シノドス・トークラウンジ

2023.01.11

2023年2月15日(水)開催

【トーク】民主主義はなぜうまくいかないのか?

小林卓人 分析的政治哲学・規範的政治理論 ホスト:橋本努

開催日時
2023年2月15日(水)20:00~21:30
講師
小林卓人
ホスト
橋本努
場所
Zoom【後日、アーカイブの視聴も可能です】
料金
1980円(税込)
本トークでは、研究者レベルの専門的な議論が行われます。

ロシアのウクライナ侵攻は、プーチンの独裁体制が招いたものです。これに対して民主主義の国々は、このような非人道的な戦争はしない傾向にあると言われます。

ところが世界全体で民主主義の国が減っています。民主主義を享受している人々の割合は、2017年には50%でしたが、2021年にはこれが29%にまで下がっています。(世界人口78.6億人のうち、約23億人になりました。)いったい民主主義は、なぜ最近、機能しなくなったのでしょうか。米国でも、トランプ政権下での議事堂襲撃事件に象徴されるように、民主主義はポピュリズムによって劣化しています。

民主主義の問題について、昨年、刺激的な本が翻訳されました。ジェイソン・ブレナン著『アゲインスト・デモクラシー(上・下)』(勁草書房、2022年)です。タイトルを邦訳すれば「民主主義に抗して」となりますが、とても挑発的でスリリングな本です。ブレナンは、民主主義よりも独裁制のほうがいいというのではなく、エピストクラシー〔知者による支配〕の方が望ましいかもしれない、と考えます。

例えば2016年に、イギリスでEU離脱をめぐる国民投票が行われました。問題の焦点の一つは、EUからの移民をこれ以上受け入れるかどうかでした。ところがEU残留派も離脱派も、驚くべきことに現状を正しく把握していませんでした。どちらもイギリスの人口に占めるEU移民の割合について正しく認識していなかっただけでなく、移民に対する児童手当について、実際の額の40倍から100倍ほど多く見積もっていたのです。こうした間違った知識に基づいて国民投票するというのは、政治的に危険ではないでしょうか。

民主主義を擁護する人たちは、それでもイギリス人は国民投票によっていろいろ学んだのだから、教育的な効果があったと主張するかもしれません。しかしイギリス人が国民投票から学んだと言えるためには、知識がより正確になった、と言えなければなりません。そこでブレナンが検討するのは、例えば一定の「知識テスト」に合格したら投票できるというような制度です。ただこうした制度よりも、ブレナンはそもそも、多くの人が政治にあまり関わらない社会の方がうまく機能すると考えます。

なぜ民主主義はうまくいかないのかといえば、第一に、討議をしても、人々がバイアスのない見解にいたるとは期待できないからです。第二に、民主主義は人々をエンパワメントすると言われますが、それは政治に参加した勝ち組の見解にすぎない、ということです。第三に、人々を平等に尊重するためには参政権が必要であると言われますが、これも間違っているとブレナンは考えます。政治的な決定は、有能な人によってなされるべきであり、無能な人々によって民主的に決定したことに政治的正統性はない。無能な人々による民主的な意思決定は、これをやめたほうがいいというのです。

では民主主義よりももっといい政治社会とは、どんなものでしょうか。本書は、エピストクラシー(知者の支配)を築くための、具体的な制度案を検討します。問題は、そうしたアイディアがうまくいくかどうかです。いろいろなアイディアがあるので、私たちは一通り検討する価値がありそうです。シノドス・トークラウンジでは、訳者の一人である小林卓人さんをお招きして、デモクラシーの根本問題に迫ります。皆様、どうぞよろしくご参加ください。

プロフィール

小林卓人分析的政治哲学・規範的政治理論

早稲田大学政治経済学術院、助手。論文「政治的決定手続きの価値——非道具主義・道具主義・両立主義の再構成と吟味」『政治思想研究』で政治思想学会、研究奨励賞。修士論文”Emotion Expressions inPublic Deliberation: Construction and Reconstruction of the Fairness of Democratic Procedures”(早稲田大学)で早稲田大学大学院政治学研究科、研究科長賞。

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