2014.07.27

「あちらを立てればこちらも立つ」――『ソーシャルインパクト』他

今週のオススメ本 / シノドス編集部

情報 #ソーシャルインパクト#「ニセ医学」に騙されないために#NATROM#玉村雅敏

『ソーシャルインパクト』(産学社)/玉村雅敏編著 横田浩一・上木原弘修・池本修悟著

社会的なことは儲からない――そう思っている人は多いだろう。企業活動によって、社会に好ましくない影響が出てしまう可能性があるからこそ、企業には社会的責任を求められる。企業活動と社会貢献は、トレードオフの関係としてこれまで語られてきた。

しかし、最近では、社会的課題から様々なビジネスチャンスが生まれている。しかも、NPOやベンチャー企業のみならず、大企業にまでその取り組みが広がりつつあるのだ。

今回紹介する『ソーシャルインパクト』は、ソーシャルなつながりを生かしながら、価値を共創し、ビジネスに生かしていく仕組みについて、豊富な事例と共に紹介している。

たとえば、ヤマト運輸では「プロジェクトG」と銘打ち、行政などとタイアップしながら地域の課題解決を行う。その中でも、高知県大豊町では、行政や地域の小売店などと連携して、高齢者を中心とした買い物支援と見守り支援に取り組んでいる。

ユーザーが電話やFAXで小売店に注文すると、それをヤマト運輸が配送し、配達時に高齢者の様子に不安があれば、行政に通達する仕組みだ。同一の配達センター内で荷動きが完結しているため、多くの手間をかけることがない。なので、非常に安価な配達料で提供できる点が特徴だ。

この支援がはじまる前まで、住民は一番近い店舗まで車で30分かかり、気軽には買い物が出来ない環境であった。この取り組みは顧客からの反応も良く、地域に根差しつつある。

自分たちの持つ運送業の特性を活用しながら、地域の課題解決に取り組み、さらにはビジネスとして成り立たせている。企業活動と社会貢献をうまく両立させていることがよくわかる。

他にも、日本マイクロソフトの「東日本大震災被災地支援」、王子ネピア「nepia千のトイレプロジェクト」、フェリシモ「フェリシモ猫部」、アールプロジェクト「遊休施設の市場創造」など興味深い事例が豊富に掲載されている。企業活動と社会貢献が両立する最先端の取り組みを、ぜひ確認して欲しい。(評者・山本菜々子)

『「ニセ医学」に騙されないために 危険な反医療論や治療法、健康法から身を守る!』(メタモル出版)/内科医 NATROM著

「ニセ医学」とは、医学に見せかけておきながら、実は医学的な根拠がまったくない医学のことをいう。著者のNATROM氏はインターネット上で、『NATROMの日記』というブログで医学やニセ医学について情報発信を行っている内科医である。

風邪を引いたときや虫歯の治療などを含めても、日常的に医学に関わる人は多くないだろう。そんな人が耳に馴染みのない病名を診断されたとき、がんのように場合によっては死のリスクもある病名を診断されたとき、病院に行くほどでないような気がしているけれど身体の不調を感じているときに、医学を装ったニセ医学をなんとなく説得力のあるようなかたちですすめられてしまったら、不安を拭うために手を伸ばしてしまってもおかしくない。

「いやいや、自分はそんなものに騙されないよ(笑)」と思う人もいるかもしれない。でも考えてみて欲しい。信頼のおける人が、なんだか怪しい健康法を行っているケースがないか。いま何らかの形で治療行為を受けているとして(あるいは健康のために行っているなにかでもいい)、それがまっとうな医学なのか、それとも荒唐無稽なニセ医学なのか、医学的根拠を示すことはできるだろうか。

本書の冒頭にもあるように、医学とニセ医学の境界は不明瞭であり、素人には判断できないグレーゾーンがある。「このキーワードがでていたら怪しい」「これに当てはまればニセ医学」という、わかりやすい判別方法はないのだろう。そして、おそらくそういう近道的な正解があると考えることこそ危険なのだ。もし、その判別の仕方がニセモノだったら?

本書には驚くほど多くの、わかりやすいニセ医学の例が挙げられている。「がんは治療するな」「麻薬系の鎮痛剤は身体に悪い」「気功で、がんが消える」「水で体が変わる」。それぞれの事例に、怪しさの根拠が書かれている。データがない。他の論文がまったく示されていない。論理の飛躍がある……。そこから、騙されないためのリテラシーを培っていくしかないのだろう。

普段は騙されない自信があっても、苦しいとき、藁をもすがる気持ちになっているときに、「これで治る」と言われたら手を伸ばしてしまいたくなるものだ。騙される方が悪いのではない。騙す方が悪い。だからこそ、手を伸ばさないためにも、身近な人に手を伸ばさせないためにも、そして手遅れになる前に、自分の命を守るために、本書を手に取って欲しい。(評者・金子昂)

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シノドス編集部

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