給食費未納はモラルの崩壊か?――背後に隠れた子どもの貧困とは

給食費を未納している親の多くは「払えるのに払わない」? 給食費未納の家庭に対し、大阪市教育委員会が弁護士に取り立てを一部委託するなど、給食費未納者への対応が厳しくなっている。給食費を払わないのは「モラルの崩壊」が原因なのか。背後にある本当の問題とは? 『給食費未納』(光文社新書)著者である鳫咲子氏にお話をうかがった。(聞き手・構成/山本菜々子)

 

 

給食費未納は「モラルの崩壊」か?

 

――ご著書を読んで意外に思ったのですが、そもそも、給食のない中学校もあるんですよね。

 

そうなんです。学校給食は市町村で実施されています。中学のときに給食があった人たちは、周囲の学校にも給食がある。逆もまたしかりですので、違う地域どうしで話し合うと、お互いに「えー!? 給食ってあったの/なかったの?」と驚くようですね。給食といえば、どんな感じでしたか?

 

 

――小学校も中学校も内容は一緒で、だいたいおかず3品と、ごはん(もしくはパン)、スープ、牛乳が出ました。揚げパンやゼリーなどの人気メニューはみんなで取り合いでしたね。

 

「完全給食」と呼ばれるタイプですね。現在、給食の形には、

 

(1)完全給食(ミルク、おかず、主食)

(2)補食給食(ミルクとおかずのみ)

(3)ミルク給食(ミルクのみ)

 

の3種類があります。公立小学校の完全給食実施率は99.6%でほとんどの学校が給食を実施しています。一方で、公立中学校の完全給食率は81.5%です。各県の給食の実施率をみてみると、かなり地域差があります。一番実施率の低い神奈川県では、82%が未実施です。

 

 

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――実施されていない自治体では、給食のニーズがあるのでしょうか?

 

2011年におこなわれた完全給食実施前の大阪市、北九州市調査では、保護者の8割が完全給食を必要とするという意見が出ています。

 

弁当の場合、夏場は衛生管理の問題もありますし、部活の練習などで弁当が一つでは足りないこともあるでしょう。フルタイムで共働きをする家庭や、ひとり親家庭も増えており、保護者が毎日弁当をつくる時間がない現状がありますから、成長期に十分な昼食を食べてもらうために、学校給食のニーズは大きいでしょう。弁当代として500円持たせたら、100円のパンを買って、400円でゲームセンターに行くのが中学生です。未実施の自治体では、全く昼食を摂らない中学生もいるそうです。

 

 

――給食費の未納率はどれくらいの割合ですか?

 

2012年度の調査では小学生が0.8%、中学生が1.2%、小・中平均して0.9%となっています。その推移をみると、人数割合は低下傾向にあります。

 

 

――意外と少ないのですね。給食費未納は「モラルが崩壊している」からだ、という話がありますが、どう考えていますか? 給食費の平均が月4000円~5000円であることから、「子どものために4、5時間もバイトできないのか」という声も出ていますが。

 

インターネット上では、給食費を払わない親へのバッシングが相次ぎました。しかし、バッシングのわりに給食費の未納率は低いです。国民健康保険の未納率は1割近く、国民年金は約4割。この数字をみると、むしろ給食費を優先的に払っているのではないでしょうか。給食費が払えない家庭は、ほかの支払いも滞納している可能性があります。4000円~5000円という金額だけを見て、「バイトを多めにしたらいい」と考えるのは短絡的です。

 

憲法26条には義務教育は無償であると書いてありますが、実際には相当な保護者負担があります。文部科学省の「平成26年度子どもの学習費調査」によれば、学校関係で必要な費用は、小学生で年間約10万円に対して、中学生は約17万円です。小学生に比べ中学生のほうが、常に未納率は高い傾向にあります。子どもが中学生になると保護者のモラルが低下する、ということはないでしょうから、中学生になり、子どもにかかる費用が増加したことで、払えなくなった人が多くなったと考えるほうが自然です。

 

 

 

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――なぜ「モラルが崩壊した」と言われるようになったのでしょうか。

 

2005年に行われた「学校給食費の徴収状況に関する調査」がきっかけです。この給食費未納調査では、給食費未納の原因を、「保護者の経済的な問題」か「保護者としての責任感や規範意識の欠如」かを学校に聞いています。そこで、「保護者の経済的な問題」が33%、「保護者としての責任感や規範意識の欠如」が60%との回答でした。

 

 

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このことにより、全国紙の一面や社説で「モラル崩壊」と大々的に報じられたのです。直近の2012年の調査でも、「保護者の経済的な問題」が約34%、「保護者の責任感や規範意識の欠如」が61%となっています。すなわち、「お金があるの払わない」場合が3分の2、「お金がなくて払えない」場合が3分の1であると学校はみています。

 

とはいえ、あくまで学校が判断したもので、実際の家庭の経済状況を踏まえたものではありません。「さいたま市学校事務職員アンケート」では、保護者に経済的な問題がないと判断する根拠について聞くと、「高価な車に乗っている」「ブランド品のバッグを持っている」と見た目からとのことでした。

 

「貧困女子高生」報道でも、1000円のランチを食べていたこと、有名漫画をそろえていたことが原因でバッシングされましたが、貧困は外から持ち物を見るだけではわかりません。「高価な車」や、「ブランド品のバック」は中古品や、かりたものかもしれません。見た目での判断は、指標としては不十分です。

 

統計だけで、給食費を滞納している親のモラルの問題であると、大々的に発表してしまうには、根拠の薄いアンケートであると思います。実際に、神奈川県海老名市で行われた未納家庭への聞き取り調査では、支払い遅れの7割が「給料日前で手持ちがない」という理由を挙げています。

 

子どものデータは不十分ですね。所得の少ない家庭に給食費などを支援する就学援助は所得を把握したりと、生活保護並みに大変な仕事です。しかし、担当している教育委員会はどこも人員不足です。就学援助を受ける小中学生は、全国154万人、6人に1人、約16%です。リストラ・非正規化など保護者の雇用の悪化とひとり親家庭増加により、この15年で就学援助を受ける小中学生の人数・割合ともに2倍になっています。

 

情報開示請求で自治体の就学援助データを見せてもらったのですが、統計を整備する余裕がないのだろうというのが正直な感想です。「エビデンスにもとづく政策」と言われているにも関わらず、就学援助や給食費未納のデータは精度も不十分。しかも、その状態で「モラルの崩壊」という扇動的な部分だけが拡散してしまったと思います。もちろん、「経済的な問題」がないのにお金を払わない人も中にはいるでしょう。この場合は、一種の養育放棄など子どもが育つ環境としては不適切である可能性があり、「保護者の責任感や規範意識」の問題であると放置して良い状況ではありません。【次ページにつづく】

 

 

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