すべての妊娠に寄り添って

「生理が予定日より遅れています。妊娠してしまったかと思うと不安で、夜も眠れません」

「生理が遅れていて、今日検査薬を使いました。陽性反応が出て、妊娠していることがわかりました」

 

妊娠にまつわるすべての「困った、どうしよう」に寄り添うことをミッションとする私たちの相談窓口には、毎日さまざまな相談が寄せられている。相談者の声に耳を傾けていると、「妊娠」の背景にある、経済的な問題やキャリアプランでの葛藤、家族との意見の不一致など、多様な問題が見えてくる。

 

 

相談件数は増加の一途を辿る

 

「妊娠したかもしれない」と思ったその時から繋がれる存在を目指し、妊娠SOSは2015年に設立された。開設以来、今も相談件数は増加し続けている。東京をはじめとする首都圏からの相談が多いが、これまでに全国47都道府県、および海外在住日本人の方からの相談が寄せられている。

 

 

 

 

具体的には、2017年度の相談は772件(前年度396件)。2018年3月までの相談支援回数は述べ6700回にのぼる。その内訳は10代が36%、20代が35%、30代が14%。多くが女性からの相談であるが男性からの相談も14%ある。また、家族や知人・友人からも相談が寄せられている。

 

 

 

 

どの年代でも、妊娠がわかった後の相談よりも、「妊娠したかもしれない」状況での相談が多い。10代ではその割合がとくに高く全体の約80%。以下、20代で約50%、30代で約35%と続く。

 

具体的な相談内容としては、妊娠への不安や「いまは妊娠したら困るのに……」という訴えが多い。このような不安や悩みを抱えるのは、どのような相談者であるとイメージするだろうか。もちろん、学生や仕事を始めたばかりという若年者も多いのだが、3人目の妊娠や、自分のキャリアの再開を考えていた矢先の妊娠といったケースも少なくない。

 

そんな相談者の多くは、思いがけない妊娠を夫やパートナーに相談しても、一緒に悩み考えてもらえず「君が決めて良いよ」と言われ、結局は一人で産む産まないを決めなければならない状態に追い込まれてしまいがちである。また、「妊娠はおめでたいことだから、産まないなんて考えられない」。周りの人にそんな言葉をかけられ、自分の正直な気持ちを飲み込んでしまい、ますます悩みを深くすることも多い。

 

どんな人であっても、一人で妊娠から出産、その後の子育てを行うことはできず、周りの支援や協力が必要になる。妊娠がわかり、産むか産まないかを考えたときに、迷いなく産む決断をできる人はどれ程いるのだろうか。

 

イクメンという言葉が2010年の流行語になり、男性の育児や家事への参加も特別なことではなくなって来ているように感じる。だが、実際には、まだワンオペで育児をしている人や「夫が仕事をしている平日は、一人で育児をするしかなく、とても疲れる」と感じながら、日々をやっとの思いで過ごしている人も多い。

 

周りの家族や友人、知人が思いがけない妊娠をして悩んでいる人がいたら、ぜひ、自分が何かできることはないか、そして、本人の思いや気持ちを聞いてあげてほしいと思う。「自分で決めていい」と夫やパートナーに決断を任されるプレッシャー、また、自分一人で頑張らなければならないという緊張を、少しでも緩められるような関わりを持てたら、どれだけ本人の気持ちが軽くなるだろう。どれだけ、本人のこれからの暮らしの可能性を広げることにつながるだろうかと思う。

 

 

「切れ目のない支援」に潜む切れ目と、0ヶ月0日の虐待死

 

 

 

現在、内閣府では「切れ目のない支援」をミッションとして掲げ、妊娠期からの継続的な支援を目指している。

 

多くの場合、妊娠検査薬で陽性反応を確認し、そして病院で産婦人科医による妊娠の確定判断を受けた後、行政へ妊娠届を提出し、母子手帳を受け取る。母子手帳を交付する際に妊婦と全員面接を行うことをルールとしている市区町村も多く、そこで支援が必要であると保健師や助産師が判断した場合、面接や訪問など妊娠期から支援を継続的に受けることができる。

 

だが、「切れ目のない支援」のスタートである母子手帳を受け取りにいかなかった場合、どうなってしまうのかをみなさんは考えたことがあるだろうか。

 

私たちの相談窓口にたどり着いた妊婦は、母子手帳未交付の方が少なくない。

 

経済的な理由などにより、初回の診察を受けることができなかったり、「誰にも言えない」「気づかれないようにしなきゃ」、そんな思いで妊娠を隠し続けていたりすると、母子手帳を受け取りには行けないし、行かない。周りの誰かが妊娠に気がつき支援に繋がれば良いが、お腹が大きくなるまで気付かれない場合もあるし、気付いたとしても周りは見て見ぬ振りということもある。そんなふうに社会のなかで孤立している妊婦がいる。

 

しかし、こうした妊婦は行政からは見えない。行政に把握されないまま、誰とも繋がることのないまま、一人きりで出産の日を迎えることになる。どんな思いで、陣痛を乗り越え、お産をしたのか、赤ちゃんが生まれた時にどんな気持ちだったのか、そんなニュースを見るたびに胸が痛む。

 

そんなことはしてはいけないと批判することは簡単だが、その前にそんな状況を作り出している社会背景に目を向けて欲しい。

 

平成27年度に、児童虐待死で亡くなった子どもの数は52人、そのうち0ヶ月0日でなくなった赤ちゃんは12人にのぼる(注1)。そのほとんどで母子手帳未交付だったことがその後に明らかになっている。また、別の統計(注2)では、全国で分娩後に母子手帳を受け取った人が2477件あったことが明らかになっている。さまざまな理由により、分娩後の母子手帳交付になったと予測されるが、その2477件の中には53人目、54人目に亡くなる可能性があった赤ちゃんであるケースも存在しただろうということは容易に想像できる。

 

 

(注1)厚生省「子ども虐待による死亡事例等の検証結果等について(第13次報告)

(注2)公益財団法人母子衛生研究会『母子保健の主なる統計』、母子保健事業団、平成29年、p.98

 

 

性に悩む10代の相談者さんたち

 

私たちの相談窓口で、とくに相談の割合が増加しているのが10代からの相談である。月別の件数を見ると、夏休み明けの9月と、年度終わりの3月に相談件数の増加が見られている(15歳〜17歳の高校生に当たる年齢でも同様の傾向をたどっている)。

 

10代からの相談の特徴として、メールでの相談が60〜70%と過半数をしめていることがある。しかし、15歳に限って見てみると、電話での相談が30パーセントと、他の年齢層よりも高くなっている。電話での相談は、本人の状況が切羽詰まっていることが多い。

 

 

 

 

10代の相談者は、「ネット検索」やYouTubeの動画から私たちの相談窓口につながることが多いのも特徴の一つだ。

 

今の高校生をはじめとする、10代の若者はSNSがすぐそばにある中で育ってきた世代である。調べたいことやわからないことはインターネットで探せば、すぐにたくさんの情報を手に入れることができる。そして、そうやって調べることが当たり前の世代。

 

しかし、インターネットの中には正確性にかける情報や、たった一人の経験があたかもみんなに共通の事柄のように書かれている情報が多い。だが、そのことをわかっている高校生は少ない。ましてや、人に知られたくない妊娠や性については、どの情報が正しくて自分に必要なのかを取捨選択するのは、とくに難しくなるだろう。

 

また、SNSが身近であることは、周りにいる保護者や友人などに知られたくないことを、相談せずに自分だけで解決できるかもしれないと、思い込ませる作用もあるのではないか。言い換えれば、自分の本当の気持ちや不安を誰にも言えず、自分の中に留めてしまいやすい状況を、SNSが作り出しているのかもしれない。

 

だが、なぜ一人で抱え込もうとするのか。

 

それは、友達には友達としての良い自分でありたい、家族には家族としての良い自分でありたい、という思いがあるからではないか、と感じることがある。

 

よく「彼に避妊を強く求められなかった」「パートナーにも親にも知人・友人にも心配かけられないから相談できない」「不安にさせたくないから、言えない」という声が寄せられる。そこには、自分自身の気持ちや体を大切にする、という視点が欠けている。自分のことより相手のこと、誰にも心配かけずにいられることが、何より大事になっている姿が見える。

 

そんな相談者の声を聞いていると、性の知識・理解、とくに、避妊や妊娠に対する学びももちろん必要だが、それよりも「自分を大切にするとは?」「友人や恋人との関係の作り方」という、人がその人として、自律的に生きていく上で大切なことを根底にした、人権としての性教育がより必要になってくるのではないかと日々感じている。

 

学校現場にこそ、人権としての性教育が必要であるにもかかわらず、「妊娠」は学校現場には存在しないものにされてしまっていた。妊娠を理由に退学させられたり、妊娠しているにもかかわらず体育の授業の見学を許されなかったりすることもあった。文科省は、やっと高校生の思いがけない妊娠で退学させてはならない、配慮しなければならないと通達を出したが、今後妊婦である生徒にどのように対応して行くのかは、各学校に任されている。また、配慮の対象は、妊娠した女子生徒のみであり、男子生徒については言及されていない。

 

誰もが思いがけない妊娠をする可能性があることを前提とした、性教育がのぞまれる。そのためには、助産師や産科医、女性相談員などを招くなど、学校の門戸を広くすることが大事なのではないだろうか。

 

 

私たちが未来を作る

 

ライフプランや妊娠・出産の多様性が認められない社会は生きづらい社会である。人の性格に個性があるように、人生のあり方も家族のあり方も多様性があっていいのではないだろうか。こうでなければならない、そうでなければならないという無意識化された認識のレールを外し、誰もが大切な社会の一員であり、それぞれの人の気持ちや選択が尊重される優しさのある社会を目指したい。

 

それであってこそ、一人ひとりが幸せに生きて行くことができるのだから。

 

 

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シノドス国際社会動向研究所

vol.254 公共性と社会

1.長谷川陽子「知の巨人たち――ハンナ・アーレント」
2.岸本聡子「公共サービスを取り戻す」
3.斉藤賢爾「ブロックチェーンってなあに?」
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