「わたしが宇宙の支配者です」――「幻聴妄想かるた」がもたらしたもの

精神障害をもつ方々の、ユニークな幻聴・妄想をかるたにした「幻聴妄想かるた」を販売している就労継続支援B型事業所「ハーモニー」。「わたしが宇宙の支配者です」「おはようございます、もう帰ろうかな」「ぐるぐる回る ちっちゃいおじさんたち」……不思議な魅力を放つ「幻聴妄想かるた」について、施設長の新澤克憲さんにインタビューをしてきました。現在、エイブルアートギャラリーで開催中の「新・幻聴妄想かるたとハーモニー展」を受けて、困ってるズ!応援版から緊急転載。(聞き手・構成/金子昂)

 

 

三種類の幻聴妄想かるた

 

―― 「幻聴妄想かるた」、読み札や絵札を見ているうちに、自分の妄想と一緒だよなと感じるようになる、とても面白い体験でした。

 

そうですよね。みなさん最初は「精神障害ってこんなもの」とイメージがあって手に取るようです。でもみているうちに、案外、正常かそうじゃないかって境界は曖昧だって気づいていただけるといいなと思うんです。

 

 

―― まずは「幻聴妄想かるた」について、ご説明いただけますか?

 

「幻聴妄想かるた」は二種類、正確には三種類あります。最初は、2008年に作ったかるた屋さんの「白札かるた」を買ってきて、事業所の印刷所で「宛名シール」にみんなの幻聴や妄想を印刷して、張り付けたもの。それに小さな冊子を付けて、3000円で販売しました。2年間でだいたい500部くらい売れたかな。当時ハーモニーにいたメンバーと心理療法士、ボランティアのみんなで作りました。

 

それから2年後に、医学書院さんから声をかけていただいて、出版されたもの。中身は自分たちで手作りしたのと一緒の新装版です。かるたと冊子と市原悦子さんの朗読CDや活動紹介のDVDが付いて2300円+税。ちょっと安くなっていますね。

 

そしてハーモニーのメンバーも少しずつ変わってきたので、新しいかるたを作ろうということで、「新・幻聴妄想かるた」を2014年1月に出しました。写真家の齋藤陽道さんの写真カード付き。これは今のところ、全部手作りです。どこかの出版社で出してくれないかな(笑)。

 

 

photo03

新澤克憲さん

 

 

「あいつなにやってるの、働いているよ(笑)」

 

―― そもそもどうしてかるたを作ろうと思ったんですか?

 

まず、当時、ハーモニーがどんなところだったかをお話しますね。いまは障害者総合支援法という名前になっていますが、かるたをはじめて作ったころに、ちょうど障害者自立支援法が施行されて、いろんなことが変わったんです。それまでは、ハーモニーは共同作業所という種類の福祉施設だったのです。

 

ハーモニーのある世田谷区は、20数箇所、精神障害の共同作業所が認可されている、作業所の多い区だったんです。共同作業所にもバリエーションがあって、利用者さんもいろいろです。たぶん皆さんがイメージするような、クッキーを焼いて販売しているとか、印刷をしているとか、内職をするような施設は、老舗で比較的規模の大きなところです。

 

うちは精神障害をお持ちで、かつ目が見えないといった重複障害の方がいたり、70代の高齢の方もいた。それから就労意欲を持っていろいろな施設を転々としたり、同じ施設で10年間居続けたけど仕事には就けないまま高齢になった方もいました。ほとんど家から出ずにやっと外に出た人、自分の障害に自分でも納得いかない人、今までの施設に不満持った方もいたかな。その方たちにこれから仕事をがんばってというより、健康に暮らすや安心して毎日を送ることを応援したいと、苦労をいっしょにしていきたいと僕は感じたのですね。

 

大事なのは、そこにやってきて、ご飯を一緒に食べたり、友達と出あえたり、相談をしたりできる場所があること。仕事しなくてもいいから、とりあえずおいでよと言える、そういう場所だと思ってました。

 

働く、働かないは別として、まずみんなが来れる場所を作ろうよということです。

 

ただ、シャバの感性ってなかなか抜けないんです。「長時間、我慢して、間違わず正確に働くことがえらいと評価されるものだ」って思いが強くて。それができる人はいいけれど。できない人は自己評価がものすごく低い。

 

 

―― 働いていないことは恥ずかしいんだ。働いていない自分に価値はないんだ、という感覚ですね。

 

そうそう。休んでもいいんだよといっても、無理をしてしまう。

 

だったら、ハーモニーは作業所という看板は世をしのぶ仮の姿、作業しないのが当たり前にして、「あいつなにやってるの、働いているよ(笑)」みたいな雰囲気をつくりたかった。そこまでしないと「シャバの呪縛」からはなかなか逃れられないなあと。

 

そこにやってきたのが、障害者自立支援法です。その法律の下で僕らは「就労継続支援B型」という種類の施設にならないと存続が危うかった。でも支援法では、「就労継続支援B型」である条件として、月々ひとり平均3000円以上の工賃を差し上げなくちゃいけないことになっていました。

 

さあたいへんです。そんな場所だったから、やっぱりみんながみんな働ける人たちじゃないんですよ。施設によっては、月々ひとり平均3000円以上を簡単に出せるところもあります。でもうちにとってそのハードルは高かった。

 

 

―― ハーモニーの良さを残したまま、就労継続支援B型でいることは難しかったんですね。

 

そうなんですよ。どうやって工賃をだすか……。

 

そんなときにでてきたのか、幻聴や妄想を活用した商品を作って売ろうというアイディアだったんですね。場の雰囲気はそのままで、どうやったら存続できるかって。

 

 

―― アイディア勝ちですね! ちなみにかるた以外のアイディアはありましたか?

 

みんなの幻聴や妄想を題材にした劇団をつくって、老人ホームに慰問に行こうってアイディアがありましたね。でもおじいさんやおばあさんが、幻聴や妄想の話で癒されるのかという話があったり(笑)。あとは幻聴妄想を印刷したTシャツをつくるとか。でもTシャツは僕らの業界はみんな作るんですよ(笑)目新しさがないのでやめました。

 

 

 

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