで教育を受けても、教育委員会のものとで教育を受けたと認定できるような法制度を創設する必要があると考えています。そのために、そうした制度を検討することを法案の附則に書き込みました。

また、いじめによる自殺が起きた事件で、被害者の方のお話を聞くと、お子さんが「学校に行かなくてはいけないんだ。休んじゃいけないんだ」と、学校に通いつづけてしまうことで、追いつめられてしまうことがありました。いじめでつらい思いをしているのに、学校に通わせて追いつめてしまうことがないよう、法案の条文に、いじめを原因に学校を休んだ場合は成績のマイナス評価にしないと書きました。

また体罰ですが、教師が生徒に行う体罰は、場合によっては教師による生徒へのいじめに該当するものがあるでしょう。民主党のいじめ対策推進基本法には「いじめの禁止」という条文があり、この条文は、すべての国民にかかっていますから、当然教師もその対象になっています。そういう意味では、いじめとして行っている体罰は、禁止規定にかかっているんですね。

ただ教師と生徒の関係と生徒同士の関係は分けて考えなくては、しっかりと機能する制度がつくれないと思います。そこで民主党は、体罰に関する別の法案も、今国会中に提出する予定です。

思いやりや尊厳をもてる社会に変わるきっかけに

―― なぜ他党との共同提出を選ばれたのでしょうか。

いじめ対策推進基本法は、子どもの命と尊厳に関する法案です。各政党は国民の役に立つものをつくるために知恵をつくらなくてはいけません。ですから、他の政党に、われわれがつくった法案をお見せして、協議しました。結果的には、最初にお話したように、複数の政党から賛成をいただきましたし、教育委員会制度の改革などについて見解の異なった政党も、内容について異存はないとおっしゃってもらいました。

―― 党利党略にこだわらず、超党派でベストのものをつくることを望みます。与党案と野党案が提出されることになりますが、ふたつの法案は今後すりあわせていくことになるのでしょうか。

この法案は、いじめという悲劇を最大限なくしていくことが目的です。ですから与党案のいいとことと民主党案のいいところを突き合わせて、より子どもたちのために内容になるよう、お互いに調整していくことになるのではないでしょうか。

ただわたしの知る限り、与党案は、いじめが起きつづけてしまう、そして適切に対応することのできない構造的な問題を解決する仕組みは立案できていないように思います。つまり、民主党法案の「学校いじめ対策委員会」や「学校いじめ対策計画」のような「予防」と「早期発見」に役立つ仕組みが盛り込まれていない。また、与党案では、いじめの「解決」については、学校や教育委員会の外にある組織(=自治体の首長部局にある組織)をつくって対応するようですが、それでは実際に子どもたちがいる学校という世界は変わらないと思います。

学校や教育委員会が対応できていなかったケースが多々あることはもちろん、兵庫県川西市の「子ども人権オンブズパーソン」のような第三者組織の先進例においても、残念ながら昨年に悲惨ないじめによる自殺事件が起きたように、外付けの組織だけでは学校の構造自体は変えられないし、そこにいる子どもたちを救うことはできないと考えます。

われわれは、どうすれば子どもたちを救う制度を立案することができるかを探るために、多くの被害者や専門家にヒアリングを行いました。また各地域で発表されている主ないじめに関する条例と条例案はすべて分析しましたし、いじめは世界各国の、人類共通の課題ですから、諸外国のいじめ法律も徹底的に分析しました。アメリカの州法やイギリスの制度を一言一句分析し、それ以上のものをつくったと自負しております。

繰り返しになりますが、民主党法案は、長年にわたって学校現場においていじめが蔓延し悲惨な事件が繰り返されてきた構造的な問題を解決する力を持った法案です。そして、何より、本法案をきっかけに、日本全体で、人に対する思いやりや尊厳をもてるような社会に変わる仕組みづくりが始まればと期待しています。

(2013年4月10日 議員会館にて)

●今年3月に掲載された「いじめ防止法の策定で何が変わるのか 馳浩衆議院議員インタビュー https://synodos.jp/education/811」をあわせてお読みいただけますと幸いです。

プロフィール

荻上チキ評論家

「ブラック校則をなくそう! プロジェクト」スーパーバイザー。著書に『ウェブ炎上』(ちくま新書)、『未来をつくる権利』(NHKブックス)、『災害支援手帖』(木楽舎)、『日本の大問題』(ダイヤモンド社)、『彼女たちの売春(ワリキリ)』(新潮文庫)、『ネットいじめ』『いじめを生む教室』(以上、PHP新書)ほか、共著に『いじめの直し方』(朝日新聞出版)、『夜の経済学』(扶桑社)ほか多数。TBSラジオ「荻上チキ Session-22」メインパーソナリティ。同番組にて2015年ギャラクシー賞(ラジオ部門DJ賞)、2016年にギャラクシー賞(ラジオ部門大賞)を受賞。

この執筆者の記事

小西洋之参議院議員(千葉選挙区)

参議院議員(千葉選挙区)、徳島大学医学部医学科中退(教養課程修了)、東京大学教養学部教養学科卒業、コロンビア大学国際・公共政策大学院修了、総務省・経済産業省課長補佐、民主党いじめ・体罰防止対策WT事務局次長(法案担当)。

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