シノドス・トークラウンジ

2021.06.23

2021年6月23日(水)開催

憲法学者が島でフィールドワークする――小さな物語のひとつひとつを置き去りにしない共生社会へ

榎澤幸広 憲法学 ホスト:志田陽子

開催日時
2021年6月23日(水)20:00~21:30
ゲスト
榎澤幸広
ホスト
志田陽子
場所
Zoom
料金
1100円(税込)
※高校・大学・大学院生は無料です。

対象書籍

離島と法: 伊豆諸島・小笠原諸島から憲法問題を考える

榎澤 幸広

『離島と法-伊豆諸島・小笠原諸島から憲法問題を考える』の著者・榎澤 幸広さんは、憲法学をフィールドワークに基づいて実践する、稀有な研究者です。離島を対象としつつ、制度や施策の文言(統治者の言葉)ではなく、現地の人々の生活・経験の言葉を聞き取り調査していく手法で編まれた本格的な憲法研究書というのは、日本で初めてではないでしょうか。

規範の言葉と現実とは、常に乖離しているもので、乖離しているからこそ、その現実に向けて、見るべき方向としての「規範」を語ることが法学者の仕事であるといえます。が、生きた現実・生きられた現実に、ここまで分け入って向き合った憲法研究書は、なかなかないと思います。

「憲法学者がなぜ島の研究?」、「なぜ島で現地調査?」。
著者の榎澤さんは、さまざまな人から、この質問を繰り返し受けたと言います。それを、今回のトークラウンジでも、敢えて重ねて、お聞きしたいと思います。「法学者がそこに乗り出したのはなぜ?」。そこから、(憲)法学の新たな地平と手法が見えてきたり、他の学問領域の研究者から見た憲法学とのコラボレーションの可能性が見えてくると思います。

参加をお考えになっているみなさんに向けて、著者の榎澤さんから、メッセージをいただきました。

「憲法学者がなぜ島の研究?」「なぜ島で現地調査?」 榎澤幸広氏のメッセージ

「島」「離島」「島嶼」というと、マンガや小説などによく描かれるような、何か秘境めいた、自然豊かな場所というイメージがある人もいらっしゃるかもしれません。

以前の私もそう思っていました。それは、私自身に限っていえば、そこに住む人々の中には水や食料を獲得するのが困難であったり、海に囲まれているため移動が困難であるという、ひとりひとりの生活に即する考え方ができていなかったともいえるかもしれません。このことは、20代前半の頃、友人がうれしそうに「伊豆大島憲法発見」の記事を見せに来てくれたときも、どこか遠い世界の話のように思っていたことにもつながるかもしれませんし、その記事の件も、親孝行を兼ねて両親と伊豆大島に旅行するまで忘れていたほどでした。

しかし、現地で、敗戦前後の伊豆大島を過ごされた方や郷土史家の話を伺ったり、当時の現地資料を読み漁っていくうちに、島の人々が本土との経済や教育の格差に悩み格闘してきたこと、その経験が伊豆大島憲法に反映されているように見受けられること、法律の専門家もほとんどいない中で、島民らが現行憲法と類似する内容を作りあげたことなど、教科書だけでは味わえない、憲法や人権を獲得する人々の姿を通じた“生きた憲法体験”をすることができました。

このような経験はそれまでの自己の研究生活を反省させることになるわけですが、島々に関する公文書や関連資料が圧倒的に少ないという壁にもぶちあたりました。

「こういう資料収集は歴史学者や民俗学者が行うこと?」

以前の私ならこのような問いかけをして行動していなかったかもしれませんが、「島々の貴重な資料、人権侵害をうけてきた島民たちの記憶が失われつつあるかもしれない。気づいたのは自分だけかもしれない」、と思ったら、いつのまにか、島々や資料館を往復する日々になっていました。

拙著『離島と法』は、おそらく、従来ほぼふれられることのなかったと思われる、戦後の東京の島々で実際におきた、生きた憲法の物語の一部をまとめたものです。“人権”や“民主主義”というと、本土の人の中には空気や水のように感じている人もいるかもしれません。しかし、戦後、投票権行使が制限された青ヶ島、法制度下にて不完全な自治を長期間実施させられてきた小笠原村などが存在してきました。

私自身は、様々なフィールドを通して、日本国憲法の価値を再発見し(場合によっては再構築し)、島々の人々のことも含めた共生社会を実現する術を模索している最中です。ただ、これは一人で実現することは不可能で、様々な人々の協力が必要になります。

そのためにも、今回の拙著に関わる話が、「自分の住んでいる地域の気づかなかった側面を知ること」、「日本とは何か」「人権や民主主義とは何か」などを考え、お互いが高め合えるきっかけになればうれしい限りです。

プロフィール

榎澤幸広憲法学

名古屋学院大学現代社会学部准教授。専門は憲法学。
主著『離島と法-伊豆諸島・小笠原諸島から憲法問題を考える』(法律文化社・2018・単著)。他に共著として、『公文書は誰のものか?』(榎澤幸広・清末愛砂編集代表、現代人文社、2019)、『映画で学ぶ憲法Ⅱ』(志田陽子・石川裕一郎・榎澤幸広・中島宏編、法律文化社、2021)など。また、憲法フィールドワーク関連の論文として、「記憶の記録化と人権-各々の世界の中心からみえるさまざまな憲法観を考えるために」(石埼学・遠藤比呂通編『沈黙する人権』(法律文化社・2012)所収)など(敬称略)。

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