「アベノミクス」の先を考えるために

「アベノミクス」という言葉を耳にしない日はない。なぜ「アベノミクス」に、これほどまでの注目が集まるのか。そもそも「アベノミクス」を、どのように評価すべきなのだろうか。そして、その先に考えなくてはいけないこととは……? 日本経済を考えるための視点を提供し、現在・過去・未来から日本経済を考える片岡剛士氏の『アベノミクスのゆくえ』。期待と不安の入り混じる「アベノミクス」の先を考えるための決定版となるであろう本書について、片岡剛士氏にインタビューを行った。(聞き手・構成/金子昂)

 

 

「アベノミクス」を具体的に考えるために

 

―― 安倍政権が掲げている「アベノミクス」への注目が集まっています。本書では、アベノミクスそのものだけでなく、日本経済の過去、そして未来についてもお書きになられていますね。最初に、本書で何を書こうとしていたのかをお教えください。

 

過去20年間のデフレを伴う経済停滞から脱出するきっかけになるのではと、「アベノミクス」への期待が膨らんでいますよね。安倍政権が誕生して100日ほどしか経っていません。「デフレから脱却した」とは言えないながら、これほどまでに経済政策に注目と期待が集まっているのは、過去の政権とは決定的に違う何かが安倍政権にあるからだと思います。いったい安倍政権は過去の政権と何が違うのか、それをできるだけ具体的に執筆したいとまず思いました。

 

本書は2011年にシノドス・レクチャーでお話させていただいた「現在・過去・未来からみた日本経済」が枕になっています。レクチャーの後、光文社さんから「レクチャーの内容をまとめて出版しましょう」とお話をいただいていたのですが、出版までに2年もかかってしまいました。いまになってようやく本書を出版できたのは、アベノミクスによって、日本が経済停滞から抜け出す具体的なメカニズムが書けるようになるのではと感じたからです。

 

あとでお話することになると思いますが、アベノミクスは経済成長に偏った経済政策のパッケージです。経済成長は、みんなが暮らしやすくなることや、やりたいことを自由にできる環境をつくるために必要なものであって、それ自体を目的とするものではないはずです。つまり経済成長を実現した上で、何をするのかを考えなくてはいけません。

 

安倍政権が誕生して100日。まだ早すぎる話だとは思いますが、アベノミクスによって本当に日本経済は成長するのか、本当に成長できるのであれば、その先に安倍政権はどんな経済政策を準備しているのか。こうした意味で「アベノミクスのゆくえ」を考える必要があると思います。

 

本書を手に取ってくださる方の多くは、リフレ派っぽい、つまり金融政策に関する話を期待されているかもしれません。もちろん金融政策は重要ですし、デフレを脱するためには必要です。金融政策の話題も書いていますし、財政政策や成長政策についても現状の動きを踏まえながら書いていますが、むしろ本書では、なぜ今まで日銀がデフレに有効な金融政策をしてこなかったのか、なぜ政府はそれを野放しにしてきたのか、そして現在の経済停滞はどういう経緯で、具体的にどんな失敗によって引き起こされてしまったのかを、私の理解に照らしながら具体的に書いたつもりです。

 

失敗が生じるメカニズムを理解することで、成功するメカニズムもわかってくると思います。そして過去の失敗を踏まえることで、単純に「アベノミクス万歳!」と両手をあげるのではなく、アベノミクスがどのような経済政策なのかをより具体的に考えることができるのではないかと思うんです。こうしたことを考えるための素材を、本書では提供したつもりです。

 

 

経済安定化政策、成長政策、所得再分配政策

 

―― その考えるための素材として、「3×3(スリー・バイ・スリー)のフレームワーク」を紹介されていますね。

 

「3×3のフレームワーク」は、失敗が失敗を生むメカニズムをできるだけわかりやすく読者の方に伝えるために考えた枠組みです。もったいぶって「3×3のフレームワーク」と書いていますが、これは「3つの政策手段」「3つの時点」「3つのステージ」とこれらの相互関係を図式化したものです。

 

まず「3つの政策手段」とは「経済安定化政策」「成長政策」「所得再分配政策」のことです。

 

「経済安定化政策」には、財政政策と金融政策があります。政府による公共投資や減税などを行う財政政策と金利の上げ下げやマネタリーベースの増減を行う金融政策によって、物価や循環する景気の波を安定化させようとする。ここで気を付けなくてはいけないことは、景気循環を低いところで安定させるのでなく、またすごい好況状態にもしないこと。すごい好況になると、例えばバブルを引き起こしてしまうようなリスクが高まりますよね。ですから経済安定化政策では、ケインズの言うところの「準好況状態」つまり、そこそこ良い状態を維持し続けることが目的となります。

 

波打つ景気循環は、水平なトレンド線上を上下するのではなく、右上がりもしくは右下がりのトレンド線にのった形で波を打っています。そこで成長を促し、トレンド線の傾きをより右上がりにするような政策が2つ目の「成長政策」です。経済成長を中長期的なトレンドで見るとき、資本・人口・生産性の変化によって経済成長が決まります。資本や人口をより効率的に活かせるような政策を行ったり、生産性を高めることで日本経済の潜在的な成長力を上げるのが成長政策の目的です。

 

最後が「所得再分配政策」です。所得再分配政策は、様々な事情でまずしい境遇に置かれてしまった人や怪我を負って働けない人、引退した高齢者の方などに、徴収した税を再分配することで、国民の皆さんが生きていく上で最低限の生活をおくってもらおう、元気に生活できる基盤を提供しようとする政策です。

 

市場メカニズムはよく「弱者をとことん弱者に、強者をとことん強者にする仕組みだ」と批判され、「経済学者やエコノミストは弱肉強食の世界を生み出す市場メカニズムを信奉している奴らだ!」とレッテルを貼られてしまうことがあります。確かに経済学は市場メカニズムが有効に作動するために何をすべきかを具体的に考える学問という側面はありますが、経済学の本流に立ちかえって考えると、このような批判は悲しい誤解からくるものだと思います。経済学には、市場メカニズムの持つ好ましい特性を探求するだけではなく、競争に参加する人々の間に無視できないハンディがあるのであれば、ハンディキャップを設けることで、強者と弱者が対等に競争できるようにするような方法を考えることも含まれます。そうして国民全体の所得や満足を底上げすることも含まれると私は思います。

 

いま政策を3つに分けてお話をしましたが、これらは個別に独立した政策ではなく、それぞれが相互に関係している政策です。3つの政策が、全体としてうまく循環しなくては機能しないんです。このことを理解することは「アベノミクス」を考えるときに非常に有用だと思います。

 

 

kataoka

 

 

 

 

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