原点から外れるくらいなら会社なんかつくらない

『本屋は死なない』『出版社と書店はいかにして消えていくか』『出版大崩壊』『だれが「本」を殺すのか』……少し大きな書店に行けば、こんなタイトルの「本についての本」をすぐに見つけることができる。また「電子書籍元年」などと騒がれた2010年には、「紙の本」の滅亡が宿命であるかのように語られもした。

 

でも、そもそも日本全体が「不況」なのだ。本の業界だけがそこから自由であるはずもない。はたして「ほかと同じくらいに厳しい」のか、「ほかよりももっと厳しい」のか。後者であれば、それは本が生まれて読者に届くまでの仕組みのどこかが、なんらかの目づまりを起こしているのかもしれない。あるいはたんに、供給の「質」や需要の「量」の問題なのかもしれない。

いずれにしても、こんな状況でも新しいこと、やりたいこと、状況そのものへの挑戦をしている人たちがいる。規模や利益の大小にかかわらず、「本」で食べていこうとしている人たちがいる。このシリーズでは、そんな人たちに話を聞きに行く。これからの新しい「本」のあり方が見えてくるのかどうか、取材を通して探っていきたい。(取材・構成/柳瀬徹)

 

 

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民家すぎる社屋


ミシマ社の名前をはじめて目にしたのは、2007年、『街場の中国論』刊行を予告した内田樹氏のブログだった。PHP研究所、NTT出版を経て、内田氏のお墨付きを得て版元を興した社長は、さぞかし切れ者なのだろう、またトランスビューの営業担当・工藤秀之さんからレクチャーを受けて「直取引」という方法を選んだ、その目のつけどころも鋭いと思った。

『街場の中国論』はあっという間にベストセラーになった。その後も勢古浩爾『アマチュア論。』、須田将啓・田中禎人『謎の会社、世界を変える。』、白川密成『ボクは坊さん。』、最近では白山米店お母さん(寿松木衣映)『自由が丘3丁目 白山米店のやさしいごはん』、西村佳哲『いま、地方で生きるということ』など、ジャンルはさまざまだけどどれもミシマ社らしい本が次々と刊行され、またその一冊一冊が「ミシマ社らしさ」をさらに増していっている。

 

 

「木枠の窓はいちおう収まっているが、どこかいびつ。ちなみにその窓には、いまや天然記念物級の磨りガラス。窓や戸の鍵はねじこみ式(……)この家のレトロぶりを挙げ出せば、きりがない」(『計画と無計画のあいだ』p161)

 

ミシマ社の「社屋」の描写である。
自由が丘駅から10分ほど歩いた住宅地にぽつんと置かれた「自由が丘のほがらかな出版社」の看板を目印に路地へ入ると、そこには大きな実をいくつもつけた柿の木と、木造二階建ての社屋がある。それは想像していたよりもさらにずっと、筋金入りの「民家」だった。

 

 

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本の描写にも出てくる通り、部屋はすべて畳敷き。築51年二階建て。ネズミとの長い苦闘の末、駆除に成功したと本には書かれていたが、最近また戦争が勃発したとのこと。なかに入るともっと民家だ。キャスターのついた椅子を使って、畳がすり減らないのだろうか? と余計な心配をしてしまう。

 

 

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傾斜のきつい板張りの階段を登り、柿の木のよく見える日当たりの良い部屋でインタビューがはじまった。

 

 

 

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