STAP細胞の問題はどうして起きたのか

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問題の多い論文が、どうしてNature誌に掲載されたのか?

 

科学誌での論文査読(同じ分野の研究者による論文掲載の可否の審査)は、主に内容に整合性があるか等のチェックを行った上で、内容のレベルや話題性などを判断して掲載するかどうか決定されます。不正がある前提で査読されないので、不正のチェックとしては機能していません。また、再現性があるかどうか実際に実験して確かめるという再現性の検証は論文査読の段階では行われません。

 

STAP細胞の論文で切り貼りが確認されたDNA電気泳動の画像は、注意深く見れば不自然さが分かるものでしたが、査読では見落とされていました。

 

また、共著者に権威のある研究者がいるかどうかでも査読の通りやすさが違ってきます。

 

STAP細胞の論文がNatureに掲載されたのも、笹井芳樹氏・丹羽仁史氏・若山照彦氏というこの分野では実績と権威のある3名が含まれていたことも大きかったと考えられます。 バカンティー氏は幹細胞研究では主流の人ではなく、その分野での信頼性は上記3名の方が上です。

 

客観的に比較するために、STAP細胞論文を投稿する前の主要科学誌の掲載論文数[総説も含む]と論文の最高引用数を調べてみました。Nature誌に掲載された論文の数は、笹井氏8本、丹羽氏1本、若山氏3本、バカンティー氏0本。Science誌に掲載された論文の数は、笹井氏0本、丹羽氏0本、若山氏2本、バカンティー氏0本。Cell誌に掲載された論文の数は、笹井氏6本、丹羽氏2本、若山氏1本、バカンティー氏0本(主要3誌の合計論文数は、笹井氏14本、丹羽氏3本、若山氏6本、バカンティー氏0本)。

 

論文の最高引用数(Google Scholarより)は、笹井氏1133回、丹羽氏3965回、若山氏2719回、バカンティー氏595回でした(595回引用されたバカンティー氏の論文は、背中にヒトの耳が生えている様に見えるネズミを牛の軟骨細胞を使って作ったという論文で、「バカンティマウス」として知られていますが、幹細胞研究分野のものではありません)。

 

これらをまとめたのが次の表です。

 

 

業績比較-改

 

 

2012年にNatureに投稿して「過去何百年にも及ぶ細胞生物学の歴史を愚弄している」と言われ受理されなかったと小保方氏が話している論文では、笹井氏・丹羽氏は共著者に入っていませんでした。

 

 

再現性への軽視が生んだ「スター研究者」

 

STAP細胞の研究を進めていく過程で、「再現性」が軽視されていた事は、大きな問題だと捉えています。「再現性」というのは、他の誰でも同じ結果を出すことができるというもので、客観性を担保する上で重要となります。科学の手続きの中でも結果の信頼性を保証する大事な項目です。

 

しかし、若山氏が(理研に在籍している時に)小保方氏に教わって一度成功した他は、STAP細胞は小保方氏しか作ることができませんでした。Natureに論文を出すくらい自信があり、権威とされる人達が共著者にいるのですから、何重にも確認してから投稿したものと多くの人達は思っていましたが、実際には、理研の組織内では追試が積極的に行われずに「小保方氏の関与なしには再現できない」という「再現性が欠落」したまま突き進んでしまっていました。

 

人間の心理には「確証バイアス」というクセがあります。ある事を信じてしまうと、それに反する事が出てきても軽視しやすくなる傾向を持っています。科学の手法はこうした心理的な弱点を排除しながら洗練されてきましたが、今回の件ではSTAP細胞を見出したという研究成果を確かめる追試をしていたのは若山氏しかいませんでした(しかも成功したのは一度だけで、小保方氏と一緒にやっています)。

 

「再現性」は、別の人が独立して行っても同じ結果が得られないと成立しません。若山氏は理研から山梨大学に移った後で追試を繰り返しましたが一度も成功しておらず、厳密な意味での「再現性」は、まだ確認されていません(注:STAP細胞の再現性の確認は、多能性を示す実験とマウス作成までの一連の追試に成功しないと、再現できたとは言えません)。

 

理研は追試を他の研究員にも奨励した方が良かったのではないか思います。もし追試をする事が小保方氏を疑う様でやりにくいという遠慮があったのであれば、そうした雰囲気は自由な検証を妨げるもので、科学研究の場として問題があります。

 

科学として成立する大事な条件の1つである「再現性」の軽視は、「未熟な研究者」を「優秀な研究者」だと誤認させた原因ともなっています。STAP細胞の研究では小保方氏の実験に「再現性がない」ことが、他の人にはできない事を難なくやり遂げる飛び抜けた才能を持つ人としてすり替えられてしまい、逆に「優秀な研究者」だとして重宝させてしまったのではないでしょうか。ハーバード大のバカンティー教授も、自説を証明してくれた小保方氏のSTAP細胞の発見を手放しで喜んで高く評価していました。

 

 

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