環境エネルギー社会への想像力と実践 ―― 自然エネルギー政策・市場の展開

東北関東大震災により被災された方々には、心よりお見舞いを申し上げます。今回、シノドス・ジャーナルに本連載を投稿させていただくにあたり、最初にわたしが何者であり、どのような趣旨のもとで本連載を展開するかについて簡単に述べたいと思います。

 

わたしは現在デンマーク・オールボー大学大学院のPhDプログラムに所属し、北欧および日本の地域社会の自然エネルギーへの取り組みを社会的な視点から研究しています。また、NPO法人環境エネルギー政策研究所(ISEP)のフェローとして、日本国内の自然エネルギー推進に関わる研究および実践に取り組んでいます。ISEPには大学院修士課程在籍時からインターンとして活動に参加してきました。そういうわけで、わたしはおそらく日本では少数派の「NPO育ちの研究者見習い」であり、なおかつ「海外大学院生」という、やや変わった立場にあると考えていただいてよいかと思います。

3月4日にISEPの設立10周年記念シンポジウムがあり、それに参加するためわたしは一時帰国していました。地震当日(11日)午前中の便でデンマークに戻ったため、運良く地震の被害を受けることはありませんでしたが、その後、次第に判明する震災の被害や、日々深刻化する福島原発事故の情報を追うなかで、インターネット上でさまざまな論者が、今後の日本のエネルギー政策の方向性について言及するのを目にするようになりました。そうした議論を俯瞰すると、「自然エネルギーへの転換は必要とはいっても現実的ではない。原子力はおいたとしても、石炭火力で代替するしかない」という論調が多く展開されているという印象を受けました。

本当に自然エネルギーへの転換は現実的ではないのでしょうか?

現在、世界各国がエネルギー安全保障・経済対策・気候変動対策の柱である自然エネルギーをいかにして増やすかを第一に考え、実際に取り組んでいます。こうした動向を踏まえれば、口頭一番に自然エネルギーを選択肢から外すような日本での議論は、海外ではとうてい考えられないようなバランスの悪さであり、わたしは違和感を感じます。そうした議論に対しては、端的にいって「第4の革命」と呼ばれる「世界の自然エネルギーの急速な普及」という現実を理解せず、未来の持続可能なエネルギー社会への想像力が欠如しているのではないかと疑ってしまいます。

以上のようなことから、本連載では、試行錯誤しながら経験と知識を積み上げてきた北欧・欧州の実績を参照しつつ、また、国レベルの政策では失敗したものの、海外の先進事例に習って日本国内で先行して取り組みを進めてきた地域の事例なども踏まえ、日本の中長期的な環境エネルギーの展望を探りたいと思います。

 

 

加速する世界の自然エネルギー

では、世界の自然エネルギー市場がどのような勢いで成長しているのかをみてみましょう。「21世紀のための自然エネルギー政策ネットワーク(REN21)」によれば、世界の自然エネルギー新規設備への投資額は、2000年代中盤から急速に拡大し、2008年のリーマンショックを経ても成長を維持し、2009年には1,500億ドルへと伸びています(表1)。

 

 

表1. 世界の自然エネルギー新規設備への投資額(年間, 単位: 10億$)

表1. 世界の自然エネルギー新規設備への投資額(年間, 単位: 10億$)
データ: REN21

 

また、自然エネルギーのなかでも著しい成長を見せる風力発電(表2)と太陽光発電(表3)の設備導入量の加速は圧倒的です。

 

 

表2. 世界の風力発電設備容量(累積, 単位: MW) データ: World Wind Energy Association

表2. 世界の風力発電設備容量(累積, 単位: MW)
データ: World Wind Energy Association

 

表3. 世界の太陽光発電設備容量(系統連系型, 累積, 単位: kW) データ: IEA PVPS

表3. 世界の太陽光発電設備容量(系統連系型, 累積, 単位: kW)
データ: IEA PVPS

このような世界の自然エネルギー市場の成長の背景にあるのは、1990年代の欧州各国における自然エネルギー政策形成の試行錯誤と、その結果としての「固定買取価格制(Feed-in Tariffs, FIT)」の成功です。今日、「世界でもっとも成功した環境政策」と呼ばれるFITは、デンマークの風力発電初期の試行錯誤や、ドイツの地方自治体の先進的取り組みを源流として、2000年にドイツ連邦政府が採用した「自然エネルギー促進法(EEG)」に結実しました。

この法律は数年おきに詳細がアップデートされていますが、その骨子は、自然エネルギー発電設備を優先的に電力系統に接続することを認め、それらの設備から発電された電力は10年程度で投資回収が可能となるような高い価格で一定期間買い取られ、その費用は消費者全体で電力料金を通じて負担するというものです。

これにより、個人の太陽光発電設置も含むあらゆる自然エネルギープロジェクトが確実なキャッシュフローの見通しをもつことが可能となり、投資が進み、量的な普及が進むことで設備価格は下がり、研究開発が進むことで効率が上がり、なおかつ、新たにベンチャー企業が生まれ、雇用も拡大するという、奇跡のような成功をドイツは現在進行形で実現しています。そして、こうしたドイツの成功に追随するように、2000年代中盤以降、新興国・途上国を含む世界の多くの国や地域がFITを採用しはじめ、上述のような世界の自然エネルギーの急速な普及が現実のものとなっているのです。

要約すれば、自然エネルギービジネス・金融・技術、加えて地域社会の相互好循環を誘発させる「賢い政策」が、自然エネルギー市場の持続的な成長のひとつの柱であると考えることができます。

では、なぜ欧州ではそのような政策を採用することができたのでしょうか。これに関しては、国民および政治家による「政治的意思」が、もうひとつの柱として決定的に重要なのですが、ここでは立ち入りません。しかし、この「政治的意思」の弱さが日本の自然エネルギー促進の障壁のひとつであるということは指摘しておきたいと思います。(欧米における詳細はこちら、日本における詳細はこちらを参照)

 

 

 

シノドスをサポートしてくれませんか?

 

誰でも自由にアクセスできる本当に価値ある記事を、シノドスは誠実に配信してまいります。シノドスの活動を持続的なものとするために、ぜひファンクラブ「SYNODOS SOCIAL」のパトロンをご検討ください。⇒ https://camp-fire.jp/projects/view/14015

 

無題

 

シノドスが発行する電子マガジン

 

・人文・社会科学から自然科学、カルチャーまで、各界の気鋭にじっくりインタビュー
・報道等で耳にする気になるテーマをやさしく解説
・専門家たちが提言「こうすれば●●は今よりもっとよくなるはず!」

・人類の英知を知り、学ぶ「知の巨人たち」
・初学者のためのブックリスト「学びなおしの5冊」

……etc.

https://synodos.jp/a-synodos

1 2
シノドス国際社会動向研究所

vol.249+250 「善い生き方」とは何か?

・佐藤岳詩「善い生き方と徳――徳倫理学というアプローチ」
・井出草平「社会問題の構築と基礎研究――ひきこもりを事例に」
・大屋雄裕「学びなおしの5冊〈法〉」
・酒井泰斗「知の巨人たち――ニクラス・ルーマン」
・小林真理「「文化政策学」とはどんな学問か」