安倍外交の特徴とは何か?――その成果と展望

今週末に行われる衆議院総選挙の運動期間中、アベノミクスや消費税増税など、政府の経済財政政策が議論の俎上に載せられてきた。だが安倍政権の過去2年間を点検するならば、安倍政権の外交成果にも注目する必要がある。第二次安倍政権の外交政策の主な特徴はどんなもので、これまでどのような成果をあげてきたのか? もし安倍氏が12月14日の総選挙で勝利を収めた場合、日本の外交は来年どのような展開を示すのだろうか?

 

 

主な優先事項

 

全体的に見て、第二次安倍政権における外交のもっとも重要な特徴は、国際社会における日本の存在感と影響力の拡大を追求したことである。2012年の12月に安倍氏が権力の座に返り咲くまでは、国際社会では「日本の時代は終わってしまった」と認識されつつあると心配する声が、一部では上がっていた。安倍政権の前の民主党政権の外交政策は弱腰で効果が薄いと専門家から批判を受けていたため、国際的な重要課題の議論で日本は存在感を発揮できなくなる恐れがあった。この危機を察知して、外交面での日本の変わらぬ実力と重要性を世界に再確認させ、国家の誇りを取り戻すことに安倍総理は優先的に取り組んできた。

 

「国際社会における日本の存在感を取り戻す」という当面の目標は、実は日本の右翼政治家の多くが長年抱いていた、「平和憲法」の厳しい制約からの脱却という野望と一致するものだった。具体的に言うと、憲法第九条の「国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する」、および「陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない」という制約からの脱却である。安倍総理率いる自民党の政治家の多くは、この法的制限が時代錯誤で、国家として当然の権利を日本から奪うものだと考えている。したがって安倍政権は、世論の過半数が憲法改正に反対していることに留意しながらも、これらの制約を緩和する方法を模索してきた。

 

大筋において安倍総理は、これまでよりも自信に満ちた自主的な外交政策を確立しようとしてきた。だがこの方針はアメリカ政府と距離を置くということではない。むしろ安倍政権はワシントンとの関係をこれまで同様、最重要課題だと捉えている。実際、日本が外交の能力と自立性を高めることは日米同盟の強化につながると安倍政権は考えている。なぜなら、これは日本が世界平和の重要な貢献国として存在感を増し、ひいてはアメリカ合衆国にとっても貴重な同盟国となることを意味するからだ。

 

最後に、多角的な外交目標という観点から考えると、安倍政権は中国に対してバランスのとれた外交戦略を取ってきている。一方では、東アジア内での中国政府の横暴(だと日本政府が考える行為)を日本は強く批判してきた。とりわけ領土問題では譲歩せず、他の隣国との連携を強化する姿勢を鮮明にしている。だが、このような封じ込め戦略を実行する一方で、だが、このような封じ込め戦略を実行する一方で、日本は現実的な協力関係を維持しようとも努めてきた。このため、2013年3月に習近平が主席に就任して以来、安倍総理は彼との会談を一貫して模索してきた。

 

 

成果

 

上記の優先事項から判断して、ここまでの安倍政権の外交政策はどの程度成功だと言えるのだろうか? まず、国際的な存在感を高める点について、過去2年が輝かしい成功だったことは明白である。海外から日本への注目が高まった理由の一つはアベノミクスだ。この過激な経済実験に魅了された海外の識者は少なくない。アベノミクスによる円安で、日本が海外旅行の目的地としての魅力をさらに増しているのも事実だ。しかしアベノミクスの影響以外で、日本の国際的な存在感が目立って高まっているのは間違いなく安倍政権の外交成果である。

 

注目すべきは、歴代の総理大臣に比べ、安倍総理が外交面で抜きん出て積極的だという点だ。2012年に権力の座に返り咲いて以来、安倍総理が外遊した国は50カ国にも及び、この外遊を通じて日本のグローバルイメージは効果的に広められてきた。この活発な外交活動の出発点は、2013年2月にワシントンで行われたスピーチだった。そこで安倍総理は「日本は戻ってきた」と断言し、「日本は今も、これからも、二流国家ではない」と強調したのだ。

 

2014年1月のダボス経済フォーラムや、5月の「シャングリラ」アジア安全保障会議での安倍総理のスピーチも、すべて印象深いものであった。そして東京が2020年のオリンピック開催都市として選ばれたのも、安倍総理のおかげだと言う者もいるだろう。国際ブランドとして日本を売り込もうという方針を支えたのは、重要なスピーチは英語ですることも厭わない安倍総理の積極的な姿勢だった。

 

日本の国際的地位を「正常化する」ための第2の目標に関しても、安倍政権は重大な一歩を踏み出した。「積極的平和主義」の名の下で、政府は戦後日本の外交政策の基本方針を変更することに成功したのである。もちろん、その最たるものは日本国憲法第九条に対する方針だ。

 

憲法改正には十分な支持が得られなかったため、代わりに安倍総理は集団的自衛権の行使が認められるよう、憲法解釈を変更することを提案した。実質的にこれは日本の合法的な軍事力の使用が許可される状況が拡大されたことを意味している。これまでは日本が直接脅威にさらされた場合のみに軍事力の使用が限定されていたのが、この新しい解釈では日本の同盟国が攻撃された場合も含まれることになったからだ。とりわけこの新解釈が民主的とは言えないやり方で決定されたために、この変更には議論が噴出したが、同盟国には歓迎された。

 

憲法解釈の変更にとどまらず、「積極的平和主義」アジェンダの一環として、2013年12月には新たに国家安全保障会議(日本版NSC)が設置された。アメリカの国家安全保障会議(NSC)をモデルにしたこの新たな機関の設置は、安全保障に関わる政策決定と省庁間の協力を効率化することを目的としている。この機関のトップに座る内閣官房国家安全保障局長(現在は谷内正太郎が務めている)は、これからの日本外交における新たなキーパーソンとなるだろう。

 

最後に、自主規制してきた武器輸出を実質解禁することで、安倍政権は軍事産業の強化を目指した。武器輸出解禁の流れは、民主党政権下ですでに固まっていた。しかし武器輸出を厳しく制限する武器輸出三原則(1967年成立)が、より制限の緩い防衛装備移転三原則に正式に切り替わったのは2014年4月のことである。この変更によって、同盟国との武器開発協力が容易になるだけでなく、日本の軍事産業が大きく成長することも予測される。

 

このように、安倍政権は日本の国際イメージを向上させ、安全保障に関わる方針を大幅に変更してきた。だが有力国との個別の関係を見ると、安倍総理の新方針がもたらした成果は成功一色とは言い切れない。

 

日米同盟を筆頭に、日本と各国との関係は大体において満足すべき状態である。日本にとってもっとも重要なのは、東シナ海の緊張の高まりにおいて、アメリカが一貫して日本支持の姿勢を崩していない点だ。具体的に言うと、2013年11月の中国による一方的な防空識別圏(ADIZ)設置宣言に対して、アメリカ合衆国は、中国当局への通告なしにB-52戦闘機を防空識別圏へ派遣するという対応を示した。さらに2014年4月に東京を訪問した際、オバマ大統領は日米安保条約が尖閣諸島にも適用されることを再確認した。これに応えて安倍総理は、イスラム諸国やウクライナ危機への対応を含むアメリカの外交政策に対して、従来通り日本は引き続き支援していくことを明言した。2013年12月に、従来よりも情報漏洩に厳しい姿勢を示した特定秘密保護法が成立したのも、ある意味アメリカの要求に応えるためと言えるだろう。

 

日米関係の結びつきは強固なままだが、だからと言ってなんの問題もないわけではない。第一に、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)はこれまでのところ期待はずれに終わっている。2013年に日本が交渉への参加を決断した際には、この自由貿易協定によって、他の交渉10カ国との国交はもちろん、より強固な日米関係がもたらされることが期待されていた。ところが蓋を開けてみれば、日本が農産物市場の自由化を拒否したことが最大の要因となって交渉は停滞に陥り、日米関係に摩擦が生じた。

 

さらに、1996年に移設が決まったのにも関わらず、普天間基地がまだ使用されているのも日米の火種である。辺野古の新施設の建設は開始されたものの、地元住民の激しい反対に加え、2014年11月には基地反対派の翁長雄志氏が沖縄県知事に当選したことで、事態は複雑さを増している。【次ページにつづく】

 

 

 

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