2014.07.06
タコ! この謎多き生き物――『タコの才能 いちばん賢い無脊椎動物』(高瀬素子)他
『タコの才能 いちばん賢い無脊椎動物』(太田出版)/キャサリン・ハーモン・カレッジ 高瀬素子訳
イカとタコ――足が沢山ある共通点によって、そしてその美味しさによって、今まで社会を二分する派閥闘争を繰り広げてきた。しかし、昨今、ダイオウイカが大きな注目を浴び、イカ派が優勢の展開だ。あんなに大きなイカに勝てっこない……多くのタコ派がうなだれていた。
そんな中、タコ派にとって救世主のごとく現れた本がある。タコの魅力をたっぷりと教えてくれるノンフィクション『タコの才能』だ。本書ではタコの捕まえ方、タコの食べ方、タコの習性、タコと人類の歴史、タコにまつわる文化など、タコに関する様々な事柄が網羅されている。
タコとイカは似ているようで、ちょっと違う。足の数だけではなく、群れで泳ぎ回るイカに比べ、タコは単独で行動する。巣穴に一人暮らしをして、空き缶や瓶を持ち込み、部屋の飾りつけする。一人で楽しむことのできる、ひとり上手だ。
さらに、吸盤付きの器用な腕を使った狩りの達人で、仕事のできるタイプ。学習すれば縦棒と横棒の違いも区別できるし、瓶のふたを開けたり、パズルを解くのは朝飯前、そこはかとない知性を感じる。人間の顔も識別でき、意地悪をした翌日、口から水をピューと噴き出し抗議する、なかなかかわいらしい一面も持ちあわせている。(しかも、美味しい!)
なによりも魅力的なのは、タコに魅了された生物学者の多大な情熱と、何百万ドルの研究費をもってしても、タコの生態がまだ謎に包まれている点である。読み進めていくうちに、「ああ、タコのこと、分かったつもりでいたけど、全然知らなかった。もっと知りたい!」と意外な一面と謎多き生態にドキドキしてしまうことだろう。
タコ派だけではなく、イカ派のみなさんもぜひ本書を手に取ってもらいたい。タコの奥深い才能は、あのうにょうにょした手足のように無限に広がり、すっぽりと我々を捉えて離さない。きっとタコのことがすっかり好きになってしまうはずだ。(評者・山本菜々子)
『思考をみがく経済学』(NHK出版)/飯田泰之
スキルアップを目指すビジネスパーソンを対象にしたNHKラジオ第二文化放送「ラジオビジネス塾~35歳からのスキルアップ~」をもとに作られた本書。銘打つ通り、35歳の中堅社員をターゲットにした本となっている。
しかし、こんな人にもぜひ本書を手に取って欲しい。「経済学ってなんか……」と思っている人、とくに大学生~社会人くらいの人たち。本書は、経済学と聞いて思い浮かぶような難しい数式は出てこない。経済の仕組み、そして経済学の論理、つまり筆者のいう思考の「型」を、ビジネスシーンで活かす方法が、具体的な例とともに書かれた、とても読みやすい本だ。
どうして経済学に違和感を覚えている人に読んで欲しいか。ひとつは、その違和感が本当に正しいものなのか簡単に確認して欲しいから。小難しい教科書を読まなくても、「ああ、こんな風に考えているのね」と腑に落ちる部分があるかもしれない。たとえ経済学の価値観が合わなくても、敵(?)がなにを考えているのかを知ることは大事だろう。
もうひとつ、35歳になる前に、35歳のスキルアップを手に入れてしまってライバルに差をつけよう!……というか、思考の「型」は、早く身に着けて損はないと思うから。「考える」って意外と難しい。なにをどうすれば、「考えている」といえるのか、改めて考えるとよくわからない。だからこそ、いまのうちに本書で紹介されている経済学的な思考の「型」を身に着けるのは、非常に有効な武器になると思う。
例えば、MECE(Mutually Eclusive and Collectively Exhaustive)という、物事を「重なりがないように、もれがないように」分類する考え方。シノドスの読者を、MECEにわけるならば、年代別や居住地別などだろうか。そこからようやく「シノドスは〇〇代の読者が多いのかー。であれば、こういう記事を載せると広く読まれるかな?」「やはり東京からのアクセスが多い。ここはあえて、地方に住む読者に向けた記事をつくろう」なんて考えることができたりするかもしれない[*1]。
[*1] MECEが紹介されている第二章の冒頭の節は「世界は分けなきゃわからない!」。比較政治学者の浅羽祐樹さんも同じようなことをお話になっていた(比べてみないと、相手も自分も、分からない――物差し同士も照らし合わせて)。ちなみに本書筆者へのインタビュー「世界は経済で決まる!?」もオススメ。
あるいは、比較優位という考え方。なぜひとつの国で、すべてのものを作らずに貿易を行うのか。ややこしい話はわかりやすく説明してくれている本書を手に取ってもらうとして、簡単にいえば、それぞれの国が得意なものを作って、それぞれ交換するほうが結果的にみんな得するから。先進国と途上国との貿易と聞くと、つい「搾取」なんて言葉が思い浮かぶけれど、そんなことはないかもしれない。
本書にもその他にも、より「経済学っぽい」考え方がたくさん詰まっている(ちなみに本書はミクロ編で、マクロ編は続刊)。世の中の仕組みが読み解けるようになるものも多い。本書の冒頭にはこう書かれている。経済の大原則は「たくさんあるものは安く、少ないものは高い」「需要があるものは高く、需要がないものは安い」。十分に普及しているとはいえない経済学の考え方は、「需要はあって、少ない」。いまこそが学びどき。小難しい経済学の入門書より先に、まずは本書を手に取って、そのエッセンスに触れて欲しい。(評者・金子昂)
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