「憎韓」のいなし方――日韓関係の「現住所」

1.相互不信という「現住所/현주소/address」

 

韓国語の「現住所현주소」は多義語で、「軌跡、到達点、限界、課題、可能性、挑戦」という意味がある。英語の「address」も同じで、「宛先、演説、呼びかける、問題に取り組む、働きかける」と多義的である。本稿では、この意味で日韓関係の「現住所」、「日韓関係←イマココ」について概観する。

 

2014年2月現在、日韓関係は相互不信に陥っている。しかも、双方、相手が先に裏切ったと等しく認識している。日本からすると、韓国が反日化したのに対して、韓国では日本が右傾化・軍国主義化したと映っている。要は、相手が「約束」を反故にしたのだ、と互いになじり合っているわけである。

 

「コンストラクティヴィズム(constructivism)」といって、軍事力や経済力など客観的に指標化できるパワーだけでなく、誤認も含めて、互いにどのように認識し合っているのかという間主観性(intersubjectivity)が国際関係を構成しているとする考え方がある(例えば、大矢根聡『コンストラクティヴィズムの国際関係論』有斐閣、2013年)。

 

間主観性は入れ子状態になっていて、私の自己認識(A→A)、相手の自己認識(B→B)、相手に対する私の認識(A→B)、私に対する相手の認識(B→A)、「私の自己認識」に対する相手の認識(B→[A→A])、「『私の自己認識』に対する相手の認識」に対する私の認識(A→{B→[A→A]})、以下無限に続く。

 

これらの認識のズレに対してメタ認識を持つと交渉のパワーになるのは、カードゲームのポーカーに似ている。顔色に騙され、なめてかかると自他のカードの強さを読み間違えて、勝てるはずのゲームも落としてしまうことがある。日韓はそんなゲームに臨んでいる以上、プレーヤーとしての戦略がそれぞれ問われている。

 

相互不信という現状に対して、今では日韓両国とも望ましくないと認識している。しかし、同時に、現状を変えるためにまず行動すべきなのは、そもそも先に裏切った相手である、と双方とも認識している。そのため、現状を変更するインセンティブがどちらにもないという(ナッシュ)均衡のままで、現状が維持されている。

 

投資の世界では、どの株を買いどの通貨を売るかということだけでなく、今は何も売買しないという「ホールド(hold)」も重要な選択である。相互不信の現状維持(status quo)もまさにそうした「ホールド」に他ならないが、選択の連続だと認識されていない。

 

 

2.どのように相手を「見立て」るか

 

韓国は「悪」「阿呆」なのか、「したたかな」なのか。それぞれ実像なのか、見立てなのか、それが問題だ。

 

よく解らない言動に直面したとき、「善意解釈の原理(principle of charity/rational accommodation)」で臨むというやり方がある。こちらには不合理に思えても、相手にとって最も合理的で整合性がとれるように解釈するのである。相手に対する「思いやりcharity」というよりもむしろ、そのように見立てる方がこちらにとって都合がいいからである。

 

例えば、竹島領有権紛争の国際司法裁判所への付託に韓国が応じないのは「自信がないから」なのか。韓国政府の立場は、「独島は、歴史的・地理的・国際法的に明らかに韓国固有の領土です。独島をめぐる領有権紛争は存在せず、独島は外交交渉および司法的解決の対象にはなり得ません。大韓民国政府は、独島に対し確固たる領土主権を行使しています」(韓国・外交部『韓国の美しい島、独島』p.4)というもので、紛争の存在そのものを認めておらず、まして「司法的解決」は論外としている。

 

しかし、同時に、「独島をめぐる領有権紛争」がハーグにある国際司法裁判所に持ち込まれ、日韓が論争を繰り広げる『独島イン・ザ・ハーグ』という小説を書いた判事の鄭載玟を外交部に独島法律諮問官としてスカウトした。鄭の使命は、あえて日本側に立って韓国側主張に反論・反駁だけをする「悪魔の代弁人(devil’s advocate)」(詳しくは「<悪魔の代弁人>を立てるかどうか、クライアントこそ問われている」を参照されたい)に徹することである。そうすることで万が一の「いざハーグ」に備えた書面を鍛え抜くことができるというのが、クライアントとしての韓国政府の狙いである。

 

「スカウト(scout)」の原義は「斥候」。いち早く前線に乗り込んで、戦況を伝えるのが使命で、そのモット―は「備えよ、常に(Be prepared)」である。竹島領有権紛争はまさにそうしたインテリジェンス戦である。

 

本来、「独島イン・ザ・ハーグ」より「竹島イン・ザ・ハーグ」、さらには「現に」「有効に支配してい」て、「解決すべき領有権の問題はそもそも存在しない」(外務省ウェブサイト「日中関係(尖閣諸島をめぐる情勢)」)「尖閣諸島イン・ザ・ハーグ」が切実である。「いざ鎌倉」「いざハーグ」でガチンコ勝負をするまでは、互いの強さや勝負の行方は分らない。だとすると、カカシ相手に勝利宣言(straw man fight)するのではなく、相手にも当代最高の悪魔の代弁人が付いていると見立てて、よくよく準備しておくのがいい。

 

 

 

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