2022.07.27
2022年8月31日(水)開催
啓蒙の限界プロジェクト「第8回 環境問題は弱き人々にのしかかる――フレチェット『環境正義』を読む」
奥田太郎 ホスト:橋本努
- 開催日時
- 2022年8月31日(水)20:00~21:30
- 講師
- 奥田太郎
- ホスト
- 橋本努
- 場所
- Zoom【後日、アーカイブでの視聴も可能です】
- 料金
- 1500円(税込)
対象書籍
イギリスではこの夏、観測史上初めて気温が40度を超えました。ポルトガルでは熱中症や山火事などの被害で、すでに7月20の時点で死者が1000人を超えたと報道されています。ヨーロッパを襲う熱波は、とくにクーラーのない家庭には健康上の大きな影響を及ぼしています。(ちなみに私の家にもクーラーはありません。)隣の中国でも、上海で40.9度を記録したほか、北京でも37度を超えました。
温暖化の被害は、ますます深刻になっています。ただしその影響は、均質なものではありません。それぞれの国で、社会的な弱者に重くのしかかっています。環境問題は同時に、社会的弱者に対する分配的正義の問題でもあるのです。
シノドス・トークラウンジでは、環境と社会的弱者の関係について、最近翻訳されたK・シュレーダー=フレチェット著『環境正義――平等とデモクラシーの倫理学』(奥田太郎・寺本剛・吉永明弘監訳、勁草書房、2021年)の監訳者の一人、奥田太郎先生をお招きして議論します。
著者のフレチェットは、環境倫理学の研究を拓いた著名な学者です。すでに邦訳として、単著の『環境リスクと合理的意思決定』、および編著の『環境の倫理(上・下)』があります。今回邦訳された『環境正義』は、2002年に刊行されたものですが、本書はいまや「記念碑的な応用倫理学の研究書」(「監訳者あとがき」)であります。必読の古典といってもよいでしょう。
日本では20世紀後半に、公害問題に関する研究が進展しましたが、その当時、環境問題を「正義」の観点から把握した人は、あまりいなかったようです。ですが公害問題を含めて環境問題は、誰もが公正に処遇されるべきであるという点で、正義の問題であります。そしてつまるところ、正義を論じる自由主義(リベラリズム)の問題でもあります。
環境保護運動のラディカルな担い手たちは、しばしば人間嫌いで、人間よりも環境を保護するべきだと発想します。しかし著者のフレチェットは、環境の悪化によって最も被害を受けるのは貧困層やマイノリティであることに注目し、環境に関する正の財(グッズ)と負の財(バッズ)を公平に分配することを提唱します。さまざまな事例に即して、その解決のために必要な手段や政策を、現代正義論との往復のなかで導き出しています。
シノドス・トークラウンジでは、本書『環境正義』を素材に、環境と弱者の関係について考えたいと思います。皆様、どうぞよろしくご参加ください。
プロフィール
奥田太郎
南山大学社会倫理研究所教授。京都大学大学院文学研究科博士課程指導認定退学。博士(文学)。専門は哲学、倫理学、応用倫理学。18世紀英国の道徳哲学や現代倫理学の研究をするとともに、現代の喫緊の倫理的課題を考える応用倫理学的問題を幅広く探求。哲学カフェなどの社会における哲学対話実践にも携わっている。著書に『倫理学という構え:応用倫理学原論』(2012年、ナカニシヤ出版)、『責任と法意識の人間科学』(2018年、勁草書房、共編著)など。監訳書に、D・ウィギンズ『ニーズ・価値・真理』(2014年、勁草書房)、H・コリンズ&R・エヴァンズ『専門知を再考する』(2020年、名古屋大学出版会)など。