シノドス・トークラウンジ

2023.03.08

2023年4月8日(土)開催

【レクチャー】バウマン『社会学の考え方』を読む(全2回)

奥井智之 社会学 ホスト:坂本かがり

開催日時
2023年4月8日(土)20:00~21:30
講師
奥井智之
ホスト
坂本かがり
場所
Zoom【アーカイブ動画での視聴も可能です】※本レクチャーは4/8と4/22の全2回です。
料金
5500円(税込)

第1回 入門書をめぐって(4/8)

この「難物」に取り組む
ジグムント・バウマンの『社会学の考え方』は現在、英語版は第3版、日本語版は第2版がティム・メイとの共著として刊行されている。その一方でそれは、バウマンの主著の一冊として味読できる実質をもっている。講師は同書の日本語版の第1版(HBJ出版局)と第2版(ちくま学芸文庫)の訳者として、同書の刊行に関わってきた。その立場から本レクチャーでは、同書を読むに際して──とりわけ自らの意思によって、この「難物」に取り組もうとしておられる独習者が──留意すべきことを2回の講義を通じて提示したいと思う。

入門書に求められるもの
本書の日本語版の第2版の刊行時にかかっていたオビには、「最高の入門書」と大書されていた。いまでも本書は、大学周辺で社会学の教科書として使用されている。そしてまた文庫本の利点もあって、学習者が単独で登るべき「山」の一つとして推奨されることも多い(実際に取り組むと、その急峻さに驚いて「登頂」を諦めたとの声も時々聞く)。いったい書物として、入門書──とりわけ社会学の入門書──に期待されるのは何か。それについてここでは、講師(自らも入門書の執筆者である)が本書の構成を解説しつつ自説を提示したい。

第2回 境界線をめぐって(4/22)

アンビヴァレントな状況
入門書風の外観とは別に本書には、バウマン社会学のエッセンスが詰まっている。1つには「社会をどうとらえるか」をめぐる、バウマンの理論的立場が明示されている。社会学史の文脈ではバウマンは、社会の本質を人々の相互作用としてとらえるジンメルやゴッフマンの系譜に連なる。その上で他者(あるいは人々の集合体としての集団)との関係において、各人がつねにアンビヴァレント(両面価値的)な状況におかれているとバウマンは説く。ここではかれの立場を、かれの社会学の中心的な概念である「境界線」をもとに敷衍してみよう。

境界線が引きにくい状況
バウマンはこう説く。いつ、どこに、どう境界線を引く/引かれるかで、各人の社会的位置は変わる、と。たとえば「雑草」は、人々が有用な植物とそうでない植物の間に境界線を引くことで生じるカテゴリーであるとかれはとらえる。その一方で日増しに都市化しグローバル化しつつある今日の社会では、どこにも明確な境界線など引けない状況がある。興味深いのはバウマンが、そのような状況に対してアンビヴァレントな姿勢を示していることである。ひょっとしたらそこに、とらえどころのないバウマン社会学の本質があるのかもしれない。

【参考文献】
Z. バウマン+T. メイ著、奥井智之訳『社会学の考え方〔第2版〕』ちくま学芸文庫、2016年
Z. バウマン著、奥井智之訳『コミュニティ』ちくま学芸文庫、2017年(筑摩書房、2008年)
奥井智之『社会学〔第2版〕』東京大学出版会、2014年
Z. バウマン著、奥井智之訳『社会学の考え方』HBJ出版局、1993年〔絶版〕
奥井智之『社会学』東京大学出版会、2004年〔絶版〕

プロフィール

奥井智之社会学

1958年生まれ。東京大学教養学部教養学科相関社会科学分科卒業。東京大学大学院社会学研究科社会学(A)単位取得退学。現在、亜細亜大学経済学部教授。主著に『社会学』『社会学の歴史』『宗教社会学』(以上、東京大学出版会)、『プライドの社会学』(筑摩選書)、『日本問題』(中公新書)、『アジールとしての東京』『恐怖と不安の社会学』(以上、弘文堂)など、訳書にZ.バウマン著『社会学の考え方〔第2版〕』『コミュニティ』(以上、ちくま学芸文庫)などがある。

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