コピー・ケータイの道義性――もうひとつの資本主義をめぐる人類学

シリーズ「等身大のアフリカ/最前線のアフリカ」では、マスメディアが伝えてこなかったアフリカ、とくに等身大の日常生活や最前線の現地情報を気鋭の研究者、 熟練のフィールドワーカーがお伝えします。今月は「最前線のアフリカ」です。

 

 

「俺のケータイは、オリジナルか?それともコピーか?」「私のケータイ、本物?偽物?」。2016年3月、タンザニアの地方都市ムワンザの路上は、このような問いかけであふれかえっていた。

 

2016年2月、タンザニアのモバイル通信規制局は、2016年6月17日までにコピー/偽物の携帯電話(以下、「携帯電話」はケータイと記す)を強制的にシャットダウンする旨を発表した。通信停止の通告に先立ち、タンザニア通信規制局は、2015年12月に「中央機器識別登録(Central Equipment Identification Register)」と呼ばれる新システムを導入していた。これは、国際携帯識別番号(IMEI: International Mobile Equipment Identity)のデータベースを構築するものである。このデータベースにはブラックリストに載っている識別番号も含まれており、通信規制局はプロバイダーにIMEIと対照させることで、コピーや偽物ケータイによる通信を停止することとしたのだ。

 

 

インド系モバイル通信会社Airtelのタンザニア支社

インド系モバイル通信会社Airtelのタンザニア支社

 

通信停止の通告はタンザニアの人びとを混乱の渦に陥れた。タンザニア通信規制局によると、ケータイの利用登録台数は、2000年の11万518件から2014年には3303万8500件に急増。さらに2010年代には、スマートフォンが急激な勢いで普及した。この普及を後押ししたのが、中国製の安価なコピー/偽物ケータイ(以下、コピーと記す)である。

 

スマートフォン市場は当初サムスンとノキアが圧倒的なシェアを誇っており、コピーもこの二つのブランドを中心に出まわっていた。しかし、しだいに中国のブランド企業がアフリカに進出し、テクノ(TECNO)、アイテル(iTel)、ファーウェイ(Huawei)、レノボ(Lenovo)といった中国のブランド企業のケータイが市場を席巻するようになった。その結果、現在ではこれらの中国ブランドのコピーも出まわるようになった。

 

ケータイは、いまやタンザニア人にとってなくてはならないツールである。モバイル通信会社が提供する送金サービスは、故郷の家族や友人への送金のみならず、日々の商取引や買い物にも活用されている。WhatsAppやFacebookなどのSNSでコミュニケーションをしたり、YouTubeで音楽やビデオを楽しんだり、カメラで記念撮影をしたりといった習慣も日々の生活の一部になった。スマートフォンが使えなくなったらたいへんだ。それに、コピーだとわかったからと言って、高価なスマートフォンはそれほど容易に買い替えることなんてできない。

 

なかには、あえて安いコピーを選んで買った利用者もいたし、安いスマートフォンを「たぶんコピーだろうな」と疑いながら買った利用者もいた。そこそこの値段を払ったのだから「どうかコピーじゃありませんように」と祈っていた利用者も、オリジナル(正規品)を買ったつもりだが「もしかしたら、だまされたかもしれない」と一抹の不安を抱く消費者もいた。

 

要するに、自分のケータイが100%本物だと信じている利用者のほうが少なかったのだ。上記の通告がでた直後、現地メディア各紙はタンザニアに出まわるスマートフォンの約38%から40%がコピーであると推計していた――人びとはもっと多いと予想した。

 

タンザニア通信規制局の通達を受けて、モバイル通信会社は、利用者に次のようなショートメッセージを送るようになった。

 

「2017年6月17日が来たときに、オリジナルではないケータイ(の通信)は停止します。あなたの携帯電話がオリジナルであるかを知るために、*#06#にかけて、IMEIを取得してください。その後にIMEIを15090に送信してください。無料です」。

 

友人と一緒にこの番号にかけて調べたところ、それらしき番号が出てきたので、「やったね。君のケータイはオリジナルだよ」と言ったのだが、友人は「でも、その番号が正しいのかわからないよ」と不安な顔をした。

 

そのようなわけで、人びとは互いにケータイを見せあいながら、冒頭の問いに答えてくれる人びとを探し求めることとなった。多くの人はIMEIだけに頼るのを断念し、巷のうわさを頼りにさまざまなコピーの見極め方を試し始めた。ある者は、「コピーは、じゃっかん重い」という。道端では、同じメーカーのスマートフォンを両方の掌に載せて、「こっちのほうが軽いかな」などと言いあう人びとの姿を目撃した。別の者は、「コピーは、カメラのレンズが曇っている」という。カメラのレンズをシャツの袖などでこすり、透かしみる人びとも至る所で出現した。

 

コピーだと承知しながら購入した利用者は、使用停止のデッドラインが来るまでに、何とかしてケータイを転売しようと躍起になった。タンザニアには中古のケータイ市場もある。ただし、中古のケータイ・ディーラーはこの時期に持ち込まれるケータイは間違いなくコピーだと信じたため、転売は難しかった。

 

最もやっかいな状況に陥ったのは、ケータイを販売する小売店主や路上商人たちである。各モバイル通信会社の直営店や、サムスンやノキア、中国のブランド・ケータイ会社の直営店以外の小売店では、ケータイがまったく売れなくなったのだ。消費者にとっては、6月17日が過ぎてからなら間違いなくオリジナルが買えるからだ。ほとんど開店休業状態になったケータイ販売店の店主たちは、「6月まで何とか経営を持ちこたえさせよう、きっと爆発的にケータイを売ることができるから」と励ましあっていた。

 

 

コピーの流通ルート

 

コピーの最大の生産地は、中国である。中国のコピー製造業者にタンザニアの市場の動向を伝えているのは、タンザニアの輸入商たちである。輸入商たちは、売れ筋のケータイのサンプル(オリジナル)をもって中国に渡航する。そして、「話のわかる」工場のマネージャーまたは仲介業者と「これのコピーを作れるか。とりあえず1000ピース」などと話をつけて発注する。彼らは、1、2か月に1度といった高い頻度で香港や中国に渡航し、発注から納品、その後のコンテナ輸送までを監督する。

 

 

中国広州市の卸売ビルで販売されていたiPhoneのコピー

中国広州市の卸売ビルで販売されていたiPhoneのコピー

 

 

隣国ケニアの首都ナイロビ市から買いつける交易人もいる。東アフリカ最大のコピー集積地であるナイロビ市にも、中国にあるのとそっくりなケータイ卸売ビルがある。またケニアには、ハウジングやキーボード、バッテリーなどのコピー部品が「まるでオリジナルのスペアのように」輸入されており、現地の工場でコピーが組み立てられてもいる。また最近では、中国系ディーラーがタンザニアに来て、現地の商人たちに「サンプル」としてオリジナルを代金後払いで流し、売れ行きが良かったコピーの注文を受けて回るといったこともある。一つ具体的な事例を紹介したい。

 

ムワンザ市の目抜き通りに店を構えるロイ(仮名、34歳、男性)は、ナイロビ市の輸入兼卸売商からコピーを仕入れている。ロイによれば、ケニアの卸売ビルは、彼のような隣国の零細商人は立ち入ることができるが、一般の消費者や正規の業者は立ち入り自体が難しい。たとえビルに入っても、ケニアの卸売商たちは、客を身なりや少しの対話で見分け、異なる対応をする。相手がコピーにあう客であるとわかると、ケニア商人は「クオリティが欲しいか、それとも安さとリスクをとるか」と聞くという。ロイは、タンザニアの消費者や商人からのオーダーに従って、正規品とコピーのいずれも仕入れる。

 

タンザニアに戻ってくると、まず注文者にコピーを販売する。コピーの最大の注文者は路上商人である。路上商人はコピーと正規品の違いや相場をよく理解したうえで、しばしば消費者にオリジナルであると偽ってコピーを売りさばく。ただし大半の客は、路上商人が扱っている品にはコピーが数多く含まれていることを知っているし、中には安いコピーを手に入れるために路上商人からしかケータイを買わない者もいる。たとえ知らずにコピーを購入したとしても、路上商人はレシートなどを出さないので、客が後から交換や返品を求めるのはむずかしい。

 

ロイは、自身の店でも正規品とともにコピーを販売している。消費者にはまずオリジナルを見せて、それがいかに高額であるかを説明する。その後の対応は消費者の反応をみて決める。コピーの販売をもちかけたら面倒を起こしそうな客だと判断すれば、より手ごろな旧モデルの正規品を勧め、購買力が定価に届かなければ交渉を打ち切る。コピー商売の事情をよく理解しており、コピーでも構わないと考えそうな客には、ケニアの商人と同様に「クオリティが欲しいか、それとも安さとリスクをとるか」と聞く。そこで客が納得すれば、コピーを販売する。コピーの値段は、さらにその消費者がいかにコピー市場に通じているかによって変化する。【次ページにつづく】

 

 

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