2016.03.18

パネルディスカッション「東アジア国際関係をどう読み解くか」【PR】

木村幹×三浦瑠麗×平岩俊司×細谷雄一×浅羽祐樹(司会)

国際

浅羽 これより、本日ご講演いただいた先生方によるパネルディスカッションを行います。司会を務めさせていただくのは新潟県立大学大学院国際地域学研究科の浅羽祐樹です。よろしくお願いいたします。

会場の皆さまは、先生方のご講演を聞かれて、「東アジアの国際情勢はいよいよ難しい」と思われたのか、あるいは「雲がパッと晴れて見通し、見晴らしがよくなった」と思われたのか、どちらでしょうか。このシンポジウムを企画した趣旨は、先生方にそれぞれ異なる視座を提示していただくことで、会場の皆さまお一人おひとりがそこから4つの補助線を引くことによって、複雑怪奇な東アジア国際関係について立体像として結んでいく契機にしたいというものでした。

私は、昨年末の日韓の慰安婦合意について、日韓関係だけでみていると、狐につままれたような、唐突な印象を持っていました。しかし今日最初に木村先生から韓国の事情を伺い、次に三浦先生から日本の事情を伺ったことで、視線をクロスさせ、慰安婦問題に関する合意がなぜ行われたのか、日韓それぞれだけをみているときよりも理解を深めることができました。その後に平岩先生から朝鮮半島をめぐる国際政治の話を伺って、日韓関係だけでなく、日朝、日米韓、韓米中、米中など異なる枠組みを重ね合わせてみることで国際関係がさらに立体感のあるものとして浮き上がっていくことを感じました。そして最後に細谷先生にヨーロッパとの比較、あるいはルイ14世の時代からの国際秩序の変容についてお話いただいたことで、「東アジア国際関係、2016年」のイマココの独異性が明確になったのではないか、と思っています。4人の先生方、企画趣旨にキレイに沿っていただき、お礼申し上げます。

写真(パネルディスカッション1)

日韓における、アメリカのコミットメントの認識

浅羽 さて会場からご質問をいただいております。細谷先生のご発表の中で、力の均衡が崩れている、とりわけ中国との間で軍事バランスが崩れているというお話がありました。それに加えて、通常兵力では韓国が優位に立っているという木村先生のお話もありましたが、北朝鮮が核ミサイルを開発していることで核をめぐる均衡が崩れてしまっているのではないか。それが故に、韓国の中では独自に核を持とうとする議論が生じていますし、あるいは90年代に一度撤退したアメリカの戦術核を再配置しようとする議論も出てきています。他方、日本ではそうした議論が今のところ出ていません。日韓それぞれに対するアメリカの安全保障のコミットについて、日韓両国の認識にギャップがあるからではないか、というご指摘をいただいています。

アメリカのコミットメントという問題について、先生方はどのようにお考えなのか、ご登壇の順にお聞かせいただけますでしょうか。

木村 日韓共にアメリカの同盟国ですが、ひょっとしたら日本と韓国は両極端な事例といえるかもしれません。

日本人はなんとなく「日米同盟はずっと続く」と思っていますよね。変な話ですが、本格的な大国の傘に入ったのは日本にとって歴史上初めての経験ですし、しかも自ら好んで入ったわけでもありません。傘の外に出て行くという経験がないので、どうやって出て行けばいいのかわからない。他方でアメリカにとって日本は東アジアにおける最大のパートナーであり、またヨーロッパのイギリスと並ぶ二大パートナーでもある。だから、同盟関係はとても安定している。

しかし韓国側の状況は違う。彼らはアメリカ中心の東アジアの国際秩序の中では、常にアメリカが一番で、日本が二番、韓国はそのずっと後、という状況に置かれてきた。そして韓国の人々はこの状況を理不尽だと考える。日本は敗戦国だったはずなのに過剰に優遇されている。他方、その日本から植民地支配を受けていた自分たちがそれに相応しい待遇を受けていない。アメリカは韓国を重視してくれないだけでなく、日本に認めている核の再処理も認めなければ、最近までミサイルの開発も認めてくれませんでした。

だからこそ、対米同盟下での記憶は韓国と日本では異なってくる。日本にとってそれは経済的繁栄を享受し、平和も維持することができたハッピーな経験とみなされている。しかし韓国にとっての米韓同盟下の経験は、常にアメリカに頭を抑えられており、その行動も様々に縛られたものだと映っている。そこには抜きがたいアンビバレントな思いが存在します。

そういう意味では韓国のアメリカに対するアンビバレントな感情と、北朝鮮が中国に持っているアンビバレントな感情は非常に似ているかもしれません。実際には難しいけど、できれば大国によるくびきから自由になりたい、そしてそれは核を持てばひょっとしてできるのではないか。そう言いたくなる状況に韓国はあるんですね。

そもそもアメリカとの同盟関係がハッピーだと思っている国ははたしてどのくらい世界にあるんでしょう。そういう意味では日本こそが特異な事例なのかもしれませんね。

三浦 今日お見せできなかった調査内容の中に、日韓両国民の回答者における同盟に対する信頼度というものがあります。日米同盟、米韓同盟それぞれに対して全体としてリスクよりも利益になっていると考える層は両国共にほとんどかわらず、日本では16%、韓国では17%でした。

しかし日本に関しては尖閣有事、韓国に関しては朝鮮半島有事において、アメリカが軍事行動を含めた断固たる行動を起してくれると思うかどうかを訊くと、日本は2割以下しか思っていないのですが、韓国では50%くらいがそれを信じているんです。国民性の違いもあるのではないかと私は思っていまして、日本国民は現実的なまなざしを持っているのかもしれません。そして朝鮮半島の有事のほうがより信憑性が高いという危機感があるので、米韓同盟のコミットメントを信じていないととてもではないがやっていけない、という状況も関係している可能性があります。

いずれにしましても、日本国民に関して考える限りにおいては、2割程度というのは日経新聞の調査でも出ているので、かなり現実的な数字だろうと思います。やはり尖閣諸島の問題については、アメリカが自国の兵士を犠牲にしてまで守ってくれるかどうかは信用できないと思っている国民が多いんですね。アメリカの実際のコミットメントについては、軍事的な行動は起せないだろうけれども、軍事衝突が起こらないようにするのが日本の最大の利益であること、しかし長期的にはアメリカの存在感は薄まっていくのだろう、ということを申し上げておきます。

平岩 同盟に関しては、お二方のご指摘のとおりだと思います。そこに別の視点からお答えしたいと思います。まず韓国で核保有の議論が出てくることに関して言えば、核兵器に対する感覚が日本の国民と韓国の国民でかなり違う、というのが大前提になることを承知すべきだと思います。そしてもうひとつは、韓国の国民の多くが「これまでの外交ははたして正しかったのだろうか」という疑問を持っていることも前提として挙げられるでしょう。

韓国で今の政権がスタートした当初から、G2、つまりアメリカと中国の関係を重視してきました。日本やアメリカからすれば「中国傾斜じゃないか」と懸念してきたわけですが、韓国側の説明は、木村先生がご指摘されているように、韓国と経済的な関係が非常に強い中国を軽視できるはずがないこと。そして南北統一問題において中国が大きな役割を持っているのだから、中国を取り込まないといけない、というのが中国と親密化する理由となっていました。

しかし今回の核実験、そしてミサイル発射に対して、韓国は中国に対していろいろな働きかけをしていますが、中国側はそれに一切応じていません。ここで韓国の国内から「中国との関係はこれでよかったのだろうか」という疑問が大きく出てきたんですね。このような流れの中で、そもそも核に対するハードルも低く、「あちらが核を持つなら、こちらも」という意識が働いたという側面はあるのでしょう。北朝鮮の核実験、ミサイル発射は、韓国側の「アメリカとも中国ともよい関係なのだから、北朝鮮をコントロールできているんだ」という自信を揺らがせ、核保有する、というヒステリックな対応が出てきた、ということもできるかと思います。

細谷 「力の均衡」は基本的に通常戦力と核戦力というふたつの側面の合計として考えられます。冷戦時代、通常戦力ではソ連が圧倒的だったのですが、アメリカは核戦力でソ連に対して優位に立っていたんですね。ソ連はヨーロッパ内の左派運動家を経由して反核運動を起すことで、アメリカやNATOに対して総合的な軍事力で優位に立とうとしました。ですからソ連やヨーロッパの左派系知識人は、核軍縮は言っても、通常兵器の軍縮は言っていませんでした。

多くの方が冷戦の終結をソ連の崩壊やドイツの統一をもとに理解されていると思います。しかし外交史を専門にしている人間からすれば、冷戦終結の大きな転換点は1990年のCFE条約、つまり通常兵力削減条約です。ソ連が「核兵力を減らせ」というのは当然のことですが、力を失ったことで、「通常兵力も減らす」と初めて言い出したわけです。これを「均衡軍縮(balanced force reduction)」と言います。

さきほど申し上げたとおり、均衡が崩れたときに戦争が起こります。片方の国が兵力を減らせば戦争の可能性は高まりますから、日本だけが軍事力を減らせば地域の不安定化を招き戦争の原因となるでしょう。重要なのは、いかにして均衡を維持するか、です。しかし北朝鮮は通常兵力では日米にまったく対抗できません。軍事技術、軍事費の量に圧倒的な差がある。となると北朝鮮がレジームを守るためには、核兵器という裏技を使うしかありません。アメリカはイラクやアフガニスタンのような核兵器を持っていない国には軍事攻撃を行いますが、核兵器を持っている国には軍事行動はできないはずだろう。したがって核兵器を持てば自分たちの体制は安定する、おそらくそのように考えているのではないかと思います。

このことはどういう帰結となるか。世界が一番懸念しているのは核の拡散です。通常兵器でアメリカにかなわない国が、核兵器を持つことで優位に立とうとする。北朝鮮をみて、韓国、日本、東南アジアの国々が核兵器を開発するようになると、「安いコストで大きな抑止力を得られる」ということで、核兵器が拡散されることになります。このことが最大の問題であり、北朝鮮一国の核兵器保有自体は、この地域の勢力均衡を本質的に壊すものではないだろうと私は思っています。

そして次に、米中関係に関連する話ですが、アメリカのコミットメントでいうと、中国は非常に狡猾に戦略を練っています。「アメリカには攻撃しませんよ」ということで、大陸間弾道ミサイルの開発はあまり進めていないんです。そうではなく、短距離・中距離弾道ミサイル、つまりに日本や台湾を対象にした距離の短いミサイルを大量に配備している。これはどういう意味かというと、「在日米軍を置くのは危険ですよ。台湾、アジア、東シナ海、南シナ海にちょっかいを出したら、ミサイルを撃ちますよ。早く帰ってください」ということなんですね。

このメッセージをアメリカはどう受けとめるかというと、実は「中国はアメリカと戦争するつもりはないのだから、アジアに米軍を駐在させず、後方に下がったほうがいいのではないか」と考える人がアメリカの戦略理論家の中で実際に出てきています。このことは大統領選挙でも一部から聞こえている意見でもあります。その上で、日本がどのような意見を出すのかは、かなり重要になってくるのではないかと考えています。

写真(パネルディスカッション2)

拉致問題を国際関係の視座で読み解く

浅羽 ありがとうございました。時間が迫っていますので、最後にひと言ずつコメントをいただきたいと思います。新潟では拉致問題に高い関心を持っています。どうしても自分のポジションから関心の高い問題だけを見ようとするのはやむをえないのですが、国際関係をみる際にどのような視座で読み解くことが重要なのか、ヒントをいただけますでしょうか。

木村 自分の報告に引っ掛けていいますと、日本は北朝鮮に対する影響力がはるかに小さくなっており、単独ではほとんど何もできない状況です。そういう意味では、拉致問題を解決したいのであれば、韓国や中国との協力は徹底的に必要でしょう。「韓国、中国、北朝鮮の反日トライアングルはけしからん!」と感情的に叫ぶだけでは拉致問題の解決は遠ざかっていくだろうと思います。

三浦 大事な問題として、日本は北朝鮮とのあいだでまだ賠償をしていませんし、正常な国家間関係になっていません。したがって見方を変えると、日本には大きな選択肢があるということになる。ただ木村先生がおっしゃるように、日本に選択できるカードはきわめて限られていますから、その中で独自の制裁を行うことは、私個人は内政向けなんだろうな、と理解しています。

平岩 今後、ストックホルム合意がどうなるのかを前提に考えなければなりません。これまで北朝鮮は「日本が約束を破った」と言ってこの合意を破棄しようと思えばいくらでもできたのに実際には行っていません。ストックホルム合意では4つの課題について優先順位を付けず同時並行で、とされていますが、日本は、拉致問題が最優先だと主張し、北朝鮮はそれを受け入れてきた。楽観はできませんが、この合意を前提に粘り強く交渉を続けることが必要なのでしょう。気をつけないといけないのは、日本が強く出れば、望んでいるものが実現するというわけではない点です。

経済協力に関しては、北朝鮮は日本に頭を下げて手に入れるものなどはなく、当然もらえる権利と思っているでしょう。ただ、金正恩体制になってからの外交的な合意は、実はストックホルム合意以外にありません。金正恩政権の外交的成果として挙げられるもののひとつです。ここを日本が上手に利用しながら交渉をするしかないのだろうと思います。

細谷 拉致問題は、家族や関係者の方にはたいへんな苦しみであり悲しみであろうと思います。ところが国際社会全体では、北朝鮮の核問題には非常に強い警戒感や関心を持っていても、拉致問題に関してはそうではない場合があるんですね。

日本は拉致問題を、普遍的な人権問題として長年取り組んでいますが、国際社会がこの人権問題に向き合う空気をつくる必要があるでしょう。2年前、ナイジェリアでボコ・ハラムが少女200人以上を誘拐する事件がありました。いまシリアで様々な問題が起きています。どの方にとっても家族の方がいなくなればたいへんな苦しみです。日本はそれを共有することで、国際社会や当事国が問題を考えていく流れをつくっていく。そのためにも、日本もまた国際社会で起きている様々な人権問題に対して真剣に向き合い、率先して拉致問題が人権問題であるという認識を国際社会に広めていくことが必要なのだろうと思います。

浅羽 もっともっとお話を伺いたいところなのですが、定刻を過ぎておりますのでこれにて終了とさせていただきます。会場の皆さまにおかれましては、これを機に、国際関係であれ国内政治であれ、問題が複雑であればあるほど、複数の視座から自ら補助線を引いて立体像を結ぶということをしていただければと思います。新潟県立大学は地域の皆さまにとってそうした知的インフラであるべく一層の努力を積み重ねていきます。今後ともご注目ご支援いただきますようお願いいたします。先生方、会場の皆さま、本日はありがとうございました。

プロフィール

浅羽祐樹比較政治学

新潟県立大学国際地域学部教授。北韓大学院大学校(韓国)招聘教授。早稲田大学韓国学研究所招聘研究員。専門は、比較政治学、韓国政治、国際関係論、日韓関係。1976年大阪府生まれ。立命館大学国際関係学部卒業。ソウル大学校社会科学大学政治学科博士課程修了。Ph. D(政治学)。九州大学韓国研究センター講師(研究機関研究員)、山口県立大学国際文化学部准教授などを経て現職。著書に、『戦後日韓関係史』(有斐閣、2017年、共著)、『だまされないための「韓国」』(講談社、2017年、共著)、『日韓政治制度比較』(慶應義塾大学出版会、2015年、共編著)、Japanese and Korean Politics: Alone and Apart from Each Other(Palgrave Macmillan, 2015, 共著)などがある。

この執筆者の記事

三浦瑠麗山猫総合研究所代表

1980年、神奈川県生れ。国際政治学者、山猫総合研究所代表。東京大学農学部卒業後、同公共政策大学院及び同大学院法学政治学研究科修了。博士(法学)。東京大学政策ビジョン研究センター講師などを経て現職。主著に『シビリアンの戦争』『21世紀の戦争と平和』『孤独の意味も、女であることの味わいも』などがある。2017(平成29)年、正論新風賞受賞。

この執筆者の記事

平岩俊司東アジア国際政治

関西学院大学国際学部教授。主著に『朝鮮民主主義人民共和国と中華人民共和国』(世織書房 、2010年)『北朝鮮は何を考えているのか』(NHK出版、2013年)など。

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細谷雄一外交史

慶應義塾大学法学部教授。主著に『戦後史の解放I 歴史認識とは何か』(新潮選書、2015年)『戦後アジア・ヨーロッパ関係史』(慶應義塾大学出版会、2015年)など。

この執筆者の記事

木村幹比較政治学・朝鮮半島地域研究

1966年大阪府生まれ。神戸大学大学院国際協力研究科教授・アジア総合学術センター長。京都大学大学院法学研究科博士後期課程中途退学、博士(法学)。アジア太平洋賞特別賞、サントリー学芸賞、読売・吉野作造賞を受賞。著作に『朝鮮/韓国ナショナリズムと「小国」意識』(ミネルヴァ書房)、『朝鮮半島をどう見るか』(集英社新書)、『韓国現代史』(中公新書)、だまされないための韓国』(講談社、浅羽祐樹 新潟県立大学教授と共著)など。監訳に『ビッグデータから見える韓国』(白桃書房)。

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