2013.01.30

「コミュニティ・パワー」推進体制構築支援の現状と課題

古屋将太 環境エネルギー社会論

社会 #ISEP#コミュニティ・パワー#環境社会学会

地域の人々が中心となって自然エネルギーを進めていく取り組みを「コミュニティ・パワー」と呼びます。原発事故以降、注目を浴びるコミュニティ・ パワーですが、原発事故以前から国際的な潮流となっており、日本でも各地で少しずつ実績が出されていました。本記事では、第46回環境社会学会大会での、環境エネルギー政策研究所の古屋将太氏による講演をお届けいたします。(構成/金子昂)

コミュニティ・パワーの国際的潮流

環境エネルギー政策研究所の古屋と申します。本日は「コミュニティ・パワー」推進体制構築支援の現状と課題ということで、自然エネルギーの地域での普及に関する現状と課題についてお話したいと思います。

最初に「コミュニティ・パワー」という用語の背景と、これをキーワードにここ数年で活発化しつつある世界的な潮流について簡単にお話します。

まず源流として、1980年代から90年代にかけて、デンマークで協同組合形式での風力発電事業が世界に先駆けて普及し、これが後に地域がオーナーシップを持って自然エネルギーに取り組む際の重要なモデルとなりました。また、2009年に、カナダのオンタリオ州で、ドイツやデンマークの協同組合型の取り組みを参照して、地域の参加を強力に促す固定価格買取制が導入されたことにより、地域参加型の自然エネルギーの取り組みが非常に盛んになります。

そういった流れのなか、カナダ・オンタリオ州で2009年に「コミュニティ・パワー会議」が開催され、ここではじめて「コミュニティ・パワー」という用語が登場しました。そこでは、地域の人々が参加して進める自然エネルギーの議論が交わされ、また方法論や知識、経験が共有されていきました。オンタリオのコミュニティ・パワー会議は、2010年、2011年と継続して開催されています。

ときを同じくして世界風力エネルギー協会が、コミュニティ・パワーをより推進するために「コミュニティ・パワー・ワーキング・グループ」を設置します。このワーキング・グループにはわたしも部分的に関わっているのですが、世界中から実務家や研究者などが集まり、コミュニティ・パワーの定義として3つの原則を決めました。内容を要約すると「地域の人や組織がオーナーシップを持って取り組み、その利益も地域に分配される」というものです。

この数年の間に南アフリカやオーストラリアでも、協同組合や地域参加型の取り組みがはじまっています。このように世界的な潮流となっている「コミュニティ・パワー」ですが、日本でも市民出資による自然エネルギー事業が少しずつ実績を出しています。その経験や知識を広く共有すべく、環境エネルギー政策研究所は2012年3月に、「コミュニティ・パワー会議」を開催しており、今後も継続していく予定です。

日本での取り組み

ここからは話題を日本に絞ってお話をします。

日本での市民出資による自然エネルギー事業は、2001年に北海道グリーンファンドが手がけた市民風車「はまかぜちゃん」を皮切りに、各地で市民風車プロジェクトが展開してきました。長野県飯田市のおひさま進歩エネルギーは市民出資で太陽光発電事業を展開し、岡山県備前市では備前グリーンエネルギーがバイオマス事業にも挑戦しました。最近の事例ですと、富山県の小早月川で小水力発電事業が立ち上がっていますね。

この10年間で、日本でも知識や経験が少しずつ蓄積されつつあり、エネルギー市場全体から見れば、ほんの極わずかではありますが、意義のある事例として参照されるようになってきています。

実際には東日本大震災以前から準備していたのですが、環境省はこういった地域オーナーシップの自然エネルギーをより推進をすべく「地域主導型再生可能エネルギー事業化検討業務」を3.11後に開始しました。これは、ひとつの地域がおよそ1000万円の予算を使って、地域の人が集まる「場」としての協議会を作り、そのなかで議論を重ねながら事業計画を立て、資金調達の目途をつけて、この事業終了後に実際に自然エネルギー事業をはじめる、という一連の合意形成・事業化プロセスを立ち上げるといったものです。

地域主導型再生可能エネルギー事業化検討業務には、全国から68件の応募があり、平成23年度は7地域、平成24年度は8地域が加わり、計15地域がすでに取り組みをはじめています。この事業の支援事務局を環境エネルギー政策研究所と三菱UFJリサーチ&コンサルティングが務めており、他にも専門家パートナーを交えながら、地域の人たちと一緒に事業計画をつくっています。

2012年7月から日本でも固定価格買取制がはじまったことが事業の検討に大きな影響を与えていて、とくに地域金融機関の関心は明らかに以前よりも高まっています。

こういった動きがあり、先ほどお話しした国際的な流れと軌を同じくして、日本でも同じようなコミュニティ・パワーの潮流が生まれつつあります。

神奈川県小田原市の事例

さて今日は、わたしが協議会の立ち上げ前から関わってきた神奈川県小田原市の事例からコミュニティ・パワーの形成プロセスについて説明したいと思います。

小田原市は神奈川県西部に位置し、人口は20万人ほど、都内から電車で一時間程度の場所にあります。隣接する箱根山や相模湾など自然が豊かで、物流の要所として商工業が盛んです。また中小企業のネットワークが強く、環境やまちづくりに非常に積極的に関わってきたという背景があります。

ご存知の通り、東日本大震災以降、計画停電の影響もあり、関東圏ではエネルギー問題に対する意識が高まりました。もともと地域の自立に自然エネルギーが重要であると考えていた小田原市の加藤憲一市長は、2011年5月、環境エネルギー政策研究所の所長・飯田哲也に行政戦略アドバイザーの依頼をします。それを受けて、2011年7月に、小田原市内の駅ビルで加藤市長と飯田所長の市民参加型の公開討論会を開催し、これから市がどのようにエネルギー問題に取り組むべきか話し合いの場を設けました。その後、8月には市の「まちづくり学校」という枠組みのなかで、われわれが企画した自然エネルギーの連続セミナーを市役所で開催しています。

公開の場で市長が自然エネルギーへのコミットを表したことで正統性が確保され、連続セミナーを通して行政が自らの役割を認識し、市民が議論に参加することによって意識が芽生える。この一連の流れによって、自然エネルギーに取り組むための「下地」がある程度つくられます。

そして、2011年10月、先ほどもお話をした環境省の「地域主導型再生可能エネルギー事業化検討業務」に小田原市が採択され、国の支援枠組みのなかで自然エネルギー事業に取り組むことが決まります。そこから2ヶ月間の準備・調整を経て、「小田原再生可能エネルギー事業化検討協議会」が12月に設立され、まずは太陽光発電の事業化に向けた具体的な検討をはじめることになりました。

時間の制約があるので1点だけ、わたしが小田原の取り組み支援をはじめて気がついたことは、二宮尊徳の出生地だったこともあり、人々のコミュニケーションのなかに二宮尊徳の「報徳思想」が共有されていることでした。いまはこの報徳思想を、地域のエネルギー会社の設立趣旨書にどう取り込むか、コーディネーターと協議会メンバーが非常に苦心しているところです。

コミュニティ・パワーを実現させる上で重要なこと

コミュニティ・パワーとしての自然エネルギーに取り組む上で、地域の協議会をどのように構成するかがもっとも重要となります。小田原の事例では、市の担当部署(環境政策課、平成24年度からはエネルギー政策推進課を新設)が、協議会の事務局を務め、各方面と調整をしつつ人選を行ってきました。

協議会の会長には小田原のかまぼこ屋の社長さん、コーディネーターには若手の企業経営者二人、また市の環境部部長や地域でエンジニアリング会社を経営している方、神奈川県の担当者など、さまざまな関係者が協議会に参加しています。他にも、事業化には金融が非常に大切ですから、地元の金融機関も参加しています。環境エネルギー政策研究所もオブザーバーとして協議会に関わっています。

小田原の協議会を傍聴して驚いたのは、すべての協議会メンバーが形式的ではなく、実質的に議論に貢献しているということでした。こういった自治体主導の会合というのは往々にして、偉い先生や内容がよくわからないまま肩書きで呼ばれた委員が、当たり障りのない発言をして終了、となりがちですが、この協議会では民間・行政ともにきわめて率直に議論を交わしています。

その背景にはやはり、それ以前に環境対策やまちづくりで民間・行政が積み重ねてきた信頼関係のようなものがあるのだろうと思います。また、計画停電など、実際に自らが影響を受けたことで、エネルギー問題に自らがどうやって関わるかを真剣に考えているということもあるのだと思います。

他にも、事業を進めていく際に、地域の人たちの生の声を聞くことは大きなポイントとなります。たとえば、小田原ではグループインタビューを行いました。そして、小田原の地域特性として、「いまあるものを大切にし、新参者を警戒する傾向がある」こと、「太陽光発電事業と聞いてもよくわからない」といった意見など、さまざまな知見を得ました。市民意見交換会のなかでワークショップをやってみたところ、「地域のエネルギー会社をつくるのであれば透明な経営をすべきだ」という意見もいただきました。

こういった地域の人たちの声を受け止め、活かしながら、どうやって理解を深めてもらうのか、どのような参加の方法が有効なのか、事業の社会的側面にも知恵をふり絞る必要があります。その点で、先ほど触れた二宮尊徳の話は、地域の人たちにも共通言語として伝わる可能性があるのではないかと見ています。

今後の課題と展望について

環境社会学会は学術的な側面と実践的な側面の両方を大事にするところなので、そのふたつで課題を整理してみました。 どちらも表裏一体なので、うまく整理できていませんが。

学術的課題としては、個別の事例の経験や知識をいかにして体系化して蓄積していくか。たとえば、協議会の構成や位置づけは地域によってかなり違います。実践的な関心に引っ張られると、機能する協議会、成功する協議会がどのようなものなのか知見を増やしたいところですが、学術的な関心に引き戻せば、逆に機能しない協議会、失敗する協議会についての知見もあわせて蓄積する必要があります。そして、それは単に協議会のメンバーにどんな属性の人をそろえればいいかという話ではなく、その地域がもっている固有の背景なども踏まえた丁寧な分析が必要です。

そして、過去の先駆的事例や各地で次々と立ち上がりはじめている事例の分析を積み重ねた上で、蓄積した経験や知識をコード化して、新たな事例の支援に「使える」枠組みをつくり出すことも必要かと思います。

そのひとつの試みとして、小田原での下地づくりから協議会立ち上げ、事業化検討までのプロセスをモデル化してみたものがこの図です。

まだまだ事例の蓄積が足りないので未熟なモデルですが、抽象度を一段階高めることで経験や知識をコード化できないかと試みています。現在、環境エネルギー政策研究所はこのプロセスモデルを応用して、兵庫県宝塚市と京都府京丹後市で支援活動をおこなっています。

ちなみに、理論的には自治体が独自に自然エネルギー政策を検討し、条例や協定で民間の事業化を促進するという可能性もあるのですが、環境省事業の枠組みは協議会立ち上げと事業化検討をおこなうものなので、小田原ではこの領域は環境省事業終了後の課題かと思います。

実践的課題としては、有効な支援の方法論をいかにして確立するか。このような地域の取り組みは、ひとつひとつを着実に実現させていくことが大事なのですが、一方で成功事例の知見を活かして他の地域に水平展開していくこともまた大事です。しかし、地域ごとに地理的な特性はもちろんのこと、政治・文化的特性も異なるので、その多様性に対応するには支援する側にも相当な力量が求められます。

そのときに重要なポイントは、地域でのイニシアティブの形成に着目することです。その地域で、誰が自然エネルギーに取り組みたいと考えているのか、すでに取り組もうとしているグループがあるのか、どのような人をどのように巻き込んでいくのかなど、イニシアティブの熟成度を見極めた上での支援策が必要になります。また、地域に深く入り込まなければわからない利害関係があったりするなかで、いかにしてステークホルダーの合意を形成していくか、支援する側が支援方法のレパートリーを豊富に身につけることが必要です。

以上のようなことを踏まえ、さまざまな地域の事例における経験や知識を体系的に蓄積しながら、各地で立ち上がりつつあるコミュニティ・パワーのイニシアティブに有効な支援をおこなうべく、今後さらに方法論を豊富化していきたいと思います。また、こういった情報を日本から発信することで、世界各地のコミュニティ・パワーのネットワークを広げていきたいと考えています。

プロフィール

古屋将太環境エネルギー社会論

1982年生。認定NPO法人環境エネルギー政策研究所研究員。デンマーク・オールボー大学大学院博士課程修了(PhD)。専門は地域の自然エネルギーを軸とした環境エネルギー社会論。

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