2013.07.03

少子化対策・両立支援についての各政党の政策の比較・評価

筒井淳也 計量社会学

福祉 #参議院議員選挙#少子化#参院選#ワーク・ライフ・バランス#子育て支援#児童手当

7月4日公示、7月21日投開票の第23回参議院議員選挙。衆参ともに自公が過半数の議席を獲得し「ねじれ」が解消されるのか、またネット選挙運動の解禁など、注目すべき点は多い。一方、従来の選挙同様、各党の掲げる公約・政策は、投票前に十分に検討しなくてはならないことは変わらないだろう。そこでシノドスでは、21日の投開票日に向けて、さまざまな専門家に、各党の公約・政策を特定のテーマに着目した論考をご寄稿いただく。本稿を参考に、改めて各党の公約・政策を検討いただければ幸いです。(シノドス編集部)

日本の少子化の現状

日本の出生率の現状は、「回復傾向にあるが、上昇が進むことについては悲観的で、依然として低調」であるという見方が一般的である。たしかに日本の合計出生率は極端な低出生率に悩む他の東アジア地域(台湾、韓国、シンガポール、香港)と比べれば高い水準にある。2005年には過去最低の1.26を記録したが、それ以降は上昇しており、2012年には1.41にまで回復した。

この回復の背景には、団塊ジュニア世代の駆け込み出産の効果もあるが、子育て支援政策の効果が徐々にみられてきた、という見方もある。他方で、晩産傾向には歯止めがかかっておらず、また現在出生している人たちはすでに少子化世代であるためそもそも出産の母体数が少なく、出生率が上昇してももはや子どもの数は増えない、という現状がある。移民というオプションを考えずに高齢化に対処するためには、ドラスティックな少子化対策が必要になるだろう。

このようななか、2013年7月の参議院選挙に向けて、各党が選挙期間前にマニフェストの基礎となる政策方針を発表している。以下、順次みていくことにしよう(検討対象は、2013年6月3日時点で衆議院において10以上の議席をもつ政党にかぎってある)。

各党の子育て支援関連政策

■自由民主党

今回検討の材料としたのは、「参院選公約」、「総合政策集」のほか、「女性手帳」で有名(?)になった少子化危機突破タスクフォースによる「少子化危機突破」のための提案(2013.5.28)である。

自民党の基本方針は、2007年12月(自民福田内閣時代)に採択された「ワーク・ライフ・バランス憲章」、2012年(民主党時代)に成立したいわゆる「子ども・子育て関連3法」に基づいた「子ども・子育て支援新制度 」(*1)の延長線上にありつつも、安倍内閣が政権をとってからは子育て支援を加速化する動きがみられる。特に都市部の待機児童問題については、「待機児童解消加速化プラン」のもと、期限と数値目標を伴った具体的な自治体支援が模索されている。

(*1)親の就労の有無にかかわらず利用できる「認定こども園」の改善・拡充についての施策。幼保一体の推進を目指した認定こども園制度は、制度の複雑さなどの理由から設置の数値目標を大幅に下回っている。「新制度」により手続きを簡素化し、この問題を緩和することが目指されている。また、消費税増税による財源の一部(0.7兆円)を保育サービスの拡大にあてることもうたわれている。

「ワーク・ライフ・バランス憲章」の方針に沿った両立支援については、中小企業の両立支援、女性の管理職登用、男性の働き方の見直し(長時間労働の抑制)などが掲げられているが、具体的な制度化や数値目標については触れられていない。また、ひところ話題になった「育児休業3年」については、首相官邸のウェブサイトにも関連した情報(「女性が輝く日本へ」)があるが、現時点では(報道されているように)経済団体への依頼という位置づけにとどまるもので、党の公約にも「3年育休への企業の自主的な取り組みを後押しする」としか書かれていない。おそらく制度化するという話にはならないだろう。

少子化危機突破タスクフォースの提案文書には、以上の「子育て支援」「両立支援」と並んで、「結婚・妊娠・出産支援」の拡充が提起されている。前二者は育児期に焦点を当てた施策であるが、「結婚・妊娠・出産支援」はより直接的に出生率の上昇を狙った支援方針である。

タスクフォースの文書には「女性手帳」という発想の基盤にある「妊娠・出産等に関する情報提供、啓発普及」のほか、「新婚世帯の税制優遇措置についての検討」が掲げられている。ただ、「総合政策集」の方には直接該当するものは見当たらなかった。なお、年少扶養控除は復活が明記されている。

■民主党

民主党の少子化対策といえば2009年の衆議院選挙の争点の一つになった「子ども手当」であるが、現在は自民・公明の当時の要望で名称が「児童手当」に戻っている。結果的には旧児童手当に比べて手当の額が1万円前後増額されている。2012年は名称をめぐる政治の茶番ぶりが目立った一年であった。

子ども手当の実施にともなって2011年から年少扶養控除が廃止され、子育て家庭の負担感が緩和されない状態であった一方で、2009年衆院選のマニフェストにも書かれていた配偶者控除の廃止は見送られた。「女性の就業を推し進めつつ出生を促す」という方向からすれば、民主党政権時代の両立・出生支援政策はかなりちぐはくしたものであったと言わざるを得ない。民主党政権時代の実績としては、「子ども・子育て支援関連3法案」(現在の「子ども・子育て支援新制度」、内容については上の注を参照)、そして高校無償化の2つだといえるだろう。

7月の参議院選挙に向けた政策方針としては、マニフェストではないが6月に発表されている「民主党政策集」および「民主党重点政策」がある。(「政策集」の方はなんだか内容の重複も多くていい加減なので、あまり参考にできない。)

子育て支援については、自民党の方針と根本的に異なった方向を向いている印象は受けない。これは自民党も同じであるが、晩婚化の一因となっている若年層の雇用の不安定化については、抜本的な提案はみあたらない。ただ、非正規雇用の均等待遇や労働時間の上限規制の法制化について言及されており、働き方の改革については多少踏み込んだ方針であるという見方もできる。

全体的な印象として、やはり民主党時代に進められた幼保一元化(民主党の言葉では幼保一体化)が強調された政策文書になっている。しかしこれについては自民党も基本的に同じ方向を向いており、差異は目立たない。自民党はさらに幼児教育の無償化に向けた検討の開始を掲げており、積極性という面ではやや劣る印象を受けた。

(本論と関係ないが、「重点政策集」のあのみえすいたコミック、そのまま受け止める人なんているんだろうか。それこそ、少々ややこしい政策方針に関心を持ってもらう手段として使えばよいと思うのだが……)

■公明党

公明党の子育て・両立支援政策は、6月に発表された「参院選重点政策」に記されている。全体的によく練られているという印象を受ける。

「女性の労働力の活用」が強調されているあたり、安倍政権と歩調をそろえているのだろう。具体的には、自民党も掲げている「待機児童解消加速化プラン」のほか、両立支援に力を入れる企業への税制優遇、短時間正社員とテレワークの推進などが掲げられている。

若年者雇用・非正規雇用問題については、企業への助成金を通じた総合支援がうたわれている。

ワーク・ライフ・バランスについては各所で強調されている。自民党の政策集にもある幼児教育無償化の導入の検討が明記されている他、「育児休業については正規・非正規を問わず3年まで取得できることを目指す」と書かれているあたり、自民党よりも積極的な部分もある。

全体的には、大筋で自民党の支援方針に沿いながらも、より明確なかたちで個々の政策を進めようという姿勢がみられる。

■日本維新の会

参議院選の公約(マニフェスト)と書かれている書類が公開されている。ただ、全体で8ページとかなり簡素なものである。

子育て・両立支援制度にかんするものだと、雇用制度改革の一環として「育児後の女性の再就職支援の強化」がある。また、社会保障制度改革の項目に、「保育バウチャー制度・保育分野への株式会社の参入促進」「子ども3人目以降の公共サービス優遇」「育児休業中の自宅勤務制度推進」とある。

維新の政策は基本的に市場・競争メカニズムを活用することを意識したつくりになっている。分権化・統治機構改革、社会保障制度改革にその色が濃く出ているが、子育て・両立支援も基本的にこの線にそったものであるといえるだろう。

しかし全体的な印象としては、自民・公明・民主が何らかのかたちで政権に参画して政策を実際に運用してきたのに比べると、維新にはそういった実績がないためか、政策の具体性に欠けているようにみえる。

民主党の政策集にも「ちぐはぐさ」は目立つものの、幼保一元化がひとつのウリになっていることはわかる。維新の公約にはそういったウリが見当たらない。あえていえば保育における民間の力の活用、であろうか。それにしても、現在進行中のこども園の改革についての姿勢がみられない、待機児童について触れられていないなど、現状では物足りない内容である。

■みんなの党

2013年6月の都議選で一定の支持を集めたみんなの党であるが、子育て支援は(少なくとも本原稿執筆時においては)みんなの党の「主要政策」には組み入れられていない。しかし同党が発行している「アジェンダ」(2013年6月発表)には関連する政策についてのまとまった記述がある。

「アジェンダ」は19ページあり、かなり詳細な内容になっており、内容的にもかなり体系的に整理されたものになっている。それなりに時間をかけて作り上げたことがわかる。

まず雇用の面では、就労の柔軟化・流動化(解雇整理4要件の見直し、「お試し雇用」の導入など)を進める一方、非正規への雇用保険の拡充、同一価値労働同一賃金など、ある面では北欧社会の制度に近い政策が提起されている。子育て・両立支援の政策項目もこの方向性に合致したものとなっている。具体的には、待機児童解消のための保育への民間参入促進、保育バウチャー制度、非正規を含めた育児休業取得の推進である。保育改革については地域分権も掲げられている。

総評

以上、簡潔に各党の参院選に向けた関連政策をみてきた。選挙期間中になればさらに詳細なマニフェストが公開されるだろうから、そちらも参考にしてほしいが、正式なマニフェストともなれば各党がリップサービス的に、考えこまれていない政策を盛り込んでくる可能性もある。ここでは現時点の政策集を参考に、多少私の個人的な見解が入ってくることをいとわずに、少し踏み込んだコメントを付け加えておこう。

政策の内容・実効性それ自体はさておき、政策集の完成度(一貫性、具体性)という観点から評価をするとすれば、みんなの党が一歩抜きん出ている印象を受ける。逆に、少なくとも少子化・子育て・両立支援という点からしてあまり考えぬかれていないのは、あきらかに維新の公約である。自民・公明・民主のものは(政権を担ってきただけあって)ある程度具体性がある。

では実効性という面ではどうだろうか。

実は少子化については、研究者の間でも一定の意見の一致がみられる部分と、依然として判断がわかれている部分がまだある。したがって確固とした立場から「この政党の政策は90点」といった評価を下すことはなかなか難しい。

少子化についてはっきりしているのは、晩婚化・非婚化が最大の要因であるということだ。つまり、いったん結婚してしまえば多くのカップルは結婚してまもなく子どもを作っているのである。もちろん夫婦出生力の低下も、無視できるほど小さいわけではなく、子育て支援を志向した政策も重要であることに変わりはない。とはいえ、子育て支援政策は基本的には(経済的条件を満たして)結婚することができたカップルの生活向上に向けたものである。出生率低下に対する即効性という点では自民党の少子化危機突破タスクフォースが提案書に明記している「結婚支援」がやはり重要なのだ。

この点については、若年層の絶対的な所得水準の低下が世帯形成への見込みを難しくして、結果的に結婚に踏み切れない人たちが多いという見方がある程度共有されている。それを反映してか、いくつかの党の政策集で言及されているのは若年層の就業支援である。

ただ、明確に若年層の就業問題と少子化を結びつけているのは自民党の少子化危機突破タスクフォースの提案書のみであり、同じ自民党でも現時点での「総合政策集」には結婚ということば自体みつからない(ただ、正式なマニフェストにはタスクフォース提案の「新婚世帯の税制優遇検討」が組み込まれる可能性はあるので、注視したい)。

民主党も、認定こども園(ならびにその改革案である「子ども・子育て新システム」)の推進に注力してきた経緯もあるのか、雇用・結婚・子育てを統一的な枠組みで考えるような見方とは無縁である。

「両立支援」ではなく「結婚(未婚者の雇用)支援」が重要、という見方からすれば、多くの党が打ち出している両立支援(ワークライフバランス)にはあまり実効性はない、ということになりそうだが、個人的にはそうでもないと考える。もし両立支援が、単に小さな子どものいる夫婦をターゲットにした育児休業の拡充に留まるのなら、少子化対策としてはそれほど効果はないだろう。他方で、正規・非正規の垣根を低くし、それを通じて男女賃金格差の抑制や再雇用の促進を狙うのならば、それは晩婚化対策にもなる。この意味で、(民主党の「重点政策」やみんなの党の「アジェンダ」で意識されている)非正規雇用の待遇改善(ひいては男女の賃金格差の是正)はカップル形成を促す意味でも緊急の課題である。

ただ、正規・非正規の待遇均等化はいわゆる日本的雇用・働き方と相性が悪いものであるため、各党も具体的にどうやって均等待遇を進めるかについては記述がない。雇用について踏み込んだ記述があるのはみんなの党であるが、雇用の柔軟化・流動化は必ずしも非正規労働者の状態の改善に結びつくとはかぎらない。

もう一点、今回の参院選で注目してほしいのは、政府による教育投資についてである。「(ほしい人数分だけ)子どもを持たない理由」の多くを占めるのは、育児・教育の金銭的負担の重さである。この点について直接に少子化対策と絡めて公約や政策集で提起している政党はないが、日本ではGDPに占める政府教育投資の額がOECDで最低レベルであることが指摘されたこともあって、教育費負担の軽減は参院選のアジェンダのひとつになりうる課題である。

しかし現状ではそうなっていないようだ。具体的には、自民党の「総合政策集」には「幼児教育の無償化の検討」「公私間格差の解消」などが掲げられており、ある程度の積極姿勢はみられる。他方で民主党の「政策集」には該当する記述はみあたらない。公明党の「参院選重点政策」についても、大学における奨学金改革をのぞけば負担軽減についての記述はない。みんなの党は「アジェンダ」で教育行政を地方自治体に移行させるという理念を一貫させつつ政策を展開しているが、負担軽減については直接は触れられていない。今後の各党の発表に期待したい。

最後に。単に出生率を徐々に(たとえば1.6程度までに)上昇させていくということを目標に置くのなら、現在の「男性稼ぎ手」社会を基本的に維持したままの漸次的な改革で対応できるのではないか、というのが私の見方である。しかし社会保障体制を維持可能にするために、極端に高齢者に偏った歪んだ人口構成を是正していくためには、人口置換水準である2.1、あるいはそれ以上にまで出生率を上げていく必要がある。そのためには、社会全体のかたちを変える、いわゆる「レジーム変換」を実行する必要があるだろう。

その鍵は、雇用・働き方の抜本的な改革と、公的教育支出の思い切った引き上げについて、いかに国民的合意を形成できるかにある。

サムネイル:『Holding Hands With a Newborn Baby』storyvillegirl

http://www.flickr.com/photos/bibbit/6091832360/

プロフィール

筒井淳也計量社会学

立命館大学産業社会学部教授。専門は家族社会学、計量社会学、女性労働研究。1970年福岡県生まれ。一橋大学社会学部、同大学院社会学研究科博士課程後期課程満期退学、博士(社会学)。著書に『仕事と家族』(中公新書、2015年)、『結婚と家族のこれから』(光文社新書、2016年)、『社会学入門』(共著、有斐閣、2017年)、Work and Family in Japanese Society(Springer、2019年)、『社会を知るためには』(ちくまプリマー新書、2020年)、『数字のセンスをみがく』(光文社新書、2023年)など。

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