風俗の安全化と活性化のための私案――セックスワーク・サミット2013

経営者ができること

 

それから経営者にやってほしいこともあります。私は、お客さんが来ない、お金を稼げない理由は、セックスワーカーが半分、お店のオーナーの経営努力が半分だと思っています。そういう視点でセックスワークを見ると、セックスワーカーにアドバイスできる経営者や男性従業員というのが全然いないんですよね。セックスワーカーに任せて自己流でやってもらっているのがほとんど。

 

セックスワーカー向けの講習以外にも、ときどき男性従業員向けに講習をお願いされることもあります。どういうことかというと、店長さんも女の子たちにどうやって教えればいいのかわからないんですね。だから「教え方を教えて欲しい」と言われるんです。実際に講習に行ってみると、なかには全然わかってない人もいて、よくそれで経営ができているな、と思うこともあります。

 

いろいろな風俗店を訪ねて、店長さんに「講習ビデオはありますか?」「研修ってやっていますか?」「マニュアルがあるなら見せてもらえますか?」とお願いしてます。大手のグループの場合、働く上で気を付けることとか、お客さんへの気遣いの仕方とかが書いてある分厚いマニュアルが置いてあることがあるのですが、あるお店のマニュアルに「“コミュニケーションのさしすせそ”」と書いてあったのですね。「さすがですね! 知らなかったー! すごいですね! 先輩ですねー! そうだったんだー!」という相槌のことでした(笑)。

 

お店にあるマニュアルというのは、たいてい、お客さんの気持ちや男心の解説、気配りの仕方、人気のある子はどうしてるか、お金をもらってサービスすることの正しい姿勢と心得的なことが書いてあったりするのですが、もっと個別のビジョンとインセンティブを持てるようなものがあったほうがいいと思います。

 

例えば、ある女の子がネイルサロンを開業する夢をもっていたら、そのためにはいくら必要か、どんな準備や勉強の時間が段階的に必要か。自分の夢や目標に関連する職種で働いているお客さんからどんな情報やアドバイスがもらえるとお得か。指名が月に何本ある場合、ない場合だと、目標金額までに働く総時間はどれくらい差がつくか。延長を何回とれば、延長なしの場合よりも何人の客につかなくて済むか。土日に何時間以上の指名予約限定で客をとるようにした場合どんな影響があるか。今風俗の仕事でやっていること(営業努力・顧客管理・ネット戦略等々)は、他の仕事にどのように援用できるか。あるいは援用可能な働き方、時間の使い方ができるか……といった、個別のファイナンシャルプラン、ワークライフプラン、セルフブランディングでまだまだできることがあるのではないでしょうか。そういった専門のコンサルタントやプランナーを設置したほうが働く人に喜ばれると思います。

 

これはいわゆる救済系の人たちがいうような、セックスワーカーの“社会への再統合”という意味ではありません。元セックスワーカーがいろんな職種で活躍すること、あるいは、いろんな職種にセックスワーカーがいることが当たり前になることは、セックスワーカーの差別偏見の解消につながると思います。また、隠していることがほとんどのセックスワークにとって、どんな仕事にも共通する普遍性や連続性、関連性、援用性を見出すことは、自分や仕事の社会性を認識し、自信にもつながると思います。隠さなければいけないこと、否定されるようなこと、これは無かったことにしなければならないと思いながら働くより、自分のしていることを前向きに未来にとって意味のあるものに変えていくプロセスは、心身にとってもいいのではないでしょうか。

 

もちろん、セックスワークの仕事に積極的になれない人や、風俗で働くことにおいて心身が持たない人もいるでしょう。そういう人には、ソーシャルワーカーやカウンセラーにつながるように、DV被害やストーカーから逃げている人には、専門の相談機関やシェルターにつながるように、セキュリティエージェントの設置が望まれます。

 

数年先には、オリンピックやカジノ特区構想の実現も視野に入れて、外国人客の集客努力も必要です。たとえば成田空港とか羽田空港の近くで特区ができたとしますよね。そうなると当然、外国人観光客がたくさん来日するようになります。そのとき風俗案内所で英語対応できる人がいると便利です。外国人客トラブル多言語対応のための「風俗のJAF」みたいなサービスを業界団体で設置することも必要だと思います。

 

あと、先ほど面接のお話をしましたが、面接で落ちてしまったセックスワーカーへのフォローのシステムもできたら嬉しいです。というのも、お店側が面接で落とした女の子に、比較的誰でも働けるお店を紹介してあげて欲しいんですね。そうすればその子のお店探しの時間的なロスをカットできますよね。

 

実際に、札幌の「デンジャラス札幌」や鶯谷の「鶯谷デッドボール」というお店は他のお店では落とされちゃうような子でも採用しているという話で有名ですよね[*5]。別にそこじゃなくても、「容姿ではなくてやる気で採用しています」という店長さんも実際にたくさんいるので、そういう情報を集めて、お店側に紹介できたらいいなと思っています。

 

ただ私たちは斡旋業者ではないんですね。電話相談で「愛知のお店はほとんど落とされちゃうので、東京に出稼ぎに行きます」といった相談をしてくる人に、必ず働けるお店を紹介することはできないんです。どこのお店が働けるとか、稼げるという話をすることは、関係を築いているお店からの信用を失ってしまうことになりますし……申し訳ないんですけど。

 

だから、風俗求人広告サイトに、「面接で落とされないお店」や「必ず今日から働けるお店」のリストを掲載して欲しいです。それだけで全然違うと思うんですよね。あとは男性従業員の質を良くして欲しい。

 

[*5]札幌デンジャラス http://www.dangerous.jp/ 鶯谷デッドボール http://www.deadball.biz/top.html

 

 

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vol.233 公正な社会を切り開く 

 

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