シノドス・トークラウンジ

2022.04.01

2022年5月16日(月)開催

【レクチャー】ミル『自由論』を読む――「自由な社会」を守ることの重要性を学ぶために(全6回)

山尾忠弘 近代英国社会思想史 ホスト:芹沢一也

#Synodos Lecture

開催日時
2022年5月16日(月)20:00~21:30
講師
山尾忠弘
ホスト
芹沢一也
場所
Zoom【後日、アーカイブの視聴も可能です】本レクチャーは5/16、6/13、7/11、8/15、9/12、10/17の全6回です。
料金
16500円(税込)

対象書籍

自由論

J.S. ミル / 関口正司(翻訳)

私たちは「自由」という言葉を、その意味が自明であるかのように使いがちです。ですが、「自由」と私たちが口にするとき、そこには一体どのくらいの実感が込められているのでしょう。英語のlibertyあるいはfreedomの訳語として、明治の先人たちが苦心のすえに生み出したこの言葉の意味するところを、それから百数十年がたった今でさえ、私たちは本当の意味で自分のものにすることができているのでしょうか。

先頃、欧州委員会委員長のウルズラ・フォン・デア・ライエン氏がEU議会で行った演説を聞く機会がありました。美しい英語で「自由」や「法の支配」、「民主制」の普遍的価値をうたいあげる格調高い名演説でしたが、とりわけ私の心をうったのは次の一節です。「ウクライナの人々は、私たち全員のために自由の灯火(the torch of freedom)を掲げています。〔……〕この議場にいる誰一人として、私たちヨーロッパの価値観(our European values)のために勇気を持って立ち上がった人々が、私たちヨーロッパの家族の一員であるということを疑うことはできないでしょう」。

そこはかとなくただよってくるヨーロッパ中心主義の匂いを感じないわけではありません。しかし、知性と教養と、そして何よりも歴史に裏打ちされたこの自信を前にして、私たちは彼女、あるいは彼らとともに、「銃口による支配」「独裁政治」「剥き出しの暴力」を断固として拒否し、「自由は金銭では贖えない」「自由を守ることには犠牲がともなう」のだと、はたして自信をもって言うことができるでしょうか。

自由な社会を守ることに対する、この責任感と当事者意識を、私たちはどのようにすれば学ぶことができるでしょう。ヨーロッパに住む、あるいはヨーロッパの友人と話すという手段は有効かもしれません。しかし、明治の先人たちの例にならって、遠く離れた国に住み自分たちとは異なる時代を生きた人物と対話するというのも一つの有効な手段ではないでしょうか。

本講座では『自由之理』という名前で翻訳されて以来、我が国の近代化にもきわめて大きな影響をあたえたJ.S.ミルの『自由論(On Liberty)』を読み解くことで、みなさんと一緒に、「自由」という言葉の意味と、「自由な社会」を守ることの重要性についてもう一度考えてみたいと思います。

本書は19世紀のイギリスにおいて、自由な社会を守るための「一つの非常に単純な原理」を提示した、今日でも世界中で読み継がれている古典中の古典です。私もこれまでミルを専門に学んできましたが、この時代にあらためて「自由」という言葉の意味を考え直すために、みなさんと一緒に勉強していきたいと考えています。

講義は、パワーポイントのスライドに原典(日本語と英語を両方用います)を載せて、みなさんと一緒に精読しながらミルの主張を確認していく、という方法で行います。英語にそれほど自信がない方でも、英語を用いる場合には必ず日本語訳も一緒に紹介しますので是非気軽に参加してください。

※本レクチャーは5/16、6/13、7/11、8/15、9/12、10/17の全6回です。

第1回:イントロダクション(5/16)

まずは『自由論』を読む前に、J.S.ミルの生涯と思想について簡単に触れたいと思います。

第2回:『自由論』第1章(6/13)

第1章は全体の序論にあたる部分ですが、どんな本も序論をしっかりと理解することが大切です。とくに本書の場合、ミルが「一つの非常に単純な原理」と言って自らの議論をまとめてくれているので、ここをしっかり理解していきましょう。

第3回:『自由論』第2章(7/11)

第2章では思想と討論の自由がなぜ重要かについて、思想の歴史をもとにして論証していきます。一見すると難しそうに見える部分ではあるのですが、実は非常におもしろく、読みがいがある部分です。

第4回:『自由論』第3章(8/15)

第3章では幸福の一要素としての個性(individuality)が取り扱われます。この箇所はミルが個性の喪失について危惧を表明している箇所ですが、もしかすると現代日本の読者にとってもっとも重要な部分かもしれません。

第5回:『自由論』第4章(9/12)

第4章では個人に対する社会の権力の限界について述べられます。非常に興味深い具体例が取り上げられているので面白く読み進められるところですが、上述の「一つの単純な原理」との関係を考えながら読んでいく必要があります。

第6回:『自由論』第5章(10/17)

最後の第5章では、これまでの議論を現実の諸問題に応用するとどのように考えられるのかが述べられます。ここも具体例がたくさんあがっていますので一見すると読みやすそうではあるのですが、解釈が難しい場所もありますので、これまでの章との関連をよく理解しておく必要があります。

参考文献

『自由論』の翻訳には中村正直『自由之理』以来様々なものがありますが、関口正司訳『自由論』岩波文庫2020年をおすすめします。かならずしも購入が必須ではありませんが、最高の専門家による現段階での決定版の翻訳です。講義の前後に読まれると、理解が深まりますし、購入して損をすることはありません。

自由論の英語原典には様々なものがあり、その多くはインターネットで手に入ります。ペーパーバックですと、たとえばOxford World’s ClassicsのOn Liberty, Utilitarianism and Other Essays, edited by Mark Philp, OUP, 2015.などは、『自由論』以外のミルの重要著作も入っており、持ち運びやすく、なおかつ安価でおすすめできます(AmazonのURLはこちら)。なお、世界中の専門家が用いているミル著作集の決定版(『トロント大学出版局版ミル著作集』)は、こちらのURLから無料で閲覧・ダウンロードできます。

坂本達哉『社会思想の歴史』名古屋大学出版会2014年。こちらも購入する必要はありませんが、ミルを中心とした思想の歴史の展開に関心を持たれている方には強くおすすめします。

日本語で簡単に手に入る新書や文庫のミル入門書があれば良いのですが、残念ながら現代の研究水準から見て適当なものが見当たりません。横文字に忌避感のない方であれば、Miller, Dale. J.S. Mill: Moral, Social, and Political Thought, Polity, 2010.をお勧めいたします。またClaeys, Gregory. John Stuart Mill, OUP, 2022. が2022年5月に出版されます。Oxford University PressのVery Short Introductionsシリーズの一冊です。世界的な専門家によって書かれた手に取りやすい価格の入門書ですので、(未読ではありますが)こちらもおすすめできるでしょう。

日本語で読めるミルの入門書・研究書にも様々なものがあります。中には現在手に入りづらいものも含まれますが、たとえば杉原四郎『J.S.ミルと現代』岩波新書1980年、水田珠枝『ミル「女性の解放」を読む』岩波書店1984年、関口正司『自由と陶冶―J.S.ミルとマス・デモクラシー』みすず書房1989年、馬渡尚憲『J.S.ミルの経済学』お茶の水書房1997年、小泉仰『J.S.ミル』研究社1997年、矢島杜夫『ミル「自由論」の形成』お茶の水書房2001年、安井俊一『J.S.ミル社会主義論の展開』お茶の水書房2019年を、ここではあげておきます。さらに勉強を進めたい方のためには川名雄一郎『社会体の生理学』京都大学学術出版会2012年が、(国際的に見ても)現在のミル研究の到達点の一つです。

プロフィール

山尾忠弘近代英国社会思想史

経歴:1991年神奈川県生まれ。慶應義塾大学経済学部助教(有期)。2010年神奈川県立湘南高等学校卒業、2015年慶應義塾大学経済学部卒業、2020年慶應義塾大学経済学研究科博士課程単位取得退学。博士(経済学)。

主要研究業績:「初期ミルにおける文明社会と女性——『女性の隷従』の思想史的一源泉——」『イギリス哲学研究』、「J.S.ミルにおける女性の性格形成——シドニー・スミス「女性教育」との対比を手がかりに——」『社会思想史研究』、「ジョン・スチュアート・ミルにおける協同社会と女性——同時代の社会主義者ウィリアム・トンプソンとの対比を中心に——」『マルサス学会年報』、『J.S.ミルにおける文明社会と女性—— 『女性の隷従』の形成と発展——』慶應義塾大学経済学研究科博士論文。

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