2020.07.29

Withコロナ体制を作るため、今すぐ「攻め」の緊急事態宣言を

海老原嗣生 株式会社ニッチモ代表取締役、『HRmics』編集長

社会

三浦瑠麗氏まで「海外の支援は手厚い」と誤解

今朝(7月28日)のとくネ(フジテレビ系列)でも三浦瑠麗氏が、コロナ禍で経済を止めるな!発言をされていた。ご趣旨は以下の通りだ。

① 日本は肺炎でも月間8000人程度の死者が出ている。これも肺炎球菌という病原菌によるものであり、新型コロナウイルス(以下「コロナ」)と変わらない。でも普通に経済は続けられている。

② 経済を止めても大丈夫な国、たとえば香港などでは、有り余る金融ビジネスからの余資により、補償などがしっかり払える。日本ではそれが無理だ。

③ こうした中では、Withコロナ型の「蔓延を最小限にとどめながら」経済を再開する手法について、政府はしっかりリードすべきだ。

私ももちろん③には納得する。ただ、①②については疑問を持たずにいられない。とりわけ②に関しては大きな間違いだ。

まず、①だがこれは私の専門外なので、素人的な視点でのみ語っておく。肺炎球菌に関しては、ワクチンが存在しており、ある程度の予防が可能だ。また、肺炎球菌は常在性が強く、小児を中心に保菌者は多い。ただし、健常者は発病せず、抵抗力の弱った人のみ発病し悪化する。つまり、保菌者を隔離して感染を押さえることが不可能に近い。これら2点がコロナとは大きく異なる。

続いて②だが、この点については、香港のコロナ関連での経済的支援策が大したものではないことは、第6稿をご覧いただきたい。概略を示すと、以下の通りとなる。

<香港>

生活支援)18歳以上の香港永住者に14万円を支給。

雇用維持)給与の半額(上限12万6000円)を6か月間補助。

対して日本はどうか?

<日本>

生活者支援)定住者全員に10万円を支給。

雇用維持)売上が前年比5%以上ダウンした場合、中小企業は100%、大企業は75%を補助(1日当たり1万5000円が上限。常勤の場合、月額換算33万円程度)を9月30日まで。→それ以降は、休業補償額に対して中小企業は2/3、大企業は1/2(いずれも上限日額8400円)を支払う。

比較してみれば、香港がそれほど優れた制度を持っていないことがわかるだろう。生活者支援では14万円と若干高いがそれは18歳以上に限られる。同地域の場合、18歳未満人口がおおよそ15%程度となるため、全体にならせば一人当たりの支給額は12万円弱となる。しかも、永住権のない住民には不支給だ。ということで日本との差はかなり小さくなる。

一方、雇用維持のために支払う企業支援に関しては、額も期間も圧倒的に日本の方が優れていることがわかるだろう。

この他に日本は、減収事業者には持続化給付金と家賃支援給付金が、さらに緊急事態宣言下の休業には「休業協力金(自治体単位)」が配られた。圧倒的に日本の方が手厚い支援であり、ここまで揃う国は欧米諸国を見てもほとんどない。いい加減に「外国は手厚い」幻想から目を覚ましてほしいところだ。

一度徹底的に抑え込むと、再流行は阻止しやすい

さて、現実的にコロナ第二波に対してどう対処すべきかを以下に書いておこう。

人口規模がある程度大きい国で、コロナウイルスの撃退に成功しているのは現状では中国と韓国の2か国になるだろう。この2国は人権・プライバシー無視の強制的な防疫体制を敷いていることは第12稿に示した通りであり、日本がそのまま真似るのは無理だ。勝因としてわかっていて、なおかつ取り入れられることを書いておく。

① 行動追跡アプリ。これを普及させると濃厚接触者の追跡が効率良く行える。韓国型のプライバシー無視な管理はいただけないが、日本型の接触管理アプリ「COCOA」ならば問題は少ない。ただし、COCOAが成果を上げるためには、皆の協力が必要になる。日本型の互助社会ならそれも可能なのではないか。つまり、徹底してCOCOAを普及させ、濃厚接触者洗い出しを大量かつスムーズに行える社会をつくる。

② コロナウイルスは、一度徹底的に発生を抑えると、その後は再流行がなかなか起こらない。理由は簡単だ。日ごとの発生が0近傍という状態がしばらく続くと、市中の有症者はほぼいなくなり、残るのは無症状者か超軽症者のみとなる。こうした感染者が少数いたとしても感染力は弱く、感染が起きた場合でも散発的なもので、対策も採り易い。さらに①の追跡システムがあれば、散発的発生をモグラたたきするだけで再流行にまで至らない。

実際、韓国や中国でも、クラブや市場周辺でクラスターが起きて再流行が騒がれたが、結局、封じ込めに成功している。日本の場合、島国なので効果的に水際で再流入を防ぐこともできるから、一度徹底的に封じ込めることが両国以上にとても重要だったのだ。

5・6月に日本が犯した二つのミス

ところが、5月に「あと一歩」のところで日本は封じ込めが徹底できなかった。一つ目の敗因はこれだ。

下記のデータを見てほしい。これは、人口100万人当たりで見た、コロナ新規感染者の週当たり発生数だ。

ボトムの前32日、後53日の状況を日中韓でプロットしている。このスケールで3か国を比べた場合、ボトムでグラフは一度収斂したあと、日本が大きく再拡大しているのがわかるだろう。

さらに、ボトム前後に絞り、拡大してみたのが下図となる。

中国も韓国も1週当たりの新規感染数を、人口100万人当たり1以下に抑え込んでいるが、日本は、2を割ったところで反転している。全国平均値でも差がついていたが、首都圏、それも東京・神奈川の2自治体に絞ると、数はさらに多くなった。結果、感染封じ込めが未然で終わった首都圏から再流行が始まったのは、当然の帰結といえるだろう。宣言解除については、神奈川・北海道などが原則として提示した基準をクリアできず、例外的に設けた緩和基準を使ってまで前倒しにしたのを記憶されている方も多かろう。

この時、あと1週間から10日、しっかり自粛を行っていれば、大阪や愛知並みに首都圏の新規感染も0近傍に抑え込めたはずだ。つまり、「小利を焦って大利を逃す」典型だったといえよう。

こうした状況から再流行は当然、東京で始まった。それも、当初は、東京地区の夜の街に限られていたが、ここで手をこまねいているうちに、首都圏、そして地方中核都市、さらには全国へと広まっていった。

今から振り返ればの話だが、こうした再流行はそれがまだ小さな芽の段階で、強力に抑え込むべし、という苦い教訓となっただろう。そのためには、風営法や建築衛生法などの行政指導という武器を使うという前例も生まれた。今後は、こうした法的取締りを交えて、強い指導ができるようになったことは収穫の一つだ。

現状では経済推進も逆効果となる

ここまで整理ができたところで、今やるべきことは何か、を明らかにしよう。

それは、「緊急事態の再宣言」に他ならない。そして、徹底的に抑え込みを行い、もう一度、新規感染数を0近傍にまでに抑え込むのだ。

経済重視派からは非難の声が寄せられそうだが、説明は最後まで読んで欲しい。私は経済軽視派では全くないからだ。

まず、現状で何の規制もせずに、経済推進策を取った場合、それがうまくいくだろうか?わかり易いのがGotoトラベルだ。もはや、各地の人出は前年比割れとなっている。お客の側も受け入れ側も、感染を恐れて萎縮しているのだ。さらに、大阪・愛知・福岡は、キャンペーンを外された時点の東京の新規感染者数(人口100万人当たり20人)に近づいてきた。じきに対象から外さざるをえなくなるだろう。

こんな状況では推進策など全く意味がない。これを続けていると、「店を開けても人が来ない」ために、事業者側の収益は「開けない時」よりも悪化することになる。

ならば、緊急事態宣言を出し、原則、営業は自粛することにする。ただし、政府が出す条件に適う事業者に対しては、一部営業を許可するように変える。今までは、原則営業OKであり、目に余るところに行政指導をするという「ネガティブリスト」方式だった。それを原則自粛、適法業者は営業可能へと「ポジティブリスト」方式に変えるということだ。

9月末までは自粛費用が低額ですむ

これら施策を取った時の、事業者の収支と、政府の政策経費を考えてみよう。

<多くの事業者に支払われる支援金>

① 家賃支援給付金(月額75万円までは2/3、それ以上は1/2。6か月支給)

② 雇用調整助成金(中小であれば、9月末まで全額。上限月概算33万円)

この二つがあれば、事業者の負担は相当に少なくなる。①の家賃支援給付は7月から受付を開始したが、4・5月の緊急事態宣言時に遡って申請する業者が多かったため、6か月の助成期間は10月もしくは11月までになるケースが多いはずだ。

いずれにしても、9月末までは①②に関しては追加の政策経費は0ということになる。

続いて休業協力金だが、こちらは1事業者当たり月50万円×100万社=5000億円。仮に8・9月二ヵ月の休業を行うとすると総額予算は1兆円となる。

① ②に加えて月に50万円の支援金が出れば、休業も怖くはなくなるだろう。

一方、休業していない事業者も、緊急事態宣言の余波で業績が悪化する可能性がある。そこで、持続化給付金の追加支払いをする。こちらは、法人50万円、個人25万円とすると前回の1/4規模なので、予算総額は1兆円程度となる。

休業協力と持続化給付両方で追加予算は2兆円。小さな金額ではないが、現在政府には第二次補正予算で用意した予備費が10兆円あるために、この程度の規模であれば捻出可能であろう。

これらはいずれも9月末までだから可能なのだ。それ以降だと、雇用調整助成金や家賃支援給付金の追加予算が必要になる。だから、今すぐやるべきなのだ。

ルールを守れば営業でき、大いに儲かるように

一方で、経済重視派にも十分目配りはすべきだ。コロナ脳に染まって、あれもダメ、これもダメ、というのはまさに感染症を取って経済を殺すという結果になりかねない。

そこで、今回の営業自粛は、「基準を守った事業者」には大幅に緩和をし、しかもそれでいて、休業協力金や持続化給付金、家賃支援給付金は休業したのと同様に支払うことにする。うまくいけば、こうした支援金が丸儲けになるという仕組みとする。これがポジティブリスト方式の本意だ。

たとえば飲食店であれば、通常の場合、営業は午後8時まで。ただし、席数を減らし、ついたてなどの仕切りを施し、さらにサニタイザーなどを設置した店舗で、なおかつ顧客の入退店時に「COCOA」チェックを行う場合、午後11時までの営業を許可するのはどうだろう?

宿泊施設なども同様に基準を作り、そしてやはりCOCOAチェックを必須とする。

野球やサッカーなどのプロスポーツは、正直、現行の緩和ステップをそのまま続けて良かったのではないか。あれだけ大きなスタジアムに、少量の観客しか入れず、スタッフや審判団に至るまで厳しい対策を施しているのだから、容易に感染拡大などしないだろう。本来の方針である「収容人員の半数」まで引き上げる代わりに、①COCOAチェックの徹底、②監視員を増やし、マスク着用・大声援の禁止を徹底、すれば事足りたはずだ。映画館や観劇もそうだろう。

県境を越える移動に関しても、まずは移動手段内でのソーシャルディスタンス確保、マスク着用などを徹底し、同時に検札時にCOCOAチェックを行うべきだ。そうして移動自体はなるべく規制をしない。

さすがに東京や大阪、愛知、福岡などの感染爆発地帯から他地域に行くことは控えるべきだが、これら4都府県間での移動は許可したらどうだろう。感染密度が同程度の地区間の往来は、感染拡大に中立だと言われているので、問題はないはずだ。

さらに、COCOA導入の促進策として、店舗や宿泊サービス、観劇、観戦などにCOCO割(COCOAを入れていれば割引や一品サービス)を導入する。その予算は、Gotoイートから捻出すればすむ。

とかく「何でもダメ」といいがちなコロナ脳的緊急事態宣言は終わりにして、ポジティブ型の施策にするのが一番良いだろう。この形だと、「あそこなら安心」というので顧客も集まる。今よりも営業ははかどるのではないか。いや、はかどるようなルールにすべきだ。

感染症に強い日本の出来上がり!

ここまで徹底していくと、今度は「どこに行くのもCOCOAがないと損をする」社会となっていく。これだとスマホを持っていない人たちにとっては耐えられないだろう。そこで、「初めてのスマホ」割や「ガラケーからの乗り換え」割なども、政府が支援していくのだ。

こうして一たびCOCOAが日本全国に広がれば、韓国・中国並みの濃厚接触者追跡が可能となる。このネットワークと各事業者への感染対策の浸透は、国家的な資産となっていくだろう。感染症の流行は新型コロナウイルスで終わるわけではない。今後、幾度も新たなウイルスの恐怖と戦わねばならないのだ。その際、COCOAネットワークと事業者のリテラシーアップは、とてつもなく心強いはずだ。

そう、今回の「緊急事態宣言」は守りのフォーメーションではなく、攻めのフォーメーションだ。With感染症時代に日本が勝ち抜くための礎石を、これから2か月で作り上げる。その先に、「コロナが収束していなくとも、オリンピックを開ける」という戦略まで用意する(これは次回書く)。

そうした絵図をもって、早々に緊急事態宣言を引く。9月末までならそのための出費も小さくてすむ。

躊躇しているほど時間はないのだが。

プロフィール

海老原嗣生株式会社ニッチモ代表取締役、『HRmics』編集長

株式会社ニッチモ代表取締役、『HRmics』編集長。リクルート人材センター(現・リクルートエージェント)にて新規事業企画や人事制度設計等に関わった 後、リクルートワークス研究所へ出向、『Works』編集長に就任。2008年リクルートを退 職後、㈱ ニッ チモを設立。企業のHRコンサルティングに携わるとともに、㈱リクルートキャリア発行の人事・経営誌『HRmics』の編集長を務め る。 経済産業研究所プロジェクトメンバー、中央大学大学院戦略経営研究科客員教授。

この執筆者の記事