シノドス・トークラウンジ

2022.08.31

2022年10月14日(金)開催

【レクチャー】ノージック『アナーキー・国家・ユートピア』を読む――リバタリアニズムと福祉国家への批判について(全3回)

蔵研也 リバタリアニズム、自由主義経済学 ホスト:芹沢一也

#Synodos Lecture

開催日時
2022年10月14日(金)20:00~21:30
講師
蔵研也
ホスト
芹沢一也
場所
Zoom【後日、アーカイブでの視聴も可能です】※本レクチャーは10/14、11/11、12/9の全3回です。
料金
8250円(税込)

対象書籍

アナーキー・国家・ユートピア 国家の正当性とその限界

ロバート・ノージック

このレクチャーでは、哲学者ロバート・ノージックによる『アナーキー・国家・ユートピア』(1974)について、その背景から国家生成の理論、世界観、そして事後的なリバタリアニズムへの影響などを語る。

『アナーキー・国家・ユートピア』は、1971年に哲学者ジョン・ロールズが著した『正義論』への反論として出版されたものである。大戦後の世界で支配的になった福祉国家についての社会哲学的な考察として、『正義論』は圧倒的な評価を受けた。多くの学者が、ロールズ的な福祉国家の理念に賛同したのである。これに対してノージックは、その自然権の理論から始めて、自然と国家が生まれることを示すと同時に、そうした国家は福祉国家的な資源の再配分を含むべきではないと主張した。そうした福祉国家は、人間の自然権としての財産権と抵触するからである。

ノージックによるこの著作によって、自由を至高の価値だと考える「リバタリアニズム」がひろく知られるようになった。これはアメリカでのリベラリズムという表現の意味が、「大きな政府」の支持を意味するように変化したことに対応している。なお、かつて日本では「自由至上主義」などとも表現されていたリバタリアニズムだが、現在ではそのまま英語表現のリバタリアニズムという言葉が使われている。

全3回のレクチャーを予定している。あくまで現在の予定だが、第1回(10月14日)は、思想的な背景としての欧米の「無政府主義」や、権利論や功利主義などの哲学的な思考法について説明する。ついでロールズの福祉国家を肯定する主張を概観した後、ノージックによる最小国家誕生の理論の概略までを解説する。

第2回(11月11日)は、より詳細に、ノージックの最小国家成立の論理を解説する。ホッブズ的自然状態から、相互保護協会、保護企業の成立、その発展と一体化によって、領域全体に保護サービスを排他的に提供する最小国家が生まれる。そうしたプロセスは自然であり、道徳理論的にも十分に裏付けられるという。しかしこの最小国家が、道徳的に許される最大の政府でもある。また時間が許せば、ユートピア論についても解説したい。

第3回(12月9日)は、ノージックが展開した最小国家誕生の理論、それはメタ・ユートピアの社会であるという説明、さらに福祉国家否定の理論などを説明する。当然、こうした論理の展開には福祉国家の肯定論者たちからの大きな批判があったが、それらについて検討する。最後に、現在でも無政府主義を主張し続けている思想家たちが、ノージックの理論のどこに納得していないのかについて考察する。

今回のレクチャーの参考図書としては、当然ながら、ロバート・ノージック『アナーキー・国家・ユートピア 国家の正当性とその限界』(嶋津格訳、木鐸社)になる。この本は哲学的にいろいろな話題が載っているところが魅力だが、その哲学的な思索はあまりすっきりと分かりやすくはない。この点、ノージック思想の(批判的)解説にはなるが、ジョナサン・ウルフ『ノージック 所有・正義・最小国家』(森村進・森村たまき訳、勁草書房)が読みやすく、全体像も理解しやすい。また背景図書としてもっとも重要なのは、ジョン・ロールズの『正義論』である。

なお、私は社会思想史の研究者というよりは、現実的なリバタリアンであり、自由主義経済学者である。今回のレクチャーを通じて生まれるオーディエンスとのケミストリーを楽しみにしている。

※本レクチャーは10/14、11/11、12/9の全3回です。

プロフィール

蔵研也リバタリアニズム、自由主義経済学

1966年、富山県氷見市生まれ。1988年、東京大学法学部卒業。1991年、サンフランシスコ大学経済学MA(修士号)取得。1995年、カリフォルニア大学サンディエゴ校経済学Ph.D.取得。同年、名古屋商科大学経済学部専任講師。1997年、岐阜聖徳学園大学経済情報学部准教授。2022年、岐阜聖徳学園大学退職。

著書 『現代のマクロ経済学 ルーカスとその還元主義的方法論をめぐって』日本図書刊行会 1997年、『国家は、いらない』洋泉社 2007年、『無政府社会と法の進化 アナルコキャピタリズムの是非』木鐸社 2007年、『リバタリアン宣言』朝日新書 2007年、『18歳から考える経済と社会の見方』春秋社 2016年。

翻訳 J.フィリップ・ラシュトン『人種・進化・行動』蔵琢也共訳. 博品社 1996年、ヘスース・ウエルタ・デ・ソト『通貨・銀行信用・経済循環』春秋社 2015年、ヘスース・ウエルタ・デ・ソト『オーストリア学派 市場の秩序と起業家の創造精神』春秋社 2017年7月。

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