朝鮮学校「無償化」除外問題Q&A

Q9.反日教育をしている朝鮮学校に公金を支出するのは抵抗がある。

 

「朝鮮学校は反日教育をしている」というイメージは、一部の人たちにたいへん根強くあるようです。しかし、それは事実に反しています。

 

1993年に在日韓国人青年(18~30歳)を対象に実施された全国調査の中から、それぞれの国にどれぐらい愛着を感じるかという設問への回答を平均値で示したのが下の図です(標本サイズ800名、回収率46.4%。詳細は福岡安則・金明秀『在日韓国人青年の生活と意識』東京大学出版会を参照)。「1まったく感じない」~「5非常に感じる」までの5点尺度ですので、得点が高いほど愛着が強いことを意味します。

 

 

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一見して明らかなように、朝鮮学校経験者とそれ以外の間に、日本に対する愛着の強さに有意な差はみられませんでした。どちらも非常に高い水準で「日本」や「生まれ育った地域」に愛着を持っていることがわかります。

 

加えて、両者とも、祖国・母国たる「北朝鮮」「韓国」より、「生まれ育った地域」「日本」のほうに強い愛着を示しています。「朝鮮学校は反日教育をしている」という実態があれば、このようなデータにはならないでしょう。

 

朝鮮学校無償化除外が問題となって以降、東京、神奈川、埼玉、大阪と、抜き打ちのように朝鮮学校に視察が入りました。しかし、一度として「反日教育」なるものが発見されたことはありません。

 

むしろこの図は、朝鮮学校が出自に関連する3国すべてに健全な愛着を育むような教育に成功していることを示唆しています。日本学校などに通った在日は「在日」「韓国」「北朝鮮」といったエスニックな帰属対象への愛着を低下させているのに対して、朝鮮学校出身者はバランスよく愛着を内面化しています。

 

 

Q10.そもそもなぜ日本生まれの四世、五世にもなって民族教育を行う必要があるのか。日本の公立学校に通えばいいのでは。

 

自覚している人はそう多くありませんが、日本人も学校で民族教育を受けています。民族教育とは自分が所属している民族集団の言語や歴史、文化を学ぶことです。日本語、日本史、日本の音楽や芸術、武道は、いずれも民族教育そのものなのです。

 

現代社会においては、自民族に対して健全なプライドと愛着を感じることは人格形成において重要なことだと思われていますので、日本人が日本の学校で民族教育を受けること自体には何の問題もありません。問題なのは、日本の教育制度が、日本人以外の民族集団にとっての民族教育をいっさい認めていないということです。

 

その結果、日本の学校で教育を受ける民族的マイノリティは、相対的に、健全な人格形成を阻害される危険性があります。

 

 

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上図は、成育過程でどれだけ自尊心に傷を受けたかについて、民族学校(朝鮮学校と韓国学校)の経験者と日本学校にしか通わなかった者の間で平均値を比較したものです(データはQ9のものと同じ)。「1まったくなかった」~「5とてもよくあった」までの5点尺度ですので、得点が高いほど「在日である自分を嫌だと思ったことがある」という意味になります。

 

民族学校経験者は、日本学校にしか通わなかった在日に比べて、自尊心に傷を受けずにすむ傾向があるということがわかります(p<.05)。

 

また、双方とも「過去」に比べて「現在」では自尊心を回復していますが、日本学校にしか通わなかった在日の「現在」の値は、民族学校に通った在日の「過去」の値よりも高くなっています。平均的にいって、日本学校に通うことで形成を阻害された自尊心は、時間をかけても民族学校に通うことで涵養されたはずの自尊心まで回復することは難しいということです。

 

同種の問題はブラジル人学校など幅広い民族集団で観察されています。民族的マイノリティが健全に人格を形成するうえで、民族教育がいかに重要であるかがわかります。

 

視点を世界に向けてみると、例えばアメリカの日系移民は、戦後を起点にしても四世、五世という世代になっていますが、民族教育の努力は1980年代後半以降になってますます盛んになっています。

 

日系移民がそうやって継承した日本文化がアメリカ社会に果たした文化的、社会的貢献も小さくはありません。空手や合気道といった武道をスポーツとして定着させましたし、各地の日系コミュニティで行われている盆踊り会場では、浴衣を着ての踊りだけでなく、生け花、書道、折り紙などが実演されるなど、貴重な文化交流の場となっています。

 

移民の子孫は「国家と国家の懸け橋」にたとえられることがありますが、朝鮮学校出身者は日韓朝3か国の懸け橋になれる可能性を持った貴重な人材です。「反日教育をしている」といった根拠のない偏見によってその価値を否定するのは、とても残念なことです。

 

 

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シノドス国際社会動向研究所

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