児童虐待の相談件数が急増、人手や予算の不足も。改めて考える、「児童相談所」の役割と課題とは?

児童虐待の相談件数が急増している。2015年度に全国の児童相談所が対応した児童虐待の件数は10万件以上、統計を取り始めた1990年度から25年連続で過去最多を更新した。こうした事態に対して、政府は児童虐待への対策強化を進め、先の通常国会では児童相談所と家庭裁判所の関わりを強める改正児童福祉法が成立した。児童相談所の果たす役割が大きくなる中で、どのような課題があるのか。歴史と現状をふまえ、専門家と考える。2017年6月28日放送TBSラジオ・荻上チキ・Session-22「児童虐待の相談件数が急増する一方、人手や予算の不足も…『児童相談所』の役割、そして課題とは?」より抄録。(構成/大谷佳名)

 

■ 荻上チキ・Session22とは

TBSラジオほか各局で平日22時〜生放送の番組。様々な形でのリスナーの皆さんとコラボレーションしながら、ポジティブな提案につなげる「ポジ出し」の精神を大事に、テーマやニュースに合わせて「探究モード」、「バトルモード」、「わいわいモード」などなど柔軟に形式を変化させながら、番組を作って行きます。あなたもぜひこのセッションに参加してください。番組ホームページはこちら →https://www.tbsradio.jp/ss954/

 

 

児童相談所の役割とは?

 

荻上 今日のスタジオゲストをご紹介します。児童相談所に詳しい、花園大学・准教授の和田一郎さんです。よろしくお願いします。

 

和田 よろしくお願いします。

 

荻上 和田さんは普段どういった研究をされているのですか。

 

和田 大きく二つあり、一つは虐待の社会に対する影響を金銭で表すという研究をしています。最新の結果では、年間1.6兆円の損害があることがわかりました。

 

荻上 二年ほど前に試算を出されていましたよね。この数字は大変なインパクトがありました。倫理的な問題であるだけでなく、子どものケアをしないことは社会にとっても損なんだ、という観点も重要ですね。もう一つは、どのような研究に取り組まれているのですか。

 

和田 子どもの貧困の研究です。主に地方自治体から委託を受けて行っています。最も多い問い合わせはひとり親世帯の調査で、実際にひとり親の方にインタビューを行い質的に分析をして、それに基づいた政策の提言を行っています。

 

先日発表された日本の貧困統計に関する調査結果では、相変わらずひとり親世帯は「二人に一人は相対的貧困状態」という状況でした。それだけでなく、ヒアリングをする中では「相対的貧困状態」とはされない家庭、あるいは就学援助を受けていないレベルの家庭でも、学費の負担が大きいために子どもが部活をやめなければいけないような状況が見えてきました。

 

荻上 「お金がかかるから野球部ではなく陸上部にした」など、経済が子どもの選択肢に影響を与えてしまうようなことが日常的に起きている。そのような家庭の実態を浮き彫りにする研究をされているわけですね。

 

児童相談所にかんする研究はどういった理由で始められたんですか。

 

和田 日本は子どもに対して予算を集中的に投資できていません。この状況をなんとかしたいという一心で研究を始めました。子どもは選挙権がありませんので、子どもの意思を政策に反映することはなかなか難しい。ですから、子どもに投資しなければこれだけの損害が出るのだと、金銭で表すことで明らかにしていきたいと思っています。

 

荻上 最近はようやく就学前の子どもの格差などもクローズアップされ始めたところなので、これからはより広く議論を進めていきたいですね。さて、今日のテーマである児童相談所ですが、どういった業務を行う施設なのでしょうか。

 

和田 18歳未満の子どもに関するあらゆる相談を行っています。大きな相談としては5つあり、養護相談、保健相談、障害相談、非行相談、育成相談などです。養護相談とは、虐待などの相談だけでなく、例えば両親が何かの事故や災害で他界してしまった子どもに対応するケースもあります。保健相談は、未熟児で生まれてきた子どものケアをどうするかなどの相談で、専門の保健師が対応します。障害相談は、例えば発達障害を持っていて療育手帳が必要という場合に、児童相談所が判定を行います。非行相談は、子どもが不良グループに入ってしまった、あるいは犯罪まではいかなくても虞犯などの相談にも対応します。そして育成相談は、いじめ、不登校などの相談です。

 

この中でもっとも相談件数が多いのは障害相談です。全体の相談件数は25年度のデータで44万件ほどで、そのうち約18万5000件が障害相談です。次に多いのが虐待などを含む養護相談で、約16万2000件です。

 

荻上 ここ数年間で虐待件数は統計上増加していますが、業務の中で虐待対応にリソースを割く部分は増えているのでしょうか。

 

和田 はい。虐待の対応はマンパワーが必要ですので、児童相談所は今もっともここに力を割いているというのが実情です。

 

 

和田氏

和田氏

 

 

戦災孤児対策から始まった児童相談所の歴史

 

荻上 リスナーからメールが来ています。

 

「本来の児童相談所の目的は何だったのですか?」

 

戦後や戦中の資料を読んでいると、引き上げ先の港でたくさんの孤児たちが発生したため、近隣に住む人々が民間でサポートする体制を作っていったという話がありました。こうした流れと現在の児童相談所は何か関係があるのでしょうか。

 

和田 それは児童養護施設につながっている流れになります。児童相談所は、戦後直後に戦災孤児やストリートチルドレンの対策として、全国に作られた公営の一時保護所が起源となっています。その後、児童福祉法の設立とともに児童相談所が設置されました。当時も戦災孤児の対応をしていたのですが、1970〜1980年代になると非行の対応が多くなり、現在は児童虐待の対応が中心となっています。このように児童相談所の目的は時代によって変わってきています。

 

荻上 90年代以降では大きな変化はありましたか。

 

和田 1995年にオウム事件があり、教団施設から保護した大勢の子どもを治療したり、一時保護所に保護したことがありました。当時は保護者から非常に大きな抵抗があったため、そうしたことから子どもを守るためのシステムが出来始めました。それが、現在の虐待対応の基礎となっている部分もあります。

 

荻上 児童相談所は現在、どこが設置をしているのでしょうか。

 

和田 県と政令市に義務付けられています。中核市でも設置はできるのですが、今のところは金沢市と横須賀市にしかありません。この二つの地域はトップのリーダーシップが強く、「地域の子どもは自分たちで守る」という意思のもと予算を作って設立したという経緯があります。

 

2016年度現在で全国に209箇所設置されており、10000人程度の職員が働いています。そのうち、136箇所に一時保護所があります。

 

荻上 一時保護所の役割はどういったものなのでしょうか。

 

和田 虐待などが原因で親と暮らすことが難しいお子さんを預かったり、非行などさまざまな事情を抱えている場合には、しばらく様子を見て判断するため「調査保護」という形で預かることもあります。平成25年度のデータでは、一時保護だけで年間2万1000件ほどで、そのうち半数の1万件は虐待による一時保護です。

 

荻上 こんなメールもきています。

 

「以前、大阪でマンション内に児童相談所を作ろうとして、反対署名が多数で断念した件がありました。児童相談所は嫌われる存在なのでしょうか。」

 

和田 保育園でも反対運動が起こるくらいなので、子どもの施設はどうしても住民からの合意を得るのが難しいです。「声がうるさい」「子どもが脱走して家に入ってきたらどうするんだ」といった反対意見をよく聞きます。

 

荻上 実際に児童相談所ではどんな方が職務にあたっているのですか。

 

和田 もっとも多いのは児童福祉司です。次に児童心理司、一時保護所には児童指導員、保育士がいます。全体的には医師や保健師、看護師、調理師なども在職しています。学習支援ではボランティアの方にもご協力いただいております。

 

児童福祉司は児童のソーシャルワーカーです。社会援助技術という専門的な技術を持つ資格で、子どもや親に対して必要な指導を行います。児童福祉法が設置された時にこの資格が作られました。児童指導員とは、一時保護所にいて子どもとともに生活しながらサポートをするケアワーカーです。そして児童心理司は、心理学の学識に基づいて心理判定をおこなったり、子どもへのケアを行う職種になります。

 

荻上 例えば子どもが虐待を受けているという通報があったときは、どういった流れで対応するのですか。

 

和田 まず、児童相談所で受理会議を行い、通告を受け付けます。その後にさまざまな調査を行います。児童福祉司が行う「社会診断」、児童心理司が行う「心理診断」、一時保護される場合には「行動診断」、医学的な判断が必要な場合は「医学診断」などです。次に援助方針会議を開き、総合的な判断によって在宅で指導するのか施設で預かった方が良いのかを検討します。

 

荻上 その中で児童相談所の権限はどの範囲になるのでしょうか。

 

和田 児童相談所の特有の権限としては二つあり、一つは先ほど説明した一時保護をする機能です。親の意向に関わらず子どもを預かることができるのは児童相談所にしかない機能です。ちなみに預かる期間の目安は2ヶ月となっています。一時保護をした後、親と暮らすのが望ましくないと判断した場合には、もう一つの権限として子どもを措置する機能があります。児童擁護施設や里親のもとで暮らすということです。

 

荻上 一時保護にするかどうかの判断は難しいものなのですか。

 

和田 はい。子どもによっては一時保護が不適切な場合もあれば、一時保護をしなかったことによって、その後トラブルにつながる危険もあります。そのあたりの判断は非常に難しいので、現在、国が一時保護や措置に対するアセスメントを作成しているところです。【次ページにつづく】

 

 

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