ゲーム理論による制度分析と「予想」

この連載は毎回、原則として毎月最終週ぐらいに掲載していただいているのですが、今回は十日以上遅れました。楽しみにしてくださっている読者のみなさんには、大変もうしわけありませんでした。

 

もともと、やむを得ざる私事のために、今月三月分は恐縮ながら休載させていただく予定でしたので、今回は、二月・三月分の合併ということでご理解下さい。そのため、若干長めの分量になりましたが、悪しからずご了解下さい。

 

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さて前回は、経済学の学問分野で言うと「マクロ経済学」と呼ばれる分野で1980年代に広まった、「反ケインズ革命」等と呼ばれる学説史上の大転換について見ました。それが経済学の発展に貢献したコアは何だったか──「予想は大事!」という見方だった。それを、「反ケインズ革命」の旗手として有名なフリードマンやルーカスさんの議論を検討する中から確認しました。

 

そうするとわかったことは、一般にはこの二人はとりわけて、民間の自由な営利活動をとことん崇拝し、政府は経済のことに手を出すなと言っていたようなイメージがありますけど、実はその議論の神髄からは必ずしもこんな結論ばかりが出てくるわけではないということでした。

 

すなわち、公共の政策にはなくてはならない役割があって、それは民間人の予想を確定させることである。そのためには政策の介入が必要なときがある。「ある将来予想のもとで人々が振る舞った合成結果として、その将来予想がだいたい自己実現される」という、予想と行動がつじつまがあった状態──「合理的期待」や「完全予見」──にあるからといって、必ずしもその状態のもとで市場の売り買いがみな均衡するとは限らないし、政策介入もムダだとは限らない。……ということでした。

 

今回は、同じく1980年代に広まった経済学説史上の革命的出来事なのですが、今度は経済学の学問分野で言うと「ミクロ経済学」の分野で起こったことを見て行きます。それは「ゲーム理論」と呼ばれる手法が普及したことなのですが、やはりそのコアにあるものは同じ──「予想は大事!」ということでした。

 

余談になりますが、マクロ経済学における「反ケインズ革命」のもたらした手法上の革新の結果、「ミクロ的基礎付け」と言って、経済全体のいろいろな式を、企業や家計の各自の意思決定の分析から根拠づけるようになりました。従来そういう各自の意思決定のことを考えるのは「ミクロ経済学」の分野とされてきたのですが、同じことを、経済全体のことを考える「マクロ経済学」でも扱うようになったわけです。

 

他方で、あとで見ますとおり、ミクロ経済学における「ゲーム理論革命」の結果もたらされたのは、経済全体の「制度」「システム」「慣習」といったものの分析です。これらは経済全体のことですから、どちらかと言えば従来「マクロ経済学」の分野とされてきたような事柄です。

 

したがって、「ミクロ経済学」「マクロ経済学」という分け方自体、意味がなくなっているのが主流派経済学の現状です。

 

いま、一部に、全国の大学の経済学部の教育カリキュラムを、伝統的な「ミクロ経済学」「マクロ経済学」の二本立てを必修として基礎に置くものに標準化しようという動きがあるようです。

 

たしかに、公務員試験対策の便宜とか、教員配置の現実に合わせる都合上、いまだに基礎カリキュラムを「ミクロ経済学」「マクロ経済学」の二本立てにしている経済学部がほとんどだと思いますが、これでいいと満足している主流派経済学の教員はほとんどいないはずだと思います。早い段階で学生の頭の中がへんな分かれ方をして固定してしまって、あとからそれを統合するのに苦労しているのが現実だと思います。

 

ではどんな順番で教育するのが効果的でシステマチックなのか──それはいまから議論を重ねていく段階なのだと思います。こんなときに古い枠をはめられたらたまったものではありません。

 

連載『リスク・責任・決定、そして自由!』

第一回:「『小さな政府』という誤解

第二回:「ソ連型システム崩壊から何を汲み取るか──コルナイの理論から

第三回:「ハイエクは何を目指したのか ―― 一般的ルールかさじ加減の判断か

第四回:「反ケインズ派マクロ経済学が着目したもの──フリードマンとルーカスと『予想』

第五回:「ゲーム理論による制度分析と「予想」

第六回:「なぜベーシックインカムは賛否両論を巻き起こすのか――「転換X」にのっとる政策その1

第七回:「ケインズ復権とインフレ目標政策──「転換X」にのっとる政策その2

第八回:「新スウェーデンモデルに見る協同組合と政府──「転換X」にのっとる政策その3

 

 

 

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vol.196 特集:当事者と非当事者

・小峰公子氏インタビュー「福島の美しさを歌いたい——福島に「半当事者」としてかかわって」

・山本智子「知的障害がある当事者の「思い」を支えるために――「当事者性」に関与する「私たち」のあり方」

・李洪章「『研究者の言葉』から『当事者の言葉』へ」

・熊谷智博「他人同士の争いに参加する非当事者の心理」