和解だけが救いの形ではない――『聲の形』作者・大今良時氏の目指すもの

現在、『週刊少年マガジン』で連載中の漫画『聲の形』は、読み切りとして2011年の『別冊少年マガジン』に初めて掲載された際に、小学校を舞台に、いじめを受ける聴覚障害者のヒロインをけなげに描くことに対する批判も含め、読者から様々な反応が生まれた作品だ。「なにがそんなにヤバいのかまだよくわからない」と語る作者・大今良時氏。大今氏は『聲の形』で何を描こうとしているのか、学校生活をどのように過ごしていたのか、荻上チキがインタビューを行った。(構成/金子昂)

 

 

嫌いあっているもの同士の繋がり

 

荻上 お会いできてうれしいです。『聲の形』は様々な読み方ができる優れた作品で、楽しんで読んでいます。特に、いじめの構造を端的に抉り出しているな、と思いました。多くのいじめ描写は、いじめっ子をわかりやすい悪者として描くことが多いんですが、いじめっこ/いじめられっ子というのは固定的なものでもないし、教室内の秩序の在り方によって、流動的に発生してしまうものなんですね。そして秩序のパターンが変わると、別の誰かがいじめられることになる。

 

この漫画は「いじめ漫画」というわけではないのですが、耳の聞こえないヒロイン・西宮硝子をいじめていた、もうひとりの主人公・石田将也が、新たないじめの対象になるという描写は、教室空間に肉薄しているなと。

 

 

ヒロインの西宮硝子

ヒロインの西宮硝子

 

 

『聲の形』が『週刊少年マガジン』に読み切りとして掲載されたときに、西宮が可愛くていじめられていて、けなげで……と描かれているのではないかとして、「障害者のあるべき人格を想定している」といった批判がネットの一部でありました。一方で、どストレートに障害と差別を描いていることからも、「問題作」として注目されましたよね。

 

僕は、最初はそうした議論にピンときませんでした。『聲の形』は、特定の登場人物ひとりのふるまいを、人の理想的な姿として「べき論」で描いている作品ではないからです。また、障害を描いたから問題作とも思いません。ただ、障害に関する描写が一般な少年漫画などで少ない中では、そうした受容をする人も一部でいるかもしれない、という意味でのフレーミングなのだとすれば、このような反応も、議論に馴染みのなかった人に届いたからだと思いました。

 

大今さんがこの漫画を描くと決めたときから、そういった反響があるとは、想定はしていましたか?

 

大今 いえ、なにがそんなにヤバいのかまだよくわかっていないです。

 

荻上 連載になってからは、主人公の石田と西宮の関係性だけでなく、いじめにかかわっていたそれぞれのキャラクターの人生が描かれていきますよね。

 

大今 最初は、「嫌いあっている者同士の繋がり」を描こうとしていただけなんです。そのふたりの間を思い浮かべると、たまたまいじめが挟まっていた。だから描いた。いじめを「売り」にしようとしていたわけではありません。描きたかったものを描くためには、いじめという行動が、発言が、その時の気持ちが、必要だったんです。

 

いじめっ子を単純に悪者として描くのでは、その立場にいる人に失礼だと思いました。『週刊少年マガジン』はたくさんの人が読んでいるので。だから全員のキャラクターに自分の感情が乗っていないといけないと思っています。読者には、学校の先生もいれば、いじめをした人もされた人もいると思うので、どのキャラクターについて解説を求められても、ちゃんと答えられるようにと思っています。

 

例えば、担任の竹内先生は石田にとっては嫌なやつですけど、とりあえず一度、小学校の先生についての本を買って、どういう生活をしているのかを知り、竹内先生にとっては何がツラいのかなどを私が感じられるようになってから描いています。

 

荻上 なるほど。本や映画といった資料は参考にしているんですか?

 

大今 たくさん参考にしました。もともとは、家族とか友達とか、周りの環境にあるものを極力使おうと意識して描きだしました。でも、身近なものを頼りに描きだすと、自分になにが足りないのかもわからない状態がほとんどです。だから、ひたすら映画を観たり、関係のある本、興味のある本を読んだりしました。

 

いじめ関係の本だと、連載前に『いじめの構造』(森口朗著・新潮新書)を読みました。最近では、『Bully』というドキュメンタリーに興味があります。NHKで放送しているのをちょっと観たんですけど。

 

荻上 『Bully』はアメリカの子どもたちのいじめについての映画ですね。ぼくが代表を務めている「NPO法人・ストップいじめナビ」で、監督のハーシュ氏の講演をセッティングしてお話を伺ったことがあり、彼らのプロジェクトの日本版として連携しようと動いています。あの作品は教材としても利用可能なのですが、いじめが日本特有のものでないことが分かりますね。もちろん、スクールバス内でのいじめとか、銃が関わる報復事件など、特徴が異なる点もありますが、日本のいじめを客観的にみるいい教材になると思っています。【次ページにつづく】

 

 

西宮へのいじめが発覚し、一人悪者扱いされる石田とそれを制する竹内先生

西宮へのいじめが発覚し、一人悪者扱いされる石田とそれを制する竹内先生

 

 

 

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