2012.06.28

「脱原発ロードマップ」と新エネルギーの展望

菅直人 衆議院議員

政治 #脱原発ロードマップ#再生可能エネルギー

3.11以降日本では、原発推進・反対を超えて、原子力発電の巨大なリスクの認識と、中長期的なエネルギー供給の見通しを共有していくことが大きな課題となっている。どのようなロードマップをもとにエネルギー政策を進めていくのか、政治が具体的な見取り図を示すことが必要だ。

6月23日、東京都三鷹市の国際基督教大学で、同学の在校生・卒業生が中心となる「武蔵野エネルギーシフト」が企画し、同学社会科学研究所が主催となって「ローカルから考えるポスト3.11の新エネルギーの展望」と題したイベントが行われた。企画者からの問題提起を受けた菅氏は、「脱原発ロードマップ」の内容を提示し、党派を超えた「国民の選択」を問いかけた。講演での発言を記録しここに公開する。(構成/宮崎直子)

原発に依存しないことが最も安全な道

これから3つのことを申し上げようと思います。1つは今回の福島原発について何があったかということに触れたいと思います。もう1つは今日の主要テーマである「脱原発ロードマップ」について。そして、最後にこれからの再生可能エネルギーの可能性について紹介できることを含めて申し上げたいと思っております。

昨年の3月11日、皆さんもあのとき自分がどこにいたかということを、たぶん一生記憶に残されるのではないでしょうか。私も決算委員会でちょうど野党から激しく責め立てられておりました。シャンデリアが揺れて、私の上ではなかったのですが、落ちたらこれは大変だなという状況の中で、休憩になり官邸にすぐに戻ってという記憶を鮮明にいたしております。その後1時間ほど経って津波が来襲し、全電源喪失、さらには供給機能停止ということが続いたわけであります。

端的にいいまして、今回の原発事故がここまで大きな事故になった原因は、3.11以前の備え、あるいは以前の考え方がまったく不十分であったということに尽きると思っております。2、3例を挙げてみます。

たとえば福島原発のある場所は、もともとの地形は海面から35メートルぐらいの高さの崖、高台でした。しかしその35メートルの高さにあった崖、高台を海面から10メートルの高さまで土を切り取り、その上に現在6基の原発が設置されています。海から水をくみ上げるのに35メートルでは高すぎるという理由で低くしたわけですが、そのことは大変先見の明があったと、東電の会社の歴史を書いた本には自ら述べておられます。

しかし、私が知るかぎりでも、今から数十年前にはチリの津波がありましたし、その後の歴史を見ても、何十年、何百年かおきには非常に高い津波が起きています。東北電力女川原発(宮城県女川町、石巻市)では、作るときに当時の副社長の方が東北出身で、「これでは低すぎるからもっと高くしないと」ということで、一段と高いところに設置しました。おかげで、同じぐらいの高さの津波が襲ったわけでありますが、女川原発はそうした事故に至らないですんでいます。つまりは、まったく津波を想定しなかったという現実がありました。

また、比較的最近のことでいえば、アメリカは9.11のテロのあとに、原発の全電源喪失がテロによって起きる可能性があるといいました。その場合にはどの班が対応するのか、かなりしっかりしたマニュアルを作って、日本の原子力安全・保安院にも伝え、あるいは保安院からもアメリカに行って話を聞いたといわれています。

しかし日本でそのことについてどうしたか。「いや、日本ではテロなんか起きないからそんなことを考える必要はない」となったわけです。つまり、全電源喪失ということは、津波も来ないしテロもないから「考えない」というのではなくて、「考えることはやめろ」ということが、3.11前の原子力委員会などの指針の内容になっておりました。

そういった意味で、今回の事故がここまで大きな事故になった原因というのは、残念ながらといいましょうか、私は日本の科学技術というのはかなり高い水準にあって、当然安全性については十分に考えられているというふうに私自身も思っていたわけでありますが、結果としてそうではなかったことが、こういった大きな事故につながったわけです。

3月11日に原発事故が起こり、ベントの問題、あるいは水素爆発、そして実質上あとになってみると、1号炉は初日の夜にはすでにメルトダウンを起こしておりました。一日一日と状況が悪化する中で、どこまでこの原発事故が拡大していくのか、私自身この事故が発生してから1週間は完全に官邸に泊まりこんでおりましたので、一人のときはずっと考えておりました。

福島第一原発には、1号機から6号機まで6基の原発があります。そして、最初の時点では私も知らなかったのですが、原子炉のすぐそばには使用済み燃料のプールがそれぞれ1号から6号の建屋の中にあります。さらに、もう1つ共通プールというものがありまして、あわせて7つのプールがあります。台地から20キロ手前にある福島第二原発の中には1号から4号の原発と4基のプールがあります。

これらが1号、2号、3号と、順番は別として水素爆発などを起こしました。そして4号も水素爆発を起こしました。これはいろんなことでびっくりしたのですが、つまり、なぜ起きたのかわからなかったのです。4号というのは当時定期点検中で、原子炉の中の燃料はすべて取り出して、使用済み燃料プールの中に移してありました。

4号の原子炉は単に動いていないだけではなくて、中は空っぽですから、そこで水素が発生するような要素はまったくなかったのです。ですから4号だけはあまり気にしないでもいいといわれていました。使用済み燃料プールに入れていた使用中の燃料が、水が抜けて、ジルコニウムといわれる鞘を溶かして、そこで水素が発生したのではないかということを心配しました。

といいますのは、プールは原子炉の外にあります。簡単にいえばプールの上は空なんですね。4号のプールが、水が抜けてメルトダウンを起こして、そこから放射性物質が空あるいは海にダイレクトに出ていくわけです。原子炉の中であっても、いろいろと流出してしまったわけですけれども、原子炉の外でそれが起きるということは、まさにストレートに大量の放射性物質が出るわけであります。

東電の撤退問題について今でも議論されておりますが、そのこと自体のことをいうよりも、あの6つの原発、あるいは10基の原発をもう手が出せなくて放置したときにどうなるかということが問題なのです。

大きな化学プラントの火災は時折あります。いくら大きな化学プラントの火災であっても、何日間か燃えれば、燃えるものは燃え尽きます。大きなタンクで石油が燃えようが天然ガスが燃えようが、どこかで燃え尽きます。一旦避難をして、燃え尽きたあとに戻ってくれば、その間の被害は大きいかもしれませんが、自然に鎮火したあとは、それ以上の事故の拡大というものは一応考えないですむわけです。

しかし原発の場合は鎮火という言葉はありません。つまり6基の原子炉、あるいは20キロ先の第二原発までいえば、10基の原子炉から、あるいは11のプールから使用済み燃料や使用中燃料の放射性物質が大気中にどんどん出たとすれば、それはチェルノブイリどころの話ではありません。

チェルノブイリの事故は非常に激しい事故でありましたけれども、炉としては1つです。大きさも小さめの炉でした。そういった意味で、放射性物質が全部外に出たときには、まさにこの東京を含む日本の広い範囲で人が住めなくなる。さらにいえば、世界的にも大きな被害をもたらすことになる。そのリスクを私自身も経験しましたし、ある意味日本人全員が、あるいは世界の人が経験したのだと思います。

私は3.11までは、原子力発電所はしっかりと安全性を確認したうえで、CO2を抑えるうえでも活用していこうと思っておりました。そういう立場にありましたけれども、日本の3分の1が、あるいは首都圏に、人々が住めなくなるようなリスクをカバーできる原子力の安全性とは一体何かを私なりに考えました。結論は、そうした原子炉、原発の安全というのは、原発に依存しないことこそが最も安全な道だということを確信しました。

2025年までに脱原発、省電力20%を実現

実は今、国会の民主党の中に「脱原発ロードマップを考える会」というグループ、これは正式機関ではなくて、有志のグループとして立ち上げております。相当多くの人が参加をしてくれております。そこで来週にも最終的な提言をまとめるということで、現在議論をしている最中のかなり煮詰まった内容の提案の段階でありますが、今日はこれを説明いたします。

(脱原発ロードマップ第1次提言の図解) 遅くとも2025年度までの出来るだけ早い時期に脱原発

【2025年度までの脱原発に向けた廃炉の基準】

[1] 福島第一(5~6)、第二(1~4)、女川(1~3)、浜岡(3~5)は、直ちに廃炉。

[2] その他は「40年廃炉」基準で廃炉。原発の新増設はなし

[3] 上記[2]以外の廃炉基準は新組織で適切に判断

年度

2010

2020

2025

2030

省電力割合(%)

2010年度比

0%

15%

20%

20%

総発電量 (億kWh)

11,613

9,871

9,290

9,290

原子力発電量 (億kWh)

2,882

0 ~ 1,582

0

0

原子力依存度

(原子力発電量/総発電量)

25%

0 ~ 16%

0%

0%

火力発電量 (億kWh)

7,594

7548 ~ 5,966

5,806

4,645

化石燃料依存度

(火力発電量/総発電量)

65%

76% ~60%

62%

50%

再エネ発電量 (億kWh)

1,137

2,323

3,484

4,645

再エネ割合

10%

24%

38%

50%

ドイツは2022年までに、現在稼働している残り9基の原発を順次停め、最終的に脱原発を実現すると決めております。私は日本においても、もちろん目の前の再稼働の問題もきわめて重要ですけれども、最終的に脱原発をいつの時点で実現するかというロードマップを、まずきちんと決めることこそが重要であると考えてこの作業を進めてまいりました。

今日の時点でいえば日本の原発はすべて停まっております。そういう現在の時点と最終的にゼロにする時点との間をどうするかという議論を続けています。

図を見ていただきたいと思います。再生可能エネルギーを徐々に増やしていきます。これは政府の考えている案とそう違わないのですけれども、2030年には発電量のうち50%が再生可能エネルギー、残り50%が化石燃料で占められ、全体として20%の省エネルギーが可能だということを示しています。そして2025年に原発の稼働をすべて停める。また、今年の2012年から2025年の間は、できるだけ再稼働をしないですませるという意味で、下方向の矢印を書いてあります。

しかし、現実には関西電力大飯原発(福井県おおい町)が動くようでありますが、少なくとも2025年には完全に停めていこうと。そしてその場合には停め方としても福島第一原発の1号から4号は事実上廃炉が決まっておりますが、5、6号、また第二原発の1号から4号、女川原発の1号から3号、中部電力浜岡原発(静岡県御前崎市)の3号から5号は直ちに廃炉にもっていく。その他も40年廃炉基準で順次廃炉をしていき、原発の新設増設はしない。最終的には2025年の段階ですべてを停止する。こういう考え方を今まとめつつあるところであります。

この考え方を国としての考え方にできるかどうかは、まさにこれから決まることであります。高橋洋さん(富士通総研主任研究員)が参加をされている経産省の資源エネルギー調査会基本問題委員会でも議論されていて、最終的には閣議で決まるエネルギー基本計画の中で、この案が盛り込まれるかどうかということになります。

1つだけ申し上げておきますと、ドイツでもメルケル首相が積極的に脱原発をすすめたということは有名ですけれども、それには背景がありました。実はその前の政権、社民党と緑の党が連立したシュレーダー政権のときに、一旦2022年までの脱原発を決めていました。それに対してメルケル政権は、そんなに早く脱原発するにはいろいろ問題があるから、もう少し長く使いましょうということで期限を緩めていたのです。しかし日本のような高度に技術が発達した国でさえ、こういう事故が起きてしまったということを受け止めて、もう一度2022年に戻しました。

その直接的な背景は、緑の党が支持率を伸ばして、保守党から支持を得ていた州の知事選で勝ったことにあります。つまり国民の意志がそういうかたちで表れたことに対して、メルケル政権も改めて脱原発の方向に舵をとったということであります。その意味では国民が決めたというふうにいっても決して誤りではないと思っています。

日本を分散型社会に変える

最後に再生可能エネルギーについて申し上げたいと思います。固定価格買い取り制度(Feed-in Tariff)が、世界的には10年、20年前から進んでいたわけですけれども、日本では非常に遅れてまいりました。率直に申し上げて電力業界のすさまじい抵抗でなかなかこれの導入ができませんでした。

昨年の8月、私が総理をやめる、やめないというときに、3つの法案が通ったら一定の目処がつくということで、その1つに掲げたのがFeed-in Tariffの導入でありました。幸い与野党の理解を得てこの法律が成立し、いよいよ今年の7月に施行されます。

詳しいことは申し上げませんが、たとえば皆さんの家で屋根にソーラーパネルを設置すれば、使わなかった余剰電力はキロワットアワーあたり42円、10年間はその価格で買ってくれます。もし皆さんの家に大きな使っていない土地があり、そこにソーラーパネルを設置すれば、同じく42/kWh、20年間その固定価格で買ってくれます。

この価格はかなり高い価格でありまして、私も昨年スペイン、ドイツ、デンマークと見てまいりましたが、スペインでこの制度が導入された年には、大量の民間投資が集まりました。集まりすぎて、翌年から新たに申請をした人は値段が下がったのです。これは一旦決まれば20年間決まるのですが、新たに契約する人は年度ごとに値段が変わるものです。そうするとヨーロッパの投資家は、スペインは安くなったから今度はドイツだといって、ドイツに投資が集まり、「スペインショック」「ドイツバブル」といわれる状況になりました。

おそらく日本でもそういう状況がうまれると思っております。そしてこのことがもつ意味は、第三次の産業革命だ、あるいは第二次の産業革命だといういい方をされる方があるように、決して単に風力や太陽エネルギーが若干増えるということだけではありません。

1つには分散型のエネルギーでありますので、投資の多くは地方にいきます。北海道や東北は風力が適しています。太陽光はだいたい日本はどこでも大丈夫です。バイオマスも含めて、どちらかといえば大都市ではなくて地方に投資がいき、場合によってはそこに雇用がうまれます。そういった意味で日本の社会を分散型の社会に変えていくうえでも極めて大きな可能性をもっていると思っております。

今年の1月、ダボス会議に出席したときに、マイクロソフト会長のビル・ゲイツさんと話をする機会がありました。彼は「テラパワー」という小型の原発を開発する会社に投資をしていることを知っていましたので、私のほうから「小型であっても新型であっても、核廃棄物は出ます。投資をされるなら、それはやめて再生可能エネルギーのほうにシフトしたほうがいいと思いますよ」ということを申し上げました。そのときにビル・ゲイツさんがいったのは、「再生可能エネルギーで、本当に全部のエネルギーが足りるんですか?」ということでありました。

そこで私は「自分が研究したかぎりでは十分に足ります。太陽が地球にもたらすエネルギーというのは、今人類が使っているエネルギーの何十倍、何百倍とありますから、その一部をソーラーパネルや風力やバイオマスで使うだけで、現在の60億、70億の世界の人たちが利用しているエネルギー量は十分にまかなえます。だからぜひ検討してみてください」といいました。ビル・ゲイツさんは「検討してみます」といわれました。次に会ったときには、いい返事がもらえるのではないかと期待をいたしております。

ご清聴ありがとうございました。

プロフィール

菅直人衆議院議員

衆議院議員(第18区選出)・第94代内閣総理大臣。2011年3月11日の東日本大震災発生時に総理大臣として未曾有の震災・原発対応に尽力した。首相就任後も「自然エネルギー研究会」を立ち上げ、民主党内の「脱原発ロードマップを考える会」の発足に携わるなど、これからの日本における再生可能エネルギーの本格的な普及に向けて精力的に活動している。

この執筆者の記事