2013.07.18

2013年度参院選を考える ―― 各党の経済政策から

片岡剛士 応用計量経済学 / マクロ経済学 / 経済政策論

経済 #金融政策#アベノミクス#再分配

第二次安倍内閣が昨年12月26日に成立して半年が経過した。昨年12月16日の衆院選前に1万円を下回っていた株価は1万4,000円台で推移し、83円台であったドル/円レートは100円近辺で推移している。5月23日以降株価は下落し円高が進んだ。だが第二次安倍内閣発足時と現在を比較すると株高・円安が進んだことは明らかである。

株価や為替レート以外の経済指標はどうか。昨年12月と直近時点(5月)の内閣府「景気動向指数」を構成する指標の動きを比較すると、株価の上昇や投資環境の改善、消費者マインドの改善、最終消費財の在庫率の低下といった動きが顕著であり、企業の営業利益は改善し、生産や出荷が増加し、所定外労働時間が増えている。消費も増えている。

2013年1-3月期の実質GDP成長率は前期比年率4.1%と1年ぶりの高成長だった。ESPフォーキャスト調査(2013年7月11日)によると、2013年4-6月期の実質GDP成長率は前期比年率3.03%(平均)と引き続き高い成長率が見込まれている。

もちろんこれで「失われた20年」から脱却できたと結論づけるのは早すぎるし、経済政策が実体経済に影響を及ぼすタイムラグを考慮に入れればアベノミクスそのものについての評価を下すのも時期尚早だ。しかし回復は実体経済にも次第に波及しており「アベノミクスで生じたのは株高と円安のみだ」と公言するのはさすがに無理があると言えるだろう(*1)。

(*1)直近の経済動向についてご興味の向きは例えば筆者が作成した「日本経済チャート集(2013年7月17日)」を参照していただければ幸いである。http://yahoo.jp/box/jZLclV

さて、こうしたなかで参院選が行われる訳だが、各党はどのような政策を主張しているのだろうか。以下ではアベノミクスの三本の矢である金融政策、財政政策、成長戦略について各党の主張を敷衍しつつ考えてみることにしたい。

なお、各党の主張をまとめるにあたり参照した資料はつぎのとおりである。詳細については以下のリンク先を参照いただきたい。

・参議院選挙公約2013(自民党)

http://jimin.ncss.nifty.com/pdf/sen_san23/2013sanin2013-07-04.pdf

・参院選重点政策(公明党)

http://www.komei.or.jp/campaign/sanin2013/manifest2013/index.php

・アジェンダ2013みんなの政策(完全版)(みんなの党)

http://www.your-party.jp/%E3%82%A2%E3%82%B8%E3%82%A7%E3%83%B3%E3%83%802013%EF%BC%88%E5%85%A8%E4%BD%93%E7%89%88%EF%BC%89.pdf

・日本維新の会 参議院選公約(日本維新の会)

https://j-ishin.jp/pdf/2013manifest.pdf

・参議院選挙重点政策(マニフェスト完全版)(民主党)

http://www.dpj.or.jp/global/downloads/manifesto2013.pdf

・参議院選挙公約2013(総合版)(社会民主党)

http://www5.sdp.or.jp/policy/policy/election/2013/data/commitment.pdf

・参議院選挙政策(日本共産党)

http://www.jcp.or.jp/web_download/2013-saninsen-seisaku.pdf

・ふかせようみどりの風の「約束」(みどりの風)

http://mikaze.jp/news/upload/1372851421_1.pdf

・生活を守る!!生活の党(生活の党)

http://www.seikatsu1.jp/special/images/election/political_policy.pdf

金融政策

まず金融政策についてみていこう(図1)。安倍政権では1月22日に日銀との共同声明を公表し、「2%の物価安定目標」を設定した。その後黒田東彦、岩田規久男、中曽宏の三氏を日銀総裁・副総裁とする人事を行い、3月21日に成立した新執行部の下で4月4日に黒田総裁は2%の物価安定目標を2年程度で達成するための「大胆な金融政策」である「量的・質的金融緩和策」を公表・実行した。

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図1 金融政策(クリックで拡大)
各党政権公約を参照して筆者作成。

以上の「大胆な金融政策」に関しての各党の反応をみると、与党である自民党・公明党は賛成だが、民主党、日本共産党、社会民主党は明確に反対の姿勢を表明している。これら三党の反対の理由をみていくと、大胆な金融政策により生活必需品や原材料・燃料の値段が高騰していること、多くの働く者の賃金は上がっておらず設備投資は増加していないこと、長期金利や株価・円相場の乱高下が生じていることの三つに要約できるだろう。

ちなみに三党の反対理由についての筆者の反論はつぎのようなものだ。つまり原材料価格高騰が問題であれば減税や一時的補助金で対処すればよく金融政策を元に戻す理由にはならない。設備投資は下げ止まりつつあり賃金への波及にはタイムラグがある。これまでと異なる金融政策を行っている事による混乱はあるものの長期金利や株価・円相場は次第に安定している。また黒田日銀が目指しているのは長期金利や株価・円相場の安定ではない。大胆な金融政策を通じて生産・雇用・物価の安定を達成することである。

さて民主党、社民党、日本共産党は「大胆な金融政策」に代わる政策として何を主張しているのだろうか。

民主党のマニフェストを読むと、「『中間層を厚く、豊かに』としてグリーン、ライフ、中小企業に政策資源を集中し、時代の要請に合った産業を育成します」とあるが、「大胆な金融政策」の代案は見当たらない。指摘しているのは産業政策である。

社民党の選挙公約をみると、日本銀行の更なる金融緩和に頼るだけではなく、格差・貧困の縮小、将来不安の解消、雇用の安定に向けた財政政策を実施すること、大企業が抱える余剰資金を消費と需要の拡大に振り向けることが必要との指摘がなされており、戦時立法であったかつての日銀法に逆戻りしかねない日銀法改正に反対するとの記述がある。

共産党の選挙政策においても「大胆な金融政策」の代案は無い。内部留保の一部を賃上げと雇用に、という指摘はあるが、どうしたら内部留保の一部が賃上げと雇用に向かうのかという具体策はない。

「大胆な金融政策」について賛成の反応をしめしているのは、自民・公明以外にみんなの党、日本維新の会がある。みんなの党の政策目標(アジェンダ)、日本維新の会の参議院選公約をみると、現政権の「大胆な金融政策」の路線を維持しつつ、さらに改善を進めるにはどうしたらよいかという具体策が明確に記されている。

具体的にみていくと、みんなの党は、デフレからの脱却を確実なものとし、日銀の目的や責任を明確化するため日銀法を改正。政府と日銀で物価安定目標や達成時期、日銀の果たすべき機能・責務を明記した協定を締結する。日銀が物価の安定に加えて「雇用」「名目経済成長率」に配慮すること、内閣に、国会の同意を条件とした総裁や副総裁・審議委員の解任権を付与することを日銀法で規定すると指摘している。

また日本維新の会は、政府と日銀の間で物価安定目標等に関する合意文書を締結、さらには日銀法改正により政府と日銀の役割分担・責任の所在を明確化すると述べている。

以上のように「大胆な金融政策」に関する各党の反応をみると、明確な反対を表明している民主党、社民党、共産党は具体策なしの反対論に終始する一方で、みんなの党、日本維新の会は、今後の金融政策の改善点について具体的な言及を行っているといえるだろう。なお、生活の党は金融政策についての具体的言及は無い。みどりの風は「アベノミクスは机上の空論」と指摘し、1%の大企業のためのバーチャル経済から99%の中小企業・自営業・国民のための実体経済重視へ転換をはかると述べている。

財政政策

つぎに財政政策についてみていこう。安倍政権の財政政策については「緊急経済対策」として真水額10兆円の経済対策が組まれ、平成25年度予算が策定された。経済対策の効果は4~6月期の公共投資増として反映される見込みで、日本経済のさらなる底上げが期待されている。

また6月14日には「骨太の方針」(経済財政運営と改革の基本方針)を取りまとめ、国と地方のプライマリーバランス名目GDP比を2015年度までに2010年度と比較して半減し、2020年度までに黒字化すること、その後長期債務残高の対名目GDP比の引き下げを目指すこと、社会保障の聖域なき見直し、財政健全化への取り組み内容を具体化した「中期財政計画」を早期に策定して、中長期の経済財政の展望をしめすことを明記している。

財政政策について論点となるのが、財政刺激策として野党はどのような指摘を行っているのか、また自民党の参議院選挙公約、公明党の参院選重点政策では具体的な言及が無いが、今年後半のホットイシューとなりうるのが来年4月と再来年の10月に予定されている消費税増税、財政再建策についての各党のスタンスである。それぞれについてまとめてみたい。

財政刺激策

まず財政刺激策についてみよう(図2)。

図2 財政刺激策(クリックで拡大) 各党政権公約を参照して筆者作成。
図2 財政刺激策(クリックで拡大)
各党政権公約を参照して筆者作成。

みんなの党は、財政刺激策としては法人税減税をメインにすえているようだ。現行から20%へと減税するとの記載がある。

日本維新の会は、物流コストを引き下げ、競争力を高めるためのインフラ投資の促進、法人税減税などを通じた企業の国際競争力の確保、所得税減税による働き盛り世代の負担軽減、消費活性化を指摘している。

民主党は「未来へ、人への投資」と題した女性、子育て、教育への支援策が特徴だろう。子供の誕生に関わる支援、子供・子育て支援、高校無償化制度の継続、大学などの授業料減免や奨学金の拡充といった指摘がなされている。

社民党は格差・貧困の縮小、将来不安の解消、雇用の安定に向けた財政政策を実施することで国内需要を喚起するとのことだ。

共産党は、全国一律最低賃金制で時給1000円以上を実現するために中小企業への政府の支援策を拡充することが特徴だろう。

みどりの風は教育予算の大幅拡充と適正な予算配分、奨学金拡充(給付型奨学金の導入)、科学技術開発への投資促進といった点が挙げられる。

生活の党は、需給ギャップを埋めるための継続的な適正規模の財政出動を行うことを明記している。財政出動のうち、相当部分は地方が自らの裁量で自由に行えるように措置し、地方にとって必要な公共投資が行えるようにすること、地方の意思で生活を守るための防災・減災インフラ整備をハード・ソフト両面で実施することが指摘されている。あわせて企業が賃上げをしやすくなるような税制措置、子ども手当、高校無償化等の中間層増大に向けた給付策を適正な規模で実施することも述べられている。

以上、野党の財政刺激策についてみてきたが、大きく教育分野への財政支出(民主党、生活の党、みどりの風)、減税策(みんなの党、日本維新の会)、インフラ整備(生活の党、日本維新の会)といった形で分類できるだろう。

消費税増税と財政健全化

つぎに消費税増税と財政健全化のスタンスについてみていこう(図3)。安倍政権は今年10月までに経済状勢を勘案して消費税増税を予定通り行うかどうかを決定するとしており、参院選の争点にはなりえていない。また「中期財政計画」の策定も参院選後と、財政健全化に向けた具体的な議論は持ち越しの形となっている。

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図表3 消費税増税と財政健全化(クリックで拡大)
各党政権公約を参照して筆者作成。

みんなの党は、消費税増税は凍結すべきと主張している。財政健全化への手段としては、経済成長による増収と歳出削減の二つが指摘され、大胆な金融政策を突き詰めることで名目成長率4%~5%を達成し増収を進めること、消費税増税の前にやるべきこととして、公務員数削減や給与削減、国家予算の埋蔵金発掘が指摘されている。中長期的に持続可能な財政運営としては「財政運営基本法(仮称)」を制定し、会計制度改革、独法の民営化、特会の改革、郵政民営化の推進といった官の改革を要請する内容となっている。

日本維新の会は、消費税増税には賛成である。ただし民主党とは異なり、消費税で社会保障を賄うのは不可能という判断から、消費税収は地方分権のための財源として使うとしている。財政健全化については、競争政策の徹底による名目成長率3%以上(物価上昇率2%)を担保することで税収を増やす一方で、プライマリーバランス黒字化の目標設定、財政運営についての中長期戦略策定、公会計制度改革による財政運営のコントロール強化といった内容を含む財政健全化責任法案を提出するとある。

日本維新の会と同じく消費税増税に前向きなのが民主党である。具体的にみていくと、消費税引き上げによる増収分は全て社会保障の財源にあて、社会保障費は一律にカットしないこと、消費税の引き上げの影響を緩和するための「簡素な給付」や給付付き税額控除といった低所得者対策の実行、住宅購入時の負担軽減対策、自動車取得税、重量税の廃止や抜本見直しといった過度な負担を軽減する措置、転嫁対策、損税問題についても措置を講じるとしている。

財政健全化へのスケジュールは与党と同じだが、この目標に向けて「歳出改革」「成長戦略」「歳入改革」の三本柱で取り組むことを内容とした「財政健全化責任法」を制定するとある。特別会計を大幅に削減するという指摘も行っている。

社民党は国民生活や家計、中小零細事業者、景気に大きな影響を及ぼし、逆進性を強めるため、消費税増税には反対である。財政再建の方策としては、経済成長による税収増と不平等である現行の税制を転換することで税収を増やすことが明記されている。具体的には、法人税引き下げ路線からの転換を進め、租税特別措置や各種優遇措置といった政策の見直し、相続税引き上げ、富裕税導入といった形で企業や富裕層への増税を進めるというものだ。

日本共産党は長期に渡る「デフレ不況」のもとでの消費税増税は経済も財政も破綻させるとし、消費税増税には反対である。昨年2月に発表した経済提言-「消費税大増税ストップ!社会保障充実、財政危機打開の提言」(http://www.jcp.or.jp/web_download/seisaku/20120207_syouhizei-stop_teigen.pdf)で、消費税に頼らない「別の道」で、社会保障の財源を確保し、財政危機を打開する提案をしている。税制のあり方を、所得や資産に応じて負担するという「応能負担の原則」に立って見直すことで、大企業に有利な減税制度の廃止による税収アップ、軍事費・原発推進予算、政党助成金といった歳出削減、デフレ不況を打開することによる増収によって財政健全化を進めていくという主張である。

みどりの風は、国民一人ひとりの所得水準が低下するなかで消費税増税はありえないと述べている。内部留保が膨れ上がるメガバンクや大企業に対する優遇税制を見直し、公正公平な税負担を実現させ、天下り禁止、不必要な公共工事の中止などムダの撲滅を進めるという主張だ。その上で社会保障は所得税、法人税、消費税等と保険料の組み合わせで財源を捻出するとしている。

生活の党は、景気回復の妨げになり、生活を直撃するため、直ちに消費税増税法を廃止し、増税を凍結すると述べている。あわせて業界・業種によって損税・益税が生じるなどの現行消費税の欠陥を是正するとともに、社会的公正と経済的自由が両立する税制のあり方について検討するとしている。

以上、各党の消費税増税と財政健全化へのスタンスをみてきたが、増税の最終判断は今年10月まで保留としているのが与党のスタンスである。そして消費税増税に賛成しているのが民主党、日本維新の会の二党であり、増税分はそれぞれ社会保障と地方分権に使うとしている。反対しているのがみんなの党、社民党、共産党、生活の党、みどりの風という形である。各党の反対の理由は様々だが、消費税増税の経済への影響はどの程度か、現状の消費税の問題点をどう見るか、消費税を含む税制全体をどう変えていくのか、経済成長・歳出削減・増税のタイミングをどう考えるかといった点が論点といえるだろう。

成長戦略

つぎに成長戦略についてみておこう(図4)。安倍政権は「日本再興戦略-JAPAN is BACK-」として成長戦略を取りまとめ、閣議決定している。成長戦略は、大胆な金融政策、機動的な財政政策を受けて、企業や国民の自信を回復し、「期待」を「行動」へ変えるべく、産業基盤を強化する日本産業再興プラン、戦略市場創造プラン、国際展開戦略の3つのプランが明示されている。3つのプランについては以下のサイトに概要がある。

http://www.kantei.go.jp/jp/headline/seicho_senryaku2013.html

成長戦略は様々な政策が並ぶが、ここでは、規制緩和、産業政策、経済連携の三つの軸に従いながら整理したい。

図4 成長戦略(クリックで拡大) 各党政権公約を参照して筆者作成。
図4 成長戦略(クリックで拡大)
各党政権公約を参照して筆者作成。

まず、みんなの党は、政策の羅列ではなく、成長するために何をするかの方針を明確にしているところが他党にない特徴だろう。つまり民間企業の自由な経済活動を後押しする規制緩和をメインとし、基礎研究などの事業化が困難なものを除いて政府が特定の産業分野を集中して育成するターゲティングポリシーはしないものとするという方針が明確となっている。

規制改革の重点分野としては、電力、農業、医療の三分野が対象となっており、労働市場の規制緩和についても前向きだ。経済連携に関してはTPPのみならず、日中韓FTA、RCEP、日EU等の広域FTAを推進しつつ、アジア・太平洋諸国とエネルギーや安全保障分野を含めた戦略的な提携関係を強化すること、アジア域内の規制緩和と必要な規制についての共同制度の構築といった指摘がある。

日本維新の会は、農協や医療法人といった特殊な法人に特権を認めず競争原理を導入すること、農業の成長産業化、混合診療の解禁、統合型リゾート(IR)の実現、発送電の分離が柱となっている。より付加価値の高い産業に労働力が円滑に移動できるよう解雇規制を緩和し、正規・非正規の公平性を図るといった政策の指摘もある。経済連携については自由貿易圏を拡大すること、TPPは攻めの交渉で国益を勝ち取るという記載がある。

民主党についてみよう。マニフェストによれば、規制緩和として、新産業創造・雇用創出、地域経済の活性化の妨げとなっている規制の撤廃、様々な手続きの簡素化が念頭に置かれている。ただし解雇の金銭解決制度の導入、ホワイトカラーエグゼンプション、労働者派遣法の緩和といった労働の規制緩和には反対である。

産業政策としては、グリーン(環境・エネルギー)、ライフ(医療)、農林水産業、中小企業に政策資源を集中するとの記載がある。具体的には、グリーンについては地球温暖化対策を進めるために再生可能エネルギーの拡大、省エネルギー技術の飛躍的普及、2030年代に原発稼働ゼロを可能にする、発送電分類などの電力システム改革といった政策が、ライフについては臨床研究拠点の拡充等による産業基盤強化、農林水産業については所得補償制度の整備を通じた所得の安定・向上策、中小企業については伝承・起業・創業・育成の支援体制強化やODAを活用した海外展開支援、税制優遇といった政策が挙げられている。

経済連携についてはTPPに関して、農林水産物の重要5品目の除外、食の安全確保、国民皆保険の堅持を確保するため、脱退も辞さない厳しい姿勢で臨む、インフラのパッケージ型輸出、エネルギー調達先の多様化といった記載がある。野田政権時の成長戦略と同様という印象だ。

社民党は労働市場の規制緩和に反対の立場である。「家計を温かくする経済対策」で賃金引上げや安定雇用の拡大を目指し、「いのち」(介護、医療、子育て、福祉、教育)と「みどり」(農林水産業、環境・自然エネルギー)へ重点的に投資する産業政策を行うことで仕事をつくり、所得・雇用の拡大と個人消費の活性化を通じた景気回復を進めることが明記されている。

共産党の場合は、規制緩和、産業政策、経済連携の三つの軸に即してみると、産業政策がメインとなっている印象である。労働市場の規制緩和には反対の立場であり、非正規雇用への不当な差別や格差を無くし均等待遇をはかること、非正規雇用者の賃上げと労働条件の改善を進めるとの記述がある。産業政策としては原発の再稼働と輸出を中止し、再生可能エネルギーへと大胆に転換すること、農林漁業を振興するため価格保障と所得補償を組み合わせて実施することが指摘されている。雇用の7割を支える中小企業全体を視野に入れた振興策を行うとの記述もある。経済連携についてはTPP交渉参加を撤回することが明記されている。

みどりの風は、自然資源を活かした持続可能な経済の実現を謳っているところが他党にない特徴だろう。循環型社会の実現や省エネ省資源の徹底、脱原発へのエネルギーシフトといった点が指摘されている。TPPについては日本らしさを壊すとして断固反対の姿勢だが、RCEPについては、アジアの一員として多様性に配慮しながら進めるとしている。

生活の党は、生活者の視点に立った成長戦略を掲げている。解雇規制の緩和には反対の立場であり、エネルギー、医療、福祉、農林漁業等将来の成長が見込める分野に積極的に投資することで雇用の創出・拡大を図ることを明記している。エネルギー政策については10年後に全ての原発を廃止し、省エネ技術と再生可能エネルギーの普及、効率の良い発電の推進、脱原発やエネルギーの地産地消を推進するとの指摘がある。TPPについては、単なる自由貿易協定ではなく、日本の仕組みを大きくかえる協定であるため反対とのことだが、FTAやEPAについてはRCEPや日中韓FTAを含め、積極的に推進するとのことだ。

以上、各党の成長戦略につきみてきたが、規制緩和や産業政策のターゲットとして電力、農業、医療分野を対象としている政党が多い。労働市場の規制緩和については、自民党、みんなの党と日本維新の会は推進の立場だが、民主党、社民党、日本共産党、生活の党は反対の立場である。TPPについては自民党、公明党、みんなの党、日本維新の会、民主党は賛成、社民党、日本共産党、みどりの風、生活の党は反対という形で分かれている。

まとめ

以上、各党の参院選に関しての政権公約のなかから金融政策、財政政策、成長戦略に関する部分に絞ってまとめてきた。

拙著『アベノミクスのゆくえ-現在・過去・未来の視点から考える』(光文社新書)(https://synodos.jp/newbook/3504)で述べたように、アベノミクスの三本の矢である金融政策、財政政策、成長戦略は経済成長のための政策パッケージであり、経済政策という視点で見た場合には所得再分配政策という重要な柱が抜けている。

結城康博氏が指摘するように(https://synodos.jp/welfare/4874)、アベノミクスによりデフレからインフレへと日本経済が変貌していく局面においては、高齢者や障害者といった年金生活者にとっては、社会保障給付費の拡充がなければ厳しい生活を余儀なくされる可能性が高いし、日本経済全体の回復に伴い置き去りにされる人々への対策を忘れてはならない。

生活保護についても同様だ。アベノミクスにより生活保護を受給していない人々の所得が増えていく一方で、生活扶助基準額を引き下げれば、生活保護を受給している人とそうでない人との格差が広がることになってしまう。減税や補助金という形で円安による原材料価格高騰への対策も必要になるかもしれない。安倍首相のみならず、全ての人々が等しく再チャレンジできるためにも、経済成長に伴うパイの拡大に見合った所得再分配政策の充実が必要となる。

冒頭でも述べたように、第二次安倍政権が成立して半年が経過した段階で景気回復に寄与しているのは「大胆な」金融政策である。しかしアベノミクスによる物価変動が年金生活者に及ぼす影響に敏感な日本共産党や社民党の主張をみると、現状成功への方向へと進んでいる「大胆な」金融政策に対して反対の立場である。これは筆者にとっては奇妙な現象だ。大企業が抱える余剰資金を賃上げと雇用に向けると両党は主張するが、政府が賃上げを要請しても、賃上げを行うに足る経済状況の好転がなければ、企業が賃上げや雇用を増やすことはできないのではないか。

「大胆な」金融政策をさらに前に進め、かつ日本共産党や社民党の主張を活かすとすれば、名目賃金、つまり名目GDPをターゲットとする金融政策や物価安定に加えて雇用の安定を日銀の政策目標に加えることが考えられる。こうすると、みんなの党が主張している金融政策と整合的であるし、安倍首相もこれまでの「大胆な」金融政策の実績をアピールしていれば事足りるという戦略は通用しなくなるのではないか。

参院選終盤状勢についての報道をみると、与党は過半数を大きく超す勢いとのことだ。このような結果をもたらしているのは、野党が与党にとって有効な対立点を提起していないことが一因ではないか。

安倍首相は消費税増税の判断を保留し、「中期財政計画」の策定も先送りしているが、財政健全化のタイミングと手段について具体的な議論を進めるには数字を元に議論することが必要となる。そのためには政府試算の早急な公表が求められるし、そうした視点で各党のマニフェストをみると「絵に描いた餅」との印象がぬぐえない。

そして予定どおり来年4月に消費税増税を行うのは、「2年程度で2%の物価安定目標を達成する」というリフレ・レジームへの障害になりうる。さらに今回の消費税増税は1997年のときよりも影響力は大きいだろう。なぜかといえば、1997年の際は所得税減税を行った後で消費税増税に踏み切ったが、今回は増税ラッシュの最終局面で消費税増税がやってくるからだ。

7月の展望レポートを参照して消費税増税による物価への影響をみると、来年4月に5%から8%への消費税増税を行った場合には2014年度の消費者物価指数(除く生鮮食品)は2%上昇、再来年10月から8%から10%へと再度増税した場合の2015年度消費者物価指数(除く生鮮食品)への影響は0.7%上昇となる(http://www.boj.or.jp/announcements/release_2013/k130711a.pdf)。消費税増税によって物価は上昇する一方で名目賃金は上昇しないため、実質賃金は低下する。まさに消費税増税は一時的に「名目賃金上昇を伴わない物価上昇」をもたらすのである。こうした点を含め野党はもっと批判すべきではないか。

成長戦略を考える際には、規制緩和や産業政策といった政策の効果を数値としてカウントするのは困難であり、かろうじてTPPといった経済連携の効果は推計可能である(経済成長の押し上げ効果としてカウントできる)ということを押さえておくべきだ。規制緩和だから全て成功するわけではないことは各国の経験からも明らかである。産業政策はほぼ成功例がない。

若田部昌澄教授が指摘するように(最先端を行く「リフレ・レジーム」http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20130624-00010001-php_s-bus_all&p=3)、「2年程度で2%の物価安定目標を達成する」というリフレ・レジームの賞味期限は2年間である。2年後に2%の物価安定目標を達成した暁には、物価安定を維持しつづけるという前提で成長戦略をどうするのか、所得再分配政策をどうするのかといった点に経済政策の重心は移っていくことになるだろう。

裁量や上からの計画重視といった視点が濃厚な産業政策を成長戦略の中心に位置づけるのか、それともルールや枠組みを重視し、特定産業ではなく市場の効率的な運用を成長戦略の中心に位置づけるのか。自助を中心にすえた所得再分配政策を進めるのか、それともできる限り公助を中心にすえた所得再分配政策を進めていくのか。参院選がこうした将来の日本経済の道筋を選択する機会であることも忘れるわけにはいかないだろう。

サムネイル:「Tunnel」Jason

http://www.flickr.com/photos/jasoon/8344047/

プロフィール

片岡剛士応用計量経済学 / マクロ経済学 / 経済政策論

1972年愛知県生まれ。1996年三和総合研究所(現三菱UFJリサーチ&コンサルティング)入社。2001年慶應義塾大学大学院商学研究科修士課程(計量経済学専攻)修了。現在三菱UFJリサーチ&コンサルティング経済政策部上席主任研究員。早稲田大学経済学研究科非常勤講師(2012年度~)。専門は応用計量経済学、マクロ経済学、経済政策論。著作に、『日本の「失われた20年」-デフレを超える経済政策に向けて』(藤原書店、2010年2月、第4回河上肇賞本賞受賞、第2回政策分析ネットワークシンクタンク賞受賞、単著)、「日本経済はなぜ浮上しないのか アベノミクス第2ステージへの論点」(幻冬舎)などがある。

この執筆者の記事