障害者差別解消法Q&A

【基本方針】

 

Q9  政府の基本方針とは、どのようなものですか?

 

政府の基本方針は、つぎの4つの事項をさだめます(6条2項)。すなわち、1)差別解消推進施策の基本的方向、2)行政機関等がこうずべき措置の基本的事項、3)事業者がこうずべき措置の基本的事項、4)その他重要事項です。

 

衆内閣委での政府参考人の答弁によれば、4)その他重要事項には、障害者差別解消支援地域協議会等の事項がふくまれます。参内閣委で、国務大臣と政府参考人は、基本方針は、障害者権利条約や、この条約をふまえて改正された障害者基本法などをふまえたものになる、とのべています。

 

 

Q10  政府の基本方針は、どのように作成されるのですか?

 

内閣総理大臣は、あらかじめ障害者その他の関係者の意見と障害者政策委員会の意見を聴取してから基本方針案を作成し、閣議決定後に基本方針を公表します。ちなみに、差別禁止部会意見も、国は法律の実効性を確保するためガイドラインを作成するさいには、事業者、障害者、障害者の家族等の参画をはからなければならない、としるしています。

 

 

【差別解消措置】

 

Q11 差別解消措置とは、どのようなものですか?

 

差別解消措置とは、義務主体が、1)不当な差別的取扱いをおこなってはならないことと、2)合理的配慮をおこなわなければならないことを意味します。障害者差別解消法は、差別の定義自体を明文上おいていません。その理由は、現時点で法律のなかに差別の定義を明記するのは時期尚早である、という判断がなされたからだといえるでしょう(衆内閣委・参内閣委での政府参考人答弁を参照)。

 

そもそも、差別禁止部会意見は、障害差別を「不均等待遇」と「合理的配慮の不提供」と定義し、それぞれの内容を丁寧に整理していました。そして、ここでいう「不均等待遇」は、直接差別、間接差別、関連差別という3つの差別概念をふくむものでした。しかし、この法律を作成する段階で、間接差別や関連差別の意味内容が具体的にどのようなものであるか、を一意的に特定することはむずかしい、という判断がなされたものと考えられます。

 

ただし、間接差別や関連差別を含めた差別の概念は、基本方針、対応要領、対応指針のなかで一定程度しめされるかもしれません。そして、相談例や裁判例などが徐々に蓄積されるようになれば、差別の内容はより具体的に明確にされていくことになるでしょう。そうなれば、のちの法改正で、差別の定義が法律で明文化されることもありえます。

 

ところで、この法律は「差別の定義」をおいていないが、「差別の概念」をさだめている、と理解することができるかもしれません。まず、7条と8条のどちらも、その見出しのなかで、「……障害を理由とする差別の禁止」という表現をもちいたうえで、不当な差別的取扱いをすることによる障害者の権利利益の侵害(1項)と、合理的配慮をしないことによる障害者の権利利益の侵害(2項)とを禁止しています。そして、この見出しの表現(障害を理由とする差別の禁止)に照らして7条と8条の規定を素直によめば、それぞれの1項にさだめる不当な差別的取扱いはもちろんのこと、それぞれの2項にさだめる合理的配慮の不提供も、障害を理由とする差別だと解することができます。

 

このように、7条と8条をみると、この法律における「差別の概念」は、1)不当な差別的取扱いと2)合理的配慮の不提供のことだと考えることができます。この点、衆内閣委で、政府参考人が、作為による差別が不当な差別的取扱いであり、不作為による差別が合理的配慮の不提供である、と整理したことが注目されます。というのも、政府参考人は、合理的配慮の不提供を差別だと考えているからです。参内閣委でも、政府参考人は、合理的配慮の不提供は差別にあたる、とのべています。

 

 

【不当な差別的取扱い】

 

Q12  不当な差別的取扱いとは、どのようなものですか?

 

不当な差別的取扱いとは、「障害を理由として障害者でない者と不当な差別的取扱いをすること」です(7条1項、8条1項)。この規定は、日本語の表現としてすこし不自然のようにおもわれますが、「障害者でない者と(一緒に)不当な差別的取扱いをすること」を意味する規定であると理解することはできないので、「障害者でない者と(比較して)不当な差別的取扱いをすること」を意味する規定だといえるでしょう。

 

不当な差別的取扱いにかんして問題となるのが、いわゆる差別の正当化です。この点、差別禁止部会意見は、「障害又は障害に関連する事由を理由とする区別、排除又は制限その他の異なる取扱い(不均等待遇)」は、「当該取扱いが客観的にみて、正当な目的の下におこなわれたものであり、かつ、その目的に照らして当該取扱いがやむを得ないといえる場合においては」、例外的に是認されるべきである、とのべています。この部会意見に照らし、障害者差別解消法において、差別の正当化を厳格な条件のもとで認めるのであれば、用語法の問題として、「不当な差別的取扱い」を「正当化されない差別的取扱い」の意味でもちいることができるかもしれません。逆にいえば、「正当化される差別的取扱い」は「不当な差別的取扱い」にはあたらないということになります。現場で混乱をしょうじさせないためにも、基本方針、対応要領、対応指針のなかで、差別の正当化の論点をふまえて「不当な差別的取扱い」という言葉の意味内容をあきらかにする必要があるでしょう。

 

なお、この法律にいう「不当な差別的取扱い」が、直接差別の概念をふくんでいることはあきらかですが、それにくわえて間接差別(関連差別)の概念までもふくみうるかは不明です。この点については、基本方針、対応要領、対応指針で一定程度明確にされるかもしれません。また、相談例や裁判例などが徐々に蓄積されるようになれば、この点はより具体的に明確になっていくかもしれません。

 

 

Q13  直接差別と間接差別(関連差別)とは、どのような概念ですか?

 

この法律は、直接差別と間接差別(関連差別)という差別概念に言及していません。あえて簡単にいえば、これらの概念はつぎのように整理することができます。

1)直接差別は、障害自体を理由とする障害者差別です。2)関連差別と間接差別は、障害自体を理由としない障害者差別(障害に関連する事柄を理由とする差別)です。

 

関連差別と間接差別は、ある意味では、似たような差別概念です。この点について、差別禁止部会意見にも採用された例ですが、視覚障害者が盲導犬を理由に雑貨店の入店を拒否された場合を考えてみたいとおもいます。この事例は、犬同伴の入店を拒否するという表面上中立的なルールを適用することによって、視覚障害者が不利益をこうむるという意味では、間接差別の例だと言えます。その一方で、この事例は、「障害に関連する事柄」(盲導犬は、障害者に当然関連するものですので、ここでいう事柄にふくまれます)を理由に視覚障害者が不利益をこうむるという意味では、関連差別の例だといえます。このように、盲導犬の事例は、間接差別の例でもあり、関連差別の例でもあります。

 

さらに、障害自体を理由とする障害差別(直接差別)と、障害自体を理由としない障害差別(関連差別、間接差別)とは、ある意味ではおなじようなものだとみなされうる、と主張することもできます。すなわち、さきの事例をもちいるのであれば、盲導犬を理由に差別をすることと、視覚障害を理由に差別をすることは、「障害者差別」という意味ではおなじものとみなすことができるのです。

 

このような主張は、障害を理由とする差別という表現のなかにある「障害」(視覚障害)という言葉をひろく解釈して、この「障害」という言葉のなかに「障害に関連する事柄」(盲導犬)をふくめることによって、可能になります。「障害に関連する事柄」と「障害」との関連性がどの程度のものであるかが、この問題を考えるさいのカギになります。なぜなら、その関連性の程度がたかければ、「障害に関連する事柄」を理由とする差別が「障害者差別」とみなされる可能性もたかくなるからです。

 

 

 

 

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