地理空間情報の技術による東日本大震災における被災地情報支援

昨年6月に災害対策基本法の一部が改正された。東日本大震災の教訓にもとづき、多くの点が改正されたのだが、そのなかのひとつに、災害応急対応の責任者に対して、地理空間情報の活用や情報共有をするよう、努力義務が明記された。

 

地理空間情報とは、仕組みは後述するが、情報に位置が紐付いたものであり、位置(地理座標)をキーにして、各種地理空間情報を統合的にあつかうことで効果を発揮する。

 

災害対応は「いつ」、「どこで」、「なにが起きている」、「なにをしている」という情報が重要である。そして、さまざまな主体がおこなう災害対応を、効率的かつ効果的にするためには、さまざまな情報を総合的に判断することが大切であり、そのためにも位置情報の共有はとくに必須なのである。したがって、情報を統合するための手段として、地理空間情報と、それをあつかう技術はきわめて重要となる。

 

東日本大震災において、わたしが所属する独立行政法人防災科学技術研究所(以下、防災科研)の研究員有志と、ご支援をいただいた団体・個人の方々とともに、地理空間情報の技術(地理情報システム)を活用した被災地の情報支援(東日本大震災協働情報災害プラットフォーム:ALL311)を震災直後から実施してきた。活動内容はあとに説明するが、インターネットをもちいた地理空間情報をあつかう技術(Web-GIS)と、インターネットによる地理空間情報の流通技術により、上記の法律で目指している地理空間情報の共有を実践し、被災地の災害対応を情報面で支援した。

 

本稿では、地理情報システムについての簡単な説明と、インターネットを使った地理情報システムの技術を説明した上で、災害対応におけるWeb-GISとインターネットによる地理空間情報の流通技術のメリットを紹介する。そして、実際に被災地において実践したWeb-GISによる情報支援を紹介し、課題や今後の展望をのべたいと思う。

 

 

インターネットとGIS

 

地理情報システム「GIS」は、Geographic Information Systemの略である。「位置や空間にかんするさまざまな情報を、コンピュータをもちいて重ねあわせ、情報の分析をおこなったり、情報を視覚的に表示させるシステム(地理空間情報活用推進会議 GISポータルサイトより)」と説明されることが多い。ここでいう「位置や空間にかんするさまざまな情報」というのは、現実世界にあるモノを、点・線・面で抽象化して表現した図形のことである。この図形を表現するための座標が、緯度・経度のような地理座標で記述されており、これらを地理空間情報と総称する。

 

GISで取りあつかう点・線・面のデータの例について説明する。点のデータとしては、消火栓のような地点として表現するのに適したデータがあり、線のデータは、道路といった線として表現するのに適したデータがある。また面のデータとしては、浸水エリアのような領域として表現するのに適したデータがある。

 

ここで示した、消火栓、道路、浸水エリアの各データは、それぞれ別のデータ(レイヤと呼ぶ)として、コンピュータ上で保存されており、これら別々のデータをパソコンの地図画面上で重ねあわせて可視化することで、新しい発見が生まれたり、レイヤにある図形(地物)との近さや重なり具合による定量的な分析などが可能となる。

 

点・線・面のデータとは別の種類のデータとして、画像データがある。たとえばGoogleマップなどで表示されている航空写真や衛星画像がこれにあたる。地図の投影法にあわせて画像データを変形・補正したものであり、このような画像データを下敷きに、点・線・面のデータを、GISを使って画面上に重ねあわせて可視化する。

 

地理空間情報を可視化や分析するための道具は、パソコンにインストールできるデスクトップ型のGISソフトウェア(フリーのものや有償のものがある)を利用することが多く、おもに技術者や研究者などが利用していた。しかし、2000年代にはいってからはインターネットの普及にともない、Web上でGISをあつかうケースが増えてきており、これに関する技術を総称してWeb-GISという。

 

初期の頃は、Web-GISの中心的な用途は、ウェブサイトに地理空間情報を閲覧できるサイトを構築・公開することだったが、パソコンにインストールするソフトウェアと同じような高度な機能を有するGISソフトウェアが、ウェブブラウザから利用できるようになってきたため、インターネット上(いわゆるクラウド)にあるGISソフトウェアを構築および利用することが容易になった。

 

インターネットの普及による大きな変化としては、地理空間情報をあつかう道具(ソフトウェア)だけでなく、地理空間情報というデータ自体の流通が簡単になったことも見逃せない。一時期、複数のサイトのデータを組みあわせるマッシュアップという言葉が流行したが、インターネット上にある地理空間情報を動的に取得し、それを一元的に表示することが簡単になったのである。それを実現するためのデータ流通の標準技術については、ISO等により国際標準が策定されており、それに対応したソフトウェアは商用およびオープンソースを含めて数多く存在している。

 

 

災害対応におけるWeb-GISのメリット

 

Web-GISとインターネットによる地理空間情報の流通技術が容易に利用可能になったことで、本稿の冒頭でのべた、災害対応における地理空間情報の共有や統合の重要性が容易になったことはメリットとして非常に大きい。

 

たとえば、被災直後に撮影された航空写真が、インターネット上に地理空間情報として配信サーバから公開されれば、GISソフトウェアが即座にそのデータを取得して、地図上に重ねあわせることが可能になる。さらに、別の機関が、たとえば道路の通行状況の地図を公開していれば、それを取得することで地図上に簡単に重ねあわせることができ、被害状況の把握と被災地の道路の通行状況を把握することが容易に可能となる。

 

また、地理空間情報はデータのファイルサイズが大きいことが多いが、地理空間情報を配信するサーバとGISソフトウェアとのあいだで、必要な地理的な範囲だけを切り出して地図画像としてやりとりすることによって、地理空間情報そのものを取り込む処理が必要なくなる。このような流通方式はすでに標準化されており、それによって、GISソフトウェアを使い容易に地理空間情報を統合および可視化できるようになった。

 

上記のように、GISソフトウェアを使うことで外部の地理空間情報を取得表示は容易にできる。ただし、パソコンにデスクトップ型のGISをインストールして利用している場合、自らつくった情報はパソコン内にあるために、共有するにはどこかのサーバで公開しなければならず、その準備が大変だ。一方、デスクトップ型ではなくWeb-GISを利用した場合、自らが作成している地理空間情報の公開・共有という目的も容易に実現できる。というのも、Web-GISの場合、災害対応に関する情報そのものはデスクトップ型のGIS同様、自ら地図上へ登録するわけだが、地理空間情報はウェブサーバ上にあるため、その情報を公開することによって、ほかの人との共有が容易に実現できるのだ。

 

さらに、あらかじめWeb-GISが構築されていれば、インターネットのブラウザと通信端末があれば、どんなパソコンであっても、そのWeb-GISへアクセスしてすぐに利用が可能であり、利用するパソコンに依存しない。また、Web-GISがあるサーバはインターネット上にあるため、ツール自体のメンテナンス等の後方支援は被災地外でもおこなえる。ほかにも、ユーザ自身が被災してしまった場合でも、サーバは被災地外の頑強な場所にあれば、Web-GISのサーバの被害が受けにくく、パソコンと通信端末があれば利用を開始できるのもメリットである。

 

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シノドス国際社会動向研究所

vol.222 特集:沖縄

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