「トランプ現象」は理解可能である

ドナルド・トランプ新大統領が世界中の話題をさらっている。

 

いまだに2016年の大統領選挙の結果が受け入れられないというアメリカ人も少なくないようだ。自分たちが理想としている民主主義が生み出した大統領があのような人物であるはずがないという思いを抱く人々もいるのだろう。だが、選挙は正当なものであり、(おそらく)選挙結果も間違っていない。

 

就任早々、トランプ大統領が打ち出した難民の受け入れ凍結と中東・アフリカの一部諸国からの一時入国停止を命じる行政命令を非難する声が目立っている。だが、各種世論調査を見れば、比較的多数の国民がトランプ政権の施策を支持していることが分かる。

 

たとえば、1月末に行われたギャラップの世論調査では移民の入国禁止措置については42%、国境への壁建造については38%、難民受け入れ凍結に対しては36%が支持を表明している。政策の内容を考えれば、これは決して低い数値とはいえないだろう。

 

トランプ大統領は正当な手続きを経て選出されたアメリカ合衆国の大統領であり、移民の入国禁止措置、国境への壁建造、難民受け入れ凍結など、彼の極端な政策の多くを予想以上の国民が支持していることは事実である。「そんな事実は認めたくない!」といっても始まらない。

 

われわれが問わなくてはならないのは、「なぜトランプ候補が2016年の大統領選挙であれほどの支持を集めることに成功し、現在でも一定以上の支持を維持することに成功し続けているのか」という根本的な問題である。2016年の選挙結果についていえば、トランプ候補が当選することができたのはヒラリー・クリントン候補がラティーノ、アジア系、あるいは黒人などの「オバマ支持連合」の動員に失敗したことや、第三政党に票を食われたことなど、「敵失」によるところも大きかったであろう。だが、トランプ候補が当選後も一定の支持を集め続けていることは、ヒラリー・クリントン候補の不人気で説明できるものではない。

 

では、いったいなぜなのか。以下に示す政治学の文献がこの問題を解くためのヒントを与えてくれる。

 

 

共和党帰属意識によるトランプ支持?

 

まず、クリストファー・エイケン(プリンストン大学教授)とラリー・バーテルズ(バンダービルト大学教授)による『現実主義者のための民主主義』(原題Democracy for Realists)という文献に沿って考えてみよう。

 

エイケンとバーテルズは、「有権者が明確なイデオロギー的選好を有しており、それに沿って選挙を通じて政治家や政党を適切に評価し、理想的な選択を行う」とする説を「俗説」(Folk Theory)と切って捨てる。

 

エイケンらによれば、有権者は政治に関する情報や正確な知識など持っておらず、政治に積極的な関心も有していない。つまり、有権者は政治家の政策的業績を長期的な視野に立って正しく評価することなどはなく、政策やイデオロギーに依拠してどの政党を支持するかを合理的に決め、理性的に投票を行っているわけではない。

 

要するに、従来までの政治学(彼らが批判する「俗説」)が想定するような理想的有権者などは現実には存在しないのである。彼らは人種、宗教、ジェンダーなどの社会的アイデンティティや集団(政党)への帰属意識に基づいてどの政党に帰属するかを決定し、投票行動を行っているのである。また、政治家や政党の方も、有権者がどのような政策を支持しているのか、あるいは有権者がどのような政治的イデオロギーを持っているのかを考慮して政治目標を設定することはない。政治家の政治目標は、政党内部に入り込んだ利益集団や活動家の影響を受け、それらの意向に従った決定を行うにすぎない。

 

では、有権者はなぜ政党に帰属するのか。それは社会的な孤立や無視を避けるためである、というのがバーテルズとエイケンの説である。つまり、「政党に所属すること」は政治目標を追求するための「手段」なのではない。有権者にとって、政党という集団に帰属することはそれ自体が「目的」なのだ。彼らが政党に忠誠心を持つのは、自らが愛着を持って所属する集団を正当化し強化したいがためである。この理由ゆえに、有権者は政党への忠誠心を強化する信念、態度、価値観を持とうとする。

 

ここで、例えばアメリカ社会で人口構成の大幅な変化が発生したり、移民や難民が大量に流入してきたりして、白人有権者の数的優位が脅かされるような状況が現出したらどうなるだろうか。保守的な白人有権者は危機感を募らせ、彼ら・彼女らの社会的アイデンティティは刺激される。そうすると、移民対策や積極優遇措置(アファーマティブ・アクション)など人種や移民に関連する有権者の争点態度が固まっていき、それらの問題に断固たる立場で臨もうとする政治家(大抵は共和党の政治家)が大きな支持を集めるようになる。このようにして争点態度が固まっていく過程で、国防強化、福祉削減、減税など、移民や人種とは直接的には無関係な共和党が支持する争点についても付随的に有権者の支持態度が形成されていく。

 

有権者はこのようにして政党に帰属し、各争点を支持し、投票を行うとエイケンらは述べる。有権者が政策選好やイデオロギーを持っているように見えることもあるが、それは個々の争点に関する態度がたまたま首尾一貫した場合に、そのように見えるだけにすぎないという。

 

エイケンらの議論に依拠して考えるならば、トランプが支持されている理由はトランプ候補の属人的な要素によるものではなく、人種、宗教、ジェンダーなど社会的アイデンティティや集団への帰属意識に基づいて共和党に強い帰属意識を持つ有権者が積極的にトランプ候補に当選したからということになるだろう。

 

エイケンらの説が正しいとすると、トランプ大統領は有権者がどのような政策を支持しているのか、あるいは有権者がどのような政治的イデオロギーを持っているのかを考慮して政治目標を設定することはない。トランプ大統領の政治的決定は共和党内部に入り込んだ利益集団や活動家の影響を受けたものになると予測され、トランプ政権とこれらの集団との関係を分析することが重要になってくる。【次ページにつづく】

 

 

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