政府・与党と政治家のあいだ  

衆議院予算委員会での質疑で、菅総理大臣が与党であるはずの民主党の議員たちからの厳しい質問に見舞われたという報道があった(「菅首相の論戦相手、「小沢系」ずらり 衆院予算委」http://www.asahi.com/politics/update/0802/TKY201008020376.html・asahi.com 8月2日)。記事では民主党内の菅寄り勢力と小沢寄り勢力の対立を軸に説明されており、もちろんそれは正しいのだが、もう一段さかのぼってこの問題を考えることもできるだろう。

 

 

政府と与党のあいだ

 

おそらくこのニュースを聞いた人の多くは不思議に思ったはずである。なぜ味方のはずの与党議員から総理が攻撃されるのか、あるいはさらに進んで、そもそも国会で与党議員が質問を政府に対して行なう必要がどこにあるのかと。野党なら政府と違う意見をもっているのは当然だし、その観点から質問や批判をするのは自然だが、ということになる。

 

もちろんポイントは、まず政府と与党のあいだには本来差異があるはずだし、与党と個々の政治家もイコールではないという点にある。前者についていえば、典型的には連立内閣の場合、政策協定にもとづいて成立し・その拘束を受ける政府/内閣と、本来の政策要求をもつ参加政党とでは立場に違いがある。

 

普天間基地移設問題のように政府が事前の連立合意の枠を超えて決断せざるを得ない場合というのもあり、その際に反発する政党がしかし連立離脱までは選択しなかったとすれば、与党であるにも関わらずその問題については国会で政府を厳しく批判するという可能性があるだろう(本来は議会外の政党と・議会内の会派とのあいだにも違いがあるが、やはり我が国ではあまり意識されていない)。

 

 

政党と政治家のあいだ

 

一方後者は、つまり政治家が選挙によって選ばれなくてはならない以上、それぞれの選挙区や支援団体の事情を、政党の一員としての立場に加えてもたざるを得ないということである。

 

たしか福田元総理が辞任したあとのことだったと思うのだが、「衆議院で圧倒的な多数を占めている政党の党首が、任期が来たわけでもないのになぜ辞職するのか」と、途上国からの留学生に聞かれた。その答えは、上で述べたように、たとえ与党に属している議員であっても自分自身の利害を優先して振る舞うことがあるから、ということになろうか。

 

政府・与党の決定にしたがえば、支援団体の支持を失って、つぎの選挙が危ないということになれば、反旗を翻す可能性も高くなるだろうし、その程度は当該政治家の支持基盤として政党の名前が重いのか、政治家個人としてもっているもの(業界団体・宗教団体との結び付きや地縁血縁など)の方が大きいのかということで決まると考えることもできるだろう。

 

しかし、だとすれば「地盤・看板・鞄」という支持基盤の構成要素を、党ではなく個々の政治家が抱えている割合が高いといわれていた自民党時代に、このような政党と政治家のあいだの距離をめぐる問題が国会の場でさほど問題にならなかったのは何故だろうか。

 

与党による質問などシャンシャンで委員会審議を終えるための儀式程度のものか、むしろ政府から一定の意見表明や補足説明を引き出すための道具程度のものだと考えられていたのは、どうしてだろうか。

 

 

政党内の調整プロセス

 

答えはまたしても、党内の政務調査会だということになる。

 

良かれ悪しかれそれは、政党を構成する個々の政治家の利害を国会の外で・非公開の場で調整し、その過程が国会審議に影響しないように切り離すためのシステムだった。その機能を止め、政策形成を政府に一元化するというのが政権獲得後の民主党の基本方針であり、だからこそ行き場を失った個々の政治家の主張が国会論戦という目に見える場で噴出したということになるだろう。

 

この変化が、政策課題に対する調整過程が、国会という公開の場に移ることを意味しているとすれば、国民と政治との距離を縮め・可視化するという観点から一定の評価ができるだろう。

 

一方、それが審議時間という稀少資源を食いつぶす要素をさらに増加させることによって、決定不全に拍車をかける可能性も否めない。いずれにせよ、この問題を発生させる契機となった改革を主導した人物と、いまその問題を利用している人びとの背後にいるのが同じ人物であるという点に、ある種の皮肉を感じざるを得ないのではあるが。

 

 

推薦図書

 

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議会での論戦のあり方、あるいは選挙制度なども含めた議会のあり方がどうあるべきかを論じるためには、まず議会システムに対する正確な知識をもつことが必要だろう。とくに、その国の成り立ち(一体性/断片性の傾向など)と選択し得る政治のあり方の関係を、広範囲な比較研究をもとに論じた本書は、この分野における定番の一冊といってよい。コンセンサス型政治を優位とする点など結論に異論はあるかもしれないが、まず抑えるべき常識として読むべき一冊。

 

 

 

 

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