「コミュニティ・パワー」推進体制構築支援の現状と課題

コミュニティ・パワーを実現させる上で重要なこと

 

コミュニティ・パワーとしての自然エネルギーに取り組む上で、地域の協議会をどのように構成するかがもっとも重要となります。小田原の事例では、市の担当部署(環境政策課、平成24年度からはエネルギー政策推進課を新設)が、協議会の事務局を務め、各方面と調整をしつつ人選を行ってきました。

 

協議会の会長には小田原のかまぼこ屋の社長さん、コーディネーターには若手の企業経営者二人、また市の環境部部長や地域でエンジニアリング会社を経営している方、神奈川県の担当者など、さまざまな関係者が協議会に参加しています。他にも、事業化には金融が非常に大切ですから、地元の金融機関も参加しています。環境エネルギー政策研究所もオブザーバーとして協議会に関わっています。

 

小田原の協議会を傍聴して驚いたのは、すべての協議会メンバーが形式的ではなく、実質的に議論に貢献しているということでした。こういった自治体主導の会合というのは往々にして、偉い先生や内容がよくわからないまま肩書きで呼ばれた委員が、当たり障りのない発言をして終了、となりがちですが、この協議会では民間・行政ともにきわめて率直に議論を交わしています。

 

その背景にはやはり、それ以前に環境対策やまちづくりで民間・行政が積み重ねてきた信頼関係のようなものがあるのだろうと思います。また、計画停電など、実際に自らが影響を受けたことで、エネルギー問題に自らがどうやって関わるかを真剣に考えているということもあるのだと思います。

 

他にも、事業を進めていく際に、地域の人たちの生の声を聞くことは大きなポイントとなります。たとえば、小田原ではグループインタビューを行いました。そして、小田原の地域特性として、「いまあるものを大切にし、新参者を警戒する傾向がある」こと、「太陽光発電事業と聞いてもよくわからない」といった意見など、さまざまな知見を得ました。市民意見交換会のなかでワークショップをやってみたところ、「地域のエネルギー会社をつくるのであれば透明な経営をすべきだ」という意見もいただきました。

 

こういった地域の人たちの声を受け止め、活かしながら、どうやって理解を深めてもらうのか、どのような参加の方法が有効なのか、事業の社会的側面にも知恵をふり絞る必要があります。その点で、先ほど触れた二宮尊徳の話は、地域の人たちにも共通言語として伝わる可能性があるのではないかと見ています。

 

 

今後の課題と展望について

 

環境社会学会は学術的な側面と実践的な側面の両方を大事にするところなので、そのふたつで課題を整理してみました。 どちらも表裏一体なので、うまく整理できていませんが。

 

学術的課題としては、個別の事例の経験や知識をいかにして体系化して蓄積していくか。たとえば、協議会の構成や位置づけは地域によってかなり違います。実践的な関心に引っ張られると、機能する協議会、成功する協議会がどのようなものなのか知見を増やしたいところですが、学術的な関心に引き戻せば、逆に機能しない協議会、失敗する協議会についての知見もあわせて蓄積する必要があります。そして、それは単に協議会のメンバーにどんな属性の人をそろえればいいかという話ではなく、その地域がもっている固有の背景なども踏まえた丁寧な分析が必要です。

 

そして、過去の先駆的事例や各地で次々と立ち上がりはじめている事例の分析を積み重ねた上で、蓄積した経験や知識をコード化して、新たな事例の支援に「使える」枠組みをつくり出すことも必要かと思います。

 

そのひとつの試みとして、小田原での下地づくりから協議会立ち上げ、事業化検討までのプロセスをモデル化してみたものがこの図です。

 

 

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まだまだ事例の蓄積が足りないので未熟なモデルですが、抽象度を一段階高めることで経験や知識をコード化できないかと試みています。現在、環境エネルギー政策研究所はこのプロセスモデルを応用して、兵庫県宝塚市と京都府京丹後市で支援活動をおこなっています。

 

ちなみに、理論的には自治体が独自に自然エネルギー政策を検討し、条例や協定で民間の事業化を促進するという可能性もあるのですが、環境省事業の枠組みは協議会立ち上げと事業化検討をおこなうものなので、小田原ではこの領域は環境省事業終了後の課題かと思います。

 

実践的課題としては、有効な支援の方法論をいかにして確立するか。このような地域の取り組みは、ひとつひとつを着実に実現させていくことが大事なのですが、一方で成功事例の知見を活かして他の地域に水平展開していくこともまた大事です。しかし、地域ごとに地理的な特性はもちろんのこと、政治・文化的特性も異なるので、その多様性に対応するには支援する側にも相当な力量が求められます。

 

そのときに重要なポイントは、地域でのイニシアティブの形成に着目することです。その地域で、誰が自然エネルギーに取り組みたいと考えているのか、すでに取り組もうとしているグループがあるのか、どのような人をどのように巻き込んでいくのかなど、イニシアティブの熟成度を見極めた上での支援策が必要になります。また、地域に深く入り込まなければわからない利害関係があったりするなかで、いかにしてステークホルダーの合意を形成していくか、支援する側が支援方法のレパートリーを豊富に身につけることが必要です。

 

以上のようなことを踏まえ、さまざまな地域の事例における経験や知識を体系的に蓄積しながら、各地で立ち上がりつつあるコミュニティ・パワーのイニシアティブに有効な支援をおこなうべく、今後さらに方法論を豊富化していきたいと思います。また、こういった情報を日本から発信することで、世界各地のコミュニティ・パワーのネットワークを広げていきたいと考えています。

 

 

 

 

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シノドス国際社会動向研究所

vol.276 

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