「韓国ムカつく」「訳わからん」と投げ出す前に――『戦後日韓関係史』の使い方

2国間関係史を超えて――アメリカ、北朝鮮、中国

 

白鳥 この本では、「関係史」というアプローチをとられていますが、私自身は、2国間関係の研究はやや「難しい」という印象をもっています。というのは、究極的にいくと、マスメディアの報道もそういう部分があるのかもしれないんですけれども、関係を分析するというと、関係は良かったんですか、悪かったんですかというような評価の軸になりがちなんです。それをどう回避するのかという問題は、2国間関係史のなかで常に考えなければいけない。これは特に個々の論文や研究書だと難しいんですけれども、今回の通史というのは、それをどうクリアするのかという点で2つの工夫がされているのかなと私は思いました。

 

ひとつは、やはり政治が中心ではあるんですけれども、経済と社会の動きも押さえているところです。そのなかで、政治、経済、社会が、戦後の約70年間の歴史を通して、その比重がいろいろ移り変わってきているという様子が活写されているということですね。

 

したがって、関係が良かった、悪かったということだけではなく、政治の要素、経済の要素、社会の要素、それぞれがどう変化してきたのかが描かれることによって、良い、悪いという、ただのプラス、マイナスではなくて立体的な変化が描かれています。

 

もうひとつは、これは序章で――ある時期に絞ったことなのかもしれないんですが――李鍾元先生は次のように書かれています。「1950-60年代の日韓会談の過程が端的に示すように、戦後の日韓関係は事実上、日米韓の3カ国の関係であったともいえる」。こうした状況は、当然、その後変わってきているわけです。

 

それでも、浅羽先生が書かれている21世紀になってからの日韓でも、アメリカ・ファクターは当然無視できないですし、「日韓」関係が、ある意味で「日米韓」関係であるということは、おそらく現在も変わっていないんじゃないかと思います。つまり、単純な2国間関係だけでは、日韓関係を描き出せないということを著者自身認めていますし、それが本書では随所に出てきます。

 

もう少し付け加えますと、北朝鮮という第三国も当然入ってくる。また、ある時期からは中国というファクターも入ってくる。つまり、日韓関係史という2国間関係史をみているようでいながら、実は東アジアの国際関係史のなかで、特に日韓に注目していているという要素もあるのかなという読み方をしました。

 

佐々木 それは、やはり浅羽先生が書かれている2010年代以降を扱う第7章の朴槿恵・韓国大統領と習近平・中国国家主席が天安門に並んで立った扉写真なんかに強く表れているように思います。典型的に新しい時代というか、国際関係のなかにある日韓を視覚的にわかるようなかたちで表している。

 

浅羽 扉写真はかなり工夫したところで、そうご指摘いただくと嬉しいです。実は、クレジットがとれそうになくて、断念したものもあります。通しでみていただくと、比重の移り変わりもみえてくるようになっています。

 

白鳥 ちょっと順番にみていきましょう。序章は、終戦直後の日本と韓国、荒廃した東京と進駐軍を歓迎する京城市民という写真から始まります。1940-50年代(第1章)は、李承晩大統領が訪日したときの写真です。アメリカなしではこのショットは撮れないですね。1960年代(第2章)は日韓基本条約に調印する様子。1970年代(第3章)は象徴的で面白いですね。日本も韓国も出てこない、ニクソン訪中のときの写真。1980年代(第4章)は金大中の死刑求刑に反対するデモ行進の写真。1990年代(第5章)は、小渕恵三と金大中の首脳会談。2000年代(第6章)は韓流と日韓のワールドカップ共催の写真で、ここまでは非常に明るいんですね。2010年代(第7章)は、中国の抗日戦勝70周年記念式典の写真です。そして終章は東京とソウルの風景です。

 

 

白鳥潤一郎・立教大学法学部助教

白鳥潤一郎・立教大学法学部助教

 

 

いま、各章の扉写真を振り返ってみたんですけれども、やはり、日韓だけをみていても日韓関係の全体像はみえないんだというのが、本書の隠れたメッセージのひとつになっているんじゃないかなと思うんですね。

 

私は韓国側の状況をあまり存じ上げませんが、日本で日韓関係にかかわるような問題が取り上げられるときは、とかく韓国のことだけをみたり、はたまた日本国内の在日コミュニティをみたりというかたちで、なぜか2国間に閉じた思考をされる方が多いんじゃないでしょうか。

 

それに対して、この『戦後日韓関係史』で執筆者の先生方が示されているのは、この2国間関係史をみるためには、より広い東アジア国際関係だったり、いまの文脈ではちょっと出てきませんでしたが、経済でいえばグローバリゼーションの流れ、そういうなかに2国間関係をおかないとみえないということなのだと思います。【次ページにつづく】

 

 

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vol.218+219 特集:表現の自由とポリティカル・コレクトネス

<ポリコレのジレンマ―政治・芸術・憲法から見た政治的正しさと葛藤>

・第一部 テラケイ×荻野稔(大田区議会議員)

・第二部 テラケイ×柴田英里(アーティスト/フェミニスト)

・第三部 テラケイ×志田陽子(憲法学者)

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上間陽子×岸政彦「裸足で、いっしょに逃げる」

<連載エッセイ>

齋藤直子×岸政彦「Yeah! めっちゃ平日」

○シン・編集後記(山本ぽてと)