2017.09.11
インターネットと部落差別の現実――ネット上に晒される部落(出身者)
インターネット上の部落差別の現状
今、インターネット(以下、ネット)上ではネット版「部落地名総鑑」が公開され、被差別部落(以下、部落、同和地区)に対するデマや偏見、差別的情報が圧倒的な量で発信され、氾濫しています。そして「無知・無理解」な人ほど、そうした偏見を内面化し、差別的情報を拡散する傾向にあります。
ネット上での差別が放置される事で、現実社会での差別がエスカレートしています。現実社会では許されない差別行為でも、ネット上では無規制であり「ここまでやっても許される」と、差別に対するハードルが下がり、ついには「底が抜けた」現実が起きています。
「ネット空間」と「現実社会」のボーダーラインが曖昧になり、現実社会でもヘイトスピーチのように、公然と差別扇動が繰り返されています。
部落差別解消推進法(2016年12月施行)では、「情報化の進展に伴って部落差別に関する状況の変化が生じている」とし、ネット上の差別の深刻化を指摘しています。
今後、ネット上における部落差別、人権侵害に対して、国や地方自治体、企業や運動団体、市民などが総力を挙げて取り組む必要があります。
問題点(1)偏見・差別的情報が圧倒的
今、ネットで「部落差別」「同和問題」と検索すると、差別的情報(投稿・動画等)が検索上位を占めています。ネット上では正しい情報が常に検索上位にくるとは限りません。差別的サイトでもアクセス数が多いほど検索上位に表示されるからです。
部落問題についてネットで検索をすると、デマや偏見などの悪質な投稿・情報も多くあります。学生や行政職員、若い先生などが、部落問題について学ぼうと思って検索すれば、最初に目にするのが、これらの情報です。
ある中学校では、人権教育の授業のなかで、ネット検索した情報を元に生徒から「暴力団の7~8割は部落出身者」との発表があり、先生が発言の内容を確認すると「ウィキペディアに書いてあった」と言われ、慌ててデマ情報であると指摘したケースも報告されています。
ベストアンサーの約7割が差別的回答
部落問題の検索上位の代表として「Yahoo知恵袋」の質問サイトがあります。(公財)反差別・人権研究所みえが2013年に質問上位1000件(「同和」検索)を分析しました。その結果、3分の1が「偏見に基づく差別的な質問」333件(33%)、次の3分の1が「知識を問う質問」313件(31%)、残りの3分の1が、身元調査(70件)や結婚差別(25件)、土地差別(25件)などの深刻な相談でした。
これらの質問・相談に対し、多くの人が回答しています。しかし、質問者自身が部落問題について「無知・無理解」であるため、何が正しい回答なのか判断できません。
その結果「ベストアンサー」の約7割が「部落は怖い」などの差別的回答が採用されていました。中には、深刻な結婚差別の相談もありました。しかし、「やめておいた方がいい」などのアドバイスが多く、結婚を断念したケースもあります。
また、最近では「Yahoo!知恵袋」をはじめ他の質問サイトでも、「どこが部落か?」「結婚相手が部落出身かを調べるには?」などの質問に、ネット版「部落地名総鑑」(同和地区wikiミラーサイト等)が紹介され、結婚相手の身元調査や上地差別調査などに利用されている事例が多く見られます。
問題点(2)同和地区の所在地情報の掲載
現在、全国5300カ所の同和地区の所在地(地域名、住所、戸数、人口、職業等)がネット上に公開されています。Googleマップを悪用し、全国の同和地区がマッピングされ、地図まで作成されています。
さらに、市町村別の部落出身者の人名リスト(「同和地区と関連する人名一覧」等)も作成され、1万人以上の部落出身者がネット上で晒されています。
部落解放運動の団体役員などの個人情報(住所・氏名・電話番号等)も1000人以上(2017年1月末現在)、が本人同意なくリスト化され、ネット上に次々と晒され続けています。
ある県では、部落出身者800人以上の住所・氏名・年齢・生年月日等の個人情報がネット公開され、Googleマップに自宅がマッピングされて、ネット上に晒されていました。
「部落」「同和地区」で検索をすると、これらのサイトが検索上位に表示されています。
確信犯の鳥取ループ・示現舎
このように、ネット上に同和地区の所在地情報を意図的に掲載し、拡散し続けてきた中心人物が鳥取ループ・示現舎のMです。「鳥取ループ」とはブログ名(管理人・M)であり、「示現舎」とはMが共同代表をつとめる出版社(社員2名)です。
鳥取ループ(代表・M)は10年くらい前から、「同和問題のタブーをおちょくる」として、行政に対して同和地区の所在地情報を開示請求し、得たい情報が非開示となると裁判を起こし、同時にネットで公開を繰り返してきた確信犯です。
示現舎は「部落探訪」として、全国の部落を回り、住宅や個人宅の表札・車のナンバー、商店、墓碑などを写真や動画で撮影し、住所とともにネット公開し続けています。また、YouTubeに子どもたちや青年の顔が映っている動画投稿を二次利用して掲載し、地元の保護者や関係者が削除要請をしても拒否し、ネット上で公開し続けています。
「部落地名総鑑」復刻版の出版・ネット公開
「部落地名総鑑」とは、全国の被差別部落の一覧リストで部落の地名や所在地、職業や苗字等が記載れていた差別図書です。
1975年に発覚し、現在までに10種類が確認されています。当時、企業や興信所などが、部落出身者に対する就職差別や結婚差別の身元調査に利用していました。
大手企業や個人を含め数百社が購入しており、現在までに法務省が差別図書として663冊を回収してきました。
この「部落地名総鑑」の原点となった本が、『全国部落調査』といわれています。1936年に政府の外郭団体が全国の部落の実態調査を実施した報告書です。戦後になり、この本が悪用され「部落地名総鑑」が作成・販売されていました。
2016年2月、鳥取ループ・示現舎が、この『全国部落調査』を現在の地名(所在地)を加えて編集し、「部落地名総鑑の原点」として復刻版を出版しようとしました。この問題は、国会でも取り上げられました。東京法務局長も2016年3月に「人権侵犯」として示現舎の代表Mに対して、出版を中止するよう「説示」しましたが、Mは拒否しました。
解放同盟が出版禁止を求めて訴訟を起こし、横浜地裁(相模原支部)が出版禁止の仮処分決定を3月28日に下しました(2017年6月、東京高裁も「仮処分」決定を支持する判決)。しかし、示現舎はその間も「同和地区wiki」というサイトを立ち上げ、ネット上に「全国部落調査・復刻版」の内容を掲載し、拡散をあおりました。
このサイトも解放同盟の訴えにより2016年4月18日、裁判所からの掲載禁止の仮処分決定が出され、同サイトは削除されました。しかし、すでにコピーサイト・類似サイトが多数作成され、差別身元調査等に利用されている深刻な状況が続いています。
問題点(3)ネット検索で差別身元調査を可能に
彼らの行為の最大の問題は、ネットで差別身元調査を容易に出来るようにしたことです。これまで結婚差別や就職差別によって、多くの人の人生と命が奪われてきました。その中で、行政や学校をはじめ、企業や宗教者、あらゆる団体や多くの人たちの取り組みにより、身元調査や「部落地名総鑑」の規制を勝ち取ってきました。これらをネット社会の便利な機能を悪用し、鳥取ループは、一瞬で破壊してしまいました。
本人同意なく他者が部落出身者を「暴く」行為は、明確なプライバシー侵害です。何より、部落差別が現存する中で、ネット版「部落地名総鑑」を不特定多数に公開することは、部落差別を誘発・助長する許されない行為です。
これまでも当事者団体の機関誌や研究所などの出版物でも同和地区の地名を出しているケースもありました。しかし、そこで掲載する際にも、地元の解放運動の状況や関係者の了解などを踏まえ、部落差別をなくす目的のなかで、最大限配慮しながら掲載してきました。地域の状況や出版物の目的、掲載物などによっては、地名を出さないケースもありました。たとえ問題が起きたとしても、しっかりとフォローし、問題に対応する前提で関係者と連携し、掲載してきました。
しかし、示現舎らは同和地区の所在地を暴き、晒しものにして、そこで生じる差別や人権侵害などの責任はとらないというスタンスをとっています。
すでに、ネット上では、「どこが部落か」「部落出身者かどうか」を調べるために、ネット版「部落地名総鑑」が紹介・利用され、結婚相手の身元調査や、不動産取引における土地差別調査(同和地区か否かの調査)、行政等への同和地区問い合わせ事件も起き始めています。
学校現場への影響
ネット上では鳥取ループ・示現舎により「同和地区wiki」(「部落地名総鑑」)のコピーサイト、類似サイトが無数に拡散されています。これらのサイトは、「部落」「同和」で検索をするとアクセス数が多いために、検索画面の上位に表示されます。
スマホを持つ小中学生や高校生が、ネットで部落問題について知ろうと思ったら、差別的情報を真っ先に閲覧していきます。学校現場では、すでにネット版「部落地名総鑑」を利用した問題も各地で起きています。
関西のある大学では、学生がネット上の「部落地名総鑑」「部落人名総鑑」を利用して、自分や友人、恋人などが部落出身でないかを調べ、差別的なレポートを提出していました。他の大学でも同様のケースが報告されています。ある中学校では、子どもたちが興味本位で地元の部落を調べ、学校で部落出身者暴きをしていました。
もう「寝た子を起こすな」論は通用しません。「寝た子はネットで起こされる」時代になりました。子どもたちがネット上の差別的情報を見たとしても、「だから、どうしたんや!」と言える力、差別や偏見・デマ情報を鵜呑みにしない力をつける必要があります。そのために、最低限の部落問題学習をどの学校でも実施する必要があります。
当事者への二次被害(閲覧ダメージ)
差別投稿が何百人、何千人もの人に「いいね」と評価され、何万人もの人が閲覧しているのに、無批判に投稿が放置され、垂れ流されている現実があります。
当事者が差別情報(投稿・動画等)を閲覧するという事は、本人が直接、差別を受ける事と同じぐらいのダメージがあります。「自分の出自が明らかになれば、攻撃対象になるかもしれない」という恐怖。その差別投稿と現実を当事者が目の当たりにする事で、傷つき、社会と人間に対する信頼が壊されていきます。自分のルーツや肯定的アイデンティティが否定され、社会への不安と緊張が強いられる「二次被害」を受ける事にもなります。
2016年2月、鳥取ループ・示現舎による『全国部落調査』復刻版事件が起きて、私自身も改めてネット上の部落差別の深刻さを思い知らされました。ネット上の部落差別の実態把握のために、差別的投稿や画像・動画などもたくさん見てきました。
数ヶ月が経った夏頃、複数の円形脱毛症ができて、どんどん大きくなっていきました。ネット上での差別情報の閲覧や対応等によって、私自身も無意識に多くの精神的・身体的な被害・ダメージを受けていた事に驚きました。
自宅に差別ハガキが
そして、ついに、恐れていたことが起きてしまいました。今年(2017年)の正月、私の自宅に差別ハガキ(年賀状)が送られてきました。表には、私の自宅住所と名前が書かれ、差出人は不明。年賀状であるために消印はありませんでした。裏面に「エタ死ね」と書かれていました。
小学生の私の娘が第一発見者でした。それが何より辛く、胸が締めつけられました。子どもが不安げな顔をして、差別ハガキを私に見せました。その文字を見た瞬間、私は頭が真っ白になり、心臓を刃物でえぐられる痛みがしました。「パパ、死ねって書かれているけど、大丈夫なん?殺されない?」と心配する子どもに対して、「大丈夫だからね」と答えるのが精一杯でした。
そして、「エタって、どういう事なん?」と聞かれました。私は娘に対して、「『穢多」(エタ)というのは『穢れ』が『
私は自宅住所を公表しておらず、友人など限られた人たちにしか教えていませんでした。どこで自宅住所が分かったのか。私の名前をネットで検索すると、あるサイトに自宅住所と電話番号が掲載されていました。その情報を元に、何者かが差別ハガキを送りつけた可能性が高いことが分かりました。また、昨年の秋頃から、連日、自宅に非通知の無言電話が掛かってきていました。
すぐに、サイトの自宅住所の削除を求め、法務局に相談に行き、差別ハガキに利用されたネット上の個人情報、類似犯による二次被害の防止を法務局に訴えました。
そして、多くの人たちがサイトに削除要請・違反通報をしてくれたおかかげで、なんとか削除されました。しかし、一度ネット上に掲載された情報を完全に消去することは難しく、現在は別のサイトにも掲載されている状況が続いています。
事務所や個人宅に刃物や差別投書が
2017年春頃から、解放同盟の事務所や役員個人の自宅などへ刃物入りの差別投書も送られはじめました。解放同盟三重県連の事務所には、アイスピック入りの差別投書が複数回届いています。
今年5月、組坂繁之・中央執行委員長の福岡県内の自宅には、カッターの芯が封筒内に貼り付けられ、開封時に手が切れるように仕組まれた差別投書が送り付けられてきました。組坂委員長は、開封時にカッターで手を負傷してしまいました。
示現舎が掲載した「解放同盟関係人物一覧」や類似の「人物一覧」は多数作られています。この間、彼らを批判し、目立つ発言をする個人はターゲットにされ、匿名の何者かによってその個人情報が次口とネット上に晒され個人攻撃が行われ、二次被害が生じています。
問題点(4)被害者救済の課題
法務省は自力救済が基本
ネット上で人権侵害を受けて法務局に相談をしても、基本的に被害者本人がプロバイダ等へ削除依頼を行わなければなりません。自分で被害を回復する事が困難な事情がある場合や削除されない場合に、初めて法務局がプロバイダ等へ削除「要請」を実施する事になります。
2016年に法務局・地方法務局がネット上の人権侵犯事件として処理したのは1789件(全1909件)でした。しかし、法務局がプロバイダ等へ、削除「要請」をしたのは18.2%(326件)です。大半は被害者に削除要請の方法等を教える「援助」という対応です。
個人でプロバイダ等に削除要請するとしても、多くの人は、その方法すら知りません。しかも、個人で削除依頼をしても、なかなか削除をしてもらえません。海外サーバーだと削除対応はもっと困難になります。
また、名誉毀損や侮辱罪といった民事訴訟になると、裁判で勝ってもそれ以上に裁判費用がかかり、経済的にも精神的にも負担が大き過ぎます。行政や地方自治体などが、ネット上の人権侵害の被害者に対して、より積極的に支援することが必要です。
法整備の課題
被害者救済の課題としては、法制度の問題があります。「プロバイダ責任制限法」は、差別情報の発信者の個人情報の開示が可能となっています。しかし、損害賠償請求などで訴訟する場合にのみであり、人権侵害を受けていても訴訟をしなければ開示されません。
裁判となると費用も時間もかかりハードルが高く、訴訟でなくても開示出来るように法改正を求めていく必要があります。しかも、海外のプロバイダに対しては法的拘束力がありません。
ヘイトスピーチに関しては大阪市では事後規制の条例があり、川崎市では事前規制が審議会で提言されて進んでいます。各地の自治体の先駆的な取り組みを共有し、広げていく取り組みが求められています。
今後の課題
(1)国・地方自治体の取り組み
●「相談窓口」「通報窓口」の設置
「部落差別解消推進法」では「相談体制の充実」(第四条)が求められています。まずは、ネット上の人権侵害に対する相談窓口を設置し、市民へ周知する事が急務です。
そして、被害者の権利回復の支援が出来る相談員のスキルアップ、関係機関との連携体制の充実などに取り組む必要があります。
また、大阪府のようにホームページ上に、差別書き込みに対する通報窓口の専用フォームを設けて、市民からの通報による情報収集をする事も有効な手段の一つです。
●モニタリング(実態把握)と削除要請
行政はネット上での差別情報や人権侵害の実態把握につとめ、悪質な差別投稿などへの削除要請に取り組む必要があります。
すでに、三重県や広島県福山市や兵庫県尼崎市・伊丹市・姫路市、奈良県全市町村(「啓発連協」)、香川県(香川県人権啓発推進会議)などでは、自治体の人権担当課や民間団体等の協力を得て、モニタリングを行っています。
個人や同和地区に対する悪質な差別情報を発見した場合は、法務局などと連携し、サイト管理者へ削除要請をしています。
今後、ネット上の部落差別の実態把握に向けて、まずは各自治体でのモニタリングを実施していく必要があります。
●削除基準(ガイドライン)の作成
差別投稿などの削除要請をより効果的に実施するためにも、まずは国や地方自治体レベルで、どのような投稿の場合に削除要請を行うのかなど、基本方針(ガイドライン・削除基準)を作成する必要があります。どのようなケースを部落差別の削除対象とするのかの基準は、これまで現実社会で対応してきた人権侵害事例や差別事件を参考にして判断していくことです。
例えば、「部落地名総鑑」や差別身元調査、引越やマイホームの購入時に同和地区かを調べる土地差別調査などは、現実社会では完全にアウトなので、ネット上でもアウトとするなど。「エタ」や「ヨツ」など差別語などを使用した差別発言や差別落書きなども、現実社会ではアウトなので、ネット上でも削除対象にするなどです。これまで積み上げてきた、人権侵害、部落差別の事例をもとに、削除基準を作ることが求められています。
(2)企業の取り組み(「差別禁止」規定を!)
インターネットサービス提供業者は、企業の社会的責任として、差別問題の解決に向けて、主体的に取り組む必要があります。当面の取り組みとして、下記があげられます。
●サービス提供時に、利用者との契約約款(利用規約)に「差別投稿の禁止」事項を設け、人権ガイドライ ンを策定(削除基準)する事
●差別投稿に対する通報窓口を設置し、削除対応を行う事
●差別投稿の削除
プロバイダ業界団体が「差別禁止」規定を!
「ヘイトスピーチ解消法」「部落差別解消推進法」施行を受けて2017年3月、プロバイダ・通信関係4団体は、「契約約款モデル」の「禁止事項」の解説を改訂しました。削除対象となる「違法・有害情報」に、「ヘイトスピーチ」と「差別を助長・誘発する同和地区を示す情報」が該当し、禁止事項に該当するとの認識を示しました。
今後の課題として、この「契約約款モデル」に準じて、各社が利用者との契約書を改訂していく取り組みを行っていく必要があります。
また、モニタリング(ネット上差別の実態把握)を実施し、違反を発見した場合は「契約約款モデル」の削除基準を根拠に、削除要請を実施していくことで、より削除率を上げていくことが予想されます。
ネット上の「部落地名総鑑」の規制
鳥取ループ・示現舎との裁判が決着をしても、すでにネット上に大量に拡散され、新たに作成され続けているネット版「部落地名総鑑」をすべて回収する事は難しいです。しかし、検索サイトでフィルタリングをかけて表示出来なくしたり、検索上位に表示されないようにしたりするなどの対応は現在のIT技術では現実的には可能です。
Yahoo!では、有害サイトフィルタリングサービスを無料で配信しています。専門スタッフが最新情報を収集管理し、フィルタリングをかけて「違法・有害情報」を表示できないようにしています。
また、欧州ではGoogle社も検索エンジンで、「ホロコースト」を否認するサイトなどは、検索上位にならないように検索エンジンの表示方針を見直しています。Facebook社もフェイクニュース対策にも取り組みはじめています。
今後、企業等の最新の技術を利用し、ネット版「部落地名総鑑」の公開・流布などに関する規制や、業界団体の自主ガイドライン等の作成に取り組むことが求められています。(参照「違法・有害情報相談センター」http://www.telesa.or.jp/ftp-content/consortium/illegal_info/pdf/The_contract_article_model_Ver11.pdf)
(3)反差別団体や市民の取り組み
●部落問題総合サイトと「正しい情報発信」
現状では、部落問題に関しての魅力的なサイトは圧倒的に不足しています。ネット対策、メディア戦略は大きな課題であり、今後、ヒト・モノ・カネを配置して、総力を挙げた取り組みを進める必要があります。
当面の課題の一つとして、ネット上に部落問題の国内総合情報サイトを作る必要があります。例えば、中高生や若い人たち向けの部落問題のサイトやネット版『部落問題・人権辞典』の作成などです。
すでに学校や地域、職場などでの人権教育では、多くの教材や研修資料、書籍があります。しかし、ネット上では、それらの教材がほとんど、活かされていません。
そのパワーを1割でもいいからネット上に注ぐだけでも、現状は変わってくると思っています。海外ではネット上で若者向けの人権教育のサイトや教材なども作成されており、ネット上での反差別・人権教育の本格的な取り組みが行われています。
国内においても、部落問題の総合サイト、正しく学べる総合サイトの作成にむけて、研究者や専門家、活動家など多様な人たちで総力をあげて作成してくことが求められています。
●「カウンター投稿」と「デマ情報」の否定
次に、差別投稿や質問サイトに、積極的にカウンター投稿をしていく事も重要です。差別サイト、差別投稿を無視していれば、新たな偏見と差別が拡散されていきます。
出来るだけ多くの個人がカウンター投稿や情報発信をしていく取り組みを促進したいです。その際に、基本的なマニュアル原稿(テンプレート)を作成しておく事で、誰でも気軽にカウンターしやすくなる取り組みなども必要です。
また、デマは「本人にとってはデマであると知るまでは、真実」であり、デマ情報に対してははっきりと否定し、正しい情報を提示する必要があります。
その意味でも、デマや偏見情報をネット上で無視し続ける事は、結果として差別・偏見を助長し続けることになります。しっかりとデマを否定する正しい投稿が必要となります。
ウィキペディアやヤフー知恵袋、通販サイトの書籍のレビューへの積極的な投稿も行う必要があります。現状では、一部の差別主義者たちにより、大量にヘイト情報やデマ・差別情報が投稿され続けている現状があります。
これらに対しても、無視することなく、各個人で出来る範囲で反差別情報をしっかりと投稿していく取り組みが決定的に重要となります。差別主義者たちは、それらをまめにやり続けることで、情報操作・印象操作を行い、差別扇動を効果的に行ってきました。それらに負けない取り組みが必要です。
すでに若手の活動家や研究者などの有志が、鳥取ループ・示現舎に対する裁判の支援サイト「ABDARC(アブダーク)」を立ち上げて、ネット上での部落問題の情報発信やイベントなどを開催して、新たなネット上での部落解放運動が展開されています。
そこには反ヘイトスピーチのカウンターやLGBT、障碍者差別、反差別運動などに取り組む若者たちも参画しています。他の社会運動での先駆的なネット上での闘いに学びながら、部落問題のカウンターの輪が広がり始めています。
ネットが差別を強化している状況がある一方で、同時にネットは差別をなくしていく大きな力にもなります。ネットのマイナス面だけでなく、プラス面を活用し、「部落差別解消推進法」を活かした組みを進めていきたいと思います。
おわりに
これまで見てきたように、ネット上における部落差別の深刻な問題としては、
(1)ネット版「部落地名総鑑」の公開
(2)部落出身者の個人情報の公開(晒し)・攻撃
(3)デマ・差別的情報の蔓延
(4)被害者救済(現状は自力救済)
という点があります。そして、これらの課題に対して有効な対策が行われていない事が、事態をより深刻化させています。
今後、これらの課題に対する総合的な取り組みが求められています。部落問題解決のためにも、早急に国や地方自治体、企業、運動団体などの各組織でネット上における部落差別、人権問題の対策チームを立ち上げて、今後の対応を検討していく必要があります。
まだまだ、課題は多いですが、ネット上における人権侵害、差別扇動に対する取り組みは世界的に共通の課題です。先駆的な取り組みに学びながら、ネット上での人権確立に向けた取り組みを、今後も取り組んでいきたいと思います。
プロフィール
川口泰司
愛媛県の被差別部落に⽣まれる。中学時代、同和教育に本気で取り組む教員との出会いから部落解放運動に取り組むようになる。(社)部落解放・⼈権研究所、(社)⼤阪市新⼤阪⼈権協会を経て、現在は⼭⼝県⼈権啓発センター事務局⻑として活動。『ハートで挑戦、自己解放への道!』(解放出版社、2006年)、「ネット上における部落差別の現実と今後の課題」(共著『部落差別解消法』、部落解放・人権研究所編、2017年)、「部落差別解消法を活かし、ネット上の差別にどう立ち向かうか」(『ヒューマンライツ』2017年4月号)、『差別っていったいなんやねん?』(DVD「部落の心を伝えたい 第6巻」、2004年)、『私の中の差別意識』(DVD、東映株式会社、2010年)など。