「紛争解決請負人」が語る安保関連法案

現在の安全保障問題について

 

荻上 安全保障の話をしたいと思います。長い間、問題とされてきたテーマでもありますが、最近、議論が盛り上がりを見せています。今の安保関連法案の議論の進め方、報道のされ方をどう見ていますか?

 

伊勢崎 一番良くないのは、今回の安保法制を廃案にできたとして、それでメデタシ、メデタシでお終いになってしまうことです。はっきり認識しなくてはならないことですが、安倍政権になってから新しい自衛隊の派遣は1度も行われていません。国際法的に問題のある派兵を行ってきたのは、これまでの歴代内閣。特に小泉内閣の時です。

 

住民の保護が筆頭マンデートになった南スーダンに、自衛隊を派遣した民主党政権もひどかったですね。それまで自衛隊が派遣されてきたPKOとは一線を画しているミッションなのですから、PKO派遣5原則の根本的な見直しをすべきでした。紛争の当事者になることを前提にした、9条との整合性を根本的に議論するべきでした。でも、しなかった。皆、同罪なのです。

 

また、日本には軍法が無いという問題があります。海外に送った自衛隊が戦時国際法、国際人道法違反となる軍事的過失を犯したとき、どうするのかを極めて作為的に意識の外においてきたのです。そして、反対派もそこで思考を停止させた。僕は、これを右・左の意識下の「談合」だと捉えています。

 

荻上 派遣先で現地の人を加害する犯罪に関わる、誤射するなどいろいろなケースも考えられます。

 

伊勢崎 法治国家ならば、そういうことを想定し法整備する必要があります。国連には軍事法廷が無く、軍隊が国外で問題を起こした場合、各国の軍法で裁くことになるためです。PKOや有志連合による軍事作戦では、国連もしくは統合司令部が一括して地位協定や軍事業務協定を現地政府と結ぶことで現地法からの訴追免除の特権を付託されます。

 

日米地位協定があるから、業務外・内の区別はありますが、米軍は日本の法律で裁かれないじゃないですか。あれと同じように、いわゆる外交特権を得られるわけです。しかし、だからといって、裁かれないではすまない。

 

荻上 自主的に何かやらないといけないわけですね。

 

伊勢崎 だから、軍法が必要なんです。その国の軍隊である限り、どこにいようと適用されます。しかし、日本にはそれに当たるものがありません。

 

刑法を適用しようにも国外犯規定があり、日本人が国外で業務上過失をした場合は裁けません。仮に国外に派遣された自衛隊が人を殺したとしたら、刑事で刑法の国外犯として裁くことになります。ロス疑惑と同じです。あの時はアメリカまで検察を送りましたが、戦場ではそう簡単にはいきません(笑)。

 

軍事行動は個人の意思が極度に制限される国家の命令です。なのに、その過失は自衛隊員個人が責任を負う。これが最もおかしな点です。

 

荻上 それから、民事の場合、訴訟の対象が法的に提起しないとなかなか成立しないですよね。もし、自衛隊が海外で問題を起こしたとしても、国は何も対応しない。被害者は起訴の方法どころか、日本語さえ分からないということも……。

 

伊勢崎 おそらくそういうことになるので、起訴は難しいでしょう。これが現在もなお、南スーダンにいる自衛隊が直面している現状です。

 

荻上 想定の話ではなく、現在進行形の話なんですね。

 

 

ISEZAKI

 

 

「基地なき同盟」

 

荻上 今の安保法制が違憲であるならば、憲法も含めてどうすべきか議論しなくてはなりません。また、集団的自衛権、国連などの活動に参画する際に制限があるという現状もあります。

 

これらの問題に対して「なんとなく独立した独自の憲法が欲しいから」「もっとガンガン行きたいから」という昔の大局観ではなくて、現状分析の結果を踏まえて考える必要があるでしょう。

 

例えば、現在の中国脅威論などから動員する改憲論についてどうお考えですか。

 

伊勢崎 おかしいですよね。日本はアメリカに「9条変えるから、見捨てないでね」ってすがりついているようにしか見えないというか……。

 

荻上 忠誠心を誓う儀式っぽいという感じでしょうか。

 

伊勢崎 基地があるんだから、アメリカは日本を見捨てませんよ。

 

荻上 アメリカも世論があって、世論の動員によってはその範囲が限られるという話もありますが、これはどうですか?

 

伊勢崎 アメリカは日本以外とも地位協定を結んでいますから、比較して考えなくてはいけません。米軍を受け入れたうえで、どうやって主権を守るかという問題があります。主権を放棄してまでアメリカの軍隊を置いている日本は特異です。

 

例えば、同じ枢軸国のドイツやイタリアでも、そしてアメリカの植民地であったフィリピンでさえも、米軍はあくまでも基地を使わせてもらっている客のような立場です。

 

基地はあくまでもフィリピンのものという位置づけで、米軍はそこに何を置くか、何をやるかすべて了承をとる必要があります。そのうえ、フィリピン政府はいつでも調査を行うことができます。当たり前ですが、主権を護持しながら、同盟関係も維持する。

 

フィリピンのようなやり方すれば、同盟を傷つけずに地位協定を改定する道はあるわけです。「(主権を放棄した)基地なき同盟」――アメリカと対等なパートナーになりたいのなら、これは最初の一歩だと思います。日本の愛国者は、すべてを差し置いても、なぜこれを目指さないのか。

 

 

平和的改憲

 

荻上 改正という話で言えば、自衛隊の取り扱いを明記することもできますが、そのことで活動範囲を、より平和的な意味で明記するといったプランもありうるわけですよね。

 

伊勢崎 そうですね。僕は護憲派で通っているんですが、皆さんによく考えてほしいのは、安倍内閣が登場する以前から日本は特措法によって集団的自衛権の行使は実質的にやっているということです。

 

例えば、インド洋の給油活動が挙げられます。あれはNATOの集団的自衛権を行使する「不朽の自由作戦(OEF)」の一部です。国際法的に見たら、非NATO加盟国の日本が協力したことになります。

 

その2年後には、陸上自衛隊をイラクに送りましたよね。あの時は世界で最も強力な軍事同盟、NATOでさえ割れてしまいました。国連を無視して開戦するアメリカに正義はないとして、フランスもドイツも離脱しました。

 

そんな状況で、日本は自衛隊を送ったんです。国際法的に考えれば、日本はもう立派に集団的自衛権の行使を行っているわけです。明確な憲法違反です。でも、そういう感覚はありませんよね。

 

荻上 これからの問題として集団的自衛権の話が出てきていますが、実は法的は問われていないだけで宙吊り状態になっている過去のケースも多々ある、と。

 

伊勢崎 そうです。しかし、外から見たら集団的自衛権の行使を明らかに行っているわけです。でも、国民に、その感覚がない。これは、まずいでしょう。こういうことができちゃうのは、憲法に欠陥があると考えるのが真っ当じゃないですか。今後どんな政権が現れてもこういう違憲行為ができないように、ドイツのように憲法に永久条項を規定することも考えられます。これも改憲のひとつの形です。

 

荻上 平和的改憲も可能ですね。今、「護憲」と「守憲」は別、という議論があります。要は立憲主義のことですけど、改憲派の小林節氏のように、「改憲を望むが、今ある憲法はとうぜん守ろう」というスタンスは自己矛盾していませんよね。

 

伊勢崎 仰るとおりです。

 

荻上 そうなると今の憲法をなぜ守るべきなか、なぜ変えるべきのか。どのような議論をするにしても国際社会に対する安保観や外交観は、当然、問われてくるわけですよね。直近の話ではなく将来的な話になりますが、いつかは憲法を変えたほうがいいと思っていますか?

 

伊勢崎 そうですね。本当にやってはいけないことを永久条項にできたらいいのですが、今のところ、憲法9条全体は永久条項にはできないと思います。現に自衛隊を持っていて、これを解散させるという政治力はありません。共産党でさえ認めているわけです。

 

荻上 違憲だとしつつも。

 

伊勢崎 そもそも軍隊というのは、その社会において最も殺傷能力のある兵器の独占を信託された集団です。そういう人達が、我々が享受している自由を持ってしまったら困ります。もちろん人権は尊重されるべきですが、一般人と同じように独自の判断を持って政治活動を許してしまったら、軍事クーデターを合法化しているようなことになります。

 

荻上 公務員や教師などに対しても、その立場を利用して自由に政治的主張をすることは許されていません。

 

伊勢崎 それ以上に軍隊には制限をかける必要があります。自衛隊に対して特別な法体系を作るための冷静な議論をして、国際紛争を解決するために自衛隊の武力を絶対に使わないということを永久条項にできたらいいと思っています。いつできるか。今はダメですが。

 

荻上 侵略戦争は不戦条約で指定されていることですが、さらにもう1つロックを掛ける意味はある、と。ただし、国際紛争の場に出て行く場面はむしろ複雑性を増しているので、敵対視されるような行動については議論しておかないといけないということですよね。

 

 

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