2015.02.09
ネコに好かれるにはどうしたらいいの!?
ネコにも相性がある!? ネコの主食は魚ではない!? 大声で呼ぶと嫌われる!? 『ネコにウケる飼い方』著者の服部先生に、意外と知らないネコの生態を伺った。ネコに好かれたい人必見! (聞き手・構成/山本菜々子)
ネコは誤解されている!?
――本日は、『ネコにウケる飼い方』著者で、東京猫医療センター院長・服部幸先生にお話を伺いたいと思います。とにかく、ネコについての様々な知識が詰まっている本ですよね。
猫にも利き手があったり、毛づくろいが気分転換も兼ねていたり……とても興味深く読みました。
ネコって誤解されている生き物だと思うんです。イヌは嬉しい時に尻尾を振ったり、とても分かりやすく表現しますが、ネコはわかりにくい。長年飼っている人は気持ちが分かるかもしれませんが、飼い始めて数日だったら、気持ちが分かりにくいんです。だから、とりあえずネコは放っておけばいいんでしょ、となってしまいがちです。
でも、ネコにもネコなりの主張があります。わかりにくいからこそ、ネコの気持ちを知ってもらい、こんなに面白い生き物なんだと気づいてほしくて、この本を書きました。
――ネコは誤解されているんですね。タイトルが『ネコにウケる飼い方』となっていますが、どうしたらネコにウケるのでしょうか。ネコから好かれたいです!
当たり前ですが、「ネコが嫌なことをしない」のが大切です。自分はやっていないと思っても、意外とネコにストレスを与える行動をしている可能性があります。
たとえば、大きな声で呼んで抱き上げる。人間は愛情表現のつもりかもしれませんが、ネコは基本的に大きな音が嫌いです。さらに、急に抱き上げられるのもストレスがかかりますので、なるべく避けた方がいいでしょう。
また、人間にそれぞれ性格があるように、ネコにもそれぞれのキャラクターがあります。飼い主だけではなく、家にやってくるお客さん全員に撫でられて喜んでいる「かまってちゃん」もいますし、かまわれるのが苦手な「放っておいてちゃん」もいます。
飼い主が「かまってちゃん」のペースに合わせすぎると、依存心が強くなってしまう可能性があります。「放っておいてちゃん」でも飼い主に甘えたくなる瞬間がありますので、そのタイミングでスキンシップを取ってあげる。それぞれの性格を見極めていくことが大切です。
お魚くわえたどらねこ
――第三章では、特にネコの食事について細かく書かれていますが、食事の面で誤解されている点はありますか。
ネコの主食が魚だと思われているところですね。
――ええっ! 魚が好きではないのですか?
個人的に、サザエさんの「お魚くわえたどらねこ~♪」っていう歌のせいなのではと思っているんですが(笑)。
現在、ネコが好きなのは魚、例えばカツオやマグロなどだと思われていて、そういったキャットフードを見たことのある方も多いはずです。
魚が嫌いなわけではありませんが、ネコは基本的に陸に住んでいる生き物ですよね。野生の猫が魚なんか食べられるわけがない。ハトやスズメ、野ウサギを食べて生活をしていたはずです。
本来、海のものを食べられる体質ではないんですよ。一口食べただけで死ぬことはないのですが、魚を主食にした食事は栄養が偏ってしまいます。海の生き物を食べるために進化してきた動物ではないと知ってもらえればと思います。
©猫カフェ ハピ猫 渋谷店
たとえば、イルカは魚を食べます。イルカショーなどでも、魚をあげている姿をみますよね。イルカは海に住んでいる生き物だから、魚を食べるように進化してきた。猫に魚をあげるというのは、イルカに鶏肉をあげているのと一緒なんですよ。
イルカショーで、イルカがチキンを丸呑みにしていたら、違和感がありますよね。陸に住んでいるネコに魚をあげるのはそういうことです。
イルカが鶏肉を一口食べたところで、死にはしません。でも、毎日鶏肉や牛肉ばかりあげていたらたぶん病気になると思うんです。それは、海の生き物は海のものを食べるように進化していて、陸の生き物は陸の生き物を食べるように進化している。
ヨーロッパの栄養学の本では、「日本やアジアでは魚をあげている」と、珍しい例として取り上げられています。
――海外からみてまれなケースなんですね。
なんで、猫に魚をあげているのか。日本人が魚食だったからです。いまでこそ肉食ですが、戦前までは肉なんてほとんど食べられませんよね。貴重な蛋白源が魚だったと。だから、猫も近くにいればおすそ分けをもらっていた。
人間が何を食べているのかによって、その隣にいる猫の食生活が変わっているんです。それは、悪いことではないと思いますが、魚が主食であるのは不自然なんだと知って欲しいですね。
――なるほど、ネコは肉食なのですね。たしかに、本には野菜は食べなくて良いと書いていましたよね。
基本的にはそうですね。ですが、野生のネコを考えてみてください。ウサギやネズミを食べるとき、赤身のお肉の部分だけ食べているわけではないですよね。丸呑みしているので、胃や腸に入っている草もついでに食べています。
ライオンがシマウマなどの餌を食べる時、まず内臓から食べるんです。太ももの肉などは後回しです。なぜなら、赤身の肉だけ食べていたら栄養が摂れないからです。肉食なんだから、ずっとカルビをあげていればいいというわけではありません。
内臓ごと餌をあげるのがベストですが、普通に生活していると、それってすごく難しいですよね。ですから、きちんとキャットフードをあげるのが一番良いとおもいます。
もちろん、防腐剤が入っているから心配、という意見も聞こえます。ですが、同じ栄養を取るために自宅で用意するとなると、サプリメントを足したり、ホルモンやレバーを足したりと、かなり厳密に栄養のことを考えいかなければいけないので、難しいと思います。
そのおやつ、適切!?
――毎日同じキャットフードに飽きてしまうのでは、という意見もあると思うのですが。
人間は動物で一番グルメな生き物ですので、毎日中華ばかり食べていれば飽きます。ですが、基本的に野生の動物はそんなことを言ってられません。イルカが魚ばかり食べているから、たまには肉を食べたいなんて思いません。魚しかないから、魚を食べるしかない。
実際、野良猫はスズメやネズミを食べるしかありません。スズメにあきたからスズメを食べないなんてことはない。だから、ご飯に飽きることはあまりないと思います。
ですが、一緒に人間と生活していると、食べなければ別のものが出てくるので、それが習慣づいてくる。それは悪いことだとは思わないですし、一緒に猫と生活する上で美味しいご飯をあげたいというのは楽しみの一つだと思います。
あげることは悪くないと思うんですが、種類と量を守ることが必要です。
よく、煮干しをあげる方がいます。何匹あげていますか? と聞くと5匹から10匹あげていると言われるんですね。
猫の体重って軽い子だと3kgほどです。60kgの大人の20分の1しかない。5~10匹を猫が食べているということは、人間に換算すると100匹~200匹です。毎日そんなに煮干しを食べていたらたぶん病気になりますよね。
カルシウムがあるからといって、にぼし100匹は塩分取りすぎです。あげるんだったら、1匹の半分だけにしておいた方が良いでしょう。あげることが悪いのではなく、量を考えてもらえればと思います。
簡単な目安としては、自分の体重と猫の体重を比べてみて、もし20倍でしたら、「この20倍の量を自分は食べるのか……?」と考えてみてください。
たとえば、スプーン一杯のアイスクリームをあげたら、人間がアイスをスプーン20杯食べていることと一緒になります。それくらいだったら害はないですが、もし、毎日スプーン20杯アイスを食べていたら……と自分に置き換えてみると、良いのではないでしょうか。
©猫カフェ ハピ猫 渋谷店
ネコの相性
――読んでいて面白かったのは、ネコ同士の相性です。成人のオスネコ同士は相性が悪いことが多いんですね。
基本的に、野生の世界では一つのテリトリーにオスが一匹であることが多いんですよ。オス同士というのは基本的に敵なんです。同じテリトリーにオスがいると、1匹のメスをめぐってケンカしてしまいます。
これは、兄弟でも一緒です。小さい頃は仲が良かったのに、成長すると仲が悪くなることがあります。兄弟とはいえ、自分の子どもを残すことが最優先なので、敵になってしまいます。
一方、メス同士はテリトリーが一緒でもオスが一匹いれば子供を産むことができるので、影響は少ないんですよね。女の子同士の組み合わせは上手く行く場合が多いです。
とはいえ、ずっと兄弟で仲良くしていることもありますし、メスなのにケンカをしている場合もあります。これは、ネコの性格にもよるとは思います。
©猫カフェ ハピ猫 渋谷店
――高齢のネコと赤ちゃんネコの相性もあまり良くないとのことでしたね。
そうですね。高齢になってくるとどうしてもノンビリしたいので(笑)、やんちゃな赤ちゃんネコがストレスの原因になるケースが多いですね。
ですが、逆に赤ちゃんネコが生きがいになって高齢ネコが生き生きしだすこともあります。ずっと退屈で一日中ノンビリしていたのが、赤ちゃんネコが来ることでよく遊ぶようになり、ご飯を良く食べるようになった……という話も聞きます。
ですので、必ずしもダメというわけではありません。それぞれのキャラクターがあるので、新しいネコを受け入れる場合は相性を見た方がいいですね。できれば、新入りのネコを受け入れる前に、先住ネコとの相性が良いかお試し期間を設けてあげると良いと思います。
ネコの医療の広がり
――日本では珍しい、ネコ専門の動物病院だと伺いました。なぜ、ネコ専門にしたのでしょうか。
もちろん、ネコが好きなことも大きな理由ですが、猫専門病院で働いたことがきっかけです。獣医にはジェネラリストとスペシャリストがいます。前者は、イヌ・ネコ・ウサギ・トリ・カメ……と様々な動物をみていく。一方で目しか診ない眼科の先生もいますし、呼吸器だけを診るスペシャリストの先生もいます。私はずっとスペシャリストになりたくて。
そして実際にネコ専門病院で働くと、ネコの診察がスムーズにいくことに気が付きました。というのも、ネコは同じ空間にイヌがいると、どうしてもストレスになってしまうんです。暴れてしまってネコの検査ができなかったのが、ネコ専門の病院に来るとリラックスして検査できたというケースがすごく多くて。
イヌがいることで興奮して医療が受けられず、治療すれば治ったはずの病気で亡くなってしまうのはとてもかわいそうです。ネコとイヌとを分けることで、こんなにネコの医療が広がるんだと知って、独立しネコだけの病院を開業しました。
今のところ、ネコ専門の病院はほとんどないので、遠くから来られる方も多いです。鹿児島や韓国から飛行機に乗ってこられる方もいます。別の病院で治らないから来る方も多いですね。
――すごいですね。
ネコへのかかわり方って愛情の幅が凄く広いと思うんですよね。野良猫に餌をやっているだけから、健康診断のために遠くから毎年飛行機に乗ってくる方もます。
©猫カフェ ハピ猫 渋谷店
――私もネコ、好きなんですが。ちょっとネコが好きなだけだと「ネコ好き」と名乗っちゃいけない気がするんですよね。
そんなことないですよ(笑)。
――私より、レベルの高い人が沢山いるから畏れ多くて。
今まで抜けたヒゲを、全部箱にとっている人などもいますからね。専用のヒゲを入れる箱も売っているんですよ。ペットショップなどで見かけますから、けっこう多くの需要があるのかもしれません。
――それほど、愛情深く育ててしまう魅力がネコにはあるんですね。最後に、読者の方にメッセージをお願いします。
長年ネコを飼われていて、よく調べられている方であれば、知らないことだらけの本ではないと思います。ですが、ネコをこれから飼いたい、また最近飼い始めた方には、ぜひ知っていて欲しいことを書きましたので、ぜひ手に取っていただければと思います。
※続編である『ネコの本音の話をしよう』 (ワニブックスPLUS新書)も2月7日より好評発売中!
プロフィール
服部幸
1979年、愛知県生まれ。2003年北里大学獣医学部卒業。動物病院勤務後、2005年より猫の専門病院院長。06年、アメリカのテキサス州にある猫専門病院「Alamo Feline Health Center」にて研修プログラム修
了。12年「東京猫医療センター」を開院。13年には、国際猫医学会よりアジアで2件目となる「キャットフレンドリークリニック」のゴールドレベルに認定された。著書・監修書籍に、『猫の寿命をあと2年のばすために』(トランスワールドジャパン)、『0才からのしあわせな子猫の育て方』(大泉書店刊)『ネコの大常識』(ポプラ社刊)など。猫専門医として、新聞・雑誌の監修やTV・ラジオ出演も多数。■東京猫医療センターHP http://tokyofmc.jp/