シノドス・トークラウンジ

2022.04.03

2022年5月7日(土)開催

法哲学の根本問題とは?――井上達夫『規範と法命題』を読む

井上達夫 法哲学 司会:橋本努

開催日時
2022年5月7日(土)14:00~15:30
講師
井上達夫
司会
橋本努
場所
Zoom【後日、アーカイブの視聴も可能です】
料金
1500円(税込)
※高校・大学・大学院生は無料です。

対象書籍

規範と法命題

井上達夫

ロシアのウクライナ侵略は、独裁者プーチンの暴挙であります。かつて「絶対的な権力は絶対的に腐敗する」と指摘したのは、イギリスの自由主義者、アクトン卿(1834-1902)でした。絶対的な権力の腐敗を防ぐために、そして独裁者による戦争を防ぐために、私たちは自由民主主義の体制を、国際的な規模で頑丈(レジリエント)なものにしなければなりません。この問題を社会哲学の観点から捉えると、一つには、法治国家という場合の「法」をどのように捉えるべきか、という問題にいたります。

法は、法実証主義がいうように、実定法以外の規範を法的考察の対象から排除してよいのでしょうか。あるいは自然法の発想に従って、法を実質的な規範として素朴に捉えていいのでしょうか。それとも価値相対主義に従って、どんな法でも法律として認めてよいのでしょうか。いったい、法をどのように捉えることが、独裁者の横暴(法の蹂躙)を防ぐための規範的な基礎になるのでしょうか。この問題を考えるためには、法治国家の法を捉えるにあたって、普遍的な正義の概念を想定すべきかどうかが一つの焦点となります。トークラウンジでは、この問題にいわば研究人生の多くを捧げてきた井上達夫氏をお迎えして、氏の近著『規範と法命題 法哲学の規範理論的基礎』(木鐸社、2021年11月)について議論します。

本書は、法哲学の根本問題を扱った大著であり、1985年から1987年にかけて、『国家学会雑誌』に掲載された論稿をベースにしています。この連載論文は、井上氏が1980年2月に東京大学法学部の助手論文として提出したものを改定したものであり、その時からすでに40年以上が経ちましたが、この度はじめて著作として刊行されました。

本書は、法哲学のさまざまな問題を総合的に扱っています。例えば、規範の「存在」と「規範性」を同一視することの問題性、オースティンによって創始された言語哲学、すなわち「語用論」の貢献についての検討、価値判断の非認識説の検討(とりわけ規範を命法に還元することの問題性)、価値判断の認識説の検討(「理由」によって基礎づける議論が有力であるが、「理由」概念そのものがあいまいであること)、などが検討されています。さらに本書は、カスタニェーダの規範理論に依拠して、ドゥウォーキンの法哲学を乗り超える理論的な探究を展開しています。

法哲学を一歩先に進める強靭な理論書ですが、最後の「後記」には、この本の元になった論文に対する安藤馨氏の批判(「本陣攻撃」と表現される)に対する長文の応答も付されています。本書の読者は、哲学の研究というものが、批判的闘争を通じて発展していくことの魅力に触れることもできるでしょう。今回のトークラウンジでは、難しい話をかみ砕いて議論します。皆様、どうぞよろしくご参加ください。

プロフィール

井上達夫法哲学

1954年、大阪生まれ。東京大学名誉教授。『法という企て』(東京大学出版会、2003年、和辻哲郎文化賞受賞)、『現代の貧困――リベラリズムの日本社会論』(岩波現代文庫、2011年)、『世界正義論』(筑摩選書、2012年)、『自由の秩序――リベラリズムの法哲学講義』(岩波現代文庫、2017年)、『立憲主義という企て』(東京大学出版会、2019年)、『普遍の再生――リベラリズムの現代世界論』(岩波現代文庫、2019年)、『生ける世界の法と哲学――ある反時代的精神の履歴書』(信山社、2020年)、『増補新装版 他者への自由――公共性の哲学としてのリベラリズム』(勁草書房、2021年)など。

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