シノドス・トークラウンジ

2022.03.08

2022年4月16日(土)開催

ケアの倫理――「戦略的母性主義」を考える

元橋利恵 家族社会学・ジェンダー論 ホスト:橋本努

開催日時
2022年4月16日(土)16:00~17:30
講師
元橋利恵
ホスト
橋本努
場所
Zoom【後日、アーカイブの視聴も可能です】
料金
1500円(税込)
※高校・大学・大学院生は無料です。

対象書籍

母性の抑圧と抵抗 ケアの倫理を通して考える戦略的母性主義

元橋利恵

「何なんだよ日本。/一億総活躍社会じゃねーのかよ。/昨日見事に保育園落ちたわ。/どうすんだよ私活躍できねーじゃねーか。・・・」

これは2016年に話題になったある母親のブログ「保育園落ちた、日本死ね!」の一節です。

2015年から2016年にかけて、当時の安部晋三内閣は「一億総活躍社会」というスローガンを掲げました。例えば子どもが保育園に通えず、社会で活躍できない母親がいる。そうした女性を支援すべく、保育園の待機児童数をゼロにするというのが当時の重要な政策目標の一つでした。

他方で、世論の受け止め方には温度差もありました。子どもを産み育てる選択をしたのはその女性なのだから、政府に対してとやかく文句を言うべきではない。もっと自己責任で行動せよ、といった批判も出ました。いったい、妊娠や出産や育児は、女性が自己責任で担うべき義務であり責任なのでしょうか。

子育ては女性が「自分で選択した」ことなのだから、経済的な基盤を奪われても仕方ない、責任を引き受けるのが当たり前という、いわば「新自由主義」的な自己責任論も根強くあります。こうした考え方を批判するとして、では子どものケア、あるいは脆弱な立場に置かれた人たちへのケアは、誰がどのように引き受けるべきなのでしょう。

昨年刊行された、元橋利恵著『母性の抑圧と抵抗――ケアの倫理を通して考える戦略的母性主義』(晃洋書房)は、ケアと自己責任の問題を、「戦略的母性主義」という新たな観点から考察しています。ケア倫理学のフロンティアです。母性研究、ケア・フェミニズム、サラ・ルディクの「母性思考」とその批判などから、新しい思考が紡ぎだされます。

本書はまた、さまざまなフィールドを対象に、具体的な考察を展開しています。例えば、母子健康手帳が押し付ける規範の分析、2000年以降の女性のセックス観における隠された抑圧の問題、戦後日本の「母親」の社会運動の歴史、1950年に始まった「母親大会」と2010年代に起こった母親たちの政治運動「安保関連法に反対するママの会」との比較、などです。具体的な事例を素材に、ケアの倫理がもつ政治的な含意が豊かに引き出されます。

シノドス・トークラウンジでは、政治変革の新たなフロンティアとして、いまケアの倫理に注目しています。今回は著者の元橋利恵さんをお招きして、さまざまに語り合いたいと思います。みなさま、どうぞよろしくご参加ください。

プロフィール

元橋利恵家族社会学・ジェンダー論

1987年生まれ。大阪大学人間科学研究科招へい研究員。大阪大学院人間科学研究科社会環境学講座博士課程修了。博士(人間科学)。専攻は家族社会学・ジェンダー論。著書に『母性の抑圧と抵抗--ケアの倫理を通して考える戦略的母性主義』(晃洋書房、2021年)。

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