2016.06.01
日本人は妊娠リテラシーが低い、という神話――社会調査濫用問題の新しい局面
「日本人の妊娠・出産に関する知識レベルは国際的にみて低い」という論が幅をきかせている。その根拠としてよく持ち出されるのが、 カーディフ大学の研究グループが2009–2010年におこなった国際調査 International Fertility Decision-making Study (IFDMS) である。
この調査は、2013年にいわゆる「女性手帳」の創設を「少子化危機突破タスクフォース」が提言した際にも、資料の中で使われていた。また、2014年の「新たな少子化社会対策大綱策定のための検討会」においても、「日本はトルコの次に知識が低い」というデータとして紹介された。
「新たな少子化社会対策大綱策定のための検討会」(第3回会合、2014年12月12日)で齊藤英和委員 (国立生育医療研究センター周産期・母性医療診療センター) が提出した配付資料「妊娠適齢期を意識したライフプランニング」冒頭の図版
さらに、2015年3月20日に閣議決定された「少子化社会対策大綱」においても、数値目標の根拠としてIFDMSが参照されている。「妊娠・出産に関する医学的・科学的に正しい知識についての理解の割合」を34%から70%に上げようというのだ。これに基づいて高校教材の改訂などが進められている。
では、実際にはIFDMSはどのような調査なのだろうか。すでに昨年9月の『シノドス』記事「「妊娠しやすさ」グラフはいかにして高校保健・副教材になったのか」 (高橋さきの) が問題点を指摘している。
他の先進諸国での調査では、(オンラインで調査に協力するような) そもそも妊娠や不妊といった問題に関心のある人々が調査に回答したという偏りがあった。対して日本では、そのような偏りが相対的に発生しにくい調査方法を採っていたと思われる。
つまり、日本と他の先進諸国の知識に関するデータは、比較可能とはいえないのではないか。
(https://synodos.jp/education/15125/2)
IFDMSは、日本では市場調査会社を使った調査だったのに対して、他の国の多くは Facebook などを利用したオンライン調査であった。調査対象者の性質がちがうのに、そのまま比較するのはおかしいというものだ。
実際に、IFDMSの研究成果をまとめた2013年の論文 (Bunting ほかHuman Reproduction 28巻385–397頁 <DOI:10.1093/humrep/des402>) でも、この対象者選択の問題について、繰り返し注意が促されている (385、393頁)。国別の平均点を並べたグラフは論文中にあるが、それはあくまでも「今後の研究のため参考程度に提供する情報」の位置づけになっている。
そのグラフだけを切り出して「日本人は妊娠リテラシーが低い」「日本はトルコの次に知識が低い」などということはできない。国際比較ができるデータでないことは、論文をちゃんと読めばわかることである。
このように比較不可能なデータを比較している点に加えて、IFDMSにはさらなる問題がある。本論では、調査票翻訳の質の悪さのために日本の回答者の得点が引き下げられている可能性を中心に議論したい。
調査に関する情報がない?
ふつう、社会調査をおこなって論文を書くときには、調査票や調査方法の情報を公開する。そうでないと読者が研究の内容を再現・検討できないのだから、当たり前の話である。 ところが、調べてみたところ、IFDMS調査票に関する情報がどこにもない。
論文 387頁には、調査の全体像については http://www.startingfamilies.org を参照せよと書いてある。この URL はカーディフ大学のサイトに転送されるが、転送先には調査に関する情報は何もない (2016年1月17日確認)。一方、調査実施時のドメイン www.startingfamilies.com はすでに期限切れで、売りに出されている。調査を実施した2009年当時の記録は Internet Archive <web.archive.org> にあるが、残っているのは 入口のページ だけである。そこからリンクされていたはずの各言語版調査票などは残っていないので、やはり調査票の情報をえることはできない。論文以外の、プレスリリースや報告書をみても、調査方法や調査票の情報はない。
これは、具体的な調査内容が一切伏せられているということである。だから、分析結果を示されても、それが妥当な結果なのか、実は読者には判断のしようがない。研究成果公表のありかたとして、非常に重大な問題である。
日本語版調査票の問題
仕方がないので、研究プロジェクトの代表者であるカーディフ大学の Jacky Boivin 教授に直接問い合わせてみた。 2015年10月17日に電子メールを送ったが、返信がなかったため、メールを再送したり、共同研究者にもお願いするなどして、1か月後に日本語版調査票のPDFファイルを入手した。
調査票は男性用と女性用に分かれている。ふたつのファイルは3箇所で語句のわずかな違いがあるのみであり、ほとんど同一の内容であった。
構成は以下のとおり。
・表紙
・挨拶(1ページ)
・第1部:「ご自身の背景について」(半ページ)
・第2部:「親となること」(2ページ弱)
・第3部:「受精および妊娠の試み」(2ページ強)
・第4部:「不妊治療サービスについての知識、信念、経験、意思」(6ページ強)
・第5部:「社会状況および自分自身の健康・一般的医療ケアに対する態度について」(3ページ)
・「親になること及び妊娠健康問題に関する意思決定」(1ページ)
実際の調査においては、回答者は同一内容のウェブ版にオンラインで回答している。
手に入ったのは日本語版だけなので、他言語版とくらべることはできない。しかし、日本語版には、不自然な文章や意味がわからない文章があちこちにある。
たとえば、調査票の挨拶では、
妊娠とは受胎能力、つまり女性が妊娠し、男性が父親になる能力を意味します。
とある。あとのほうにいくと、つぎのような質問文もある。
推奨されれば、私の共同体の大多数は不妊治療を (何度でも) 私達にしてもらいたいのではないかと思う
誰が誰に何を推奨するのだろうか? また、「共同体」とは何だろうか?
また、男性に対してこのような質問があった。
・あなたご自身はどのくらい受胎能力があると思いますか?
・ご自身がまだ妊娠してないと思われている潜在的理由
私が妊娠してないのは… …私が過去に行なった (又は、行なわなかった) ことが理由
・あたなと配偶者が子供をもうけようという試みを始める前の6ヶ月間に喫煙しましたか? (原文ママ)
男性の回答者は、妊娠する可能性がもともとないわけで、いったいどう答えればいいのだろうか? また、「あたな」とは何だろうか?
全体的にこのような調子で、不自然な日本語や意味不明な質問文が多い。試しにひととおり答えてみたが、相当疲れた。途中でいやになってやめてしまう回答者も多かっただろうと思う。この調査では、途中でやめた人は、有効な回答にカウントされない。最後まで回答した回答者も、適当に選択肢を選んだいい加減な回答が多かったのではないだろうか。
妊孕性知識尺度 (CFKS) の問題
日本において「妊娠・出産に関する知識」が低いとされている根拠になっている部分は、第3部の
下記に受胎能力に関する文章があります。この内容を「正しい」と思われるか「間違い」と思われるか選んでください。分らない場合には「分らない」にレ印をつけてください。
という質問文ではじまる13項目である。以下に、日本語版と英語版 (論文末尾の一覧による) を並べて示す。後述のように日本語版と英語版では配列順序がちがうが、日本語版の順序にそろえた。英語版末尾の [T] [F] は、「TRUE」「FALSE」のどちらが正答とされているかを示す。
(1) 女性は36才を過ぎると受胎能力が落ちる
(i) A woman is less fertile after the age of 36 years. [T]
(2)避妊法を用いずに1年間定期的に性交をして妊娠しなかった場合に、夫婦は不妊であると分類される
(ii) A couple would be classified as infertile if they did not achieve a pregnancy after 1 year of regular sexual intercourse (without using contraception). [T]
(3) 喫煙は女性の受胎能力を低減する
(iii) Smoking decreases female fertility. [T]
(4) 喫煙は男性の授精能力を低減する
(iv) Smoking decreases male fertility. [T]
(5) 健康なライフスタイルであれば受胎能力がある
(viii) Having a healthy lifestyle makes you fertile. [F]
(6) 夫婦10組のうち約1組は不妊である
(v) About 1 in 10 couples are infertile. [T]
(7)男性が精子を産生するなら授精能力がある
(vi) If a man produces sperm he is fertile. [F]
(8)今日では40代の女性でも30代の女性と同じくらい妊娠する可能性がある
(vii) These days a woman in her 40s has a similar chance of getting pregnant as a woman in her 30s. [F]
(9)男性が思春期後におたふくかぜに罹った場合には、後で授精能力の問題につながる可能性が高い
(ix) If a man has had mumps after puberty he is more likely to later have a fertility problem. [T]
(10)月経が無い女性でも受胎能力がある
(x) A woman who never menstruates is still fertile. [F]
(11) 女性が13キロ以上太りすぎていると妊娠できないかもしれない
(xi) If a woman is overweight by more than 2 stone (13 kg or 28 pounds) then she may not be able to get pregnant. [T]
(12) 男性が勃起できることは、授精能力があることを示す
(xii) If a man can achieve an erection then it is an indication that he is fertile. [F]
(13)性病に罹ったことのある人は受胎能力が減少する
(xiii) People who have had a sexually transmitted disease are likely to have reduced fertility. [T]
正答に1点、誤答と「分らない」に0点を与えて合計し、13で割って100を掛けた値が Cardiff Fertility Knowledge Scale (カーディフ妊孕性知識尺度) である。頭文字をとって CFKS と呼ばれている。
この尺度の問題点を4点あげたい。
まず、13項目の配列順序が日本語版と英語版とで異なる点が問題だ。日本語版は (3)~(5) に喫煙とライフスタイルに関する項目を並べてある。流れに沿って「健康なライフスタイルが大事」という方向で答えていくと間違える構造である。いわゆる「キャリーオーバー効果」を利用した引っ掛け問題になっている。
英語版ではこれらの項目は離してあるから、そのような効果は出にくい。まずこの点で、日本語版と英語版の CFKS への回答は比較できない。比較可能な尺度を作りたいなら、項目の配列順序は同一でなければならない。
2点目に、正しい答えの設定に問題がある。
(2)避妊法を用いずに1年間定期的に性交をして妊娠しない場合に、夫婦は不妊であると分類される
の設問では、「正しい」と答えないと間違いにされる。しかし、当時の日本の基準では「間違い」が正しい。
当時の不妊症の定義は、『標準産科婦人科学 第4版』(医学書院 2011年) によれば、「生殖年齢にあるカップルが挙児を希望して性生活を行いながら、2年を経過しても妊娠の成立をみない場合」(66頁、強調は引用者) となっていた。なお、 2015年8月になって、日本産科婦人科学会は、この不妊 (症) の定義を変更している。
このことからもわかるように、何をもって「不妊であると分類」するかの基準は、各国の事情や時代背景によって変わるものである。しかしこの項目は、そのようなことを考慮せず、特定の基準に沿った答えだけを正答とする設問になっている。
3点目に日本語としておかしい (意味が通じない/曖昧である/わかりにくい) 表現が多数あることがあげられる。
たとえば、(1)「女性は36才を過ぎると受胎能力が落ちる」という文には、「36才までは受胎能力が落ちない」という含意がある。(10)「月経がない女性でも受胎能力がある」という質問も、英文の「never menstruates」に対応した訳になっていないため、生理不順の女性のような一時的無月経のケースを連想する人もいるだろう。(11)「女性が13キロ以上太りすぎていると妊娠できないかもしれない」も、「13キロ以上太りすぎる」という表現が日本語として不自然である上、妊娠は確率的現象だから、たまたま「妊娠できない」ことがあるのは当たり前である。
筆者の判断では、13項目のうち、10項目には何らかの問題がある。つまり、問題がなさそうなのは3項目のみである。それも翻訳としては問題がなさそうだというだけであって、質問文として比較可能かどうか (つまり、他言語版とおなじ反応を回答者から引き出す刺激になっているか) はまた別の問題として残る。
4点目に、CFKS得点を算出する際、「分らない」を誤答とおなじあつかいにして0点を与えているのも問題である。回答者は、設問の答えがわからないときだけでなく、設問の意味自体がわからないときにも、「分らない」を選ぶ可能性がある。CFKSの得点算出法は、設問のわかりやすさに大きく左右されるのである。上でみたように、日本語版の設問には意味が不明瞭なものが多いから、そのために「分らない」を選んで0点にされてしまった回答がたくさんあったのではないか。
ここまで検討してきたことをまとめて総合的に評価しておこう。まず、記事冒頭で指摘したとおり、IFDMS は国によって対象者の集めかたがちがう。そして、日本語版調査票全体の翻訳の質が低くて回答者の負担が大きいため、途中で脱落したり、不真面目な回答をしたりしているケースがかなりあることが危惧される。特に、妊娠に関する知識を測ったとされる尺度 CFKS には、項目選択・翻訳・配列・得点算出法の各側面において、問題が種々存在する。国際比較に使えるデータでないことはあきらかである。
調査票作成過程の問題
では、この調査票はどのようにしてつくられたのだろうか。論文388頁によると、この調査の質問文は、
・英語版調査票を作成
・潜在的な回答者対象の予備調査を実施
・カーディフ大学の生涯学習センター翻訳サービス (Centre for Lifelong Learning Translation Service) で12言語に翻訳
・各地の専門家がチェックし、翻訳の修正を提案
・翻訳者と専門家が合意に達した版を使って調査実施
という手順でつくられたようだ。しかし、この手順では、国際比較可能な調査票はできない。
まず、各言語への翻訳可能性や社会間での比較可能性を検討しないまま、英語で質問文を作り、確定しているところが問題である。翻訳や専門家チェックが入るのはこのあとだが、「この質問はどうやっても不完全な訳にしかならない」「この質問は国によって正解が異なるのでまずい」といった問題があっても、質問項目そのものが差し替えられることはない。国によって基準がちがうはずの「不妊」の定義を問う質問などが残ってしまっているのは、このためだろう。
さらに、翻訳版の予備調査をおこなっていない問題もある。「予備調査」は、対象者と同様の属性を持つ人に実際に答えてもらうことで、調査票の問題点を洗い出す作業である。この手続きを踏まなかったとすると、英語版以外の調査票には、対象者が勘違いしたり答えられなかったりする変な質問がある可能性が高い。事実、「私が妊娠してないのは……が理由」のような質問が男性回答者に対しておこなわれている。
実際、論文387頁には、言語間比較可能な尺度構築に失敗したことを表す数字が載っている。国によって、尺度の信頼性が著しくちがうのだ。いちばん低いのはトルコで、Cronbach の標準化信頼性係数が 0.41 だったという。ここまで信頼性が低いと、測定に失敗したものと判断すべきである。だが、論文中でこの問題について検討されることはないまま、信頼性が低い国のデータもふくめて、分析が進められている。
政治利用の過程
ところが、日本では、この調査結果が、信頼のおける科学的な知見であるかのようにあつかわれ、政治的な力を獲得するに至った。以下、その過程を概観しよう。
まず、IFDMSの研究代表者であるBoivan教授自身が、この研究成果を日本に売り込んできている。 2011年には来日し、マスメディア相手の勉強会や国会内での講演をおこなった (三浦天紗子「なぜ日本だけが世界と違うのか?」妊活.net 2011年5月18日)。
そして日本の産婦人科団体も、この調査を利用してきた。たとえば日本産婦人科医会では、木下勝之氏 (2012年11月から会長) が、IFDMSによるグラフを引いてつぎの主張を展開している。
これからの学校保健の学校医として、産婦人科医を積極的に登用して、健康な妊娠・出産・育児の知識を植え付け、子どもたちへの適切な性教育、さらには、性教育に最も適切な位置にある母親にどのような仕方で性教育をしていくかの具体的内容づくりも、産婦人科医の学校医の役割として、全国組織である日本産婦人科医会は協力する姿勢でいる。
(『日本産婦人科医会会報』776号 (2015年6月号) 1–2頁. 学校保健会『学校保健』312号10–11頁 からの転載)
一方、一般向けに影響力を発揮したのがマスメディアである。2012年6月23日のNHKスペシャルでは、取材班がカーディフ大学を訪れて収録した Boivin 教授へのインタビューが放映されている。
この番組を元にしたNHK取材班の書籍『産みたいのに産めない: 卵子老化の衝撃』(文藝春秋 2013年) は、IFDMS調査で「日本人の男女は妊娠についての知識が極めて乏しいことが明らかになった」(136頁) としている。
この書籍はIFDMSの質問項目をいくつか引用している (136–137頁) が、その際に文言を改変している。たとえば「女性は36才を過ぎると受胎能力が落ちる」という質問文の末尾に助詞「か」を挿入して引用している。原文は、36才までは受胎能力は落ちない、という含意を感じさせるが、その末尾に「か」をつけて疑問形に変えることで、焦点が述部に移り、そのような含意を感じにくくなっている。
「今日では40代の女性でも30代の女性と同じくらい妊娠する可能性がある」は、最初の「今日では」を削除した形で示している。原文は近年の生殖医学の進歩が誇大に喧伝されてきたことを背景とした質問であるが、「今日では」を削ることで、普遍的現象としての妊孕性低下について訊いているようにみせかけている。「この調査、大丈夫なのか?」と疑問に思う読者が出てこないよう、また著者のえがくストーリーに沿った理解に導くよう、周到に編集されているのである。
まとめ: ボーダレス時代の社会調査
以上の経過をみると、本来、国際比較に使えないはずのIFDMSの調査結果が、「日本人の妊娠・出産に関する知識レベルは国際的にみて低い」という主張の根拠として日本社会で受容されてきたことには、3つの要因があることがわかる。
●海外の自然科学系学界による権威づけ
もしこの研究成果が日本の社会科学系学会誌に投稿されたとすれば、調査の致命的な欠点を指摘されて終わりだったはずである。ところが、日本語訳の精度や社会調査の方法論に興味を持つ人がいないところでは、学術的な研究成果として通ってしまう。
●日本国内の学術団体による政治利用
学校教育への介入をめざす国内の産婦人科系団体にとって、日本の知識レベルが低いというデータは、「少子化」をめぐる危機感をあおるのに都合のよいものであった。科学的根拠の薄弱さなど、彼らにとってはどうでもよいことだっただろう。
●言語の壁
IFDMS は情報をほとんど公開していないが、公開している場合もたいてい英語だけである。そのため、疑問を持った人がいたとしても、批判のための資料を集めるのに要する労力が大きい。また、日本語で引用される際にも、カムフラージュが施され、読者が直感的な疑問を持たないよう細工されている。言語の壁は、批判を封じる上で有効にはたらいている。
この事例は、ボーダレス時代に対応した社会調査の質保証という新しい課題を提起する。今日では、ある程度の研究費を確保しさえすれば、翻訳業者と調査会社に丸投げして、インターネットを利用した国際調査が簡単にできる。その適当な調査で出した結果を対象国の政府・メディア・学会に売り込んだ場合、学問的なチェックを受けることなく通用してしまうことが起こりうる。
こうした調査結果は、対象国の政府や学会にとって、自らの政治的主張を正当化する「科学的」根拠として利用価値がある。一方、当の研究者にとっても、その調査プロジェクトの「社会的インパクト」として評価してもらえるメリットがある。
日本においても、他の国においても、隠れて進行している同様の事態が、たくさんあるのだろう。 IFDMSをめぐる一連の問題は、おそらく、氷山の一角に過ぎない。
※ この記事は、2016年3月17日の第61回数理社会学会大会での報告に基づいています。くわしい内容は、学会報告の資料 <http://tsigeto.info/16z> をごらんください。
プロフィール
田中重人
1971年生まれ。博士 (人間科学)。東北大学准教授。家族や労働の制度とそれに関連する不平等をテーマに、大規模社会調査データによる研究をおこなってきた。参加プロジェクトに「社会階層と社会移動」(SSM) 全国調査、「全国家族調査」(NFRJ) など。論文等に「「妊娠・出産に関する正しい知識」が意味するもの:プロパガンダのための科学?」『生活経済政策』230:13–18 (2016)、「Gender gap in equivalent household income after divorce」『A quantitative picture of contemporary Japanese families』(東北大学出版会 2013)、「女性の経済的不利益と家族」『ジェンダー平等と多文化共生』(東北大学出版会 2010)、「親と死別したとき」『現代日本人の家族』(有斐閣 2009) など。