2014.06.25

性差別野次からみる、日本一議会改革の遅れた東京都議会の問題

塩村あやか×上田令子×飯田泰之

政治 #都議会#セクハラ野次

2014年6月18日の都議会の最中、一般質問を行う塩村あやか都議(みんなの党)に対して性差別的な野次が飛ばされたとして、連日報道を騒がしている。23日には、自民党会派に所属する鈴木章浩都議が記者会見を開き、「早く結婚したほうがいいんじゃないか」と野次を飛ばしたことを認め会派を離脱した。鈴木都議の記者会見直後に行われた塩村都議、同じくみんなの党会派の上田令子都議、そして経済学者・飯田泰之による鼎談の模様をお送りする。(構成/金子昂)

悔しいというより、情けなかった

飯田 たいへんお忙しいところありがとうございます。今日は、塩村議員が受けた野次についてのお話はもちろん、そこから都議会をどう変えていくべきなのか、塩村議員が今後どうしていきたいとお考えなのかも含めてお話を伺いたいと思います。今日(23日)になってからの急展開とさきほどの謝罪と……お時間もないところでしょうからさっそく本題に入ります。

野次の内容についてはもちろん、その後の対応の酷さを含めて報道の多くは塩村議員に同情的でしたが、その一方で「こんなことで泣くんじゃない!」といった意見も多いようです。これには二重にも三重にも驚きました。塩村さんは一連の問題に関する報道や識者見解をみて、どのようにお感じですか?

塩村 とてもバタバタしていてほとんど報道は見ていないんですよね。ただ、私が号泣しているように思われているのは驚きました。涙声になったのは確かですけど、あの場で涙は流れていません。流れていないんですよ。

それに涙声になったのも、悔しいというか、情けないと思ってしまって。性差別の問題は、政策に最も近い私たち議員が一番理解していなければ解決に向けて進んでいかないですよね。今回の野次は、「セクハラなんとか集」みたいなものがあるならば、一ページ目に載っているような、本当に古典的な、耳にしたことを疑うようなものだったので……。あまりにびっくりしてしまって質問が止まっちゃったんです。

飯田 野次の内容そのもの以上に、「いまどきこんなことを言う人がいるのか!?」という酷さに驚いたというわけですね。これまでも差別的な野次を受けたことはありますか?

塩村 差別的な野次というよりは、もともと都議会の、少数会派に対する風当たりがすごく強いんですね。しっかり勉強してきても、たとえ与党と同じような質問になったとしても、「間違ったことを言うな」「わかりきったことを質問するな」という野次が飛んでくるんです。とてもじゃないけれど、政策のことを野次っているとは言えないものもたくさんあります。

都議会の意識は私が思っていたよりも低いことがわかりました。ここをあげていかないと変わらない。今回の「セクハラ」という言葉でくくられている騒動と同じようなことが、これからも起きてしまうように思います。

上田 今回の問題で都議会の一部の前時代性が明らかになったのではないかと。いまだにこのレベルのまま止まっているんです。だから議長も止めないし、本人もずっとしらばっくれていた。処分請求書を出したって受け付けもしなかった。3段も4段も酷かったですよね。

人の発言権を奪う野次は議会制民主主義に反している

飯田 野次について肯定的な意見もありますよね。

塩村 野次自体どうなのかと思っています。あえて言えば、応援や合いの手ならいいと思いますよ。例えば一年生議員に対して、「どなたさまー?」という決まり文句の野次があるんですね。最初は失礼だと思ったんですけど、最近は「あ、またでた」と和むこともあって。今回の野次騒動でも、髪をかきあげながら笑うシーンがたびたび報道で使われていますが、あれは苦笑いじゃなくて、「どなたさまー?」が聞こえてつい笑っちゃっただけなんです。

飯田 それは知りませんでした。報道などでは全部がセクハラ野次への反応のように取り上げられていますね。かけ声のような野次もあるというわけですね。

上田 自分の声も聞こえなくなるくらい酷いときもあるんですよ。あまりにもうるさい場合は議長が制するように地方自治法129条に書いてあるんですけど、今回はそんなことなかったですよね。言論の場ですから、人の発言権を奪うことは議会制民主主義に反しています。みんなの党は自由主義の政党ですので、発言の自由は特に重要だと思っています。

全体

形骸化する審議

飯田 野次以外に、議会活動をやりにくい状況はありますか?

塩村 学校みたいですけど、やっぱり人数が少ないと、そんなに仲良くしてくれないですよね(笑)。数で固まっちゃうところがあるので。

上田 役所からの情報提供が不平等。東京都の新情報を、テレビや新聞で知ることの方が多いんです。

塩村 そう! 酷いですよね。

上田 与党が完全に情報を握ってしまっているんです。例えば塩村議員が動物愛護についての質問をするために役所と内容のすりあわせをすると、それを与党に横流しするんですよ。質問の順番は自公が先ですから、私たちが質問する前に「都は動物愛護に真剣に取り組んでいて、こんなことに文句をいうアホなやつなんていないですよねー」みたいなお手盛りの質問をしてしまう。私たちはそのあとすごすごと問題を指摘する質問をしなくちゃいけないわけです。

塩村 情報量が都民の皆さまと同じ立場に立っているとは言えるんですけど……(苦笑)。「そんなことじゃ駄目だろ」と思われないようにしなくちゃいけないですよね。

上田 ほじくり系の質問をしようとしたら「質問が馴染まない」と都庁の職員から言われて却下されることもありました。馴染む/馴染まないの法的根拠を出せといっても出してこない。ないから出せないんです。

一年生議員や少数会派って議会運営のことをほとんど知らないので、無知に付け込んでくるんです。今回の処分要求書も、「処分対象者が特定されていないから提出できない」という報道がありましたが、地方自治法133条をよくみたら、別に特定しなくても議長の判断で懲罰委員会を開けるんです。ようは情報の非対称性があるんですよ。

塩村 与党が過半数を持っている時点で審議が形骸化しちゃっていて、野党の意見はなかなか通らないんです。どんなに動物愛護について知事の意見を聞きたくても、役所が答弁骨子書をつくって、知事はそれをみて発言するだけなんです。それじゃあ、知事の意見はわからないじゃないですか。

都議会の注目度が低い

飯田 国会の場合は、世間の目があるので、どんなに多数派でも野党との協議はかかせません。都議会でそれができてしまっているということは、その他の道府県議会や市町村議会は野次問題も含めて、もっと酷いことになっているのでは、と思ったのですが……。

上田 いや、それが違うんですよ。都議会は特に酷いんです。議会改革は地方議会の方が進んでいるところは進んでいるんです。財源が厳しいと議会改革が進むんですね。市民の目も厳しくなりますし、適当なことはできなくなる。東京はじゃぶじゃぶですから、日本一議会改革が遅れているんです。

飯田 なるほど、確かに県議会の場合、地方紙や地方局が地元密着型の報道をする。市町村だと生活に近いからいやがおうにも目につく。外からの目がある分、改革が進みやすいのかもしれませんね。東京の場合は……。

?

上田 都政新報と東京新聞くらいですね。大手新聞は国会への関心が高いですし、書いても自民党の提灯記事が多い。

塩村 最近は東京オリンピック・パラリンピックで取り上げられつつはありますが、東京である故に、国会の方に目が行ってしまって、都議会への関心が薄いんです。国会が国の方針を決めて、区政は身近な問題を決めている。じゃあ都政は何をやっているの? というのが皆さんの感覚だと思うので。

飯田 でかいことは国会、小さいことは区議会。都議会は、どっちなのかよくわからない……というのは都民自身ももっている感覚だと思います。

塩村 そういう意味では、今回の騒動は、都議会への注目度も高まり、個々の議員が外の目を意識する、いいきっかけになったのだと思います。

上田 国会は生中継が入っていますし、区議会は生活に近いところなのでぴりぴりしている。都議の中には、暇なはずなのに本会議休んでいる人もいるんですよ。

塩村 寝ている人も見ますよね。

?

今回は表に出てしまったことを隠ぺいしようとして、それができなかったわけですけど、他にも表に出ていないことがたくさんあると思います。実は議会が終わったあと、本人がすぐに謝ってくると思っていたんです。でも最初に来たのは記者さんで、「あれは酷い。今後の東京において問題になると思うから取り上げる。本人は来た?」と聞かれたんです。記者の方、上田さん、おときた駿議員、他党の女性議員など、皆さんが一気に情報を拡散してくださったことが、こうした問題に気付いてもらうのに欠かせなかったのだと思います。

上田 海外で報道されたインパクトは大きかったですよね。それに国民の皆さんが、都議会や自民党、みんなの党に電話をしてくださったのは、選挙でないかたちで政治に参加してくださったということなんだと思います。たった11分の質問で、小さな国会と言われている東京都の自民党都連をあわてさせたことは、都議会史上はじめてのことだと思います。

自公政党議員のフラストレーション

塩村 でも、自民党の議員さんも、ある意味、かわいそうなところはあるんですよ。

上田 私たちのような非自公政党は、好きな質問ができるんですけど、彼らは漬物石がいるので、好き勝手できないんです。議席を温めてるだけ。私たちに対する嫉妬心が野次にいってしまうのかもしれないですね。

飯田 なるほど。ベテラン議員や会派の本部決定にアタマを押さえつけられていると。その意味で官僚的・サラリーマン的な部分があるわけですね。

上田 フラストレーションがたまっているとどうしても……。

都議会の議会改革を

飯田 今回の事件を活かして、今後なにを求めて生きたいか、ここが変われば都議会が変わると思うポイントを改めてお話いただけますか?

塩村 まずは意識改革が必要だと思います。世の中の流れがどうなっているのかを議員がちゃんと把握しなきゃいけない。別に古風であることを悪いことだとは思いませんけど、限度が過ぎて、今回のように言ってはいけないラインを超えたような発言はいけないことだとわかっていないといけないと思います。それに、いま国政も都政も、女性を活用しようとしていく中での今回の野次は、日本の方針を否定していますよね。

上田 あとは議会改革ですね。少数会派がまっとうに意見をいえる議会にして、いいところはきちんと政策に取り入れて欲しい。

飯田 国会では少数会派であっても、メディアを通じて問題提起や争点の掘り起こしを行ってきました。それが十分なモノかは議論があるところでしょうが、都議会ではそのレベルに達していないというわけですね。メディアの目、都民の声が届くような都議会に脱皮していく必要がある。

塩村 そうなればいいと思いますけど……まだまだ道は遠いと思いませんか?

上田 諦めずに行きましょう。たとえ私たちが少数会派だとしても、住民代表であることは変わらないので、フェアに扱わないのはおかしいことです。まともに情報も手に入れられない。役所も与党にべったり。野次が飛んで質問もできないなんて状況はおかしいですよ。

塩村 議員の皆さんが、選挙期間中に街宣車の上で演説するときのように、品行方正になってくれたら、議場も変わっていくかもしれないですね。

塩村

野次でかき消された塩村都議の訴え

飯田 今回の野次で塩村議員が訴えていきたいことがかき消されてしまったので、せっかくですのでぜひお話ください。

塩村 今回も質問していたんですけど、私はずっと動物愛護を訴えてきたんです。いままで都がぬるぬると逃げまくってきたところを、現場に行って、調査して、写真を撮って、証拠を突きつけた。ようやく言質をとれたので、これから動物愛護はしっかりしていきたいです。

上田 知事も真摯に答えていましたよね。

塩村 でも、あれも答弁骨子書を読んでいるだけなので油断はできませんが……。

飯田 ポイントはなんですか?

塩村 販売規制ですね。みんなの党と聞くと、規制緩和のイメージがあるかもしれませんが、規制する必要がある問題もあります。殺処分のない国は、だいたい販売規制がかかっているんですね。これから首都東京も、日本もそういう方向に議論を持っていかないといけない。

飯田 山本幸三議員が昔から類似の問題に取り組んでいますが、国会議員の一部でもペットショップ規制はテーマになりつつありますね。商売の対象としてペットを売るのではなくて、ブリーダーさんが知人に分けるかたちでペットを飼う。

塩村 はい、正しいと思います。あとはオーダーを受けた血統のしっかりした動物を繁殖させるプロが販売する形ですね。

あとは今回の野次と関係しますが、私は田舎から東京に憧れて出てきた一人の人間として、女性が子どもを安心して産み育てられて、働きやすくなる東京にしたいです。そうした政策はどんどん提案していきたいですね。

みんなの党が自由主義政党だということの意味

飯田 当然のことですが、野党間でもいろいろと距離感があると思います。

例えば、みんなの党が自由主義政党だという点は、今回の問題に大きな意味を持つと思うんですね。女性差別に特に注目した野次報道のあと、塩村議員に対する誹謗中傷コメントがたくさん出てきました。女性が権利を主張するというだけで左翼的な行動だと感じる人がいる――これだけで日本の保守・自由主義がまだまだ未発達であることがわかると思うんです。でも彼らがイメージするほど女性議員も一枚岩ではない。当然ながら、党によって性別に関する考え方は違いますし、各議員によっても違うと思います。

上田 そうですね、みんなの党が、極左でもなければ保守政党でもないことは意味があると思います。女性差別をなくしていくことは大切なんですが、いわゆる左翼的なやりかたは、問題がこじれてしまって結局どうにもならないんです。

みんなの党は、まず権利意識をもうちょっと高めていきたい。自由主義は「人権なくして自由なし」ということです。自分の権利に神経質な人は、人の権利にも神経質なんですよね。権利意識って利害調整に一番大切なんです。そうしたアプローチで、女性差別をなくしていきたいです。リバタリアン系女子が増えるといいですよね。

塩村 リバタリアン系女子(笑)。

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飯田 僕個人の要望としては経済の問題に明るく、自由主義的な、さらに望むならばハト派の女性政治家が増加することは国政・都政ともに非常に重要なことだと思います。こういう人が与党内、そして与党と切磋琢磨する野党に増えていくと政治も変わるのではないかと。与党が言っていることには全て反対という野党もいるわけですが。

塩村 まあ、ぶれなくていいんじゃないですかね、それはそれで。

飯田 お二人にはそうした姿勢とは一線を画して活動して欲しいと思います。様々な提案を与党に「飲ませる」必要がある。いまお話いただいた塩村議員が目指していることも、実現のためには与党をどう説き伏せるかがキーになるわけですよね。

塩村 そうですね。「反対!」か「お願いします」を繰り返していても、与党が飲んでくれるとは思えません。それに数が小さすぎても難しい。丹念に準備をして、最後の最後に飲んでもらえるような状況を作り出すことが大事だと思います。

上田 自民党の改革派の方々は「みんなの党がうるさいからさっさとやっちゃいましょう」って考えると思うんですよね。私たちは別にいい政策が通れば、自民党のお手柄になっても構わないと思っています。いま安倍総理が通している法律も、みんなの党発案のものは多いですよね。私たちはまっとうな経済原則と調査に基づいた提案をしていますから、きっと自民党さんも乗りやすいんじゃないかと思います。

塩村 あとは数ですね。このバランスの悪さだとなかなか話を聞いてもらえないから。

上田 でも今回の騒動で変わっていくと思いますし、変えていかないといけないと思いますよ。

飯田 それこそ、これから東京オリンピック・パラリンピックに向けて巨大な金が動くわけですよね。これまでの隠ぺい体質でうやむやのまま進めていくか、効率的なインフラ整備を行うことができるかは、東京の30年後を決めることになるんだと思います。

上田 まさに「みんなの日本2050」ですね。

飯田 東京都のGDPは韓国、メキシコと同じくらい。人口もベルギーとほとんど一緒の、けっこうな「大国」なんですよね。動物愛護、いじめ、首都圏の保育園待機児童問題、レイシスト、いろいろな問題がある中で、経済界が動くと、自民党もすぐ動いてくれるように思います。自由主義を掲げているみんなの党らしいご活躍を今後も期待しています。また改めてゆっくりお話させてください。今日はお忙しいところ本当にありがとうございました。

(2014年6月23日収録)

プロフィール

塩村あやか東京都都議会議員

都議会会派みんなの党 Tokyo 副幹事長。共立女子短期大学卒。現在、慶應義塾大学法学部(通信教育学部)に在学中。放送作家として「シューイチ」「24時間テレビ」「きょうのわんこ」「夕焼け寺ちゃん活動中」など、数々の番組を担当した後、2013年6月世田谷区より東京都議会議員選挙に出馬、当選。職歴に、厚生委員会副委員長(2013~)、動物愛護管理審議会委員(2013~2014)など。

この執筆者の記事

上田令子東京都議会議員

1965年5月21日 東京都台東区上野生まれ。都立三田高校・白百合女子大学卒。結婚を機に夫の出身地江戸川区船堀に在住。みんなの党 東京都議会議員。子育て応援団江戸川ワークマム 代表。道州制政治家連盟全国協議会 東京特別州 代表

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飯田泰之マクロ経済学、経済政策

1975年東京生まれ。エコノミスト、明治大学准教授。東京大学経済学部卒業、同大学院経済学研究科博士課程単位取得退学。著書は『経済は損得で理解しろ!』(エンターブレイン)、『ゼミナール 経済政策入門』(共著、日本経済新聞社)、『歴史が教えるマネーの理論』(ダイヤモンド社)、『ダメな議論』(ちくま新書)、『ゼロから学ぶ経済政策』(角川Oneテーマ21)、『脱貧困の経済学』(共著、ちくま文庫)など多数。

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