「韓国ムカつく」「訳わからん」と投げ出す前に――『戦後日韓関係史』の使い方

教室や職場での使い方――学生・教員編/実務家編

 

白鳥 教育の現場で使うことを考えると、これまで日米関係史や日中関係史は、さまざまテキスト、通史だったり、あとは新書でも多くの方が書かれています。それに対して日韓関係には、なかなか類書がなかった。

 

私も「戦後日本外交史」をテーマにした講義を担当しています。その際、講義自体は自分のオリジナルということで、教科書は指定していないんですけれども、参考文献でいろいろな本を指定しています。日本外交だと、まず五百旗頭真先生編の『戦後日本外交史』が筆頭に挙げられます。

 

ただ、それだけではなくて、『日米関係史』や『日中関係史』といったところを紹介するんですけれども、日韓関係にはなかなか適当な教科書がなかったんですね。この本が出たことによって、日米、日中という、ある種日本よりも大きな国だけではなく、経済的なサイズでいっても日本よりも小さい、しかしながら最も重要な2国間関係のひとつであるという日韓が入った。

 

つまり、日韓関係史を単独でとらえるのではなくて、これまでの蓄積のなかで、日米関係や日中関係などの他の2国間関係に関するテキスト群を念頭におくことで、この本が出たことの意味や使い方というのがより伝わるように思います。

 

浅羽 本来、あらゆるテキストが相互に参照し合っているということなのでしょうけれども、とりわけ教科書の場合は、よりスタンダードな大枠のものがまずあって、それではカバーしきれないところを各論で補うというところがありますね。

 

有斐閣に限っても、『戦後日本外交史』があって、『日米関係史』『日中関係史』がある。そのなかで欠けていた「日韓関係」に関する教科書が今回出たという、そういう読みをするものですし、ぜひそうしていただきたいですね。

 

白鳥 ただ、大学によっては、「日本外交史」ですら授業がありません。これは国家試験の科目から「外交史」がなくなった影響もあります。そこでは、日韓関係だけを取り上げるという講義は設置が難しいです。このあたりは大学によって状況は変わってくるのかなと思います。

 

むしろゼミなどの場ですね。今年はちょっと日韓関係を取り上げてみようといったときに、これまでであれば個々の論文や研究書を選んでいたところを、これからはこの本を、基礎文献のひとつとして最初に読ませることができます。

 

しかし、ここに書いてあることを絶対視する必要はもちろんないわけです。歴史は、書き手次第でさまざまなズレや見方の違いというのがある――もちろん研究者同士が最低限合意できる事実はあるわけですが。大学レベルでしっかり勉強する歴史、つまり暗記科目ではなく、みる角度によって評価も変わりうるという歴史に触れるきっかけのひとつになります。

 

浅羽 最初に手にする本としてはいかがでしょうか。たとえば突然韓国赴任を命じられたときとか、あるいは大学1年生がはじめて韓国の政治や外交について学ぶとき、つまり何を参照すればよいのかまったくわからないような状態にある方にとって、この本はどう「使える」のでしょうか。

 

佐々木 教養課程の学生さんにはちょっと難しいかなと思います。それなりの基礎知識がやはり必要のような気がします。たとえば、高校生だと、それぞれの日本の若い人の考え方はあるにしても、世論調査なんかでも表れていますけれども、わりと嫌韓的な感覚が強いなかで、そういう人が大学に進学して、この本を取り上げたときに受け入れてくれるのかなという感じはちょっとしたんですよね。

 

この本を読むことによって、自分の認識が広がっていく人も、もちろんいるんでしょうけれども、なんか導入剤みたいな途中の過程がないとつながっていかないかな。それは、教科書として取り上げるとすれば、先生がやるべき仕事なんでしょうけれども、この本をそのままポンと渡しても、たぶん、そういう学生さんだと、ちょっと適応が難しいのかなという感じはしましたね。

 

白鳥 でも、ここでさまざまな論点というのが歴史的にいろいろ出てくるなかで、ひとつスタンダードな記述というのがあり、その先に引用・参考文献や読書案内というのがある。その先になかなか学生さんは進んでくれないわけなんですけれども、それを地道にやっていくしかないんじゃないのかなとも思います。目新しいことでひきつけても他の目新しいことに目を奪われるだけです。だから、なかなか正解というのはないんです。勉強というのは本来、大変なものですから・・・(笑)

 

たとえば、なぜ日韓関係がなかなかうまくいかないのかということは、そんな一朝一夕にわかることじゃないですよね。それだけの歴史的な積み重ねがあり、だからこそ、そう簡単には解決しないというのが実態です。

 

韓国に対して強硬に出れば何かが解決するというようなことをいう方はいろいろいるわけですし、その正反対のことをいう方もいます。でも、そんな簡単じゃないよ、というプロセスを歴史として示したのが、この本だと思いますし、これを支えている多くの研究だと思うんです。

 

つまり、わかりやすさをもって嫌韓的なものに対する処方箋にするのではなく、いやいや、歴史というのは複雑な話の部分があるんだよということを示していくことが大事だと思います。知的に体力は使うんですけれども、こうしたことを伝えていくほうが遠回りなようでいて、今後の日韓関係を考えていくうえでの、実は近道ではないかと考えています。これは自分が歴史をやっているから、手前みそなところはあるかもしれないですけれども。

 

浅羽 大学から離れて、実務の現場ではいかがでしょうか。私としては、学生や教員のみなさんに使っていただくと同時に、とりわけ明確に念頭にあったのは、特派員や駐在員の方、それに政府のナカノヒトで10年に1回、韓国にアサインされるような方ですよね。そういう方に使っていただきたいと思っています。

 

そういう方に、ハンドブックとして使っていただくにはどうすればいいのか。あるいは、この本に限らず、どんなハンドブックや見取り図があると便利なのでしょうか。

 

佐々木 実務者としては、簡単に読めてわかりやすく頭のなかに入るもの。何回もそれをパラパラと開けばレファレンスとして使えるようなもの。そういうものがやっぱりありがたいです。最初は通読しても、またなにか問題が起こったとき、これ、どういうことだったかなというときに、索引や目次から引っ張ってきて、そこに詳しく書かれていて、ああ、そうだったということで基準がわかると助かります。

 

歴史認識の問題でもなんでもいいんですけれども、原稿を書くときに、実際はどうだったのかなというこれまでの経緯とかを探るときに、やっぱりハンドブックというのは必要です。インターネットで検索しても、どれだけ本当かどうかわからないわけですから。そうすると、わりとパッと開いて、頭のなかにすぐ落ちてくるようなものが、実務者的にはありがたいなという感じがあります。

 

浅羽 いま、経緯とおっしゃいましたけれども、それ以外に、双方の公式な立場や、それが市民社会レベルでどのくらい受容されているとか、あるいは異論がない状態なのか、異論が出ない政治構造になっているのかとか、さまざまなことがあると思います。そうしたなかで、どんな要素が、どの程度、どこまで盛り込まれていると「8割オッケー」みたいな感じになりますか。必ずこれは入っていないといけないといったことはあるんでしょうか。

 

佐々木 この本にあるように、政治を中心に書かれていてもそれほど問題ないという時期も当然ながらあるんでしょうね。日韓の場合でも、時代を経ることによって、やっぱり市民社会間の交流は非常に大きな力をもつようになっているわけですから、そういう分野が大きく取り扱われなくてはいけない。だから、この本自体は比重がだんだん変わっていっているところが、それこそ日韓関係の特徴だと思うんですよ。それなので、そこは押さえているかなとは思いました。【次ページにつづく】

 

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シノドス国際社会動向研究所

vol.224 特集:分断を乗り越える

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