競わない地方創生――市民・顧客は「攻略する対象でなく、協働する仲間」

弱者(地方、中小企業)と強者(大都市、大企業)の経営は正反対に違う

 

「失敗しない地方創生へ、市民のライフスタイルを主体としたまちづくり」というテーマで執筆を依頼された。結論を先に明示しよう。

 

弱者(地方、中小企業)と強者(大都市、大企業)の経営は正反対に違う」という経営の基本を実践する弱者は、地方創生に成功できる。正反対に違う項目を9つに集約した経営モデルを今年3月刊行の拙著『競わない地方創生~人口急減の真実』(時事通信社)で以下にように纏めた。

 

(表)大企業とは正反対な「中小企業=役所が行うべき経営」9カ条

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弱者は、京都や飛騨高山の観光戦略を真似してはいけない

 

弱者と強者の経営モデルが正反対に違うことを、歴史的建造物の魅力で集客する観光事業を例に説明しよう。強者の例は、京都と飛騨高山。弱者の例は、長野県須坂市。

 

京都や飛騨高山など強者の観光施設は、歴史的建造物を厳かに見せるだけで、高い入館料を多くの顧客(観光客)から徴収できる。集客の数も稼げるし、利益率も稼げるこの経営モデルは、観光施設を厳かに見せるだけで「ほとんどの顧客が高い価値を感じるし、楽しめる」からこそ成立する。

 

つまり、ある一つの価値が、どの顧客にも通用する大量販売が可能な経営モデルである。

 

京都や飛騨高山の更なる強みは、そのような観光施設が地域内に集積していること。だから、消費金額が小さい通過型観光地ではなく、消費金額が大きい宿泊型観光地になれる。

 

 

弱者は、自分が1番になれる価値を探す

 

一方、弱者の観光地には「ほとんどの顧客が高い価値を感じるし、楽しめる」観光施設が集積していない。むしろ、そのような観光施設が一つも存在しない地方都市の方が圧倒的に多い。このような弱者の地方都市は、どのようにすれば良いかを須坂市を例に説明しよう。

 

私は今年度「須坂市まちづくり・移住推進アドバイザー」に就任した。私の提言は、机上な空論ではなく、いつも現場の体験に基づく。須坂市へのアドバイスも、今年5月30日から1週間の滞在体験から導いている。長野県須坂市で私は最初の宿泊場所に「ゲストハウス蔵」を選んだ。

 

「Guest House nagano」という言葉で、ググる(ネット検索する)と、ゲストハウス蔵は上位ベスト3に表示される。この事実は、ゲストハウス蔵が海外観光者にとって、人気が非常に高い宿である過去の実績と、これから選ばれやすい未来の有利さを示す。

 

そう、ネット検索されやすい言葉(の組合せ)でネット検索の上位に表示されるノウハウは、地域や商品を選んでもらう最高の施策である。

 

観光地を含む商品・サービスの候補は星の数ほど多い。皆さんは消費者として、多すぎる商品・サービスを購入する前に何をしますか?

 

ネット検索して、候補を3つ程に絞ってから検討しますね。コンビニはこの消費者特性を熟知し、類似商品は3つ程しか陳列しない。つまり、4位以下の商品・地域は世の中に存在していないに等しい。だから、自治体が観光地や特産品をPRしたいなら、このノウハウが絶対に必要だ。自治体の情報発信は、量こそ非常に多いが、ほとんど「読まれていない(世の中に存在していないに等しい)」現状を認識し、このノウハウを習得して、地方創生を実現しよう。

 

このノウハウについては、拙著『競わない地方創生~人口急減の真実』の3章で詳解している。本稿は、ゲストハウス蔵がネット検索で上位に表示される理由と取組みを説明する。

 

 

現場で顧客からナマの声を聞く

 

ゲストハウス蔵へ、三木正夫・須坂市長と共に訪れると(宿泊は私だけ)、応接には2人の海外観光者が寛いでいた。三木市長に海外観光者からナマの声を聞いて欲しくて、私と三木市長と山上万里奈氏(ゲストハウス蔵の経営者)は海外観光者2人と懇談することにした。

 

オランダから来たX氏(写真2左から2人目)は、今回でゲストハウス蔵に滞在するのは2回目。リピート選択の決めては、前回訪問で「須坂市民との交流が非常に楽しかった体験と、その体験を万里奈氏がアレンジしてくれた事」つまり、須坂市民のライフスタイルにある。

 

 

写真1)築100年超えの蔵を改築した「ゲストハウス蔵」の外観。左から三木市長、山上氏、筆者

写真1)築100年超えの蔵を改築した「ゲストハウス蔵」の外観。左から三木市長、山上氏、筆者

写真2)ゲストハウス蔵の応接にて。左から山上氏、海外観光者2名、筆者、三木市長

写真2)ゲストハウス蔵の応接にて。左から山上氏、海外観光者2名、筆者、三木市長

 

X氏に今回の須坂滞在で1番の楽しかった事・目的を聞いてみた。「バーベキュー(以下BBQと略す)。須坂で知り会った人達と語り合うBBQは最高に楽しかった」と言う。

 

三木市長は市が金を注いでPRする「蔵の町なみ」やNHK大河ドラマのロケ地「米子大瀑布」等の答えを期待していたのだろう。三木市長は最初、予期せぬ意外な答えに目が点になっていたが、しっかりと学びを得ていた。さすが全国市長会の副会長など要職を歴任した器が大きい人。

 

三木市長の学びとは「自治体が自慢・宣伝したい物と、市民ライフスタイルや観光者が体験したい事との、ズレ」に気がつき、それを修正することである。【次ページつづく】

 

 

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