2013.07.19
日本におけるLGBTの法整備の動き
「この法案はあくまでもお互いに愛し合っている二人のための法案。核戦争を仕掛けるわけでもなく世界の終わりでもない。この法案が可決したからといって明日太陽は昇るし、住宅ローンが増えるわけでも皮膚病になるわけでもなく、ベッドにヒキガエルが発生することもありません。影響がある人にとってはとても素晴らしいものであって、それ以外の人には人生はなにも変わりません」
これは今年4月、ニュージーランドで同性婚が法制化されたときの同国議員のユーモアあふれるスピーチです。
LGBT(レズビアン・ゲイ・バイセクシュアル・トランスジェンダー)などのセクシュアル・マイノリティにかんして、日本国内では少しずつ「身近な存在」として認知が進んでいる感もあるこの頃ですが、国内ではニュージーランドのような「同性婚」はできないのみならず、あいかわらず学校や職場で「ホモ」「オカマ」と指をさされる人々も多く、また当事者の相談先もかぎられ、さらに自殺率も高い――そんな過酷な状況が野放しにされていることも事実です。
ここ日本でも、LGBTを社会的な存在として認知し、法制度にかんする議論がなされるべきではないでしょうか(アマガエルも発生しません)。
そもそもセクシュアル・マイノリティってなに? ゲイと性同一性障害ってどう違うの? という読者のみなさんはこちらをご覧ください。
「セクシュアル・マイノリティ/LGBT基礎知識編」https://synodos.jp/faq/346
ここでは、これまでの日本におけるLGBTの法整備にかんする各政党や国会議員の動きについて検証をおこない、今後どのような展開の可能性があるのかについて考察していきたいと思います。
まずは各政党の公約を比較すると
今回の参院選で、LGBTにかんする公約が確認できるのは
・民主党
・公明党
・日本共産党
・社会民主党
の4政党、その他(政党要件を満たしていない)政治団体では緑の党が言及しています。
各政党の言及は、具体的には以下の通りです。
■民主党
「差別解消」の項に「性的マイノリティなどが差別を受けない社会をめざします」。
(民主党政策集 http://www.dpj.or.jp/compilation/policies2013/50070)
■公明党
「性的マイノリティの人々が暮らしやすい社会の構築」として、具体的には「性的マイノリティの人々への理解を深め、偏見や差別をなくすことを目的とした多方面にわたる啓発や人権相談体制の強化など、必要な施策の充実に努め、性的マイノリティの人々が暮らしやすい社会を構築します。」「性同一性障がいについて、精神保健福祉センターなどの相談窓口体制の強化や、学校教育での配慮を図るとともに、医療や人権分野の環境整備を進める」(政策集Policy2013 http://www.komeito.com/policy2013/index.php)
■日本共産党
「性的人権を守り社会的地位向上をはかる」として、具体的には「性別や性自認、性的指向を理由とした、就労や住宅入居などのあらゆる差別をなくし、生き方の多様性を認め合える社会をつくります。公的書類における不必要な性別欄を撤廃するよう求めます。未成年の子どもがいても性別の変更が可能となるよう、「性同一性障害特例法」を見直します。また、性同一性障害の適合手術には数百万円がかかるなど、当事者の負担は深刻です。保険適用に性同一性障害をくわえ、治療のできるクリニックの拡充を求めます。
公営住宅、民間賃貸住宅の入居や継続、看護・面接、医療決定の問題など、同性のカップルがいっしょに暮らすにあたっての不利益を解消するため力をつくします。欧米各国のパートナーシップ法などを参考に、日本でも性的マイノリティの人権と生活向上、社会的地位の向上のために力をつくします。」(2013年参院選挙政策 http://www.jcp.or.jp/web_policy/html/2013sanin-seisaku.html)
■社会民主党
「ゲイ・レズビアンなどの性的マイノリティへの偏見解消に取り組みます。職業選択・雇用や公営住宅・高齢者施設への入所などについて、性的指向や性自認を理由とした差別的取り扱いを禁止します。性別にかかわらず多様な形態の家族に対して民法上の権利を保障する、フランスのPACS(連帯市民協約)にならった新制度の創設を目指します。性別適合手術などへの健康保険適用を行います。」
(2013年社民党参院選公約 http://www5.sdp.or.jp/policy/policy/election/2013/)
各党の政策は、相談機関の拡充や差別の禁止など「比較的消極的な」人権施策から、同性カップルの権利保障まで踏み込んだものなど、幅がある内容になっています。まずは政策にきちんといれること、さらに既に言及している政党の公約を充実させていく働きかけはもちろん重要ですが、公約にあげられていることをどう具体的に活かしていくかが問われているように思います。また今回、みんなの党は、前回の公約にあった性的マイノリティに関する記載を削ってしまいました。政治家個人の想いや「ひととなり」に期待するだけでなく、「組織として」性的マイノリティについてどのような姿勢で捉えているのかを内外に示していくための指標として、今後も注目していきたいところです。
公約で大々的に触れていない政党でも・・
公約で大々的に触れていない政党でも、党内には同性愛者の権利についての見解に賛否両論があります。
民主党は与党時代に、党内の有志議員による「性的マイノリティ小委員会」を結成、何度も勉強会や議論を重ねたすえに、2012年秋に改定された「自殺総合対策大綱」において性的マイノリティを自殺のハイリスク層であり、教育機関等での理解促進が必要であるという画期的な内容を盛り込むことに大きく貢献しました。
自民党については、党内の意見はさまざまであるものの、2013年より馳浩衆議院議員が中心となって「性的マイノリティにかんする課題を考える会(仮称)」を立ち上げる動きがあります。日本維新の会ではLGBTの就職差別について西根由佳衆議院議員がたびたび衆議院法務委員会で取り上げています。
国会議員レベルでの動き
わたしたち「いのち リスペクト。ホワイトリボン・キャンペーン」は自殺対策やいじめ対策などLGBTの生きる支援の体制づくりを求めて活動していますが、そのなかで尽力してくださっている議員たちの動きについても少しご紹介します。
前出の2012年「自殺総合対策大綱」改定のさい、中心となって動いてくれたのは民主党の今野東参議院議員(当時)、山花郁夫衆議院議員(当時)、松浦大悟参議院議員、井戸まさえ衆議院議員(当時)などでした。これまで国内では性同一性障害のみが政策課題として扱われる風潮があったなかで、同性愛者などを含むLGBT全体が政策課題として取り組まれたことが特徴的でした。
「人権問題を市民とともに考える議員連盟」から発足した「性的マイノリティ小委員会」では、おもに自殺対策について何度も議論や勉強会がおこなわれ、当団体からも明智がヒアリングを受けた以外に、ゲイ・バイセクシュアル男性にかんする健康問題等の調査を行っている日高庸晴先生にもご協力をいただき、「LGBTの置かれた現状に対し、国として自殺対策を行う必要がある」ことを共有する場が設置されました。
関係省庁である内閣府や厚生労働省、文部科学省などの官僚たちの重い腰を動かすべく、何度も熱い議論が繰り広げられ、そのような経緯からようやく「自殺総合対策大綱」の対象が(性同一性障害に限らず)性的マイノリティという定義にまで拡大されたというのは、やはり民主党の国会議員の方たちの功績だと思います。
民主党が「性的マイノリティ小委員会」を設立したのと同じタイミングで、公明党は性同一性障害の団体から要望を受けて「性同一性障がいに関するプロジェクトチーム」を設立し、性別適合手術や学校現場での配慮などの課題解決に向け議論がされているようです。
みんなの党の川田龍平参議院議員は「LGBTの相談窓口の拡充」について国会で質問し、大臣の答弁を引き出してくださいました。
自民党の馳浩衆議院議員は「性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律」成立の立役者としても知られていますが、今後は性的マイノリティの子どもに対するいじめ対策についても前向きに取り組みたいとのことです。
昨年の衆議院選挙のさいのアンケートでは、自民党はLGBT施策に対して消極的な回答を見せましたが、実際には党内にもいろいろな意見があり、前述のとおり、馳浩衆議院議員や橋本岳衆議院議員、ふくだ峰之衆議院議員、牧島かれん衆議院議員などが中心となって「性的マイノリティに関する課題を考える会(仮称)」を設立する動きが出ています。
今後の展開について
日本共産党の宮本たけし衆議院議員と面談したときに、宮本議員からは「わたしたち左翼と思われている人間が性的マイノリティのことで動くと保守系の人たちが騒ぐ。これからも日本共産党が性的マイノリティの人たちを守るのは揺らぐことはないので、一人でも多くの自民党議員を味方につける努力をしなさい。わたしはそれを望んでいる」と言われました。
LGBTの話題は、実際には困っている当事者の生身の姿があるのにもかかわらず、「こうあるべきだ」「いや、そうではなくて、こうあるのが普通だ」などという議論に終始してしまう傾向にあります(性や家族観にかんする話題全般にいえることかもしれませんが)。「べき論」や倫理の議論も大切かもしれませんが、それをしているうちに、わたしたちは干からびてしまうのではないかと思うことが多々あります。それこそヒキガエルのように。
いま、この瞬間にも「とにかく教員の理解がもう少しあれば、学校を続けられるかもしれない」と思っている高校生が、学生服(セーラー服だったり学ランだったり)の強制的な着用に耐えきれなくなり、学校中退をよぎなくされています。拠点病院を訪れる性同一性障害の当事者は、4人に1人が不登校に追い込まれており、どこからが「障害」で、どこからが「社会の課題」なのかさえ見えにくくされています。
LGBTのコミュニティのなかでは、誰かが自死で亡くなることは珍しいことではなく、しかしどれだけ親しかったとしても、それがたとえともに暮らす恋人であったとしても、お葬式には呼ばれないことも「よくあること」なのです。親族ではないから、という理由で……。
このような現実を変えるのに、果たして「右」や「左」、イデオロギーは関係があるのでしょうか。これまでにも、特定の政党のみに比重を置いた働きかけの結果、議員相互の不信感が増長されるできごとがありました。重要なものは重要、必要なものは必要である、ということを一つひとつ、しっかりと確認していく意味でも、今後ますます党派の枠を超えて課題が解消されていくよう期待しています。
サムネイル:「RAINBOW」David Martyn Hunt
プロフィール
明智カイト
定期的な勉強会の開催などを通して市民セクターのロビイングへの
遠藤まめた
1987年生まれ、横浜育ち。トランスジェンダー当事者としての自らの体験をもとに、10代後半よりLGBT(セクシュアル・マイノリティ)の若者支援をテーマに啓発活動を行っている。全国各地で「多様な性」に関するアクションや展開している「やっぱ愛ダホ!idaho-net」代表。著書に『先生と親のためのLGBTガイド もしあなたがカミングアウトされたなら』(合同出版)