選挙制度はどう改革されようとしていたか

制度的ゲリマンダー

 

「ゲリマンダー」(Gerrymander)という言葉がある。アメリカ・マサチューセッツ州の知事だったエルブリッジ・ゲリーが、自分の政党にとって利益になるように小選挙区の区割りを変更した結果、サラマンダーのように奇怪な形をした選挙区が生まれてしまったことを皮肉ったものだ。のちにゲリーは連邦の副大統領になり在職中に死去しているが、この「ゲリマンダー」がなければおそらく日本でまで延々と記憶される名前にはならなかっただろう。選挙区割りや定数配分を恣意的に操作しようとする政治家が繰り返し繰り返し現れるたびに、彼の行為が引き合いに出されるのだ。

 

今回の民主党提案もその系譜に連なるが、新たな一コマになったとは言えるだろう。要するにこの提案は、それぞれ異なる理念に基づいて異なる結果を出すように設計された制度をつぎはぎすることによって、恣意的な結果を導き出そうという狙いから生み出されたもの、いわば怪物「制度的ゲリマンダー」なのである。

 

だが問題は、そもそものゲリマンダーが地図上に姿を現わし、誰の目にもその存在と奇怪さが見て取れるようなものであるのに対し、制度的ゲリマンダーの奇怪さを理解するためには制度という抽象的存在を理解するための知性と知識が必要になることだ。地図上の空間から抽象的な制度へと舞台を移すことでより巧妙に有権者をあざむく手法を活用した点は、画期的だと評価されてもいいかもしれない。

 

なお、民主党としては新制度はあくまで次回選挙について激変緩和措置を講じるためのもので、その次については総議席数を400に削減することと合わせ、また新たな制度に移行すると主張しているようである(民主党広報委員会による「今回の定数削減に限っての激変緩和措置」との表現(http://goo.gl/8UEXD)、民主党案附則4条「衆議院議員の選挙制度の改革については、次々回の総選挙(……)からの実施が可能となるよう(……)衆議院議員の定数を四百人とすることとして(……)次回の総選挙後、選挙制度審議会において一年以内に、検討を行い結論を得るものとする。」)。しかし、であるならばなぜ最低限必要なを超えた内容を盛り込もうとするのか。あるいは全国比例への移行や「連用制的」比例枠といった新たな要素を《抜本改革の前に》導入しようとするのか。

 

少なくとも私には、このような民主党側の主張が筋の通った説明を提供しているとはまったく思われない。いやむしろそれは、提案の本質から国民の目をそらそうとする手口でしかないだろう。それが民主政にとってもっとも重要な資源である《国民の選挙制度への信頼》を犠牲にしていることに、提案者たちはどれだけ自覚的なのだろうか。

 

民主党政権に対する全体的な評価、問責決議案という野党側の対応など現時点で進行しつつある政局、あるいは特例公債法案が成立する目処が失われたことによる政府の資金ショートの危険発生など、この問題の周囲にある多くの論点についてはさまざまな意見があり得よう。だが私としてはとりあえずその政局とやらによって、制度的ゲリマンダーが生まれる前に葬られたことを喜んでおきたいと思う。

 

 

 

 

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